その日、吏部には時が過ぎる事に屍が増えるという程

仕事が積まれていた。

殺人的に仕事をためこんだ本人である吏部尚書の姿はない。

絳攸は吏部の執務室に缶詰め状態にされていた。

処理しても処理しても減らない書簡の山に

さすがの絳攸も泣きたくなっていた。




ところ変わって彩雲国国王・劉輝の執務室。


「楸瑛、絳攸は大丈夫なのか?」


劉輝は筆に墨を含ませながら問いかける。


「大丈夫でしょう。
いつもの事ですし、迷子になるほど吏部から
出られないはずですから。」


楸瑛はサラサラと筆をすべらせながら言う。

そういうものなのだろうか?

劉輝は首を傾げるが、明日絳攸がここに来て回れ右をしないよう

スピードをあげて仕事を片付ける。

楸瑛は本日、吏部立ち入り禁止とされていた。

朝、文が2通とどいたのだ。

こういう時だけ親子は同じ事をする。

まぁ、一通は脅迫状のようなものだったのだが。

楸瑛は気づかれないように小さなため息をつく。



この日、劉輝は日付が変わる頃まで執務室にいた。


「やれやれ。絳攸がいないと余も楸瑛も気合いが入らないな。」


劉輝は吏部に向かう。

吏部には死んだように眠る管理がバタバタと倒れていた。

劉輝はその光景に目を丸くする。

―話には聞いていたが、これは怖いな…。

屍を踏まないように吏部侍郎の執務室に向かう。

薄く扉を開と窓辺の長椅子にはふたつの人影があった。

ひとつは部屋の主絳攸で、長椅子に座って寝てしまったのだろう。

隣の人影の膝に倒れ込んでいた。

もうひとつの人影は、時折扇で絳攸をあおいでやったり、頭に手をすべらせていた。

大事な宝物を愛でるようなその姿に、劉輝は心に温かいものが湧き上がるのを感じた。

あの黎深も親なのだな。

劉輝はそっと、戻ろうとしたが楸瑛によって阻まれてしまう。


「帰ろう、楸瑛。
絳攸が起きてしまったら黎深に恨まれるぞ?」


劉輝は楸瑛を宥めるように微笑みかける。

楸瑛はそんな劉輝に、しぶしぶ吏部を後にした。

楸瑛は黎深の態度に、たびたび腹をたてていた。

絳攸が胸を痛める事の殆どが黎深による愛情不足が原因なのだ。

黎深が兄・邵可や、その娘であり姪の秀麗に愛情を傾ける程に

絳攸の心は傷つく。

絳攸は血の繋がらない自分がやきもちをやく事は

お門違いだと考えているのだろう。

甘え下手で、自分の本心をうまく表せない絳攸が愛しい。

そして、口惜しい。


「楸瑛、この国には様々な ゛見えない想い゛ があるのだな。」


劉輝は回廊の途中で立ち止まる。

色とりどりの花が月明かりに照らされていた。


「主上…」


楸瑛は劉輝と共に庭に目を向ける。


「余は秀麗と出会わなければ
そんな事にも気づかなかったのだろうな。
だが今は、その色とりどりの想いの全てが愛しいと感じることができる。
余は王として、その想いの糸を大事に紡いでいきたい。」


楸瑛は劉輝の眼差しを通した国が見えた気がした。

色とりどりの糸が見事に調和し、編まれた美しく優しい国。

自分の想いの糸も全てはそこに繋がる。


「ずっと、お手伝いさせて頂きます。」


楸瑛は劉輝にひざまづいた。


「頼む。」


劉輝は凛とした、だが優しい声音で返した。

楸瑛は劉輝を部屋まで送ると、自分も帰路に着くことにした。

劉輝は日に日に王として、人として大きくなる。

楸瑛は絳攸の心が劉輝に向かわぬように頑張らねば

と苦笑いまじりに呟いた。




時は少し戻るが吏部では黎深が冷たい視線を戸口に向けていた。

静かな良い夜だが風情のない邪魔者が来たものだ。

黎深は戸口の劉輝と楸瑛に気がついていた。

だが、あえて気づかぬふりで二人の前で絳攸に触れた。

大事な養い子に何かあればどうなることか―

メッセージは伝わったようだった。

すぐに二人の気配がなくなる。

黎深は絳攸の頭をそっと支え、立ち上がる。

そして絳攸を横抱きに抱えあげると、ゆっくりと吏部を後にした。



黎深は絳攸が疲れきって寝てしまう夜が密かに楽しみだった。

疲れきって眠る絳攸は朝まで死んだように眠る。

黎深は意識もなく眠る絳攸だから

素直に触れることができた。


愛しい養い子。

後どれ程、自分の側にいてくれるのか…。

黎深は自分が命じれば絳攸が喜んで

一生でも側にいるとわかっている。

だが黎深はそれを望まない。

絳攸が本当に望むことが、すべてなのだ。

何者にも左右されぬよう、厳しく育てた。

紅家にとらわれぬよう、李という姓を与え育てた。

自分が足枷にならないよう、突き放して育てた。

全ては黎深の絳攸にたいする愛情なのだ。

兄上もこのような思いをしているのだろうか?

子が巣立つ日、黎深はその遠くない未来に想いをはせる。

西の空が白みはじめると、黎深はなごり惜しげに

絳攸の部屋をあとにした。



END

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今回は劉輝の事も書きたくてエロなしです(汗)
彩雲国物語が凄くメッセージの篭った作品なので
自分もいろいろ考えさせられたりして。
そんな私の気持ちも込めて今回は書いてみました(汗)


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