相棒





「いてっ!」


ロアンは呻く。

ただぼーっと森を歩いていたら木の根に躓いただけなのだが。

ロアンはドサリと座り込む。

伸ばすにまかせた赤毛が少し遅れて背中をうつ。

いつもは躓いたらすぐ、後ろから支えてくれる手が伸びてきた。

心配そうに覗き込むダークブルーの瞳に大丈夫だと

笑いかけるのが日常で…。


「まったく…調子狂うよ。ダグ。」


ロアンのエメラルドの瞳が空に向けられる。




ロアンは旅をしながら剣を振るい諸国を旅している。

それは小さい頃からの夢だった。

18才で旅に出た。

父親は片腕しか無いが剣士で10才の頃から稽古をつけてもらい

旅に出ても腕はいいほうだった。

旅にでて初めて気がついたが、自分は何故かやっかい事に

まきこまれやすいという事。

そんな状態で3年も旅をしていると

経験もだいぶ積むことができ、余裕もできた。

ダグと出会ったのはパナ国の酒場だった。

酒場に入ると早い時間にも関わらず混んでいた。

かろうじて空いてるカウンターに向かうが、途中で止まるはめになった。


「ここに座って酒ついでくれよ。」


傭兵らしい中年の男が自分の膝を差し云う。

俺はそっと溜め息を漏らした。


「座れよ。ここに。」


中年の男はなおも言う。

男の仲間もニヤニヤと俺を見る。


「悪いが気分じゃないんだ。」


迂回して行こうとすると腕をつかまれた。

本当になんで俺はこんなめに会うのか…。

確かに男を知らないわけではないが、こちらにも選ぶ権利はある。

俺は腕を振り払い、中年の男の膝に置かれた手ごと短剣で貫いた。


「ぐぅぉおっ!!」


刺された男がうめく。

俺が座るよりはお似合いだろう。

仲間の男が武器を構える。

だが視線が俺の背後に釘付けになっていた。

俺も振り返って見ると、長身の黒づくめの男が殺気をにじませていた。


「ちっ。仲間か。無事にこの国を出られると思うなよ!」


中年の男たちは足早に立ち去った。


「なんだかな。悪かったな。巻き込んで。」


カウンターに向かいながら黒づくめの男に詫びる。


「いや。」


男は短く答える。

口数の多い方ではないのだろう。

黒い髪が短めに切られており、野性的な顔立ちに似合っていた。


「ここは俺が奢るよ。あんた連れは?」

「いない。」


男は短く答える。


「俺もだ。無事にこの国を出るまで一緒に行動しないか?」


俺の提案に男は驚いたのか目を丸くしていた。

その表情は俺よりずっと年上かと思ったが割と近いのかもしれない。

酒場の親父に適当に注文してから自己紹介にはいる。


「俺はロアン。あんたは?」


笑顔で名乗ると男は「ダグラス」と呟いた。

今考えると奇跡のような出会いだった。

誰かと一緒に行動しようと思ったのは初めてだったからだ。

報復にあった時、お互いに息の合った応戦ができた。

その後、今に至る2年間一緒にいる。


「俺と旅してアイツにメリットってあったのかな?」


赤い髪を指で弄びながらそんな疑問が零れる。


「相棒だろう?」


答えは上からふってきた。


「ダグ…。良かった!」


ロアンは座ったままダグラスに抱きつく。


「3日も寝てしまったようだな。」


ダグラスはロアンの髪を指ですきながら言う。


「俺たちもさ妖華に出くわすなんて、運悪いよな?」


ロアンは笑いながら3日前を思い起こす。




3日前、森を抜ければ村に着く、というところで

妖華アルラウネに出くわして戦った。

かなり強い敵で苦戦をしいられたが無事倒すことができた。

だが、ダグラスが意識を失い倒れた。

どうやら毒花が掠めたらしい。

ロアンはダグラスを引きずりながら必死に村まで歩いた。

ロアンの生まれ育った村に。




「心配かけてすまなかった。」


落ち着いたロアンは隣に座るダグラスに気にするなと首をふる。


「そんな事より、起きて驚いただろ?親父の相棒にさ。」

目をキラキラさせてロアンは云う。


「…ああ。」


ダグラスは呟く。

話には聞いていたが、これでは確かにロアンの美的感覚が

おかしくなるはずだ。

ロアンの父親の相棒とは、エルフ族だったのだ。

銀髪にアイスブルーの瞳の麗人。

男でさえあれだけの美貌なのか…。

ロアンは気がついていないが、ロアン自身も十分美形の部類に入るのだ。

自覚がないから余計なトラブルを招く事も多いのだが。

だが、あれを見れば納得だった。


なぁ、そろそろ帰るか?ダグはまだ寝てた方がいいと思うしさ。」


ロアンが立ち上がり、ダグラスの手をひく。


「ああ。」


ダグラスはロアンと手をつないだまま歩く。

穏やかな空気が心地いい。

不意にロアンが握られた手に力をこめた。


「…初めてダグが倒れるのを見たからさ、凄く怖かったんだぜ?」


ダグラスも握り返す。


「…すまなかった。」


ダグラスがそう云うと、ロアンは立ち止まり振り向いた。


「なぁダグ、俺ができる事は何でもするから!
 だから……その…俺のものになってくれ!」


ダグラスはロアンらしい言い方に笑みをうかべた。

外見に似合わず内面が男らしい所が面白く、ダグラスにとってはツボだった。


「ロアンのすべてをくれるなら、お前のものだ。」


ダークブルーの瞳が優しく語る。

ロアンは頭一つ高い所にある相棒の首に抱きついた。

そして優しく抱き返される感触に酔いしれる。

ロアンはいつか父親のように生涯の伴侶である相棒を見つけるのが夢だった。

魂が惹きつけられる相手に出会えた幸運をかみしめた。


「行こうか?」


ダグラスと再び手をつなぎ、ロアンは歩く。

いつまでも歩き続けるために、強くなろうと誓いを込めながら。





END


                                BUCK