My dear star
「昴さん」
スターの外から新次郎が自分を呼ぶ声がして、手元のレバーでハッチを開ける。
「…そろそろ降りてきませんか?」
戦闘服姿の新次郎が、優しく微笑む。
「ダメだ。…まだ感覚が戻らない。新次郎、君は先に戻っていてくれ」
そう言ってハッチを閉じようとすると、新次郎が器用にスターの中の僕に近づいてくる。
コックピットの手前まで来ると、新次郎は僕を覗き込んだ。
「し…新次郎!」
「そうやって焦っても余計に集中出来ませんよ。ただでさえ、戦闘の後で疲れているのに…」
子供をあやすような顔で呟く新次郎。
彼の言い分は尤もだが、理解は出来ても納得は出来なかった。
「だが、いつ次の戦闘があるか分からない。…出来るうちに、少しでも…」
「昴さん……」
狭いコックピットの中に新次郎がひょいと入ってくる。
僕と向かい合うように身体を密着させる形で。
「な…、何を…何で君まで」
「うーん、やっぱり二人だと狭いですね。でも何とか入れるかな」
入ってくるなり、レバーを操作してハッチを閉める。
ぷしゅうと音がして、やや狭いコックピットの中に二人きり。
「新次郎……」
スターの内部自体は、新次郎のも僕のも変わらないので彼が操作できても別に不思議ではないのだが。
あまりにも自然にするものだから、僕は呆気に取られて新次郎の行動を見ていた。
「えへへ、これでゆっくり二人で話せますね」
話す、という割にはどういうつもりか尋ねようと口を開きかけた僕の唇を新次郎の唇が塞ぐ。
…予想していなかったわけじゃないが、身体が少しだけ強張った。
「……戦闘服姿の昴さんもいいなぁ。間近で見たの、はじめてかも」
「馬鹿…何を言っている」
スターの内部は狭い。元々一人用だから当然だが。
唇を離しても、息がかかるほど近くに新次郎を感じる。
何だか変な気分だった。
「あんまり気にしたらだめですよ、昴さん。昴さんは天才だから、少しの事でも許せないのかもしれないけど」
彼がそう言って僕を抱きしめる。
「……新次郎」
ちょっと迷ったが、その背に手を回して自分も彼を抱きしめる。
見た目よりも筋肉のあるがっしりとした背中。
新次郎の肩に頭を預けて目を閉じると、今日の出来事を思い出す。
紐育に平和が訪れても、悪念機自体は今でも現れる。
もちろんその度に僕たちは出撃するわけだが。
「昴さん!」
「……くっ…」
攻撃を鉄扇で弾く。
いつもなら、近寄る事さえ許さないのに。
何故だか今日だけは、いつものようにスターを動かせない。
霊力を上手く制御できない。
戦闘自体は大したことがなかった。
だが、僕の機体操作はぼろぼろだった。
一機も倒すことなく帰投した僕を、渋い顔をしたラチェットと反対ににやにや笑うサニーが出迎える。
「昴…どうしたの?調子が悪いの?」
「ラチェット。昴にだってそういう時くらいあるさ。なぁ、そうだろう?昴」
「……ああ」
「とりあえず、申し訳ないけど昴には残って戦闘演習をして貰うよ。念のためにね」
「わかった…」
奥歯を噛みしめつつも素直に頷く。
そして、今まで延々と演習に励んでいたが…勘が取り戻せない。
焦れば焦るほど、霊力が乱れる。
そこへ、新次郎が現れた。
てっきり、帰ったものだと思っていたのに。
「すまない…君の足手まといにはなりたくないのに」
抱きしめたまま、囁く。
今日は彼に助けられてばかりだった。
…情けない。
「足手まといだなんて思ってませんよ。昴さんがいるだけで、ぼくは頑張れるんですから」
「このまま…霊力がなくなったら、どうしよう…」
ぽつりと呟く。
そんな事は考えたくなかったが、新次郎を目の前にするとつい弱音が出てしまう。
「昴さん…」
「そうしたら、シアターにもいられない。君とも一緒に戦えない…」
新次郎の服をぎゅっと掴む。
「そんなのは、嫌だ……」
「昴さん、大丈夫ですよ。そんなことにはなりません。平気です、ぼくたちはずっと一緒です」
「でも……」
「そんなに不安なら、おまじないをしましょうか?」
新次郎が僕の髪を優しく撫でて、僕の顔を見る。
「おまじない?」
「叔父さん…あ、日本の大神一郎叔父さんの婚約者さんの話なんですけど…昴さんと同じように霊力が落ちたときがあって」
首を傾げる僕に新次郎が説明しだす。
ちょっとだけ頬が紅潮しているように見えるのは気のせいか。
