花
ナルトが成長するのが、嬉しいと思う。
迷わず抱きついてくるその仕草が、愛しいと思う。
桜が咲いたその日、ナルトは巣立っていった。
嬉しいはずなのに何故、心に小さな穴が開いているのだろう?
イルカは寂しさを感じていた。
一人ぼっちの子供。
自分もそうだった。
ああ、俺は知らず知らずの内にナルトに支えられていたのだ。
イルカの瞳から、透明な涙が流れ落ちる。
別に離れ離れになるわけじゃない。
だが、イルカの涙は止まらなかった。
手の掛かる子ほど可愛いと言うが、本当だ。
イルカは人気の無い満開の桜並木の中、独り立ち尽くしていた。
今日は受付の時間まで、思う存分泣いてしまおうと思ったのだ。
押さえ込めば、きっと弱くなる。
受け入れる強さを、自分は手に入れている。
イルカはしばらく、ひっそりと泣いていた。
だがしばらくして、どうやら落ち着いたようだ。
手ぬぐいを取り出そうと、ポーチに手を伸ばす。
だがその前に、ピンクの花びらが乗った手ぬぐいが差し出された。
視線を上げると…。
「貴方は、はたけ上忍…」
間違いない。
さっき紹介されたばかりの、里でもその名を知らぬ者は居ないほど
有名な人だ。
イルカは驚きのあまり、しばらくじっと見つめていた。
すると、カカシの唯一見える片目の辺りが、だんだん赤く染まっていった。
「使ってください」
カカシは手ぬぐいを握らせると、すぐに姿を消した。
呆然とするイルカを残して。
きっと、見られたんだろうんな。
恥ずかしいところを見られてしまった。
イルカは思わず手ぬぐいを握り締めた。
……折角だから、使わせてもらおうかな……。
手の中の布には、花びらが数枚乗っている。
紺色の手ぬぐいに、淡いピンクが良く映える。
イルカの心に温かなものが広がった。
はたけ上忍……。なんだか不思議な人だな。
イルカの顔には、自然と笑みが浮かんでいた。
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