その日ナーヴァは、たまたま建物の裏手に向かっていた。
書類が風にとばされ、追いかけてみたら
そこに辿り着いたのだ。
書類を探しに木々の間を抜けると、すぐに見つけることができた。
そして、その傍らには…鳥のように羽を持った男が倒れていた。
異世界からこちらへ来てしまう人間もいるが、この羽を持った男は
明らかに異質だった。
だがナーヴァは怖いとは思わなかった。
むしろ、美しいと見惚れていた。
広がる羽は、大小合わせて4対。
純白の羽が広がり、それは美しい光景だった。
しばらくすると、意識を取り戻した男はゆっくりと身を起こした。
「大丈夫ですか?」
ナーヴァの声に反応して、此方を向いた顔には
深い森を思わせるモスグリーンの瞳があった。
目が合った瞬間、ナーヴァは今まで感じた事のない感覚にとらわれていた。
息をするのがくるしいような、心臓を見えない手で鷲掴みされるような感覚。
羽を持った男は、そっとナーヴァの手をとると、唇で触れた。
ナーヴァは夢を見ているのではないかと、思い始めていた。
「私は気を失ってたようだね。」
男の声は心に響く、まるで弦楽器のような声音だった。
「そなたの記憶から、この世界の事を学ばせて貰った。
ああ…とても美しい魂をもっているね。」
男はナーヴァ瞳を真っ直ぐに見つめた。
「私の名はウリエル。
だが、この世界では気安く名乗れない名だ。
そなたに、私を示す名をつけて欲しい。」
「私が?…あの…」
愛しげに見つめてくる視線に、ナーヴァは初めて感じる
甘美なひと時を知った。
「…フェグリット…。」
「そなたが憧れた、遠い昔の舞手の名だね。
悪くない。そなたの名を、そなたの口から聞きたい。」
甘い睦言のように、フェグリットは言う。
「私は、舞手をしている祭儀官で、ナーヴァといいます。」
「ナーヴァ、よい響きだ。
さて、お互い真の名を明かした。
これで口づけを交わせば、私のいた場所での婚姻の儀式となる。」
ドクン。
ナーヴァの心臓が大きな音をたてはじめていた。
「口づけても、いいか?ナーヴァ。」
フェグリットの顔が、だいぶ近い位置に移動していた。
「…はい…。」
ナーヴァは自然に瞼が落ち、フェグリットの口づけを受けいれた。
「これ以上は、ナーヴァが汚れた事になってしまうね。」
その言葉に、ナーヴァははじめて現実に戻った。
「私はまだ、舞手を続けなければなりません。」
ナーヴァの瞳が悲しげに伏せられる。
「我が愛しの君。
私は困らせる気はない。
ナーヴァの気がすむまで、舞手を続ければいい。
私は君の近くで見守るつもりだ。」
フェグリットは優しく言う。
この時、その言葉と真摯な態度に、ナーヴァは心の底から思ったのだ。
たとえこの者が、災いをもたらす者だろうと受け入れようと。
何故なら、この男はナーヴァの全てを受け入れているのだから。
この出会いから1年後、国中にナーヴァの引退宣言が広まる。
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出会いが書きたくなったので^^
色んなカップルの、それぞれの人間ドラマがえがけたらと
そんな思いです^^