「その時には…この方法で立ち直ったそうなんです。その、婚約者さんが」
「…そんな方法があるのか?」
ぐっと新次郎に詰め寄る。
「え、ええまぁ…」
「どんな方法だ」
「そ、それはですね…」
新次郎は何故か口ごもる。
そんなに言いにくいことなのだろうか。
「もったいぶらずに教えてくれ。どんな方法でもいい」
「本当に…いいんですか?」
「ああ」
「……わかりました…じゃあ、ぼくを信じてくれます?これから、何をしても」
「……?もちろん信じている、が……」
そこで会話が途切れた。
新次郎に口をふさがれ、手が僕の服にかかる。
「……っ」
だめ、と言おうとしても口は塞がれた状態で、片手は新次郎に掴まれた。
上着の前を開かれ、更に服の内部に新次郎の指が侵入してくる。
びくり、と身体が震えた。
「こういうこと、なんです……」
新次郎が、申し訳なさそうな声で言う。
「し、新次郎…」
「ごめんなさい、昴さん。こんな所で…」
そう言いつつも彼は僕の首筋に舌を這わせて、指は服に手をかけていく。
「や…新次郎…だめ……っ」
「ぼくも、そう思うんですけど…」
狭いコックピットの中ではまともな抵抗も出来ない。
下手に動いてボタンを押してスターが動いたり、レバーを引いてハッチが開いてしまったらと考えると。
どうしても動きが遠慮がちになる。
「んっ……あぁ…」
「本当は、こんな形じゃなく…ぼくは昴さんが欲しいと、ずっと思ってました…」
「新次郎……」
何だか目的が違ってないか?
心の中でそんな事を思いつつも、その言葉に身体の緊張がほんの少し緩む。
霊力を取り戻す為だけじゃなくて、本当に僕を欲しいと思ってくれているのは、嬉しくないわけじゃない。
言葉にして言われたのは初めてだけれど。
「昴さんが、男でも女でも…ぼくは、昴さんが好きですから」
上半身を剥かれ、膨らみのない胸を新次郎が愛おしそうに撫でる。
僕はまだ新次郎に自分の性別を教えていなかった。
それがこんな所でこんな形でばれる事になるとは…。
抵抗しようと身を捩ろうとしても狭い内部ではロクに動く事すらできない。
それに、心の何処かでこれで本当に霊力が戻るなら…それもいいかという思いもあった。
……物凄く恥ずかしいが。
「昴さん…」
「…あぁ…ん…ふぁ……っ」
先端をそっと撫でられたと思ったら、口に含まれて甘い声が漏れた。
まるで、赤ん坊が吸いつくみたいだ。
そんなことを考える。
僕の胸に吸い付いたまま新次郎の手が、僕のベルトのバックルに伸びてカチャリと外す。
だが、ファスナーを下げて、その中に手を忍びこませてもまだ一枚着ている事に気付いて彼の手が止まった。
「…へぇ。ぼくのもだけど星組の戦闘服って何枚も着込んであるんですね。脱がすの、ちょっと大変です」
「馬鹿…何に感心してる……あっ…ん…」
「うーん、位置を入れ替えた方がいいかなぁ。昴さん、ちょっと腰を上げてくださいね」
そう言いながら新次郎は僕と身体の位置を入れ替えて自分がシートに座り、僕が座席に膝を着き、彼を見下ろす形になる。
毛先が新次郎の鼻をくすぐって、彼はちょっとくすぐったそうに肩を竦めた。
「昴さんの肌って凄く白くて綺麗ですね…コックピットの中の光で見ると、余計に白さが浮かび上がって…何だか神々しく感じます」
青とも緑ともつかないスターの内部の光に照らされる僕の身体を見ながら新次郎がそんな事を言う。
「昴さん……」
「……あっ!だ、だめだ…そこは…!」
新次郎の手が、下着の中に入ってくるのを感じて思わず逃げようと身を捩る。
だが、逃げ場所などありはしない。
「昴さん…隠さずに、ぼくに全部見せてください……」
「んっ…いや……っ…恥ずかしい…!」
指先が突起にふれて、確かめるようにむにむにと触られる。
「やぁっ…!!」
電気が走るような痺れが全身を駆けた。
甲高い声を上げて、新次郎にしがみつく。
「昴さん、可愛い……」
「だ、だめ……だめだ、新次郎…」
その指が更に奥へ忍んでいくのを感じて、身を引こうとしても背中にはコックピットの前面が当たるだけ。
「…昴さん、女の子だったんですね。えへへ、ちょっと嬉しいです」
突起の先にある、窪みに触れた新次郎が嬉しそうに微笑む。
……今まで隠していたのが、とうとうばれてしまった。
