「Double Bind」 8 (葉月ルートエンディング)

・・・事が終わり、何も身につけぬまま、二人抱きしめ合う至福の時間。
だが、幸せな時間は唐突に終わりを告げる。
「ヤバッ!・・・ね、今何時!?」
「え・・・って、4時50分!?」
すっかり時間を忘れていた。
後始末をして、バタバタと大慌てで服を着る。
「ちょ・・・アタシのパンツどこ!?」
「・・・いいから急げよ」
「・・・取ったでしょ」
「取るかっ!中身としてるのにパンツ取ってどうする」
「う・・・じゃあどこいったのよぅ・・・」
「知るかよ・・・上からスカートはくんだからいいだろ、我慢しろ」
「うー・・・風が吹いたらどうするのよぅ・・・」
まだブツブツ言ってる葉月をせかして保健室を飛び出す。
由真たちはもう帰っただろうと思っていたら
まだ旧校舎の正門で待っていた。澪もまだいる。

むう・・・すぐには顔を合わせたくなかったんだが
「・・・ずいぶん・・・その・・・」「な、長い・・・話だったね」
少し顔を赤くして、3人で俺達の顔色をうかがう。
「あ、ああ・・・うん・・・いろいろ・・話したから」
俺からすれば、この子達をフっちゃったわけで・・・かなり、気まずい。
場の空気が澱む。と、不意にグラウンドから強い風が・・・
「うわっ!」「きゃぅ!?」「ひゃぁっ!?」
あ・・・めくれた。葉月の心配が現実に。
「え・・・えーーーっ!?」「お、お姉ちゃん・・・パ、パンツは!?」
「・・・うううう・・・」
スカートを押さえ、真っ赤になって呻く葉月。
「・・・パンツ脱ぐようなことまで・・・」「しちゃってたんだぁ・・・」
妹二人は呆れたように呟いたが、すぐにニコッと笑う。
「おめでとう、お姉ちゃん」「よかったね、お兄ちゃん。すてきな彼女ができて」
「あ・・・えっと・・・ありがと・・・あの・・・ゴメンネ・・・」
一瞬だけ嬉しそうな顔をしたあと、葉月は表情を曇らせ、うつむいた。

「ホント、ゴメン・・・アタシだけ・・・なんか、抜け駆けしたみたいな・・・」
「別に謝ることないよ・・・」「条件は、3人同じだったんだし・・・」
妹二人の笑顔は優しい。澪も同調する。
「そうですよ。葉月さんは、選ばれたんですもの。もっと胸を張っていいんですよ」
だが、葉月はまだうつむいたままだった。
「葉月・・・選んだのは・・・俺なんだから・・・」
「そうそう・・・それに・・・」「まだ私たち・・・諦めたわけじゃないもん」
意外な言葉に、葉月の顔が上がる。
「・・・え?」
「別に・・・恋人が二人三人いたっていいわけだし」「敗者復活戦ってのもあるし」
「・・・はあ?」
訳の分からないことを言う二人に、澪までが体を乗り出して加わってくる。
「・・・えっと・・・途中参戦は、ありですか?」
それまで顔を曇らせていた葉月が、プッ、と吹き出す。
「参ったなぁ・・・いいわよ、受けて立ってあげる。けど、遠慮はしないからね?」
葉月が笑い、由真が笑い由良が笑い澪が笑い・・・俺だけが唖然として立っていた。

澪は学校に残り(当たり前か)、帰り道で大場姉妹とも別れ
また由真と二人でたどる帰り道。
「でも・・・ホント、よかったよね」
「ん・・・ありがとな・・・」
「澪ちゃんにもお礼言わなきゃね」
まあ・・・確かに、あの子がきっかけになったわけだが。
「私も、これで・・・思いっきり・・・いけるかな」
・・・思いっきり、って・・・何をだ。
だが、不意に由真の笑顔が寂しげなものに変わる。
「・・・冗談だよ。私は・・・妹だもんね」
そうだった。さっきの会話を思い出す。
条件は3人同じ、じゃなかった。
由真だけが、決して越えられないハンデを負っていた。
「なあ・・・それでも、俺を好きでいるの・・・つらくないか?」
由真は笑う。全てを諦めた者の笑顔で。
「どんなにつらくても、実を結ばなくても・・・好きって気持ちは、変えられないよ」

