キミがいる

数日前から熱っぽいのは気付いていた。
だが、公演の主役を務める以上、休むわけになどいかない。
体調管理もプロとしての仕事のうち。
だが、気を張り詰めて無理をしたのが祟ったのだろうか。
最後の公演を終えて、楽屋に戻る。
「お疲れ様です!昴さん」
笑顔で迎えてくれる大河の姿。
彼の顔を見た瞬間に気が緩んだ。
「ありがとう…たい、が……」
覚えている、それが最後の記憶。


「……ここは…」
「昴さん!気がつきましたか?」
目を開けるとそこは自分の部屋だった。
声のするほうを見るとベッドの隣に座って自分を見下ろす大河の姿。
「大河……」
「気分はどうですか?」
小首を傾げながら大河が不安そうな目で僕を見る。
「そうだね……身体中がだるくて熱っぽいかな。それより僕は…」
「昴さん、楽屋で倒れたんですよ。ダイアナさんによると風邪らしいです」
「ああ……そういえば…」
そんな気もする。
「みんな驚いて…とりあえずダイアナさんとぼくで昴さんの部屋まで運んだんです」
鍵はウォルターさんに開けてもらいました、と大河は言う。
「そうか…それは迷惑をかけたな。すまない…。ダイアナは?」
見たところ、ダイアナの姿が見えない。
「ダイアナさんはシアターの後片付けがあるので帰りました。本当はぼくもあるんですけど…」
そこまで言って、大河は口ごもる。
「昴さんが心配だったから……ダイアナさんに無理を言って昴さんが起きるまで傍に居させて貰いました」
消え入りそうな声で、彼は呟いた。
「大河……」
「昴さんが倒れたときはこのまま目を覚まさなかったからとか考えて…心配で……良かった」
「馬鹿だな……ただの風邪なのに」
深刻そうな顔を浮かべる彼に苦笑しつつも嬉しくなる。
…こんな事を思うのは不謹慎かもしれないが、彼が其処まで心配してくれたのが。
布団の中から手を伸ばして彼の顔に触れる。
本当はほんの少しだけキスをしたい気分だったが、彼に風邪をうつすわけにもいかない。
「でもごめん。心配してくれてありがとう…」
「昴さん…」
そして気付く。自分がパジャマに着替えていることに。
「……もしかして君が着替えさせてくれたのかい?」
「え、え。ち、違いますよ。それはダイアナさんが…!」
からかうように問うと彼は顔を真っ赤にして否定する。
「ふふ……冗談だよ」
「もう…昴さんてば。冗談が言えるなら平気ですね。じゃあ、邪魔をしてもいけないのでぼくはシアターに戻ります」
「あ……大河」
そう言って腰を浮かす大河の服の裾を掴む。
額に乗せられていた濡れタオルが滑り落ちた。
「……もう少し傍に居てくれないか?…ダメかい?」
自分が我侭を言っている自覚はあったが、一人で部屋に取り残されるのがなんとなく淋しかった。
普段ならこんな事は言わないのに、熱で心細くなっているのだろうか。
「昴さん……」
「無理にとは、言わないけど……」
大河の手が包み込むように僕の手を握る。
彼の顔を見上げると、彼は困ったような笑みを浮かべ、落ちた濡れタオルを拾いながら囁いた。
「…ぼくが、そんな顔をしてお願いをする昴さんを置いて戻れるわけ無いじゃないですか」

「…はい、はい。わかりました。じゃあすぐに行きますね」
シアターとの通信を終えた大河がこちらを向く。
「……やっぱり帰ってこいと?」
「違いますよ。ダイアナさんがお薬を持ってきてくれたそうなので下まで取りに行って来ますね」
「…わかった…」
すぐ戻ってきます、と言い残して彼が部屋を出て行く。
一人きりの部屋。
それが当たり前なのに。
今日はいやに広く感じる。
サイドボードに置かれた水差しからコップに水をついで喉を潤すと、目を閉じて布団で顔を覆う。
今日の僕はおかしい。