「ちょっと、濡れてますね、ここ」
「んんっ!!」
指が、なぞるように動いた。
「昴さん…感じてくれてます?叔父さんによると、感じてくれた方が、効果があるらしいです…だから」
新次郎が僕の目の端に溜まった涙を舐めた。
「もっと感じてください…ぼくを」
「や、やっ……しんじ、ろう…」
「昴さんの中…凄い、熱い」
指が入り込んでくるのを感じて思わず怯える。
「怖がらないで下さい…優しくします、から」
「だ、だって…こんな所で……」
よりにもよってスターのコックピットだなんて。
いつ誰に見つかるかも分からない。
何より僕は上半身ほとんど裸にされているのに新次郎は戦闘服を着たまま。
それもまた恥ずかしかった。
「誰も見てませんよ。二人きりです」
「で、でも…」
「…昴さんはぼくが嫌いですか?」
上目遣いの新次郎が切なそうな声で聞いてくる。
…絶対、僕が新次郎にそう言われると弱い事を知っててやってるに違いない。
「嫌いな…わけ……んんっ!」
僕の内部を確かめるように蠢いていた指が内壁を擦り、芽を潰すように刺激されて身体がぶるぶる震える。
閉鎖された空間、密着する身体、いつも自分が操り戦っている霊子甲冑の中、というシチュエーションが全身を敏感にさせているのかもしれない。
こんな所を誰かに見られたら…と思うたびに心臓がうるさいくらいに音を立て、自分の中から蜜が溢れるのを感じて恥ずかしかった。
…もしかして僕は興奮しているんだろうか。この状況に。
「良かった。じゃあ問題ないですね。ぼくも大好きです、昴さん…」
「はぁ、っ……!あぁ……」
新次郎の指が更に一本、染み出た愛液を纏い侵入するのを感じて、彼の肩を掴む指に力を込める。
既に十分潤っていたので痛みはなかったが、やはりどうしても異物の侵入する感覚は慣れない。
二本の指は入り口付近を擦ってみたり、奥を掻き回してみたり、不規則な動きで僕を翻弄する。
「んっ……んん……はっ………」
その度にがくがく震える身体を、新次郎の肩についた手で支えないと腰から力が抜けてしまいそうで。
指が動くたびにぴちゃぴちゃ水音がして、狭いコックピット内部に響くのが聞こえて恥ずかしかった。
「あ、あんまり…音を…たてないで、くれ…」
小さな声でそう言っても
「意識してやってるわけじゃないですよ。昴さんがぼくの指から滴りそうなほど濡れているからで」
さらりと言われてかわされてしまう。
確かに自分でも恥ずかしいほどだとは思うけれど、外にまで聞こえていやしないだろうかと気が気ではなかった。
「…指でイけそうですか?昴さん」
ぬるま湯のような心地よさに身を任せていたら、新次郎にそんな事を言われて驚愕する。
「し、新次郎……」
彼の目を見ると彼は穏やかに微笑んで僕を見上げていた。
「だって、昴さんに気持ちよくなってもらうためにこうしてるんですから」
「そ、それは…」
「本当は、昴さんのこことか、こことか、舐めてあげたいんですけど、ここじゃ狭くてそれも出来ないですからね」
言葉と共に、芽をつままれ、中の指が小さく身動ぎするのを感じて顔が火照る。
「ば、馬鹿……」
「それとも、今からどちらかの部屋に行って続きをしましょうか?部屋でなら、思う存分昴さんを愛してあげられますし」
新次郎の言葉に鼓動が早くなるのを感じる一方、熱くなった身体を鎮めて貰えないまま終わらせられるのかと思うと、心が乱れた。
入り口が無意識にねだるかのようにひくつく。
「……我慢できそうにないですね」
新次郎は指に絡みつく僕の動きで、僕の心情を悟ったかのように苦笑をすると、僕に優しく口付けた。
「昴さん、どうして欲しいです?」
「な、何が……」
「昴さんの口から聞きたいなぁ…どうして欲しいのか」
自分の頬にかかる僕の髪をかきあげて、瞳をじっと見ながら新次郎は呟く。
「ぼくは昴さんの望むとおりにしますよ。だから、どうして欲しいのか、言ってください」
「……」
そうは言われても、口に出して言うなど恥ずかしくて出来ない。
「ここに、欲しいんじゃないですか?」
「あっ……しん、じろぅ…」
わざと焦らすような指の動きに頭の中まで急かされている気分になる。
言わないと、本当にこのまま延々と焦らされそうだが、言うのは癪だ。
「言ってくれないと、わからないですよ?」