部屋で一人になると色々なことを考える。
葉月と結ばれたこと。
しなやかで柔らかくて豊かで張りがあって・・・
イカン、あいつのこと考えるとあのカラダが頭にちらつく。
ポケットに手を突っ込んで取り出したのは、柔らかな布。
そう、葉月のパンツはいつの間にか俺のポケットに
記念品として収まっていた。
旧校舎前で風が吹いたとき、ちょっと悪い気がしたが
あの場で返却を申し出たりしたら、愛想を尽かされかねないのでやめたのだった。
別にかぶったり匂い嗅いだりするためではなく
あくまで記念としてである・・・建前は。
とりあえず眺めて、にへらっとしてからまたポケットにしまう。
まあ・・・葉月となら、うまくやっていける。
残された高校生活も、きっと楽しくなるだろう。
何もあれこれ考えることはなく、その日その日を楽しんでいこう。
・・・考えなければならないのは、由真のことだった。

ない頭をひねって絞って回転させて考えた末に
一つの結論にたどり着く。そして、これからどうするか、にも。
だが、俺一人で決められることじゃない。
善は急げだ。相談しておこう。
ケータイで葉月を呼び出す。
「もしもし・・・俺だけど」
「あ・・・うん・・・なに?・・・声が聞きたくなったとか?」
葉月の声はどこか嬉しそうで、俺もちょっと照れくさくなるが
今は大事な話がある。
「いや・・・その、言いにくいんだけど・・・由真のことなんだ」
「由真ちゃん?・・・どうかしたの?」
俺は帰り道での由真との話のことを告げる。
「そう・・・言われてみれば・・・あの子だけ、公平じゃないのかもね・・・」
「ああ・・・このままじゃ・・・つらくなる一方だと思うんだ」
「で?優しいお兄ちゃんとしては、どうしたいの?」
「由真に・・・話そうと思う。出生の、ホントのこと」

反対されるのではないかと思っていた。
が、葉月は少し黙った後
「そうね・・・もう、その方がいいのかも、ね・・・」
「・・・いいのか?その・・・ライバルに塩を送るようなことになるかもしれないぞ?」
「ええ。由真ちゃんが遠慮してると、由良も一緒に遠慮しちゃうしね」
よけい葉月としてはマズイんじゃないだろうか。
だが、葉月がかまわないと言うなら、言い出した俺に反対する理由はない。
「そっか・・・ありがとな、葉月・・・」
「子供の頃ね・・・よく言われたのよ」
「・・・何を?」
「お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい、って・・・染みついてるのね、それが」
それは・・・葉月が身を引くということだろうか。
「お前が我慢する必要はないっていうか・・・して欲しくないんだが」
「わかってる。あなたまで譲る気はないもの・・・でもね、こうも言われたのよ」
「なんだよ」
「お姉ちゃんなんだから・・・妹と、ちゃんと分け合いなさい、って・・・」

俺としては、由真や由良に真実を告げた上で
それでも葉月を選ぶことで、俺を諦めてくれるのではないかと思っていた。
たとえどんなに恨まれても、憎まれても、そのほうがいいと思っていた。
だが、それは逃げだったのかもしれない。
報いてやれない想いを抱き続けられることに
俺の方が逃げだしたかったのかもしれない。
だけど、葉月は・・・思いに報いても、かまわないというのだろうか。
「・・・いいのか?その・・・二人を受け入れても」
「いいわよ・・・むしろ・・・そうしてあげて欲しい、かな」
「そうか・・・その・・・ありがとう、って言うのかな、こういう場合」
苦笑いする俺に電話の向こうで葉月も笑う。
「どういたしまして。私も、あの子達のお姉ちゃんだし、ね」
「一つだけ・・・約束しとく」
「・・・なに?」
「俺からは由真も由良も求めない。二人が・・・求めてきたときだけ、だ」
「・・・そう・・・ちょっとだけ、嬉しいかな・・ありがと」

パートナーは同意した。次はスポンサーだ。
が、よりによってこんな時に親父は出張中で家にいない。
お袋だけに話すかどうかちょっと悩んだが
よく考えると由真を猫っ可愛がりしてる親父よりは
まだお袋のほうが話しやすいし・・・揉めたときに説得もしやすい。
由真が寝たのを見計らって、居間に戻る。
お袋はまだ起きていた。家計簿をつけているようだ。
「あら・・・何?夜食?」
「ああ、いや・・・ちょっと・・・話があるんだけど、いいかな」
俺の表情とか口調から何か感じたのだろう。
お袋は家計簿を閉じて、座り直した。
「いいわよ・・・どうしたの」
「由真のことなんだけど」
どうせ話すなら、下手に隠さないほうがいい。
葉月と・・・最後までいったことだけ省いて
俺はお袋にいきさつを話した。