「…ただいま昴さん。…寝ちゃいました?」
「いや、起きているよ。早かったね」
寝室のドアを開けて入ってくる大河の声を聞き、顔から布団を剥がす。
「昴さんが早く帰ってきて欲しそうだったから走ってきました。ウォルターさんに怒られちゃいましたけど、えへへ」
「……そういうことは思っても口にするものじゃない」
顔が赤くなるのを気付かれたくなくて再び布団を被る。
…熱の所為だと思うことにした。
「図星でした?」
「…知らない」
ぷいと彼に背を向ける。
「あ、薬と一緒にサニーさんの計らいでお粥も持ってきてくれたんですよ。少し食べませんか?いい匂いで美味しそうですよ」
残念ながら風邪で嗅覚もやられているせいか、僕には匂いがわからない。
くるりと彼のほうを振り向く。
サイドボードに置かれた器からは湯気が漂っていた。
「せっかく作ってくれたのに申し訳ないが…食欲が無い」
「だめですよ、一口でも食べないと。何も食べずに薬を飲むのは良くないです」
「……」
そうは言われても、無いものは無いのだから仕方がない。
だが、大河は真剣な眼差しで僕を見つめている。
一体どうしたものか…と靄のかかったような頭で考えて、ふと悪戯心が湧いた。
どんな時でも彼をからかいたくなるのは、自分の性分なのだろうか。
「…大河が口移しで食べさせてくれるなら、食べるよ」
「す、昴さん…!!」
流石に驚いたらしい。声が上ずっている。
「なんてね。驚いたかい?」
「……昴さんが食べてくれるなら、いいですよ」
「え………」
彼はそう言ってレンゲから一口すくうと息で軽く冷ましてから口に含む。
「た、大河……んっ」
顔が近づいてきて、唇が重なる。
…いつものキスと違うのは、入ってくるのが舌だけではなくお粥も一緒だということか。
彼の唇の感触に、胸の奥がチリチリと燻る。
ごくり、と僕がお粥を飲み込んだのを確認して大河の顔が離れた。
「良かった、ちゃんと食べてくれましたね」
汗で額に張り付いた僕の髪を避けながら彼が微笑む。
その顔を見て思わず睨みつける。
「『食べてくれましたね』じゃない!風邪がうつるだろう!」
「昴さんにだったらうつされてもいいですよ。ほら、他人にうつすと治るって言うじゃないですか」
「そういう問題じゃないだろう…」
ふぅ、とため息をつく。
からかうつもりが自分がからかわれた気分だ。
「もっと食べますか?何ならぼくが全部口移しで食べさせてあげてもいいですよ」
「…もういい。薬を飲むから、取ってくれ」
そんなことをされたら熱が下がるどころか更に上がってしまう。
「はい、どうぞ。昴さん」
肘をついて上体を起こすと大河から差し出されたコップと薬を受け取り口に含む。
「……ありがとう」
「ぼくは昴さんの気の済むまでここにいますから…安心して寝てくださいね」
再びベッドに身を横たえると彼がそっと手を絡めてくる。
眠くない…と言おうとしたが、その手に安心したのだろうか。
いつの間にか大河の手を握りしめながら僕は眠りについていた…。

