何故だ…

昨日は行けたのに…。

早足で歩く絳攸は焦れば焦るほどに迷路と化した宮中をさまよい歩いていた。


「やぁ、絳攸。」


このタイミングでこの声を聞くと無性に腹が立つ。

絳攸は自然と水晶のような瞳に力がはいる。


「貴様にかまっている暇はない!」


絳攸は腐れ縁の友、楸瑛の横を通り抜ける。


「つれないねぇ。……っ!!」


いつもの調子で言う楸瑛だが突然、絳攸の腕を掴み自分の方に向かせると顎を掴み横を向かせる。

あまりの早業に絳攸には抵抗する事ができなかった。

声すらあげられないほどに。


「虫に刺された…なんて莫迦な言い訳はきかないよ?」


口調はいつも通りだが、その瞳は違っていた。


「なんの事だ!?…痛いだろうが…。」


絳攸は楸瑛が何をそんなに怒っているのか分からなかった。


「…なるほど。で、昨日はどこで寝ていたんだい?」


顎を掴む手は離れたが、今度は壁を背に顔の両側に腕を突っ張られる。

絳攸は楸瑛という牢獄に入れられてしまった。


「き、昨日は邵可様に頼んで府庫に泊まっていた。」


仕事に夢中になり、帰るより泊まる方が眠れると判断したのだ。


「絳攸、君は秀麗殿の事をいえないよ?」


楸瑛の言葉の意味が絳攸には理解できなかった。


「どういう意味だ!?」


絳攸はこの落ち着かない牢から出たかった。

楸瑛の匂いや体温が近い。

何より耳元で話されるのは好きではない。

鳥肌が立つのだ。


「今度は私も一緒に泊まろう。…ああ、消毒しておかないと。」


楸瑛は言うが早いか絳攸の首を吸った。


「これで大丈夫。さぁ、執務室に行くんだろう?」


…何が起きた?

首を…吸われた!?

何が起きたか理解した絳攸の頬が朱染まる。


「楸瑛、貴様という奴は…」


絳攸の口からは地を這うような声音がもれる。


「消毒だと言ったろう?」


楸瑛は微笑みながら逃げをうつ。


「貴っ様ぁ〜騙したな!?逃げるな!!」


楸瑛と絳攸が走り去った後、そこに悔しげに二人を見ていた視線があった事を

絳攸は知らない。





END



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