セイレンに連れられた部屋は前にも何度か使った事がある部屋だった。

あまり飾り気のない机と椅子が大きな窓の近くに置いてある。

窓からは心の和む景色が広がっていた。

シンラは広すぎないこの部屋を気に入っていた。

二人は窓際の席に向かい合うように座った。

「人払いをしてあるから茶は自分で淹れなければならないが

 このような時を過すのも私は気に入っているのだよ。」

セイレンは金色の瞳を優しげに細めた。

シンラは茶を淹れながら、セイレンの優しい雰囲気に癒されていた。

同じ金色の瞳なのに前王とセイレンでは受ける印象が正反対であった

幼い頃に将軍職の父に連れられ、初めて前王・セイエンに会った時はその瞳に畏怖した。

シンラが意識をとばしているとセイレンが話しを続けた。

「仕事の後に私に付き合わされてシンラにとっては迷惑かもしれないな…」

セイレンはため息混じりに呟いた。

シンラは見慣れぬセイレンの姿に、ただ首を横に振ることしか出来なかった。

「シンラは優しいな。だが我侭を云っている自覚はあるのだ。

 私はシンラにセイレン個人として見て欲しい。

 友のようになりたいのだ。」

シンラは困惑していた。

思い返せばセイレンは自分に甘えていたのかもしれない。

気づかず随分そっけなく接してしまった事を後悔していた。

王として友にできる身分の者は限られる。

その中でも信頼できる相手として見ていてくれたのだ。

嬉しくないわけがない。

だが何か胸のうちに釈然としないものがある。

シンラはそんな感情に戸惑いながらも押し殺した。

「私などでよいのでしたら。いろいろな話をしましょう。

 ですが、御自ら迎えに来られるのはひかえてください。

 私が他の兵達に嫉妬されますから。

 民や臣に慕われてる自覚をもってください。」

シンラは花が開いたような笑みをうかべた。

セイレンは滅多に見られない笑みに、一瞬言葉を忘れたが

すぐに声をあげて笑いはじめた。

「わかった。待ち合わせはカイを通じて文を交わそう。

 シンラ、ありがとう。嬉しいよ。」

セイレンの嬉しそうな様子に、シンラは喜びを感じていた。

一方隣室では、カイが必死に笑い声を噛み殺していた。

王の身辺警護をしている将軍・カイは人払いをしている時も

何かあった時の為に近くに控えているのだ。

もちろんセイレンは承知している。

カイは以前より和やかに会話をする二人の様子に安堵した。

このまま時が止まればセイレンにとっては幸せかもしれない。

窓の外、空には星が瞬きはじめていた。



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