「………」
どれくらい眠っていたのだろう。
べとつく身体が不快で目を覚ます。全身、汗でびっしょりだ。
横を見ると大河は僕の手を握りしめたままうつむいて眠っていた。
時計を見ると一時間くらいしか経ってない。
…大河も疲れているのだろう。
起こさないようにそっと手を解く。
手を離すのはちょっと名残惜しいが身体がべとべとして気持ち悪いので、身体を拭くなりシャワーを浴びるなりしたい。
「……ん…」
極力音を立てないようにしたつもりだが、ぎゅっと握られていたせいか、大河が目を開ける。
「あ…昴さん。起きたんですね。すいません、ぼくが寝てて…」
眠そうに目をこする大河に申し訳ない気になりつつも起きたのなら丁度良い。
「いや、僕の方こそ…起こして済まない。身体が汗でべたべただから…シャワーを浴びてくる」
起きるのを手伝ってくれないか、と言うと彼は素直に応じる。
「……大丈夫ですか?立てそうです?」
「多分…大丈夫だと、思う」
彼の手を借りて立ち上がる。
「……っ」
「昴さん…っ」
歩き出そうとして、身体がふらついた。
ぐらり、と世界が歪む。
慌てて大河が僕の身体を支える。
…ダメだ。こんな調子ではとてもじゃないがシャワーどころではない。
素直に身体を拭くしかないようだ。
「無理ですよ、ベッドに戻りましょう」
「そうするよ…申し訳ないけれど、タオルを取ってくれるかい?身体を拭きたい……」
大河に支えられてベッドに戻る。
「はい、どうぞ。じゃあぼくは部屋の外に出ていますから…」
律儀に出て行こうとする彼に笑う。そして思いつく。
自分で全部拭こうと思っていたがどうせなら彼に手伝ってもらえばいい。
「……手伝ってくれないのかい?」
「え…す、昴さん」
「別に、僕の裸なんて見慣れているだろう…背中とか、自分じゃ上手く拭けないし」
彼には何度か抱かれた。
この部屋もあるし、彼の部屋でも。
当然、その度に自分の裸も見られているわけだ。
頭が重くてまともな思考回路が麻痺しているのかもしれない。
いつもは、裸を見られることすら恥ずかしがってるのは自分の方なのに。
「そ、そういう問題じゃない気が…」
「…ダメならいいよ。自分で拭くから」
パジャマのボタンを外しながら呟く。
大河はタオルを手におろおろしている。
「す、昴さん…」
「タオル、貸してくれないか?」
一応、脱いだパジャマで胸元を隠しつつ彼を見上げる。
彼が、息を呑むのがわかったがそれが何故なのかわからない。
…流石に彼に甘えすぎだろうか。
「わかりました…拭きますよ」
観念したのか、彼は開き直ったように言うと僕の背後に周って背中の汗をタオルで吸い取る。
「……ふぅ……」
「腕、上げてください」
「…っ…ん…」
生真面目な彼らしく、おそるおそる拭かれるのは逆にちょっとくすぐったい。
「……背中は拭きましたよ」
「ありがとう…」
「ええと、拭き忘れとかはないですか?」
躊躇いがちな声。
「……すまないな、甘えてしまって。前は自分で拭くよ」
タオルを受け取ろうと顔を上げると彼の顔が赤く染まっているのに気付いた。
「大河…?」
「え…?す、すいません。どうぞ」
僕のいぶかしむような視線に気付いたのか、彼はそう言って下を向いてしまう。
受け取りながら、もしやと囁く。
「……もしかして、照れてるのかい?」
「当たり前です…!……昴さんは風邪とはいえ、こんなこと…ぼくだって男なんですからね」
力説されて戸惑う。
無意識にとはいえ、彼に悪いことをしてしまっただろうか。
「こんなことを考えるのは不謹慎だと思うんですけど…今日の昴さん凄い色っぽくて…ぼくはその…色々と我慢してるんですから」
「大河……」
彼の胸に身体を預ける。
「わひゃあ!?昴さん、何を…」
「すまない…君がそんな風に思ってるなんて考え付きもしなかった」
「わ、わかりました!わかりましたから…」
「それとも……しようか?大河」
ぽつりと呟く。
「ダメです!昴さんは病人なんですから安静にしてないといけませんです!」
大河のネクタイを掴むと彼の手がありったけの力を込めて僕の手を引き剥がす。
「…イヤなのかい?」
「イヤじゃないですけど…じゃなくて、昴さんは風邪を引いてるんですからそんなこと出来ません!」
「さっき他人にうつすと治るって言ったのは君じゃないか…」
「そんな熱っぽい目で見上げてもダメなものはダメです〜っ!」
必死に首を振る彼がおかしい。
「……意地悪」
仕方ないので軽く彼の頬にキスをして離れる。
「じゃあ僕が治ったら…約束だよ?」
「します!しますから今日は大人しく寝てください〜」
「…わかったよ」
手短に身体を拭くとベッドに横たわる。
「……早く良くなってくださいね。昴さん」
大分顔から赤みの引いた大河がそう言って僕の手をぎゅっと握りしめた。

