今、絳攸は自分の身におきている出来事に完全にパニック状態に

なっていた。

少し強引に押し入る舌に、つい侵入を許してしまう。

黎深の舌は探るように絳攸の口内をくまなく、なぞる。

そして絳攸の舌を絡めとり、吸い上げる。


「っ…!あっ…れ…しん、さ…っ…」


絳攸は黎深の口づけにあっさり陥落していった。

足に力が入らなくなった絳攸を黎深は軽々支えている。


「これぐらいの口づけでその様とは、あまり成長していないな。」


黎深の口調はあくまでも冷静なものだった。

敏感すぎる絳攸は下手をすれば体だけで容易に

手に入れる事ができるだろう。

黎深は欲情して潤む絳攸の瞳を見ながら考え込む。

絳攸はというと…

―黎深様と口づけを交わしてしまった!!

霞がかった思考の中、ただ驚いていた。

あの黎深様が、こんな情熱的な口づけを自分にするなんて…。

絳攸にとって養い親は自分の命より大事な存在。

黎深の愛情表現が分かりにくい為か、絳攸は慕ってやまない黎深からの接触は

無条件で受け入れてしまえるのだった。

だから口づけも嫌悪感など微塵も感じることは無かった。

むしろ今、やりばのない熱を持て余していた。


「このまま私に身を任せるのか?絳攸。」


黎深のその言葉に絳攸は初めて、びくりと体を揺らした。

自分は楸瑛を好いている。

今このまま黎深に身を任せれば楸瑛を裏切る事になるのだ。


「黎深様、俺は…」


絳攸の表情から気持ちを汲んだ黎深は、おもむろに

戸口に向かって扇を投げつける。

薄く開いた戸口に吸われた扇は、すぐに楸瑛と共に戸口に現れた。


「お邪魔しております、黎深殿。」


楸瑛は養い親の腕の中にいる絳攸には視線を向けず

黎深にのみ視線を向けていた。

絳攸はなんとか自分の足に力を入れ、黎深の腕から逃れようとするが

ままならない。


「招いた覚えは無いが、いいだろう。
だが、親子の親睦を邪魔だてするとは無粋ではないのか?」


黎深は楸瑛を冷ややかな視線で射抜く。


「ただの親子の親睦ならば微笑ましく思い去りましたよ。
ですが普通の親子でそんな口づけなどしないでしょう?
絳攸の恋人として、邪魔させて頂きましたよ。」


楸瑛は氷のような黎深の瞳を正面から見返す。

その表情は一人の男のものだった。

―生意気な男に育ったものだな。

黎深は視線を外さない楸瑛に内心舌打ちをうつ。

二人はしばらく視線のみで火花を散らしていたが、黎深が右手を差し出すと

楸瑛は当たり前のように扇をその手にのせて返した。


「絳攸の人生に口出しする気はない。
勝手にするがいい。」


黎深は興味は失せたというように、二人の存在を視界から追いやった。

絳攸はいつの間にやら楸瑛の腕の中に押しつけられていた。

捨てられたような扱いに、絳攸は心を沈ませる。


「絳攸の事は藍楸瑛の名にかけて幸せにしますよ。
絳攸、君の部屋でお茶をご馳走してくれないかな?」


さっきまでの顔つきが嘘のように、絳攸にたいする楸瑛は

すべてが甘く優しい。


「私の屋敷内で絳攸と交わる事は許さん。」


黎深は視線は向けず、云う。

楸瑛は端正な顔に苦笑を浮かべる。


「肝に銘じますよ。では。」


楸瑛は一礼すると、絳攸を伴い部屋から出て行った。

楸瑛と絳攸がいなくなった部屋は、途端に寂しいものになる。

黎深は絳攸の視線がずっと自分に向けられていた事も

その意味もわかっている。

だが、どうしても甘やかしてやる事は出来ない。

大切なら大切なほどに、素直な愛情を向けてやれないのだ。

そんな自分に苛立ちがないわけではない。

黎深は窓の外をみやり呟く。


「藍楸瑛、絳攸の趣味の悪さに感謝するがいい。」



すべては養い子の為に。


END



彩雲国TOP / 前編


何だかこんな落ちでいいのかな?と悩みますが
とりあえず後編をお届けします(汗)
黎深様は不本意ながら交際を認めたようです(笑)
(言い回しなど後で修正するかもしれません。)



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