白き剣士ハリス

剣士として大陸に知らない者などいない剣士である。

白く輝く鎧に、白いマント。

白に近い灰色の髪とエメラルドの瞳。

白い肌の麗人にして、大陸で10本の指に入る剣士である。

その剣技は舞のように美しく残酷に命を奪う。




「ハリス!!」

ドーマが叫んだ時には既に遅かった。

目に映るのは白と紅の色彩。

ハリスは白いマントを紅く染め上げながら最後の一太刀を放つ。

それは見事に急所を捉え、地響きとともに

ウロコに覆われた巨体が地に伏した。


「サラナン!ハリスに回復魔法を!!」


ドーマは右肩の下、千切れた腕のあたりを抑えながら叫んだ。

しかしサラナンはドーマの方に走りより回復魔法を唱える。


「サラナン!?」


ドーマはみるみる傷口が閉じるのを横目に不満の声をあげる。


「最後の一太刀の後、すでに…」


サラナンは立ち上がり、ハリスのもとに行く。

そして亡骸を抱き上げると、ドーマの所にもどった。


「…ハリス!!何を満足した顔で寝てんだよ!?
まだ小振りの竜しか倒してないだろうが!!!」


ドーマはハリスの手を握りしめ叫んだ。

この日、ドーマは親友と右腕を失った。

ドラゴンスレイヤーという称号の代償としては

あまりにも大きなものを失ったと言えよう。




ドーマとサラナンの足もとには土が小高く盛られ

大きな石がのせられていた。

サラナンがエルフ特有の花飾りをたむけ、二人は友との別れをおしんだ。

どれくらい時間が流れたのだろうか。


「サラナン、南の森近くにハリスの家族がいるんだ。」

ドーマは静かに呟く。

ドーマとハリスは元は同じ国の出身で、騎士として働いていた。

同期で良きライバルであり、親友だったのだ。


「ハリスの魂を家族に届けてあげましょう。」


サラナンはドーマに優しく答える。

二人になり、最後の旅にふみだした。



ドラゴンを倒した場所から近くの村に立ちより

目的地にむけて旅をする事20日間。

ハリスが導いてくれたのか、ふたりは順調に旅をすることができた。



ハリスの家がある、村の入り口が見えるとドーマの体が震えだした。


「大丈夫です。」


サラナンは普段は冷たいアイスブルーの瞳を優しく細めた。

肩に置かれたサラナンの手から安心感が広がり

ドーマたちは村に足を踏み入れる。

村の中をしばらく歩くと、体格のいい婦人に会うことができた。

ハリスの家を尋ねると案内してくれる。

しばらく歩き、村の中央よりやや外れた所にハリスの家はあった。


「今、エレナは流行病で寝込んでるの。
息子のロアンは村のみんなで面倒をみているわ。」


婦人はゆっくりと語る。


「そうですか…。」


ドーマはこのまま家族にハリスの死を告げるべきか悩んでいた。

そうして歩いていると、家が見えてきた。

元騎士である、有名な剣士の家なのだが豪邸とはいえない

普通の家がそこにある。

ふと、カーテンが揺れる窓辺に目を向けると声が聞こえてきた。


「…ハリス!おかえりな、さい…」


女性のか細い声が聞こえた。

急いで窓に駆け寄ると、ハリスの夫人のエレナだろう女性の手が

虚空より下がるところだった。

その表情はとても幸せそうであり

ハリスに会えたのだと確信できた。

案内役をした婦人は家に入りエレナの元にかけよる。

ドーマたちに向かってゆっくりと首を横に振りエレナが

天に召された事を伝え再び出ていった。

エレナはハリスと共に魂の旅にでたのだとわかった。


「…羨ましいですね。
私も、いつか貴方に迎えに来てほしいものです。」


サラナンは珍しく感傷的にドーマに囁いた。

エルフ族は寿命が長い。
半永久的に死ぬ事のないサラナンにとって

死は一方的に友や恋人を奪う影だった。


「迎えに行くより、見つける方が早いんじゃないか?」


ドーマは長身のサラナンの肩に額を押し付けた。