「はうっ……そんな、言わなくても…わかるだろう…君にだって、僕の気持ちくらい…」
それが最大限の譲歩だった。
「…仕方ないですね。あんまり虐めたら後が怖いので、この辺にしておきます」
言葉と共に指が引き抜かれて、新次郎はぺろりと濡れた指を舐める。
その仕草にぎょっとした。
「なっ…そんなの舐めるな!」
「だって、服が濡れちゃいますし」
羞恥に顔を背けると、新次郎がごそごそと動く気配がしてカチャリとベルトが外される音がした。
「えへへ…本当はぼくも我慢の限界だったんですけど」
彼が僕の身体を掴んでそっと導く。
「…昴さん、挿れてもいいですか?」
「馬鹿。わざわざ断らなくてもいい…」
膣口に触れたそれは、彼の興奮を示すように既にそそり立ってぴくぴくと蠢いていた。
「昴さん」
彼が僕を見る。
「こんな所で本当にごめんなさい。でも、ぼくは本当に昴さんが好きですから…」
「…わかっているよ。僕も、君が好きだ。でも…こんな所は、二度はごめんだ」
それが素直な感想だった。
「でも、10年後とかに語ればいい思い出になるのかなぁ。初めての場所がコックピットの中って」
「……10年後に僕が傍に居ればいいけどね」
「昴さん!!」
「ふふ、嘘だよ……10年後も、一緒にいよう?僕が、例え霊力を失ってしまっても」
「縁起でもないこと言わないで下さい。でも約束ですよ?ずっと、一緒にいましょうね…」
唇と手が重なり、新次郎に促されるようにして彼の上にゆっくりと腰を落とす。
彼が自分の中に入ってくる感触に、悦びで背筋が震えた。
新次郎と一つになっている。
そう思うだけで、頭が真っ白になって何もかも忘れてしまいそうなほどに。
「ん……はぁっ!!」
「昴さん……」
「新次郎…」
十分に慣らした上にゆっくりと挿入しているので痛みはないが、狭くて身動きが取れないのもありどうしてもぎこちないけど。
でも、それ以上に幸せで、あっという間に根元まで入ってしまう。
「…昴さん、大丈夫です?痛かったり苦しくないですか?」
「平気だよ…」
「昴さんの中、温かい…昴さんに、包まれているみたいです」
「僕も…何だか、すごく満たされてる気分だ……不思議な、感じ」
視線を合わせて笑いあう。
言葉にしてから、ちょっと照れくさいような感じがした。
「えへへ…少しこのままでいましょうか」
「そうだね……」
繋がりあったままお互いを抱きしめると目を閉じる。
こうしているだけで、さっきまでの苛立ちや焦燥が全てが溶けて流されていくような気がした。
新次郎はどんな僕でもありのままを受け入れてくれる。
もし、このまま本当に霊力が無くなってしまったとしても。
彼と共に戦った日々が消えるわけじゃない。
それに、ラチェットのように後方支援に周るのも悪くないか、とすら思えるようになっていた。
昔の自分ならそんな事、耐えられなかっただろう。
並外れた霊力と才能を活かし、戦いも舞台も完璧にこなしてこその自分、その為の九条昴という存在。
それが拠り所であり存在意義の一つであった。
でも、そんな自分を彼が変えてしまった。
「新次郎……」
目を開けると彼を見下ろす。
「なんですか?昴さん」
「今まで性別を隠していてすまなかったね。僕は…理由はわからないけど、人より成長が遅いんだ。だから、女性というには未熟な身体なんだよ…」
「昴さん」
「こんな身体、本当は見られたくなかったけど…君が、受け入れてくれて、嬉しい。……昴は、本当に嬉しい」
「昴さん…」
驚いたように僕を見つめていた瞳がすぐに細められる。
「なんだ、そんな事ですか」
「そ、そんな事って…」
その台詞に逆に自分の方が驚く。
人が一大決心で打ち明けたのに『そんな事』で済ませられるとは。
「だって昴さんが言ったんじゃないですか。男とか女とか関係ないって。ぼくにとっては昴さんは昴さんですよ。どんなであっても」
「……君は大物だね」
呆れたように呟きながらも、胸のつかえが取れた気分だった。
彼にだったら、全てを曝け出すのも悪くないのかもしれない。
「えへへ…でっかい男になるために紐育に来たんですし」
「そういえばそうだね…君は間違いなく僕の会った男の中で一番『でっかい男』だよ。断言する」
彼ほどの器の大きい男は自分の人生の中でも後にも先にもいないかもしれない。
僕が何年も悩んでいた事を、たった一言で済ませてしまう。
