それから数日後には僕の身体も完全に治り、シアターにも復帰した。
「昴さん!風邪は良くなったんですね!」
「ジェミニ…すまなかった。迷惑をかけたね」
入り口を入るなり僕に気付いたらしいジェミニの声がして、走ってくる彼女に微笑みかける。
楽屋に行くと、みんなが口々に僕の復帰を喜ぶ言葉をかけてくれた。
その様子から本当に心配してくれていたのがわかって、少し嬉しかった。
「全く…心配したんだぞ」
「だぞー」
「ふふふ…良かったです」
もみくちゃにされながら、部屋の隅にいる大河を見る。
「治ってよかったです、昴さん」
大河はそう言って僕に微笑んだ。

翌日。
部屋で朝食を取っていると扉をノックする音が聞こえた。
「……はい?」
「私よ、昴」
ラチェットだった。
「…たまには一緒に朝食でもどう?昔話でもしながら」
「……」
正直に言えば、あまりそんな気分にはなれなかったが、追い返すわけにもいかない。
自分がシアターを休んだ事で、彼女にも多大な迷惑がかかった事は知っていた。
ラチェットにもきちんと謝罪しなければ、と思っていた。
「…わかった。今、開けるよ」
「ありがとう、昴」
鍵を開けると、ラチェットがいつものように美しい笑みを浮かべていた。
「あら、朝食の最中だった?じゃあ、私にも同じものを頼んでくれる?」
「いいよ、ちょっと待ってくれ」
電話を取り、自分と同じ朝食を頼む。
すぐに同じものがやってきて、僕とラチェットは向かい合い朝食を取った。
「身体は大丈夫?風邪で寝込んだと聞いたときには心配したわ」
「もう平気だよ。君にも迷惑をかけたね、本当にすまないと思っている」
ラチェットが優雅な手つきでハムをフォークで突き刺し口元に運ぶ。
「気にしなくていいわよ。サジータがばっちり代わりを務めてくれたし。生きていれば風邪くらい引いて当たり前だもの」
「……この穴の埋め合わせはきちんとするよ」
「本当にそんなに気にしなくていいわよ。責任なら、サニーに取ってもらうから」
その言葉に自分の珈琲を持つ手がかすかに震えた。
「サニーサイドに…?どういうことだ」
「さぁ…どういう意味に聞こえる?」
ラチェットが上目遣いで僕を見る。
あてて御覧なさい、とその目は言っていた。
「…よくわからないな。言いたい事があるならはっきり言ってくれないか、ラチェット」
「昴。貴方は大河くんが好きなの?サニーが好きなの?」
「…!!」
あまりにも直球すぎる問いに思わずカップを落としそうになった。
何を言い出すのだ。
驚いてラチェットを見ると、最後の一口を口に入れるところだった。
「なんで…何処からそういう話になるんだ」
「貴方とサニーがデキているのは知っていたわよ。風邪で寝込んだときにもサニーの屋敷に居たんですってね」
ラチェットが、カップを手に取り食後の珈琲を口に含む。
「でも、何だか大河くんの様子がおかしかったから…問い詰めてみたら直前まで貴方と居たそうじゃない?」
「…傘を借りただけだ」
サニーについての問いは無視し、大河についてのみ答える。
ラチェットはちらりと僕を見て、ふっと笑った。
「あら、誤解しないでよ。別に貴方と大河くんがどうこうなんて言うつもりはないから」
「言っている意味がよくわからない……」
「何で傘を借りたはずの貴方が風邪を引いてサニーの屋敷で寝込んでたのかしらね。納得のいく説明が欲しいわ」
「……っ」
気付かれている。
ラチェットの台詞に確信した。
「そんな顔をしないで頂戴、昴。貴方を責めようとかそういうのじゃないわよ」
ラチェットは困ったように微笑むと、カップを置き、僕に近づいてくる。
「貴方が大河くんを好きだったのは知っていたけれど…まだ、好きだったのね」
彼女が僕の隣に腰掛ける。
しなやかな指が、頬に、顎に触れた。
「ラチェット…何を…」
「ねぇ、サニーがこんな感じに触れてくる癖、変わってない?」
そう言うと、もう片方の指で僕のシャツの隙間に侵入してくる。
僕の胸の突起を見つけると、それを指先でつまんだ。
「…っ!ラチェット…やめろ…」
「ふふっ、やっぱり変わってないのね」
嬉しそうに笑うラチェットの指先は止まらない。
「あの人、すっごい意地悪でしょ。さんざん焦らして、なかなかイかせてくれない…違う?」
ネクタイを緩められ、スーツとシャツのボタンを外されて、胸元があらわになる。
「ラチェ…ット…こんな事は…よせ…っ」
「あら、酷いわ。サニーとは楽しんでも…私とは嫌なの?」
ラチェットの舌が首筋を舐め、身体に震えが走った。
「そういう問題じゃ…ない……んっ…」
「ねぇ、どっちが好きなの?大河くん?サニー?」
女性であるラチェットの指はあくまでしなやかで、サニーよりも繊細に僕に触れる。
だが、それがいつもとは違う気持ちよさを身体に感じさせ、動けなかった。
「っ……僕は…」
「それとも、どっちも?」
「ち、違う……」
「いいのよ、隠さなくても。でも、サニーも酷いわ。昴を独り占めしようなんて…」
ラチェットの柔らかい唇が、僕の唇に重なる。
華のような良い匂いが鼻腔をついた。
「ラチェット…!冗談はいい加減に…」
「冗談じゃないわよ。私だって、昴が好きなんだから」
彼女の唇が、首筋を伝い、鎖骨へと降りていく。
「君には…大河がっ…いる…だろう…!」
「ええ、彼を愛しているわよ。でも、だからって他の人を好きになっちゃいけないの?」
ラチェットの舌が、胸の飾りに触れて彼女は吸い付くようにそれを口に含んだ。
「貴方だって大河くんが好きなのにサニーに抱かれていたんでしょう?昴」
「…んっ……んんっ」
「ごめんなさいね、大河くんを私がとっちゃって。でもその代わり、サニーをあげるわよ」
舌先で転がされ、時折甘く噛まれて自分の喉から吐息が漏れる。
ラチェットはそれを見て嬉しそうに笑った。
「私はあんな不誠実な男はごめんだけれど、貴方には随分優しいみたいだから、ね…」
「あっ…!ラチェ…やめ…っ」
「どうせなら私とも仲良くしてくれると嬉しいわ、昴。…私だって、貴方が好きなんだから」
細くて長い指が、艶やかな唇と舌が僕を翻弄する。
「大好きよ、昴……」
「ああっ…っ…くっ…う…」
彼女の滑らかな愛撫に、僕は秘所に触れられることなく、達してしまった。

