今まで人の噂話に、こんなに耳をかたむける事はなかった。

イルカは馴染みの居酒屋で、夕飯がてら軽く晩酌をしていた。

周りには忍びも何人か居るようで、たまに見知った人物の名前が聞こえてくる。

その中で、はたけカカシの名がのぼると、思わず聞き耳を立ててしまうイルカがいた。


「そういえばさ、はたけ上忍。
この前スッゲー美人と歩いてたぜ」

「オレも見た!」

「金髪の…」

「ええっ!?」

「オレが見たのは茶髪だぜ?」


そんな話に、やっぱりモテるんだなぁと、イルカはなんともいえない気持ちになった。

忍びとしてはエリートだし、右目しか確認出来ないが、イイ男であることはうかがえる。

軽い晩酌のつもりが、いつの間にか深酒になっていた。

フラつく体を宥めながら、店を出たヨタヨタと歩く。

歩く毎に酔いがまわるようだ。

繁華街を抜けてしばらく歩くと、人通りも無い道に出た。

緩やかな風がふくたびに、イルカの足取りは蛇行している。


「イルカ先生、危ないですよ?」


気がつくと、壁とイルカの間にカカシがいた。

肩に置かれた手からイルカを気づかうような、優しいチャクラが流れ込む。


「カカシさん?奇遇ですね」


イルカの間近に、カカシの右目が見える。

実は濃紺色だと気づいた事が、イルカは嬉しく感じられた。


「そんなに酔っ払っちゃって。
ダメですよ、アナタいろんな意味で危険なんだから」


機嫌のいいイルカとは裏腹に、カカシは少し怒ったようにイルカをたしなめた。


「怒ってるんですか?
……オレ、悲しいです」


イルカの黒い瞳から、涙がポロポロこぼれ落ちた。

そんなイルカを見て、カカシの胸が締めつけられる。


「怒ってないです。だからお願い、泣かないで?」


カカシの指が、イルカの涙を優しく拭う。


「ふふふ。…カカシさんがモテるの、分かるなぁ」


ふふふ。

笑い始めたイルカに、今度はカカシが泣きたくなっていた。

所詮酔っ払いと割り切るには、大切な人すぎて無碍にできない。

カカシはイルカに背を向け、しゃがみ込んだ。


「あれ〜?カカシさんも酔ってるんですか?」


イルカはカカシを覗き込もうとして、その背中にかぶさった。

カカシの予想通り、イルカはフニャリと背中に乗ってきた。

そのまま立ち上がると、背負いなおして歩き出した。


「家まで送ります」

「はい!」


イルカは元気に返事を返し、カカシに遠慮なくしがみついた。

夜風が火照った頬をなでる。

緩い振動のせいか、イルカはいつの間にか眠りについていた。

心地よい眠りに……。



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