「人間の魂は転生を繰り返すものでしたね。
必ず、何回でも探しだしますよ。」


サラナンがドーマに顔を近づける。


「おいちゃ、だぁれ?」


サラナンの唇がドーマに触れる前に、ドーマは声の主に

目線を合わせるためにしゃがみこんだ。


「やぁ、俺は君のお父さんの友達でドーマ。
君はロアンだろう?」

「うん。」


ロアンは見事な赤毛を揺らしながら頷く。

赤い髪はエレナに、顔だちと瞳の色はハリスによく似た子供がそこにいる。

ドーマはロアンを抱きしめた。

この子は今、両親を失ってしまったのだ。


「おいちゃ、泣いちゃだめだよ?
かあちゃが、泣くとつよいけんしに
なれないって、いってたよ?」


ロアンは舌足らずにいうと、ドーマの背中の届く範囲をなでた。


「慰める方が慰められてますね。
さすがはハリスの息子です。」


サラナンは片膝をついて座り、ロアンに微笑みかけた。

ロアンは初めて見る、エルフの極上の笑みに赤くなり照れた笑みを返した。


「ロアン、俺たちと暮らさないか?」


ドーマが尋ねる。


「おかぁちゃが起きたら、きいてあげる。まっててね。」


ロアンは可愛らしく首をかしげる。


「…ロアン、お母さんはもう起きないんだ。
ロアンはおじちゃんたちが嫌いかい?」


ドーマはゆっくりと語りかける。

ロアンはドーマとサラナンを何回か交互に見る。


「お兄ちゃんとおじちゃんがずっと一緒にいるの?」

ドーマとサラナンはお互いを見る。


「私がお兄ちゃんですよね?
いい子ですね。あなたが望むならずっと側にいます。」


サラナンはプラチナブロンドの髪をゆらしながら笑う。

五百歳近いお兄さんはかなりご機嫌だよ。

ドーマはそっとため息をつく。

ドーマ本人はまだ30前だが、子供にはおじさんに見えるだろうと

遠慮して言っていたのに。


「ほんとに?」


ロアンの問いにドーマは頷きながら抱き上げた。


「さぁ、日が落ちてきたから家に入ろう。」


夕暮れの中、3人は家に入る。

夜になりロアンが寝着いた後、村人たちとの話し合いで

ハリスの家で3人で暮らす事が正式に決まった。




月日が経ったある日。


「親父、俺18になったら旅にでる。」


15才の誕生日、ロアンはドーマとサラナンにハッキリと云った。


「そうか。もっと剣をみがかないとな。」


ドーマはロアンと出会った頃と変わらない、優しい眼差しで云う。

黄色がかった若葉色の瞳は時に厳しくもなるが

いつもロアンに向けられる温かさは変わらないのだ。


「苦手な薬草の知識も身につけましょうね。
星も読めないと、すぐに迷子ですよ?」


サラナンは穏やかな口調で云う。

冷たい印象に反して、優しくて美しいエルフ。

ロアンの本当の父親・ハリスの仲間であった二人。

いつか本当の父の眠る墓に行って、どれだけ大切に育てて貰ったか

話たいと思った。

ドーマとサラナンはロアンが旅に出る事は寂しいが

旅にでて得るものの多さを知っているから

快く送り出す事にしたのだ。

この子の帰る場所は此処なのだから。




「ロアンが旅にでたら私がたくさん慰めてあげますからね。」


夜も更け、寝室で酒を飲んでいるとサラナンはそう云って

ドーマの杯を奪った。


「おい、待てって!サラナン…」


杯がテーブルに置かれ、ドーマは静かに寝台に押し倒された。

頭二つ分高い長身のエルフ族は、ドーマにしか見せない笑みをうかべ

服を剥いでいく。

細身のエルフ族の中でもサラナンは馬鹿力だとドーマは思う。

火がついたサラナンを止める事はドーマにもできないのだ。

ドーマはあきらめてサラナンに身をゆだねた。

ロアン、早朝稽古は無理だ…すまん。

そう、心の中で謝りながら。



END

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