翌日。
薬のおかげか大河の看病のおかげか、僕の風邪はすっきりと治り
逆に大河が風邪を引いてしまったのは言うまでもない。


「昴さん、ごめんなさい…今度はぼくが風邪引いてしまって」
申し訳なさそうに、大河が呟く。
昨日とは反対に、今日は僕が大河の部屋へ来ていた。
大河は平気だと言い張ったが、そんな彼を放っておくわけにはいかない。
「気にするな…大河。今度は君の代わりに僕が看病するよ」
そう言うと彼が嬉しそうに目を輝かせる。
「本当ですか!?えへへ…昴さんに看病して貰えるならずっと風邪でもいいかも」
「…馬鹿」
こつん、と彼の額を小突く。
「そんな事を言ってないで早く治せ…治ったら一緒に出かけよう」
「そうですね…えへへ」
ふと、気になって彼の額に自分の額を重ねる。
「わひゃあ!?昴さん、何を…」
「……思ったより熱が高いな」
「今、ちょっと上がった気がします」
ぽつりと大河が呟く。
「え?」
「い、いえ。なんでもありません」
「変な大河だな。何か僕にして欲しいことはあるかい?」
「………いえ、傍に居てくれるだけで嬉しいです」
何だ、今の間は。
「大河?」
彼の様子がおかしい。
目が彷徨っている。
首を傾げながら彼の足元に目を向けてその理由に気付いた。
布団が一部分だけ盛り上がっている。
「……」
「あ、あはは…。昴さんの髪っていい匂いだなぁと思ったらつい」
大河が申し訳なさそうに笑う。
「全く…君って奴は…」
「うう…すいません」
呆れたようにため息をついた僕を見て彼が小さく縮こまる。
「でも、昴さんに風邪をうつすわけにはいきませんから…そのうち治まりますよ」
…という大河の言葉とは裏腹に5分経っても10分経っても治まる様子はなかった。
「………」
「す、すいません…」
僕の視線に居た堪れなくなったのか、大河はそう言ってもぞもぞと布団から出ようとする。
「待て、何処へ行く」
「ちょっとトイレに…」
消えそうな声でそう言う大河の肩を掴む。
……やれやれ。