話し終えると、お袋は大きく一つ息をついた。
「そう・・・なんとなくね、由真が・・・そう思ってるのは、母さんも感じてたのよ」
「・・・俺は全然わかんなかったけどなぁ」
「達也が気づかなかったから・・・想い続けられたんじゃないかな」
「・・・そう、かも」
お袋が身を乗り出してくる。
「それで?どうしたいの?」
「由真に・・・話してもいいかな。本当は・・・従姉妹なんだってこと」
「達也がそうしたいのなら、いいわよ。いつかは話さなきゃならないんだし」
拍子抜けするほどあっさりと承認。
「いいの?・・・親父と相談とか・・・」
「お父さんには、私から話しとく。達也は達也の思うようにしなさい」
「・・・ずいぶん信用されてるんだな、俺」
苦笑いする俺の頭を、くしゃくしゃに撫でてお袋が笑う。
「息子を信用しないわけないでしょ・・・」
「うん・・・ありがと、母さん」

翌日。朝のHRの前に、ちょっと廊下に出て葉月と昨日の首尾を話し合う。
「一応・・・こっちは問題ない」
「ウチもOKだったわ・・達也のこと、ずいぶん聞かれたけどね」
「・・・なんて答えた」
「バカで無茶したがりでお節介焼きでお調子者だって言っておいた」
・・・俺は選択ミスしたんじゃなかろうか。
「・・・でも・・・真剣に・・・好き、って・・・言ったからね」
・・・なんでこう、無性に抱きしめたくなるようなことを言うのか。
「それで・・・いつ二人に話すの?」
「早い方がいいと思うんだ・・・できれば、今日」
「・・・いきなりね」
「昼休みじゃ慌ただしいし、今日の放課後にしよう。澪にも聞かせたいから旧校舎で」
「いいけど・・・保健室はダメだから、ね」
「なんで?あそこなら座れるじゃん」
葉月が顔を赤らめて、つぶやく。
「・・・ベッド・・・そのままで・・・きちゃったもの」

昼休みに、妹たちと放課後の約束だけをして午後の授業に。
が、内容なんて全然聞いてはいなかった。
どう話せばいいのか。話したらどう反応するだろうか。
泣かれたらどうしよう。怒りだしたらどうしよう。
まとまらない考えがグルグルと頭の中を渦巻いていた。
「達也・・・?どしたの?」
「・・・へ?」
いつの間にか、授業は終わっていたらしく
教室の中はすでに放課後の喧噪に満ちていた。
「・・・スマン・・・考えてて」
「うん・・・」
机の上で握りしめられていた俺の手に、葉月がそっと手を重ねる。
「一人で背負い込まないで・・・私も、一緒なんだよ・・・」
そうだった。不安なのは俺だけじゃない。
俺の方が、しっかりしなくちゃな・・・
「行こうか・・・早くしないと、待ってる」

すっかりお馴染みになった旧校舎の正門前で
妹二人はもう待っていた。
「よ、お待たせ」「ゴメンねー、達也がノロノロしてて」
「私たちも・・・」「さっき来たとこだよー」
辺りを見回す。今日は・・・澪はいないのかな。
「澪ちゃんなら・・・」「講堂にいるって」
「講堂?」
話によると、旧校舎の講堂は体育館ほど傷んでなくて
椅子とかが少しだけどまだ残っているらしい。
なるほど、話をするには好都合な場所のようだ。
「私、購買部でお菓子買っておいたよー」「私はお茶ー」
・・・人の気も知らないで、ピクニック気分の二人。
だが、その無邪気さが今の俺にはつらかった。
なるべく考えないようにして、努めて明るく振る舞う。
「よし、じゃあ・・・行くか」
3人を引き連れて、講堂へと向かった。
旧校舎の講堂は、それほど大きな訳ではなかったが
天井が高く、ほとんど何もない空間はやけにだだっ広く感じる。
そのむやみに広い講堂の片側
壇上に一つ椅子をおいて、澪がぽつんと腰掛けていた。
「よう・・・何やってんだ?」
「こんにちは・・・ちょうどここに、ピアノがあったんですよ」
「へえ・・・」
言われてみれば、講堂ってよくピアノとか置いてあるよな。
「私がこの校舎に通っていた頃は、音楽室はなかったんです。音楽の授業は、ここでした」
不思議そうに葉月が尋ねる。
「・・・だったら、なんで音楽室の幻なんて出したのよ?」
「・・・4階を増築して、音楽室も作る予定だったんですよ・・・結局、できませんでしたけど」
「そこで・・・ピアノを弾きたかったんだな」
澪の目が遠くを見つめる。
「新しく音楽室ができたら、ピアノを弾いて聞かせてあげる・・・それが、約束でした」
寂しげに笑う澪に、俺たちは何も言ってやることができなかった。

