小さな恋人
イルカは孤児となり、アカデミーにいた。
アカデミーでは、孤児を引き取り忍として育てる。
この頃のアカデミーは、まだ体制が整いきっていなかった。
3代目火影が手を加え、今までよりマシにはなったが。
改善すべき問題はいくらでもある。
そして九尾による損害。
忍不足なのだ。
イルカ達孤児はアカデミーでの授業が終わると、里から用意された家には帰らず
よく火影の家にいた。
庭に面した部屋と、広い庭が遊び場所。
「お前ら、食えや」
火影の息子アスマが、籠にお菓子を持って振る舞う。
態度は悪いが、ここでは兄のように慕われていた。
子供たちはアスマの、本当は優しい本質を本能で見抜いているのだ。
「美味しい!
ありがとうアス兄」
イルカは、アスマの隣で満面の笑みをうかべ
お菓子に夢中になった。
「あ〜あ、いやらしいねぇ。
食べ物で気をひいてんの?」
いつの間にか庭の木に、暗部装束の狐面の少年がいた。
「うるせぇ。
就任の顔見せ終わったんなら、とっとと帰れ!」
アスマは面倒そうに言う。
「帰るよ。
でもその前に、その子なんて名前?」
鉤ヅメ付きの手こうの先が、イルカを指す。
「なっ、危なっかしくて教えられるか!」
「うみのイルカだよ。
俺と変わんないのに、暗部なんてスゴイね!!」
「そうでしょ、お買い得でしょ?」
イルカが興奮したように言えば、なんと暗部の少年はイルカの目の前にいた。
「近くで見ても可愛い。
これからイルカは俺の、だからね。
わかった?」
暗部の少年はイルカに優しく言った後、周りにいた子供には
殺気混じりに念を押した。
「また会いにくるからね」
暗部の少年は、殺気に当てられ固まる一同にかまわず
イルカを抱きしめてから姿を消した。
「イルカ、お前厄介な奴に目を付けられたな」
「……俺、どうなっちゃうの?」
不安そうなイルカに、アスマも途方にくれた。
だがもう、どうにもならない。
「わからん。
けどな、何かあったら大声で知らせろよ」
「うん」
気休めにしかならないが、アスマはそう言いふくめた。
あれから数日。
暗部の少年が訪れる事は無かった。
だからイルカは油断していた。
火影の邸から帰る夜道、イルカは暗がりに引きこかれた。
「やっ!!
なに!?」
押さえつけようとする相手に、イルカはなんとか抵抗した。
「大丈夫、俺だよ。
恋人の事、忘れちゃったの?」
その声にイルカが目を凝らせば、確かに暗部の少年だった。
「恋人!?えぇ!!」
「そうだよ。あ、もう拒否権無いから。
それより、イルカの家で休ませて」
あまりの言われように、呆気にとられたイルカだったが
暗部の少年が傷を負ってるのに気がついた。
「ちゃんと手当てしないとダメだろう?
ほら、こっち。」
イルカは暗部の少年の手を引き、自分の家に入れた。
暗部の少年はおとなしく連行され、言われるままに風呂場にきえた。
その間イルカは治療具を探す。
見つけてお茶を飲んでるところに、暗部の少年が出てきた。
「お風呂ありがと。
綺麗になったから、消毒して」
「……」
イルカは驚いていた。
声も出せないほど。
はじめて見た暗部の少年の素顔は、とっても綺麗な少年だったのだ。
片目の上に傷が走り、閉じられていてもだ。
「どうしたの?」
触れられてやっと、イルカは現実に戻ることができた。
「素顔、見てもよかったのか?」
「うん。イルカは恋人だから」
そう言って微笑んだ顔が、イルカの胸に突き刺さった。
微笑んでるのに、悲しい。
そんな笑み。
この少年も、悲しみを背おっているのだとイルカにはわかった。
イルカは無言で手をとって、患部を消毒した。
スッパリ切れた傷。
でも深くはない。
簡単に包帯をまいてから、少年にもお茶をいれた。
「ありがと」
「うん」
その後、布団を敷いて二人で眠った。
イルカの家には、客用の布団など無いのだから仕方ない。
両親とすごした家は独りには広すぎて、アカデミーに近い場所に移っていた。
「ねぇ、イルカはなんで俺の事聞かないの?」
「暗部だから」
「俺の名前、カカシっていうの。
覚えておいてね。」
「うん、わかった。
俺、今日アカデミーで実技あったから眠い」
「ごめん。
おやすみ、イルカ」
「おやすみ、カカシ」
名を呼ばれたカカシが、イルカの手を恐る恐る握ってきたのを
イルカはぎゅっと握り返してやった。
カカシが笑ったのは気配で分かったが、イルカは薄れる意識に
逆らう事が出来なかった。
そして翌日、カカシの姿は消えていた。
その日から数年、カカシはイルカの前から消えた。
会ったのは2度。
だがイルカの心に、カカシという存在は深く焼きついていた。
だからアカデミーの教職に就き、ナルト達に紹介されたカカシを見た瞬間
声が出なかった。
生きていた…。
また会えた…。
言いたい事は山ほどあったが、声には出なかった。
「はたけカカシです。
イルカ先生、よろしくね」
「うみのイルカです。
こちらこそ、よろしくお願いします」
硬く握手を交わした後手を引かれ、カカシはイルカを抱きしめた。
耳元で呟かれた言葉は、あの時とほぼ同じ。
「やっぱり可愛い!!」
大人になってからは、言われた事が無い言葉。
変わってないなぁ。
周りでは、子供達が大騒ぎしている。
「イルカ先生から離れろってば!!」
「何血迷ってんのよ、カカシ先生!!」
「離れろ、カカシ」
子供達の言いように、カカシはドロンとイルカごと消えて見せた。
残された子供達は、しばらく立ちすくんでいた。
END
中途半端な話だなぁ;
続編はそのうち書きます^^;