「仕方ないな…」
「え?」
首を傾げる彼をベッドに寝かせると寝間着代わりの浴衣の間から未だに治まる気配のない彼の分身を取り出す。
「す、昴さん…!」
「今日だけだよ」
驚く大河を尻目におずおずとそれに舌を這わせる。
本当は、こういう行為はあんまり好きじゃないし得意じゃない。
一応彼に請われて何度かしたことはあるが、いまいち勝手がわからないし何より口に含むにはちょっと大きい。
彼が昇りつめる前に僕の顎の方が疲れる。
「いいですよ…そんな…」
「君も知ってると思うけど…僕はあまり上手くないから…君が自分でした方が早いのかもしれないが」
ちらりと大河を見る。
「同じ部屋の中で自分のあられもない姿を想像をされるよりはいい」
「!!」
僕の言葉の意味を理解してか、彼は乾いた笑みを浮かべた。
「あはは…やっぱりばれてました?」
「僕にだってそれくらいはわかるよ」
そこで言葉を切って行為に没頭する。
言葉を交わしながら出来るほど器用じゃない。
戦闘でも、舞台でも、これほど悩んだ事はないのに。
自分がどうすれば目の前の男をいかせられるだろうか、なんて考える日が来るとは思ってもいなかった。
でもいい。
彼は『特別』だから。
大河が喜ぶことなら、してあげたいと思う自分はやはり彼に惚れているのだろうか。
「…昴さん…」
大河の指が、優しく僕の髪を撫でる。
裏側をなぞるように舐めあげ、舌先で刺激すると一応それなりに気持ちいいらしい。
時折、呻くような声が大河の喉から漏れる。
一通り舐めて、毎度ながら躊躇うが先の部分を口に含む。
「ぅ……昴さん」
幹は太くて硬いのにこの部分だけは柔らかいのは何故だろうなどと思いつつ舌を絡みつかせる。
舌全体でゆっくり大きく舐めたり舌先を丸めて小刻みに舐めたり。
呼吸が出来なくならない程度に根元の方まで含むと彼の指が一瞬止まる。
やはりそうされると気持ちいいのか…と考えながらもすぐに先端が喉に詰まって引き抜く。
その際に蜘蛛の糸のように口の端から垂れる一本の筋は僕の唾液だけではないらしい。
少しだけ口の中が苦い。
この味も好きになれなかった。大河のだから我慢しているけれど。
そうしてどれくらい経ったのか。
…例によって顎が痛くなるほど続けたが、やはり彼が達する事はなかった。
「ごめん…大河。もう限界だ」
根をあげたのは僕の方だった。
「いえ、ありがとうございます昴さん。あまり好きじゃないって言ってたのに…してくれて」
大河が、はにかみながら僕に微笑む。
「僕にはこういう才能はないのかもしれないな…」
ふぅ、とため息をつく。
情けない。
「そんなことないですよ。昴さん、少しずつ上手くなってますし」
それに、と大河はふらふらと上体を起こして僕を抱きしめる。
「昴さんの中の方が…何百倍も気持ちいいです」
「…!」
頬がかぁっと熱くなるのが自分でもわかった。
「た、大河…」
「昴さん…ぼく、我慢出来そうにありません。昴さんの中に……挿れたい」
熱っぽく囁く声が僕の心に響く。
頭の中では彼は病人だとわかっていても、大河にお願いされると断りきれないのも惚れた弱みか。
身体を離し彼の目を見ると、いつものように真っ直ぐな視線に射抜かれた。
「……いいよ」
「昴さん…」
ついばむように口付けを交わすと彼の手がもどかしそうに僕の服にかかる。
ネクタイを解かれ、スーツとシャツのボタンを外されると、まさぐるようにして大河の熱い手が僕の胸に触れた。
「んっ…」
手の平全体が薄い胸を撫で、指先で突起を刺激される。
「昴さん…もう起ってる。昴さんも…少しはしたいと思ってました?」
「さぁ…どうだろうね…」
はぐらかしながら彼の浴衣の帯を解く。
「…教えてくれないんですか。じゃあ、昴さんの身体に聞いてみますね」
「…っ。たい、が…」
ズボンの裾から彼の指が入ってくる。
指先が、そっと僕の恥部に触れた。
「やっぱり……濡れてる」
「馬鹿…そういうことは思っても口に出すな…」
自分でもうっすら気付いてはいたが、いざ言われると恥ずかしくなって大河の肩に頭を埋める。
「…なんでですか?昴さん、こうされたくて仕方ないんでしょう…」
彼の指が僕から滴る愛液を纏い僕の中に侵入すると、内部を擦られた。
「あっ…うっ…!」
「中も凄いどろどろですよ…ああ、早く挿れたいな…」
「んんっ…大河…」
「…いつもみたいに『新次郎』って呼んでくれないんですか?」
大河がちょっと拗ねたように口を尖らせる。
ちょっと乱暴に、指でも抗議をされて反射的に身体が仰け反った。
「はぁっ…!しん、じろう…」
紐育に平和が戻ってから。
彼の呼び名を『大河』から『新次郎』に変えていた時期もあったのだが。
今は『こういう時』だけ呼んでいる。
ちょっと、特別な気がして。
「えへへ…他の誰に呼んでもらうよりやっぱり昴さんに言われるのが一番嬉しいです。昴さん…大好き…」
お礼にもっと昴さんを悦ばしてあげますね、と彼の指が二本に増えて更に激しく僕の中を掻き回す。
「あっ…あっ!…ああ…っ」
抜き差しされる度に震えで腰が砕けそうになり、新次郎の肩を掴んで崩れそうな自分の身体を支える。
室内に響く淫らな水音に恥ずかしさと共に興奮を駆り立てられた。
「ああ……新次郎…気持ちいい…もっと…もっと…」
無意識に声が漏れる。
はしたないと思いながらも。
だが、ふと彼の指が止まる。
「新次郎…?」
問いかける自分はさぞ切なげな瞳をしているのだろう。
彼は僕を安心させるようにいつもの穏やかな微笑みを浮かべた。
「いいですよ、でも脱がせないと服がべとべとになっちゃいますよ…」
「……それは嫌だ」
彼が笑って僕の身体を覆っていた服を一つ残らず取り去る。
新次郎も既にはだけた浴衣を脱ぎ、お互いに生まれたままの姿になって抱き合う。
風邪のせいか、彼の身体は既に汗だくだったがそんなのも気にならないほど安心する。
心が満たされる。
「……ひぁっ!…ん…ぁっ…」
しばし抱き合うと新次郎の身体が離れ、舌や指が再び僕の胸や秘所を愛撫してくる。
「あ、あっ…しんじろ…っ…」
言葉に出来ない感覚がせりあがってきて、僕の全身を伝う。

嗚呼、あとちょっと。
あとちょっとで。

そう思った瞬間に指が引き抜かれ、代わりに新次郎自身が僕の中を満たした。
「ああっ…はあぁぁぁぁっ!!」
予想していなかった急の刺激に自分でも抑えきれない高い声が喉から漏れ、全身が痙攣して快感が行き渡る。
やがて、くたりと力が抜けた。
「昴さん…イきました?」
「…はぁっ…はぁ…はぁっ…」
息苦しくて言葉にならない代わりにこくりと頷く。
「挿れただけでイクなんて、昴さんも敏感になりましたね…」
彼が嬉しそうに言う。
「…はぁ…誰の、せいだ…」
新次郎を睨みつける。
「えへへ…ぼくのせいですけど」