「ふふ、サニーに随分丁寧に愛されてるみたいね。こんなに感じやすいとは思わなかったわ」
快感の余韻でぐったりと力の抜けた僕の服を整えて、ラチェットが微笑む。
「これで、シアターを休んだ分はチャラよ」
「ラチェット…一つお願いをしてもいいか」
「何?」
「入り口に大河から借りた傘がある。それを、彼に返してくれないか…」
「自分で返さなくていいの?」
「いいんだ。君から返してくれ。そして、大河に『ありがとう』と伝えてくれ…」
「……いいわよ。じゃあ、またシアターで会いましょう」
彼女はそう言って去っていく。
ぼんやりとした頭で思った。
僕はラチェットには敵いそうにない、と。
そして、自分の恋が、終わったのだと。


「ラチェット、どういうつもりだい」
「あら、何のこと?」
サニーの問いにラチェットはイヤリングを揺らし、首を傾げた。
「昴のことだよ。随分虐めてくれたみたいじゃないか」
「まぁ、失礼ね。虐めただなんて。ほんの少し、味見をしてみただけじゃない」
「…キミには大河くんがいるだろう。彼じゃ物足りないのかい」
「そんなことないわよ?少なくとも、貴方と居た頃よりとっても幸せだわ」
「それは嫌味かい。…悪かったね、キミを幸せにして上げられなくて」
サニーは肩を竦め、ラチェットに降参のポーズを取る。
「別に。貴方みたいな不誠実な男と別れられて今はせいせいしてるもの」
「はいはい…キミが幸せなら良かったよ。でもそれと昴と何の関係があるんだ」
「…随分ご執心なのねぇ。そんなに心配?」
「そりゃあ、失恋の痛手からまだ立ち直ってないしねぇ」
その言葉に、ラチェットは髪をかき上げて冷ややかに呟いた。
「よく言うわ。大河くんを諦めきれない昴につけこんで自分のモノにしたのは何処の誰だったかしら」
「おいおい…その言い方はないだろう、ラチェット。つけこんだ覚えはないよ」
「似たようなものでしょ。随分、じっくり仕込んだのね。何処を触っても、良い声で鳴くくらいに」
思い出し笑いをするラチェットを、サニーはサングラスの奥の瞳で睨む。
「やっぱりそういうことか…。キミが人のものほど欲しがるのは知ってたけど、昴にまで手を出すとはね」
「人を悪者にしないでよ。貴方だってそうじゃない?人のものほど欲しがるのは」
「まぁね…それは否定しないよ」
「大河くんも、昴も、本人はどれだけ自分達が人を『虜』にする魅力があるのか気付いてないのよね」
「そうだね。まぁ、そこがいいんだけど」
「穢れなき無垢な魂…流石は五輪の戦士ね。選ばれなかった自分が、悔しいわ」
「そう?選ばれなかったからこそ、それを一番近くで愛でることが出来るんじゃないか」
「そうね。それには感謝してるわ。地上に堕ちた星だからこそ、空に浮かぶ新星に惹かれるのでしょうし」
「地上に堕ちた星…ボクらは星屑かい。けど、知ってるかい?星屑にも、引力はあるんだよ」
「知ってるわよ。彼らだって無垢だからこそ、私たちに惹かれるんでしょう。自分にはないものに、ね…」
「ははっ、そう考えるとボクらは悪い大人だねぇ。まるで彼らを騙しているみたいだ」
サニーの言葉に今度は逆にラチェットが睨む。
「誤解を招く言い方をしないで頂戴。私は大河くんを愛してるわよ?」
「ボクだって昴が好きだよ。…昴がどう思ってるのかわからないけどね」
「昴がどう思っていても、諦めるつもりなんてないくせに」
「ないよ。人生はエンターテイメント。後悔するくらいなら当たって砕けろさ」
「…そのまま砕け散ってしまえばいいのよ。その時は骨くらいは拾ってあげるわ」
「おいおい、そりゃないだろう…ラチェット……」



それから数ヶ月が過ぎた。
未だに大河を見ると、時折胸が痛む。
忘れようと決心しても、なかなかすぐには無理だった。
けれど、同時にサニーへの想いが少しずつ深くなっていくのもわかる。
「…もう帰るのか?」
「泊まっていってもいいのかい?」
こくりと頷く。
「じゃあそうさせて貰うよ」
サニーが微笑む。
そして二人でベッドに入り、いつものように身体を重ねた後に、サニーが呟いた。
「そうだ、明日はちょっと仕事が溜まってて帰りが遅くなるんだよね。多分夜中に」
「そうか……じゃあ、明日は会うのは無理だね」
「だから、昴が手伝ってくれないか?ラチェットが帰った後にでもさ」
「…いいのか?」
瞳を向けて問いかける。
「キミが嫌じゃなければね」
「嫌じゃないよ…じゃあ、そうする」