だが、僕は彼のそんな所に惹かれたのかもしれない。
「昴さんにそう言ってもらえると嬉しいです。ぼくが紐育に来て一番嬉しかった事は、昴さんに会えたことですし」
「そういって貰えると光栄だよ。新次郎、君はやっぱり僕のポーラースターなのかもしれないな……」
深い口付けを交わすと、彼が緩やかに動き出す。
吐息が重なり合い、繋がった部分から全身が甘く満たされていく。
貪るように抱き合うのではなく、お互いの存在を確かめ合って、満たすように。
「は、ぁっ……しんじろ…う……」
いつの間にこんなにも彼に惹かれていたのだろう。
身体が満たされるたびに心がもっと彼を求める。
煽られる。
「…あぁ…新…次郎…もっと……」
どんなに求めても尽きる事のない想い。
自然に早まる抽挿も、無意識に彼に合わせて身体を揺する自分も。
何も気にならないほど彼の全てが欲しくてたまらなかった。
戦い以上の、舞台以上の昂揚。
抑えていたはずの声が、ほとんど叫び声のように彼の名前を呼ぶ。
外に誰かがいるかもしれない、聞かれるかもしれないという考えは既に頭の中から消え去っていた。
「んっ!…はっ……新次郎、しんじろうっ……!」
「昴さん……」
動きが早まるほど急かされた身体の限界が近づく。
喉元にこみ上げるような心地よさを吐息にして吐き出すように喉を仰け反らせて目の前の天井を見上げる。
いつも自分が搭乗しているランダムスター。
僕にとっては戦いの相棒のような存在。
(ごめんよ…この中では君が僕のパートナーなのに)
心など持たない機械相手なのにそんな事を思う。
(でも、僕はもう一度君と共に戦えるように…努力してみるから)
今だけはそっと目を瞑っていてくれ…と思いながら、僕の中で爆発するような感覚が訪れて、全身に広がった。
「…昴さん、ごめんなさい。ぼくもイっちゃいました…」
「新次郎……」
力の抜けた身体を彼に預けながら息を整える。
「昴さんは、気持ちよかったですか?」
素直に頷く。
「ありがとう、新次郎……」
「えへへ、ぼくも昴さんと一つになれて嬉しかったです。また、しましょうね…」
「…コックピット以外だったら考えておくよ……」
「じゃあ楽屋とかですか?」
その言葉に思わず笑う。
「馬鹿。どうして君にはそういう選択肢ばっかりなんだ」
「普段の昴さんもいいですけど、舞台や戦闘の時の昴さんはそれ以上に素敵なんですもん。バタフライの衣装とか、見ているだけでムラムラしちゃいますよ」
「…じゃあ、今度君のためだけに着てあげるよ」
「本当ですか!?」
嬉しそうに目が輝く。
やれやれ、冗談で言ったのに本気にされたらしい。
「気が向いたら、ね」
その言葉にがっくり肩を落とす彼の唇にキスをする。
優しく、あやすように。
そうして、僕と新次郎とランダムスターだけが知っている僕たちの情事は終わった。
「昴さん、どうですか?」
ハッチを開けると彼が真っ先に聞いてくる。
「…感覚が戻ってる」
しばらく落ち着くまで身を休めた後、心配する新次郎をコックピットから降ろし脱ぎ去った戦闘服を身につけて再びスターに身体を馴染ますと。
あれほど、苦労していたのが嘘のようにいつもの感覚が戻っていた。
「本当ですか!良かったぁ…」
「……効果があったみたいだね、君の言うとおり」
「えへへ、言ったとおりだったでしょう?」
「そうだね…だけど」
コックピットからひらりと飛び降りて、彼の隣に着地する。
「君は他の隊員が僕と同じようになっても同じことをするのかい?」
「え…?し、しませんよ!」
そんな事を聞かれるとは予想していなかったのか彼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしてしどろもどろに答えた。
「本当に?」
「当たり前です!昴さんだから……ですし」
消え入りそうな声で言う彼に微笑みかける。
「嘘だよ。ありがとう、新次郎。じゃあ帰ろうか」
「はい!帰って続きですね…!」
「…君は元気だな。僕はもう疲れたよ。それに、あんまり簡単に許すとありがたみがなくなりそうだしね」
「す、昴さん〜」
ちらりとランダムスターを見上げる。
これからも一緒に戦ってくれ、僕のパートナー…と心の中で言いつつ。
情けない声をあげる僕のポーラースターの手を握って格納庫を後にした。
END