最初からこうだったわけではない。
むしろ、最初は気持ちよいどころではなかった。
一番初めの時はやはり痛かったし、全然気持ちよいとも思わなかった。
新次郎も初めてだったのでお互い何が何やら状態で気がついたら新次郎が達していた。
「…すいません、昴さんは、気持ち良くなかったですよね?」
痛みを堪えるのに精一杯の僕に彼が申し訳なさそうに言う。
「気にしないでいいよ。僕も初めてだったし」
そうは言ったのものの、二度目もやはり気持ち良いとは思わなかった。
だが新次郎が気持ち良さそうなのは見てわかったので、それでいいと思っていた。
元々、絶頂に達するとかそういうことにさしたる関心はあまりない。
満たされるのは身体より心。彼と一つになっているという気分だけで満足だった。
けれど、新次郎は違ったらしい。
三度目の時に、彼は熱い思いを込めてこう言った。
「昴さんが気持ちよくなれるように…ぼく、頑張ります!」
そして彼の『僕をイかせる為の努力と特訓』が始まった。
「昴さん、どんな感じです?」
彼が自分の腰を円を描くように回しながら言う。
「…どうと言われても…何だか変な感じとしか…」
「うーん…じゃあこれは?」
すぅっと引き抜かれ、入り口をゆっくりと擦られる。
「んっ…なんだか、くすぐったい…」
「気持ち良い、じゃなくてくすぐったいかぁ…ううん。じゃあこれはどうです?」
新次郎の思考錯誤は続く。
「ちょっ…新次郎!何を…」
ひょいと片足を高く掲げられ、横から挿入される。
「…ちょっと角度が違ったら気持ちよくなるかなと思って」
「馬鹿!…やっぱり、何か変な感じ…」
「…うーん…」
そんなことを繰り返して何度か経った頃、いつものように新次郎が動いているうちに『いつもとは違う何か』を感じた。
「……んっ…!」
「昴さん!」
僕の発する声の違いに新次郎も気付いたらしい。
「ここですか?」
「あっ…や…やだ、新次郎…」
鳥肌が立つような感覚に全身が震える。
「嫌がる昴さんも可愛いなぁ…もっと、嫌がってみてください」
「ば、か…ああっ…ん、ん、んっ……」
一箇所を執拗に責められて脳の芯が痺れる。
今まで感じた事のない何かが、身体の中で蠢くような。
「いや…っ…だめっ…しんじ、ろ……もうっ…!」
耐え切れない、と思った瞬間目を瞑って彼の腕をぎゅっと掴む。
蕩けるような感覚が、僕の隅々までを支配した瞬間だった。
「昴さん…イったんですね……」
その後はしばらく動くどころか息を整えるのも大変だった僕をあやすように撫でながら新次郎が呟く。
何故か僕よりも新次郎の方が嬉しそうだった。
「…そうみたいだ…」
「えへへ…頑張った甲斐がありました」
「…何で君はそんなに嬉しそうなんだい?」
思わず疑問が口をついて出る。
「だって、自分の好きな人には気持ち良くなって欲しいじゃないですか」
それに、と彼は言う。
「どうせなら昴さんと一緒にイきたいです…」
「馬鹿……何言ってるんだ」
「えへへ、これからも頑張りましょうね!昴さん」
僕に微笑みかける新次郎にため息をつくと、彼はこんな事を聞いてきた。
「ところで…イクってどんな感じです?昴さんには」
「……そうだね…」
何とも表現しようのないが、新次郎が目を輝かせて聞いてくるのでしばし考えてこう答えた。
「目の前で星が弾けるような感じ、かな」