翌日、ラチェットが帰ったとのサニーからの通信が入り、こっそりとシアターに向かう。
サニーから借りていた鍵を借りて、シアターに入ると支配人室でサニーが待っていた。
「やぁ、昴。本当に来てくれたんだね。嬉しいよ」
「約束しただろう。じゃあ仕事を手伝うよ、僕は何をすればいい?」
そう言って彼に近づくと、ふいに抱き寄せられてキスをされた。
「…とりあえず、気分転換がしたいかな」
予想していなかったわけじゃないが、やっぱりかと嘆息する。
「……帰るのが遅くなるだろう」
「構わないよ。ああ、でもここはちょっと書類がちらかってるなぁ。別の場所にしようか」
「…何処に?」
「あとさ、せっかくだから着替えてくれない?レビューの衣装に。バタフライなんかいいなぁ」
「…汚さないでくれよ」
「もちろん」
「じゃあ着替えてくる…」
「イッテラッシャーイ。楽しみに待ってるよ」
楽しそうに手を振るサニーに背を向けて、衣裳部屋に向かう。
着るのは慣れていたので、あっという間に着付けを終える。
下着は悩んだがつけないことにした。どうせ、脱がされるのはわかっているし。
…想像して、少しだけ顔が赤くなる。
頭を振り払って支配人室へと戻った。

