何故、体育祭なんてものがあるのか?

何故、全校生徒参加なのか?



悩んでも、なるようにしかならないのだが。

この内気な少年、水島 由惟(みずしま ゆい)は

グジグジと悩んでいた。

勉強なら頑張ればそれなりに結果はついてくる。

だが運動神経だけはどうにもならない。


「水島は借り物競争にでるんだろ?
なら大丈夫だろう?」


由惟の友人・波多野は軽く言うのだが。

由惟は憧れの人に恥ずかしい自分を見られたくないのだった。

憧れの人とは剣道部で全国2位の実力者、文武両道の

秋川  陽司(あきかわ ようじ)である。

由惟にとって筋肉が程よくついた長身と、誰を前にしても怯まない

強い精神力をもつ秋川はまさに理想の男像そのもの。


「確かに硬派なタイプだから、女より男に好かれるタイプかもな。
でも顔もいいから隠れファンも多いらしいぜ?」


波多野は物知りで由惟にそう言うのだ。

秋川は眼孔が鋭いせいか気軽に話しかける事ができない雰囲気を

まとっている。

だが、由惟にとっては“優しい人”なのだ。



そもそもの事の起こりは一週間前。

由惟は放課後、担任に頼まれて教材整理をしていた。

ズボラな担任らしい、その部屋は散々な有り様だった。

由惟のお片付け魂に火をつけるほどに。

夢中になると時間が経つのは早い。

担任が職員室から迎えに来なければ、日付が変わるまで頑張っていただろう。

由惟は夕飯の時間に間に合うよう走った。

徒歩20分の距離を縮めるべく、薄暗い公園を突っ切る決断をする。

由惟の家族は、なるべく全員揃って食事をとる方針なので

自分のせいで夕飯が遅くれるのは嫌なのだ。

しばらく走り公園の中ほどに行くと、他高の制服を着た数人が集まっていた。

由惟はいかにも素行が悪そうな連中に怯えたが、一気に走り抜ける事にした。

すれ違う時、手を掴まれ背後から抱き込まれてしまった。


「…っう、やだ…!」


由惟は小さな悲鳴を上げる。


「…可愛いいなぁ。抱き心地もいい。」


その呟きに仲間たちは呆れた声をだす。

由惟は恐慌状態におちいっていた。

ブルブルと体が震える。


「震えてる。小さいし、チワワみてぇだな。」


いつの間にか由惟を中心に囲まれていた。

由惟は遂にポロポロと涙を流す。


「何をしてる?」


そこに静かだが、重さのある声が響く。

他高生たちは声のする方を睨むが、内心すぐに後悔していた。

そこにいたのは殺気を漂わせる秋川だった。


「その子を離せ。」


その声に誰が逆らえるだろうか?

他高生は由惟から離れ、逃げ出していった。

由惟は憧れの秋川に助けられ、驚いていた。


「大丈夫か?」


秋川はただ静かに聞く。

表情に変化はないのだが、まとう雰囲気が違っている。


「…はい。あ…ありがとうございます。」

由惟は慌てて礼をいう。

先ほどとは違う意味で緊張していた。


「家まで送る。」


秋川は由惟の肩に手をおいてただした。

秋川の手は大きく、由惟は暖かいその手の感触に、頬が熱くなるのを感じた。

恥ずかしくて俯いたまま家の門まで送られる。


「じゃあな。」


秋川のその声に由惟が顔をあげると、すでに秋川は歩き始めていた。


「秋川先輩!
本当に、ありがとうございます!」


慌てて少し大きな声をだすと、秋川は振り返り

頷いてから再び歩き始めた。



それ以来たまに廊下や学食で会う時は、声をかけて貰えるようになったのだ。


「下心があったりして?
なんてな。」


近頃、波多野は秋川の事をそんな風に言う。

人をちゃかした言い方をする波多野に、由惟は怒るのだが

全くきいていない。




そして体育祭の日にちは3日後にせまる。

由惟は憂うつになりながら体育の授業にでていた。

今日は2クラス合同でサッカーの試合をやっていた。

由惟は邪魔にならないように自分のチームのゴール近くにいた。

波多野がカッコよくゴールをきめる。

そんな姿をぼーっと見ていると、突然由惟の方にボールが飛んできた。

由惟は慌てて周りを見回すが、自分が蹴り返さないと

点をとられてしまう。

由惟は思い切り蹴る体勢にいたので相手チームがボールを奪いにきた時

避けることができなかった。

気がつくと、由惟は地面に倒れこんでいた。


「ごめん、水島…」


ぶつかった相手はオロオロと由惟のそばにしゃがみこむ。


「…大丈夫。」


由惟は上体を起こした所で波多野に抱き上げられてしまった。


「先生、保健室に行ってきま〜す。」


波多野の行動は早かった。

お姫様抱っこ状態に由惟が恥ずかしがり

顔を赤らめているのを見て余計に足を早める。

近くにいた男子生徒は口々に呟く。


「水島かわいい…」

「さすが1年の可愛い子ベスト3だなぁ」



保健室に着くと先客がおり、由惟は近くの椅子に座って待っていた。

すぐに4時間目の授業終了のチャイムが鳴り、由惟の昼食を確保の為に

波多野は戻る事にした。

しばらくすると、待たせている生徒に気を使ったのか養護教諭が話かけてきた。


「1年生だよね?
もうすぐ保健委員の生徒がくるから処置してもらってね。
この生徒、技術の授業で何やったんだか。
こんなに傷だらけだから時間かかっちゃって、ごめんね。」


言い終わるやすぐに保健委員と思われる生徒が入ってきた。


「あ、久住くん!そこの一年生よろしく。」


久住はふっと笑う。


「わかりました。
君が怪我したのは膝だけ?」

「あ、ひじも。」


由惟が場所をしめすと、久住は消毒液をしみこませた綿を傷口にあてる。


「んっ!!」


傷にしみた消毒液のあまりの痛さに由惟はうめく。


「次は膝やるけど、なるべく早くすますから。」


久住は優しく笑うと由惟の膝に手を添える。


「んぁ…」
突然びくりと由惟が反応し、聞きようによっては甘い声をあげたので

久住もさすがに驚いていた。


「…ああ、くすぐったかったんだ?
ごめんね?」


久住は赤くなる由惟に謝る。


「…すいません。」


小さい声で言う由惟に久住は再び優しく笑いかけ、手当てをすすめた。

由惟はお礼を言うと保健室をあとにした。

本当は恥ずかしさのあまり走り出したいのだが

膝の傷が痛くて走れずにいた。



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