ついてない時にはとことんダメなもので…。

佐崎  拓海(さざき たくみ)は今まさにその真っ直中にいた。

久しぶりに会った友人と梯子酒を楽しみ、泥酔して気がついたら知らない天井。

しかも人には言えない場所が痛い。

2日酔いでグラグラする頭に吐き気がうっすら残る。

本当は逃げ出したいのだが、体に力が入らないのだ。

投げやりな気分でふて寝しようとした時、ガチャリとドアの開く音がした。

うわっ!?

拓海は心の中で悲鳴をあげ固まる。


「起きたなら来い。飯食うだろ?」


知らない声が無愛想に言う。

コワっ!!

なんで俺がカマ掘った相手かもしれない奴と飯食わなきゃならねーんだ!!

心では悪態をつくが拓海は男にしたがった。

ノーと言えない日本人ですから!

と内心涙しながら。

拓海はゆっくりベッドから起き上がった。

床に足をつけて立ち上がろうとしたが無様に床に転がっただけだった。


「っ、いてぇ〜」


拓海はとりあえず全裸では無いことに感謝しつつ冷たい床に頬をくっつける。


「大丈夫か?」


見りゃわかるだろ?

心の声が聞こえたのか、いきなり抱き上げられリビングのイスに下ろされる。

拓海は唖然としていた。

何故なら拓海は中肉中背。

こんな自分を軽々お姫様抱っこができる男に唖然としたのだ。

拓海は男を観察してみる事にした。

頭は黒髪を短めにカットしてあるが、もみあげは長め。

太めの眉毛が印象的だが割と整った顔だち。

身長は180センチは越えている。

鍛えているのか、がっちりとした体型だった。

ふと、男の切れ長の双眸が拓海をとらえる。


「温かいうちに食べろ。」


男は無愛想に云う。

ビクつく拓海ではあったが食欲をそそる匂いに屈した。


「…いただきます」


熱いものは熱いうちに食うのが作った人に対する礼儀。

拓海は熱々のシチューを口に運ぶ。

拓海は一心不乱に食べ、気がついたら皿はカラだった。


「おかわりは?」


男はまた無愛想に尋ねる。


「…ほしいです…。」


皿を突き出し返事をすると男がうけとる。

おかわりをつぎながら男は小さな笑みをもらした。


「裸に近い状態で発見した時は驚いたが、普通の奴だな。お前。」


倒れてた!?


「え!?…もしかして、助けてくれたのか?」


目から鱗とはまさに。


「助けられてないだろうが。拾っただけだ。
それと、中のものは掻き出しといたから腹は大丈夫だろ?」


おかわりを渡しながら男はさらり言う。

まてまて…中出しされてたのかよ!?

いやはや、後始末までさせちまってたのか。

…って男同士は中出ししたら掻き出さないと腹壊すのか!?

目を白黒させてテンションが下がる拓海を男は静かに見守る。


「なんかさ、いろいろありがとな。」


拓海は心から礼をいった。


「ああ。自己満足だ。
…昔、弟があんたと同じような事されてな。
後始末はその時覚えたんだ。」

男は少し眉間にシワをよせて言う。


「そっか…。
弟さん、今は元気にしてるのか?」


拓海は過ぎた事は時間と共に忘れられるタイプで、本人も自覚していた。


「…自殺した。お前はするなよ。」


男は拓海の髪に優しくふれるとソファーに座り新聞を読み始めた。

拓海は男の瞳にうつる感情に胸が苦しくなるのを感じた。




男は後片付けを終えると、薬を飲ませて再び拓海をベットに運んだ。


「おとなしく寝ていれば明日には歩ける。
トイレに行きたい時は呼んでくれ。」


死んだ弟の代わりに俺の世話やいてくれてんだろうな。

でも、肝心な事を忘れてないか?

拓海は男の手首をつかむ。


「俺、拓海。佐崎拓海。
自己紹介まだだろ?呼びにくいじゃん?」


突然の事に面食らったのか、男は目を丸くしていたがすぐに元にもどる。


「赤坂 賢太朗だ。」


男は名乗ると、拓海に布団をかけ直し部屋からきえた。


赤坂…賢太朗か…

男に犯された弟の後始末する時って…どんな気持ちだったんだ?

怒り?悔しさ?

俺だったら…無力さ…かな?

…弟もさ、自殺するなよ…。

賢太朗の目が…すごく…悲しい………。

拓海は眠りにおちた。



TOPへ /