「サニーサイド…これでいいのか?」
バタフライの衣装に身を包み、彼の前に姿を現すとサニーは満足げに頷いた。
ただ、髪はおろしたまま。
「ああ、ありがとう。やっぱり昴のバタフライは最高だね、よく似合うよ」
「…ありがとう」
素直に喜べないのは、これから起こることをわかっているからなのか。
「じゃあ行こうか」
「え…何処に」
「指令室」
言うなりひょいと抱えあげられる。
「サニーサイド…!自分で歩ける…!」
「その格好だと歩きにくそうだからちょっとの間、我慢してくれよ。昴は軽いから助かるなぁ」
歩きにくいのは事実なので、素直に従う。
「何かいいね、こういうのも。まさにピンカートンとバタフライの初夜の気分だなぁ、これから床入りって感じで」
「……」
その言葉で彼の目論見は大体わかったが今更どうしようもない。
「……そういう演技でもしろというのかい…」
「はっはっはっ、昴に任せるよ。その方が燃えるならそれでもいいかもしれないしね」
そんな会話を交わしている間に指令室に到着する。
「初夜の場所としてはちょっと狭いかもしれないけどね」
僕を抱えたままサニーは司令の椅子に腰を下ろす。
「サニーサイド…まさか、このまま…?」
「そうだよ、たまにはちょっと窮屈なのもいいかなと思って。ああ、あとオフィスラブ?っていうのに憧れてたんだよね」
支配人室ではもうやっちゃったし、と悪びれもなく彼は言う。
確かに一度、支配人室で彼に抱かれた事はあったが、指令室までとは予想していなかった。
驚く僕を尻目にサニーの舌が絡まり、指が袖の合間を縫って胸に触れる。
「…んっ…ふ…」
狭い椅子の上ではまともに身動きも出来ない。
針で留められた蝶さながらわずかにもがくのみ。
サニーはむしろその様子が嬉しいらしい。
「ああ、昴……綺麗だよ」
舌が唇から離れ、首筋を通って鎖骨へと降りていく。
「蝶のように、この手から離したくないほどだ」
襟が乱暴に押し広げられ、胸があらわになる。
咄嗟に隠そうとしたが、袖の下に手を入れられて手首を掴まれ抵抗を封じられた。
「逃がさないよ、昴」
そういうつもりではないのに…と口を開く間もなく、右胸の突起を強く吸われて反射的に身体が仰け反った。
「はぁっ……!ん…うぅ…ぅ…」
緩く、強く吸われて、時には甘噛みされる度に身体が動いては、サニーにそれを押さえつけられる。
サニーは僕の何処に触れれば僕が感じるのか知り尽くしている。
身体に火をつけられるのはあっという間だった。
「こっちも弄って欲しい?」
袖の下に通された手が左胸の飾りに触れて、堪えきれずに一段と高い嬌声が自分の喉から漏れる。
「弄って欲しいならちゃんと言わないと」
ふふっとサニーが笑う。
「…そんな…こと…言え…な…」
「じゃあ自分でしてもいいよ」
「なっ……」
「ほら、どっちがいいの?…触りたいの?触られたいの?」
焦らすように右胸だけを指先でかすかに転がされて、自分の切ない吐息がサニーの顔にかかる。
もっと高みに昇りつめたいのに。
こんな刺激では満足できない。
何かが、自分の中で音を立てて崩れていくのを感じた。
「お…願い…もっと、触って……!僕に、触れて…」
うわ言のように呟く。
「いい子だね。じゃあ望みどおりにしてあげよう」
「ああっ…あ…あぁ……ん、はっ…」
にっこりと微笑んだサニーの指が僕の胸を揉みしだき、舌が起ち上がった突起を吸うのを感じて喜びの声を上げる。
「…っは…くぅ……ん…あっ。サニーサイド…」
