それは昔々の物語
人々は田畑を耕し、のんびりとした生活を送っていた頃のお話



北風は秋の終わりを告げるため少し冷たい風を運ぶ。

村の子供たちがはしゃぎ回るのを嬉しそうに見回しながら風を運ぶ。

日が傾き始め、子供たちが家路につく頃に北風も精霊たちが集う宮へと帰る。

帰り道には夜風とすれ違い軽くあいさつをかわす。

すっかり辺りが暗闇につつまれた頃、北風が宮に入ると太陽が出迎えた。

北風が少年の姿なのに対し、太陽は長身の青年の姿をしている。

金髪に逞しい褐色の肌。

夕日のような色の瞳に嬉しそうな彩りをたたえ

長身を折って北風に触れようとする。

北風は軽やかににかわした。

「気安く触るな!」

空の青と若葉の碧が調和した瞳がそむけられる。

北風は銀髪に白い肌をした16才くらいの姿をしており

中性的な魅力を漂わせていた。

北風のそっけない態度はいつもの事なので太陽は気にせず笑う。

「ははっ。つれないねぇ。北風」

「僕は太陽が大嫌いなんだ!」

北風は癇癪を起こした子供のように叫ぶ。

そんな北風の姿に、可愛いと感じる太陽はますますご機嫌になる。

「私は北風がとても好きだから、毎日でも会いたいよ。」

北風はギョッとして走り出した。

…が逃走は失敗に終わった。

腕を掴まれ、次の瞬間には抱えられていた。

あまりの早業にさすがの北風も絶句していた。

「捕まえた。」

太陽は美しく精悍な顔立ちに妖しい笑みを浮かべた。

「…っ、や、やだ」

普段のやんちゃな北風には珍しい弱々しい声で呟く。

「何が嫌?北風はまだ一度も私と一緒に食事をしてくれないね。

風族の宴ではいつも中央で踊っていて相手もしてくれない。」

太陽は少し拗ねたように言う。

北風は怒りの為か、少し頬を赤らめて太陽を睨みつけた。

太陽が何か言いかけた時、南風が北風を奪い返し丁寧に下ろした。

「何を悪さしてんだ。

いっくら実年齢が俺より上でも、この華奢な体でお前の相手はとめるぞ。」

風族の持つ布をターバンのように頭に巻き

太陽と同じく褐色で鍛えられた青年の体躯を持つ南風が北風を庇う。

太陽はいつも連れだって仕事に行く南風とは親友と言ってもいい仲にある。

「えっ!?本当に?」

「何が?」

驚いて聞き返す太陽にワザと南風はたずねた。

「意地が悪いな。

北風が南風より年上なら私よりも年上の可能性もあるだろう。

それに、これで遠慮はいらないという事になるな…」

北風は背筋に悪寒が走るのを感じとった。

「南風、太陽をつかんでて!」

北風は小声で言うなり、羽織った布をそよがせ走り出した。

今度の逃走は成功をおさめた。

「今日は逃がしてあげるよ。」

ニヤリと呟く太陽に南風はヤレヤレとため息をついた。




南風の知る太陽は、太陽族ならでわの生き物を惹きつける魅力があり、自信家。

そして本当に肉体的にも精神的にも強くモテるのだ。

いつも太陽の周りにはいろんな精霊が集まり楽しく過ごしている。

それが、いつのまにか北風を追いかけ回しはじめたのだ。

北風は黙っていれば綺麗で繊細な美少年だが

中身は台風みたいに暴れん坊だ。

そして何より純粋であり、子供なのだ。

その証拠に南風は今まで北風の恋の話など聞いたことがない。

だから何故、北風なのか?

と悩む。

まさか、本気なのか?

