月
木の葉隠れの里の受付所。
そこには3代目火影と、補佐であるイルカ。
そして報告書を処理する、受付担当者が3人ほどいた。
新しい下忍のデータをとるため、イルカは報告書を処理していた。
「イルカ、どうかしたのか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
夕方の混雑前、暇な時間ができるとつい考えてしまうのだ。
今朝の事を。
イルカは深酒のせいか、珍しく寝坊した。
家を出る時間の10分前に、はっと目を覚ましたのだ。
一瞬にして覚醒したイルカが、次に見たのは銀色の髪。
イルカの腰に巻きつく白い腕。
裸の自分。
とにかく、イルカは急いで起きあがり、服を身につけると家を出た。
「せめて起こして行けば……」
思わず呟いていた。
「そうですよ。優しく起こしてくれるかも、なんて期待してたんですよ」
イルカの目の前には、いつの間にかカカシの姿があった。
「あ!……いや、すみません」
イルカは尻すぼみに謝罪した。
「そうだなぁ〜。
イルカ先生の手料理をご馳走してくれたら、許してあげます」
カカシは上機嫌に言う。
「それくらいなら、別にいつでも……」
何か迷惑をかけたはずだから、それでチャラになるならと思ったのだ。
「カカシよ、あまりイルカを困らすでない」
三代目は可愛がっているイルカに悪い虫が付いたと、内心冷や汗をかいていた。
「困らすだなんて、人聞きが悪い。
俺はイルカ先生と仲良くなりたいだけ、なんですけどね?」
カカシは右目だけでにっこりと笑みを作る。
三代目は渋い顔をしていた。
イルカはといえば、動揺しながらも喜んでいた。
まさかカカシの口から、仲良くなりたいという言葉が聞けるとは
思っていなかったのだ。
こんな中忍の自分でいいのだろうか?
「写輪眼のカカシ」として有名で、本人も上忍なのに気さくで優しい人なのだ。
そんな人と友人関係になれるなんて!!
カカシは近頃イルカの表情から、思考を読むことに慣れてきていた。
絶対わかってないよね、アナタは。
「はい、報告書」
「あ、はい、お預かりします。
……不備はありません。お疲れ様でした」
慌てたようなイルカの表情も可愛いと、カカシは内心ほくそえむ。
もうそろそろ、いいかな?
いいよね?
「イルカ先生、今夜早速ご馳走になってもいいですか?」
「あ、そうですね……。はい、大丈夫です」
イルカは仕事の進行状況や、スケジュールを思い起してこたえた。
カカシほどの忍びは上忍師をやりながらも、ランクの高い任務をこなしているのだ。
だから内勤の自分が合わせるべきだろうと、イルカは当たり前のように考えた。
「じゃあ、後で迎えに行くから」
カカシは返答を聞かずに、ドロンと姿を消した。
◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇
受付の引継ぎが終わり、イルカは足早にアカデミーの職員室に向かった。
夕方過ぎという時間のせいか、職員室にはひと気が無い。
だがイルカの机には、なんとカカシが寝ていた。
思わず固まるイルカだが、視線はカカシに釘付けになっていた。
近くで見ないと分からないが、カカシのまつげは長い!
普段は銀髪だから分かりにくいのだろう。
起きないカカシに、イルカは思わず髪の毛に触れてみた。
柔らかい……。
その手触りの良さに、何度もすいた。
まさにうっとりとして楽しんでいると、突然カカシが起き上がり
唖然とするイルカの腰を抱きしめた。
「好きです!付き合ってください!!」
「はい!」
あまりの剣幕に、イルカは思わず返事を返した。
だが内容を頭の中で反芻する……。
!!!!!!
「嬉しいです!!
愛しげに触ってくれたんで、勇気出して告白したんですよ。
即答なんて、嬉しすぎて……」
カカシの背景に花畑と虹が見えるのは、幻術かなにかなのだろうか…。
そんな事を思いながら、イルカは自分に問い掛ける。
自分もカカシが気になっていたのだ。
即答したのは、素直な心の声だったのではないだろうか?
それに今さら、撤回は出来そうに無い。
優しい穏やかな人だから、きっとイルカが本当に好きだと思えるまで
待ってくれるだろう。
根拠も無く、イルカはそう思った。
「カカシ先生、何か食べたいものありますか?」
「秋刀魚……。いえ、イルカ先生の手料理なら何でもいいです!」
カカシの脳裏では「イルカ」と即答していた。
「秋刀魚、いいですね。昨日の残りですが、煮物もあるので
秋刀魚だけ買いに行きましょうか?」
イルカの笑みと言葉に、カカシはフラフラと従った。
二人がアカデミーを出ると、夜の帳と夕焼けが絶妙なグラデーションを描いていた。
そして細い月が、まるで二人を追うように照らしていた。
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穏やかな雰囲気のカカイルが書きたくて、勝手にお題してみました;
単なる流され中忍ですね…(苦笑)