湧き上がる快感の行き場を求めてサニーの肩に、首に頭を擦り付けると彼はくすぐったそうに身を捩った。
手が止まる。
「くすぐったいよ、昴。そうされるのは嫌いじゃないけどね」
「お願いだ…やめないでくれ…酷い……」
中途半端に止められると余計にもどかしい。
火照った身体を持て余し、懇願にも似た声をあげる自分は本当に自分なのだろうか。
「おや、キミがそんな風にねだるなんて珍しいね。でも、もう胸だけじゃ満足出来ないんじゃないかい?」
着物の裾を広げられて、羞恥と期待でさぁっと肌が粟立つ。
本当はもっと早く、そこに触れて欲しかったけれど。
そんな事は言えない。
言ったら、かすかに残った理性すらも手放してしまいそうで。
「…ここに、触れて欲しいんだろう?昴」
秘所に指が触れたのを感じて思わず目を閉じる。
ああ、もっと。
もっと、触れて。
心の中で呟く。
「……着物が汚れちゃうね。そしたら杏里に怒られるな」
そう言いながらもサニーの中指が僕の中に沈み、親指と人差し指で陰核をつままれた。
痺れるような快楽が駆け上がる。
「ん…はっ…はあぁっ!」
「すっごいぐちょぐちょ…指を締め付けてくるなぁ。昴、そんなに欲しいのかい?初夜だっていうのに随分と淫乱な奥さんだね」
卑猥な言葉を投げかけられているのは理解していたが、反論すればもっと言われるに決まっている。
聞こえないフリをしていたら、指が引き抜かれた。
淋しい。
「サニー…」
潤んだ瞳で見上げると、彼の唇が僕の目元の涙を吸い取る。
「心配しなくても止めたりしないよ。ただ、このまま続けると着物が昴の愛液でべちょべちょになっちゃうからね」
「だったら…脱がしてくれ…これじゃ、身動きも…出来ない」
はだけてはいるが、未だに帯もそのままで正直喘ぐのも苦しい。
仰け反ろうとしても帯に腹部を締め付けられて息が詰まり、袖の重みでまともに手も動かせないのだ。
「嫌だよ、せっかく着たのに脱がしたら意味がないじゃないか。それに、言っただろう。逃がさないと」
着物の裾がたくしあげられ、後ろにくしゃくしゃに纏められ下半身は白い足袋だけの姿にされる。
赤い着物から伸びる白い足が、自分でもひどく淫らな気がして耳が熱くなった。
サニーも興奮して熱いのだろうか、スーツの上着を脱ぐと無造作に他の椅子の上へと放り投げる。
「ちょっと皺になっちゃうけど汚れるよりはいいか。しかし、凄い格好だねぇ…写真に撮る?」
再び僕を抱えるような格好になったサニーは僕を見てそんな事を言う。
「な…い…や……いやだ!」
こんな姿を撮られるなど想像するだけでぞっとする。
「そう?こんな姿の昴を見たらどんな男でも興奮してキミの虜になると思うけど。大河くんとか」
「!!」
大河、という名前に背筋に嫌な汗が流れた。
大河に、こんな自分を見られるなど耐えられない。
「ああ、ごめん。その名前は言わない約束だったね」
白々しく謝るサニーを睨みつける。
「嫌味のつもりか……サニーサイド」
「違うよ、ただ…勿体無いなぁと思って。誰にも見せたくないけど、誰かに見せたいというのかな」
「…ひぁっ!……はっ…ああっ…や…」
二本の指で内部を掻き回されて、今にも吹き飛びそうな最後の理性を保とうと空を仰ぐ。
…もうとっくに吹き飛んでいるのかもしれないが。
「でもやっぱり誰にも見せたくないな。ボクだけが知っている、こんなに淫蕩な昴を」
「ん…くぅっ!……はぁっ…はっ…サニー…サイド…」
指で掻き回される度に頭の中まで掻き回されてるように思考が鈍っていく。