「まさかな。あの遊び人が…」

南風は頭の布を外しながら歩き出した。




風族は精霊の中でも数が多い。

それだけこの世界にいろいろな働きをしているのだ。

同じく多いのは水族。

太陽族は数カ所に点在する宮に一人づつしかいない

とても希少な一族だった。




北風は外に目を向けながら窓辺に座り込んでいた。

太陽の感触がまだ残っている。

「あんな奴、嫌いだ」

小さく呟く。

太陽は目立つ。

いつも周りに聖霊がいて、派手でチャラチャラしてて。

でも知っている。

一人になりたい時はさびれた西の庭園の丘にいる事を。

寝転がり、疲れた様な寝顔をしていた。

それを見て思わず癒やしの風を送っていた。

何回かそんな事を繰り返していたある日。

いつものように癒やしの風を送ると、突然太陽が目を開けて辺りを見回した。

目があった北風は驚き逃げだした。

それからだった。太陽は北風を追いかけはじめたのは。

太陽と話す事なんて自分にはない。

楽しい話なんて知らないのだから。

だからせめて舞だけでも楽しんでもらおうと、太陽のために舞っていたのだ。

小さなため息の後、北風は苦しげに目を閉じた。



次の朝、いつもの土地で北風が風を紡いでいると太陽が現れた。

「この辺りは寒くなるんだ。邪魔しにきたのか?」

北風は静かに抗議した。

「そんなつもりは無い。北風、私と勝負をしないか?」

太陽は優しく目を細める。

「勝負?」

北風が訝しがる。

「北風が勝ったら、もう追いかけ回さないよ。」

「本当に!?」

太陽に追いかけ回されるのは北風にとって苦痛だった。

だから確かめる北風の声は真剣だった。

「もちろん。ただし、私が勝ったら一つ願いをきいてほしい。」

太陽は北風と同じくらい真剣に言い放つ。

北風は少し悩みうなずいた。

「勝負は…。

そうだ、あの旅人のマントを脱がした方が勝ちでどうかな?」

太陽は空から旅人を指差し言った。

痩せた男が目に映る。

強い風を吹かせばマントなど飛んでしまうだろう。

「いいよ。じゃあ僕が先に吹き飛ばしてやる」

北風は途端に強い風を紡ぎはじめた。

旅人は途端の強風にマントを握りしめて耐えた。

しばらくして、強風がおさまると今度は日差しが強くなりあたりが暑くなる。

旅人は首をかしげながら、マントをぬいだのだった。



それを見ていた北風は「悔しいけど僕の負けだ」と投げやりに呟いた。

北風の態度に対し太陽は笑みをうかべ云う。

「私のお願いは後ほど宮で。」

太陽は仕事に戻っていった。

なんだか填められた気がするが仕方ない。

北風も再び仕事に戻った。




宮に北風が戻ると、いつも通り太陽が出迎える。

北風は太陽にただされ、太陽の部屋に連れて行かれた。

北風は緊張していた。

南風あたりが訪ねてこないかと期待していたが

今日に限って誰も訪ねてこないのだ。

太陽族に仕えてる者たちさえ見あたらない。

「太陽、早く用件をすませたい。願いを…。」

北風は緊張のあまり声がかすれる。

「気が早いね。」

太陽は北風に座るようにただす。

いつも腕の中からすり抜ける北風が今目の前にいる。

太陽は北風を愛しげにみつめ、北風の足元にひざまづいた。

北風はビクリと反応をしめす。

太陽は出来るだけ怖がらせないように北風の手をとり云う。

「私の願いはただ一つ。

北風、そばにいて欲しい。」

北風の膝に額をあて、太陽は力をぬいた。

自分は太陽族として当たり前に存在し、振る舞ってきた。

だが気がつけば、気を休める場所がないまま

ここまできてしまっていた。

あの日、風に癒されて気がついた。

その日から北風は太陽にとって特別な存在になった。

「…太陽。」

そこには西の庭園で見た太陽がいた。

北風は太陽の心がわかる気がした。

あんなに光輝いているのに孤独な心をもつ太陽。

「わかった。…北風として、約束は守るよ。」

北風は虹色に輝く、風族の透明な布を太陽にかける。

太陽につかの間の癒やしを…。

「おやすみ。太陽」

優しい囁きが太陽を眠りに導く。



その日から太陽と北風は仲が良くなったかといえば、違う。

だが、北風は宮にもどると片時も太陽から離れる事はなかった。

周りの精霊達はあまり接点のなかった北風がいる事に喜んだ。

今日も精霊たちの楽しそうな声が宮からもれている。



それは昔、昔の物語。


END


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