「少しは落ち着きました?昴さん」
「うん…なんとか」
新次郎が笑う。
「じゃあ、もう動いても平気ですね。昴さん、イった瞬間凄く締め付けてきたから…ぼくもイっちゃうかと思いました」
「だから、そういうことは口に出すなと……ん、あぁっ…!」
言うなり動き出す新次郎に、息も理性も奪われる。
「昴さんの中…ぐちょぐちょで…なんか、入ってる気がしないです……」
「…ん、くぅ…僕も……よく…わからな…あっ…」
二人の汗で全身べとべとで、まるで本当に一つになってしまったみたいに。
ああ、溶けてしまいそう。
けれど、身体を揺すられる度に頭から足先まで新次郎の存在を感じる。
「……っ、…しん…じ……ろっ…あっ…あぁっ」
苦しいほどの快感で、彼の名前を呼ぶことすらままならない。
おかしくなりそう。
「昴さん…大好き…」
新次郎の舌が息を求めて喘ぐ僕の舌に絡まる。
「…はっ…し…んじろぉ……」
助けを求めるように舌を差し出したのに、唇ごと吸い付かれて頭がくらりとした。
「んっ…んんっ……はぁ…っ」
息苦しさにもがこうとしても新次郎は許してくれない。
抽挿を繰り返したままの深い口付けに意識すら遠のいてきた。
「昴さん…好きです、大好きです…昴さん」
彼は行為の最中、何度も僕に向かって『好き』と言う。
それはとても嬉しいけど、ちょっとくすぐったくて。
僕も言った方がいいんだろうなと思いつつ何だか恥ずかしくて言えない。
だから、その代わりに彼の首に腕を回して抱きしめる。
言葉に表せない気持ちを、伝えたくて。
思いは新次郎にも伝わるらしい。
嬉しそうに微笑む彼の顔はどんな新次郎の表情よりも魅惑的に、僕の心を溶かす。
溶けてしまいたい。
「ん…くぅっ!……しん、じろう…」
「昴さん…ぼく、もう…」
新次郎が眉間に眉を寄せて堪えながらそう呟く。
「新次郎……僕も…っ…だから、手…握って……」
彼に向かって手を伸ばすと、見た目よりも力強い手が僕の手を握り指が絡められた。
「あぁ…新次郎…はぅっ……あ、うっ…んっ」
その手をしっかりと握り返すと安心する。
「ああっ…新次郎っ……!!」
昴さん、と彼の囁くような声と強く握りしめる指を感じながら、全ての感覚が溶けて、流された。

お互いにぐったりとした身体で横たわり、息を整える。
くしゅん、とクシャミをする新次郎の声で我に帰った。
すっかり忘れていたが彼は、病人だ。
「新次郎!風邪は…」
「えへへ…大丈夫ですよ。汗をかいたせいか、なんかすっきりしました」
「馬鹿!早くシャワーを浴びて横になれ」
「昴さんも一緒に浴びましょうよ」
「仕方ないな…」
彼と共に汗を流すと彼をベッドに寝かせる。
「ごめんなさい、昴さん。昴さんに風邪がうつってないといいんですけど…」
「僕は平気だよ。だから、早く君の風邪を治してくれ」
元々は僕の風邪なのに、僕を気遣う新次郎に微笑みかけると彼の指が僕の指をぎゅっと掴んだ。
「昴さん……今日は、せっかくのお休みだったのにごめんなさい…治したら、一緒に出かけましょうね…」
そう言うと、新次郎の目が閉じられる。
「…おやすみ、新次郎。約束だよ」
彼の頬にキスをすると彼の横に頭を置く。
流石に眠い。
ちょっとだけ自分も眠ろうと思ったまま。
…気がついたら翌日だった。

二人のキャメラトロンから鳴り響くシアターからの呼び出しで二人揃って目を覚ます。
「…新次郎!」
「昴さん!」
信長を倒し、紐育が平和になったからといって悪念機が出なくなったわけではない。
「僕は先に行く。…体調は大丈夫か?大河」
慌てて身支度を整えながら彼の方を見ると、彼も着替えながら僕に微笑む。
「はい、大丈夫です。先に行ってください。ぼくもすぐ行きます」
シアターには僕が先につき、遅れて大河もやってくる。
「全員揃ったようだね。じゃあ、状況を説明しようか」
サニーの説明が終わり、出撃準備に椅子から立ち上がると小指に何かが触れた。
「…!」
一瞬驚いたが、答えの代わりにその小指に自分の小指を絡めて、まるで指きりのように一瞬ぎゅっと握ると離す。
目を向けなくても誰だかわかる。
こんな時だというのに、昨日の事を思い出し頬が赤くなった。
「紐育華撃団・星組、出撃です!」
その台詞も大分板についてきた彼に向かって微笑みかける。
(ずっと一緒だ…約束だよ、新次郎)
君がいる。
それだけで、僕はもっと強くなれる。
君は僕のポーラースター。

END




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