もうどうでもいい。
全てを忘れられるのなら。
何も考えずにすむのなら。
大河のことも、ラチェットの事も何も考えたくない。

「サニー…も…ぅ……挿れて…欲しい…」
「もうかい?今日の昴は欲しがりだねぇ。まだイってないだろうに」
「僕を…イかせるつもりなんて…あっ…ないくせに…ん…」
指の動きは頭の芯を痺れさしても決して昇りつめさせてはくれない。
「だって、焦らした方が快感が強いでしょう?」
「何でもいい……早く…」
「しょうがないなぁ。まぁ、ボクのお願いも聞いてくれたから昴のお願いも聞いてあげるとするか」
カチャリと外されるベルトと下げられるジッパーの音を聞くだけで身体が小刻みに震える。
「挿れるね、ほら…足を開いてくれないと入らないよ、昴」
言われるがままに足を開くとサニーは嬉しそうに笑う。
「今日の昴は本当に素直だね…そんなに欲しかった?これが」
「はぅあっ…!ああ…ん、ん……」
自分の秘部が広げられ、ずる…とサニーが中に入ってくるのを感じて無意識に自らも腰を落とす。
ああ、もっと。
もっと奥まで挿れて。
僕を満たして。
喉まで出かかった声を飲み込む。
「おっと…ちょっと待った、昴」
根元まで入ったのを確認して腰を動かそうとすると、サニーに押さえつけられ、少し引き抜かれた。
「いやだ…!」
髪を揺らしながら叫ぶ。これ以上、生殺しのような状態は耐えられない。
「聞き分けのない子だね。ボクだってそんなに締め付けられたら気持ちよすぎて耐え切れないっていうのにさ」
苦笑しながらサニーの中指が口の中に入ってくる。
「いいから少し大人しくなさい。…あんまり聞きわけがないと、動いてあげないよ」
「う…ぁ…ふぁ…」
歯茎をなぞられ、くぐもった声の代わりに首を振っていやいやと伝えると、サニーは僕を引き寄せて、耳元で囁いた。
「見て、昴」
もう片方の手で、陰核の包皮を剥かれて芽をあらわにされる。強すぎる刺激に涙が目に滲んだ。
「やぁっ…!そこは……くぅっ…うぅっ」
サニーの手首を掴んで遮ろうとしても力が入らない。
足が、がくがくと震えるだけで。
瞳から溢れる涙だけがただぽろぽろと頬を伝う。
だが、サニーはそんな僕の姿に余計に興奮を煽られたらしい。やや興奮気味に言うと視線で僕に下を見るように促す。
「見える?ボクと昴が繋がっているのが」
滲む視界でサニーの視線の先を見ると、結合部がくっきりと見えた。
怒張したサニーのモノも、それを飲み込んでひくつく自分の入り口も。
こんなにはっきりと見たのは初めてで、まるで頭を殴られたような衝撃が全身に走る。
「い…や…!恥ずかしい……」
目を背けようとすると、顎を掴まれて再び下を向かされた。
「こうして、って言ったのはキミだよ、昴」
サニーがゆっくりと動いて、その度に出入りする様が見える。
動きに合わせてぴちゃぴちゃ音を立てるのが更にリアルだった。
「あぁ…ふ…っ…んん……」
目を背けたいのに、背けられない。

