ここは彩雲国の王都・貴陽にある紅区の屋敷。

広大な敷地には意図的に木々や池があり

季節毎に庭を楽しめるようになっている。



「絳攸を起こしてきなさい。」


屋敷の主は閉じた扇子を口元にあて、家人に命じた。


「恐れながら黎深様。
絳攸様は早朝お帰りになったばかりで御座います。
せっかくのお休みですし、今起こすのはしのびないかと…」


家人はどんどん部屋の温度が下がるのを肌で感じていた。


「命じた事も出来ない者は必要ない。
暇をだされたくなければ即刻、絳攸を連れてきなさい。」


黎深の目が光ったように見えたのは家人の気のせいか。

その家人は慌てて返事を返しながらも部屋を飛び出していった。


「まったく、不愉快だ。
私は娘を持った覚えなどない!」


にもかかわらず、黎深の心境は娘を持つ親のものになっていた。

絳攸の友(としておいてやる)藍楸瑛は藍家の者の割には使えると評価していた。

だが、今は憎らしくて仕方がない。

むしろ闇に葬ってやりたい。

そんな物騒な考えまでよぎっていた。

何故なら、朝一番に藍楸瑛より文がとどいた。

そこには、昨夜遂に絳攸と結ばれ、これからは交際を認めてほしい

などと藍楸瑛より綴られていたのだ。


「〜っ腹立たしい!!」


思わず叫ぶ黎深であった。


「れ、黎深様?」


運悪く、絳攸はそこに居合わせていた。

声をかけたが考え事にふける黎深の様子に

タイミングを伺っていたのだ。


「絳攸。お前は流されやすい所がある。
遊び慣れた手管で快楽に溺れただけではないのか?」


黎深の目は絳攸の心の奥底まで探るかのように

養い子を映していた。


「なっ!!何をいきなり!!?」


絳攸は顔を赤らめ慌てふためいていた。

確かに自分は昨夜、快楽に溺れていた。

想いを交わした夜からふた月あまり。

楸瑛をその身に受け入れる覚悟をしていた絳攸だが

寝所を共にしても楸瑛はいつも絳攸の快楽を優先していた。

その手管は本当に凄いもので、絳攸は心身ともに

溶けるほどの快楽に溺れていた。

毎回のように楸瑛の形よく長い指が、肉厚で器用な舌が

絳攸の体を這い回る。

特に執拗に攻められるのは絳攸の慎ましやかな下の窄まり。

本来なら排泄をする為の場所なのだが、今の絳攸は知っている。

その窄まりの中に、快楽の源のような場所がある事を。

そこに触られると、声を抑える事はおろか

激しく乱れて自分を見失う事すら多い。

初めて触れられた時は指1本受け入れる事すら

キツかったはずだが、今では3本が余裕に動かせるようになった。

楸瑛は初めて交わる時、絳攸の苦痛が少なくすむよう

ふた月という長い時間をかけて慣らしていたのだ。

楸瑛の優しさと、想いの深さに絳攸がいつもより感じ

乱れてしまったのは仕方がないだろう。



何やら顔を赤らめ挙動不審になった養い子を

黎深は冷ややかに見つめる。

昨夜の事でも思い出したか。

扇で隠した口元からは、キリキリと歯ぎしりの音が

聞こえてきそうであった。


「絳攸、お前は他を知るべきだ。」


黎深は優雅に立ち上がると、扇を閉じて胸元の合わせにしまう。

絳攸は黎深の言葉を頭で反芻していた。

他を知る、それはもしや…

絳攸が何か言いかける前に、その口は黎深によって塞がれていた。





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