車の中は心地いい沈黙が支配していた。

拓海は永田の事を思い出していた。

永田と初めて口を利いたのは8年前、高校2年になってからだった。

ちょっと軽い男だったが、拓海とは気が合うのか、よくふざけ合っていたのだ。

本当は優しい気遣いを持った男だったのに、いったいどうして

こんな]事になってしまったのか…。

ずっと狙っていたって…。


「友達だと思ってたのに…」


拓海は呟く。


「あの男、お前に本気で惚れてたんだろう。」


賢太朗は殴った男の顔を思い出す。

女に困る容姿じゃなかった。

その目は追い詰められた男の目。

真剣に拓海に想いを寄せていたのだと思う。

だからといって拓海にした事は許される事ではない。

賢太朗は殺気をにじませ、男を追い返した。


「俺に惚れたなんて…。バカだな…。」


永田はモテたし、彼女が途切れた事など無かったはずだ。

ああ、でも…誰かを好きになるのは理屈じゃないのかもしれないな。

拓海は賢太朗を見た。

さっき抱きしめられたあと、その腕が離れた寂しさは不安だけじゃないはずだ。

今も弟の死に責任を感じてとらわれている男。

どうすれば俺に目を向けてくれるのだろうか?


「弟の親友だった奴も…バカな男だった。
俺が追い詰めてしまったんだ。」

「…え?」


賢太朗はマンションの駐車場に車をとめると、拓海の荷物を手に歩き出した。

拓海はその後に続く。

部屋に入り荷物をおくと、交代でシャワーを使うことになった。

先にシャワーを使った拓海に、賢太朗は言った。

話を聞いてくれるか?…と。

拓海はもちろん聞くと答えた。

拓海に何が出来るわけもないが、話して賢太朗の気持ちが少しでも軽くなるなら

聞こうと思った。

リビングで拓海は賢太朗を待った。

15分ほどで出て来ると賢太朗は二人分の紅茶を入れ、ソファーに座る

拓海の隣に腰をおろした。


二人は暖かい紅茶を一口すすると、カップを置いた。


「俺の弟には親友がいた。
弟は俺と違って線の細い気弱な男だったんだ。
だからそいつ、桂木が弟の世話をやいていた。
やたら男に好かれる弟を守ってくれていたのは知っていた。
だから、桂木が弟に口づけした事が許せなかった。」

「信頼してたから?」

「そうだ。俺はそいつを殴った。
二度と俺たち兄弟に近寄るなと約束させた。
だがそれが、間違いだったのかもしれない…。


しばらく賢太朗は目を閉じて、祈るように手を組んだ。


「俺の隙をついて弟が輪姦された。
俺が弟を見つけた時、輪姦した奴らは全て殴り倒されていた。
弟にかけられていた上着で桂木が殴ったんだとわかった。
入院した弟は、ずっとうわ言で桂木の事を呼んでいたよ。
混乱していた俺は身内以外を病室に入れなかった。
そして、ある日…弟は病院を抜け出し桂木と共にこの世を去った…。」

「みんな、つらかったんだね。
少なくとも俺は、賢太朗に感謝してる。」


賢太朗の弟だってきっと兄を恨んではいないはずだ。


「拓海、ありがとう。
俺は許されていいんだろうか?」

「最初から恨んでなかったと思うよ。」


拓海が笑うと、賢太朗は拓海を抱きしめた。

賢太朗の中で、拓海は特別な存在になっていた。

桂木の気持ちも今なら痛いほどわかる。

守りたいのに壊してしまいそうな、そんな衝動をもった想い。


「賢太朗は俺のこと軽蔑するかも知れないけど…
俺、賢太朗のこと好きになったみたいだ。


拓海は言いたい事ははっきり言う。

だから覚悟を決めて、告白した。


「お前こそ、俺を軽蔑するかもしれない。
拓海の事が好きだ。」


拓海は満面の笑みを賢太朗にむけた。



ついてない日の次の日には

きっといい日が待っている。

拓海は賢太朗の口づけにうっとりと目を閉じた。



END

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なんか微妙に重い話になってしまった気がします;
二人のその後はラブラブな感じにしたいな…。