「触ってみる?」
サニーの手首を掴みそこねていた手を逆に掴まれてその部分へと導かれる。
ぬるぬるとした幹の部分に、触れた。熱い。
「濡れてるのは全部、昴の愛液だよ」
「……っ!!」
そこだけではなく、自分の太ももまでも滴っているのが全て自分のだと思うと総毛だつ。
「そしてここが、繋がってる場所」
導かれた先に触れるとさっき見た光景が甦って、思わず腰を引くと自分の中から彼の一部が更に姿を現す。
ぱっくりと開いて、サニーを咥え込む自分自身に背筋が震えた。
普段からは想像できないほど広がりきったそこは、突き立てられた男根を根元まで吸い尽くさんばかりに収縮を繰り返している。
頭の中では分かっていても、いざ視覚と触覚で見せ付けられ感じさせられるのは全く別物だった。
どちらも、人体とは思えない。まるで、別の生き物。
「どう?感想は…」
「……」
なんと答えていいのかわからない。
頭が真っ白で。
「声に出来ないほど驚いた?随分と大人しくなっちゃったけど」
「…だって…あんなだとは……思わなかった」
「ははっ……昴には刺激が強すぎたかな。でも、ボクとキミがやってることはそういうことなんだよ」
サニーが腰を引き、一気に僕を貫く。
悲鳴にも似た声が、喉から漏れた。
そのまま待ち望んだ抽挿が繰り返され、動きにくい身体を捩って自分も腰を振る。
より快楽を求めて。
「はぁっ…あぁぁぁっ!」
「人間の身体って不思議だよね。ぱっと見じゃこんな小さい昴の中にボクが入るようには見えないのに」
興奮した荒い息を首筋に感じながらぼやけた頭に彼の言葉が響くが、何を言っているのか理解できない。
もっと、もっと、もっと…。
頭を支配するのはそれだけ。
「こうして入るんだから、さ。ここも、中も、ちっちゃくても、ちゃんと感じるんだ?こんなに大声を上げてさ」
陰核を擦られながらの挿入に自分の口から悲鳴が上がる。
「ああ…たっぷりと時間をかけて仕込んだ甲斐があったよ、昴。キミは最高だ」
「う、あっ……やぁ…ん…んっ…」
「普段は毅然としているのに夜はこんなに淫らな昴。ボクは幸せ者だよ、キミのどちらの顔も見れるのだから」
くすくすとサニーは笑う。
「や……はっ…あ、あぁ…」
「じゃあおしゃべりはこのくらいにして、一緒にイこうか、昴。ボクたちのパラダイスへ」
言葉通り、絶頂に昇りつめるためにサニーの動きが一層激しさを増す。
全身を揺さぶられ、突き上げられて、残っていたなけなしの理性が吹き飛んだ。
「サニーサイドっ…ああっ!あ、あ、あああっ……!」
きゅっと瞼を閉じて、サニーの袖を掴む自分の腕と宙に浮いたままの足先に力を込める。
そうしないと、身体がどこかへ飛んでいってしまいそうなくらいの激しさに頭がくらくらした。
「……っ、いやぁぁぁぁ!!」
『それ』は唐突に訪れた。
指令室中に響き渡る自分の声を聞きながら、僕は意識を手離した。


「…ん……」
「昴、起きたかい?」
「サニーサイド…」
「あーあ…スーツがびしょびしょだよ…まぁ、椅子が濡れたらもっとまずいしね」
どれくらい気を失っていたのだろう。
目を覚ますとサニーが僕を見てそう笑った。
「…まぁ、気持ちよかったみたいだね。またしようか?杏里にもう一着つくってもらって、今度は思う存分汚しまくるとか」
「な、何を言って…!」
「あ、いいこと思いついた。売店で売ってるのを買えばいいのか。何着も買えば汚しまくっても平気だね」
「何を…馬鹿なことを…」
「今度は何処でしようか?昴。そうだね、公演の最中の楽屋とか廊下とかでする?人に見られそうで、ドキドキしそうだし」
嬉しそうに笑うサニーを見ながら思った。
この淫らな遊戯の終わりは、あるのだろうかと。
…終わりがなくてもいい。
「サニーサイド…」
広い胸に身を任せて目を閉じる。
心の中で、呟いた。

僕を、身も心も、君の虜にして…と。

END


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