見渡す限りの草原。
その先に建物が見えるが、明らかに見慣れた家屋やビルとは違うようだ。
『本当にこんな事ってあるんだな…。』
俺は驚きながらも建物に向けて歩いた。
やっとたどり着いたそこは村のようだった。
テレビで観る外国の田舎の様な、のどかな雰囲気。
建物は石作りで屋根は木や干草のような物を使っている。
俺は様子を窺うように一歩一歩ゆっくりと歩を進めた。
しばらく進むと広場のような所に出た。
そこには村人が何人かいて水を汲んだり、洗濯したりと陽気に話しながら
作業をしていた。
着ている物は西洋の昔の服っぽい。
ズボン・スカートはあるけど襟付きシャツは無いようだ。
俺は驚かせないように、ゆっくりと近づき声をかけてみる。
『あの、ここはどこですか?』
話し掛けられた村人は驚いていた。
それは聞いた事の無い言葉、見た事も無い顔立ちをした少年に対してのものだった。
「おい、ジョンを呼んで来い!」
村人の一人が走って行くのを見送りながら、俺は内心途方にくれた。
やっぱり言葉違うし…。英語すらまともに話せないのに覚えられるかな?
ゲームのようにはいかないもんだな。
その前にここでいきなり殺されるとか…ないよな?
しばらくすると走って行った村人が青年を連れて戻ってきた。
「ジョン、この子供はお前の居た国の者か?」
「ああ、同じ国ではないかもしれないけど…アジアの人間だな。」
「?」
「後は俺にまかせてよ。まずは村長のとこに連れて行けばいい?」
「ああ。よろしくな。」
ジョンは少年をただすと村長の家に歩かせた。
『I'm John. What your name?』
『ジョン?あ、名前?えっと、My name is Syougo・Iwano.
』
『Syo-go?』
『Yes. あの…I can speak English, a little.』
『OK!』
ジョンは戸惑う尚吾の肩を抱き、他にも英語で話し掛けるが
残念ながら尚吾には理解できなかった。
ジョンにしてみれば嬉しかったのだ。
自分と同じ世界から来た人間であるだけで。
だから言葉が通じなくても取り合えず英語で話しまくったのだ。
しばらく歩くと村長の家に着いく。
村長の家とはいっても他の家とそんなに変わらない。
「村長。いますか?」
声をかけながらノックをし、ジョンはさっさと中に入る。
尚吾も引っ張られ入ったが、返事を待たずに入って大丈夫なのかと
心配になっていた。
「ジョンか。ん?その子供は?」
「俺と同じとこから来たショーゴ。言葉は俺もあまり通じない。」
「そうか。ああ…この村にはもう働けるところがないんだ。
アゼ山の鉱山なら働き手が必要だと思うが、どうしたものか…。」
「アゼ山か…。こんな子供だし、無理はさせないとは思うけど…。」
村長とジョンは肉体労働などむいていなさそうな尚吾を見る。
この世界ではたまに異世界から人間が来る。
だから仕事や生活を助けてやる事は義務のようになっていた。
尚吾は自分の事で二人が困っているのは分かったが何を悩んでいるのか
わからなかった。
ジョンは尚吾の腕を掴むと外に出た。
「アゼ山。」
一つの山を指してジョンは何回かくりかえす。
「アゼ山?」
「そうだよ。」
頷きながらジョンがもう一度繰り返す。
そして、ジェスチャーで畑を耕すような仕草をする。
『アゼ山なわけだから山で働けって事?』
尚吾が同じ仕草をして問いかけるとジョンが頷く。
やったこと無いけど、やってみるかな。
だってこの事で悩んでたんだよな?
確かに170センチくらいで細身の俺には向いてなさそうに見えるかもしれないけど。
俺はなんとかジョンにやってみると伝えると、ジョンは村長に伝えてくれた。
その夜、俺はジョンの部屋に泊まらせて貰った。
やっぱり疲れてたのか、朝までぐっすり寝てしまっていた。
「ショーゴ。おはよう。」
「ジョン。」
言葉がわからない俺にジョンは少しづつ言葉を教えてくれているが所詮まだ2日目。
だから笑顔で名前を呼んでみた。
「おはよう」
「おはよう?」
朝の挨拶だろうか?
ジョンは頷くと俺の身支度が終わるのを待ってくれる。
ジョンの仕事場の食堂で朝食をとった後、学校の制服に鞄しか持ってない俺は
いらない物をお金や物に替えることにした。
そう、財布と筆記用具以外全てをだ。
珍しいのか学校の教科書が高く売れたようだ。
少ない着替えと、大きめの鞄、丈夫な靴を手に入れることができた。
次の日、村長さんが馬車でアゼ山に連れて行ってくれた。
ジョンは休みの日になったら会いに来てくれるらしい。
今のところ言葉以外で前の世界との違いはあまりない。
馬も鳴き声がちょっと違うくらいで形は馬だった。
2時間くらいで鉱山の入り口に着いた。
村長に連れられて鉱山の責任者のような人に預けられる。
「頑張れよ。ショーゴ。」
村長は優しく頭を撫でてくれた。
俺は笑顔で頷き、見送った。
鉱山での俺の仕事は、力仕事が向いてない容姿のせいか掘った鉱石を
簡単にだが洗うという作業になった。
だがこれも以外と重労働だ。
井戸で水を汲み、石をジャブジャブと洗っていく。
やってもやっても終わらない。
それくらいこの鉱山は大きいのだ。
多分、鉱山で働く人は200人くらいいると思う。
住み込みで働けるからいいけどね。
カーンカンカンカン
仕事終わりの合図だ。
急いで後片付けをしていると大きな人影が視界に入った。
「これは俺が持つ。」
「レギウス、ありがとう。」
レギウスはこの鉱山で俺が働くようになってから、お世話になっている同室のお兄さんだ。
他にもおっちゃん二人が同室の四人部屋。
レギウスは見た目は無表情で怖そうに見えるけど、気がつくと俺のフォローをしてくれたり
言葉を教えてくれる。
本人がほぼ単語で話すからわかりやすいし、いい先生だと思う。
しかし、こんな大きい鉱山にでも東洋系は俺だけ。
ジョンは欧米人だから違和感なくとけこんでるけど俺は微妙な気がする。
さすがにちょっとホームシックかもな。
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異世界トリップが書きたくなりました;
行き当たりばったりですが…。