澪は呟くように話し続ける。
「バカみたいですよね・・・叶わない願いに、叶えられない約束に縛られて」
ピクリ、と由真の肩が震える。
「さっさと諦めてしまえれば、楽になれたのでしょうけれど・・・ダメですね、私」
「そっ・・・そんなことないよっ!」
いきなり、由真が叫ぶ。
「かなわなくたって・・・思っていたっていいじゃない!ダメって・・・そんなことないよっ!」
澪は小首を傾げ、由真を見つめる。
「苦しいだけでも・・・?周りを傷つけても・・・?」
「く・・・苦しくたっていい!周りのことなんか知らない!私は・・・私はっ・・・!」
うつむいて、顔を真っ赤にして・・・
由真は抗う。足掻き、逆らい、もがく。重なる境遇に。自分の運命に。
澪が壇上からふわり、と降りてきて、ゆっくりと由真のほうへ進んでくる。そして囁く。
「・・・そう・・・諦めないのね、貴女も・・・でも」
そして、ちら、と俺と葉月を見て、また囁く。
「諦めなければこそ・・・手に入るものも、あるのよ・・・」

「・・・え?」
涙目になっている由真が、驚いたように顔を上げる。
澪は俺たちに振り向き、ニコッと笑った。
「今日は・・・そのお話なのでしょう?達也さん、葉月さん?」
・・・参ったな。お見通し、か。
「ああ・・・今日は、大事な話があるんだ」
「由真ちゃんと、由良のこと・・・なのよ」
「え、私も?」「大事な・・・話・・・って?」
驚く由良と、怪訝な顔の由真。
「私は・・・しばらく外しましょうか。水入らずの方がよろしいでしょう?」
澪が気を利かせてか、すーっと消えていく。
「ありがとな・・・」
たぶん、全てを承知していて・・・きっかけを作ってくれたんだろう。
おかげで俺の覚悟も決まった。
見つめる二人の視線を正面から受け止め、俺は話し始める。
「実は・・・」

全てを話し終えた。
由真と由良は・・・あまり表情を変えない。
理解できなかったのだろうか。
「・・・わかった?」
葉月が確かめると
「え・・・あ・・・」「うん・・・えっと・・・」
二人は顔を見合わせる。
「私たちが、本当は双子で・・・」「ホントは今の家の子じゃ・・・ない、んだ・・・よね」
「いや、ウチの子だけども・・・」「養子なわけ。従姉妹なのよ、アタシたち」
二人はじっと座ったまま動かない。
驚きも泣き出しも怒りだしも笑いもしない。
ただ、意味を噛みしめるように、考え込んでいる。
やがて、口を開いたのは・・・由良の方だった。
「だったら・・・達也さんと由真ちゃんって・・・結ばれても、いい・・・の?」
俺は・・・うなずく。
「二人が、そう望むなら」

ガタン
椅子が倒れる勢いで由真が立ち上がった。
「・・・なんで?」
「?なんで、って・・・何が?」
「何で・・・何でいまさら・・・お兄ちゃん、もう・・・葉月さんと・・・」
葉月も・・・ゆっくりと立ち上がる。
「だったら、諦めるの?」
「それは・・・だって・・・」
「・・・アタシは、2年待ったわ。達也に近づけるきっかけを、2年待ってた。
 あなた、一体何年待ってたの?今まで待って・・・今さら諦められるの?
 もう、我慢しなくていいってわかったのに、なんで今になって諦めるの?
 由良もよ。アタシがいるから、なんて理由で諦められるの?
 ・・・アタシが逆の立場だったら、諦めない。好きでいる限り、何時まででもチャンスを待つわ。
 アタシはチャンスをあげる。それでも諦めるんなら、別に止めはしない。
 でも・・・チャンスを掴む気があるなら・・・アタシは、手伝ってあげてもいいと思ってるの。
 あなた達は・・・私の・・・可愛い、妹・・・だもの・・・」

葉月は思いの丈をぶちまけて、また椅子に座った。
立ちすくんだ由真が。座ったままの由良が。
同時にしゃくり上げ始める。
「うっ・・うっ・・・」「うっ・・・ひっ・・・」
そして、駆け足で近づいて・・・
胸に飛び込んでいった。葉月の胸に。
「お姉ちゃぁん・・・」「ありがとう・・・ありがとうお姉ちゃん・・・」
・・・俺の胸じゃなかった。ちょっぴりジェラシー。
「いいのよ・・・いいの・・・」
泣きじゃくる二人の背中をそっと撫でる葉月の顔は
子供をあやす母親のように優しい。
ふと気づくと、すぐ横にまた澪が立っていた。
「万事解決、というところでしょうか?」
「ああ、うん・・・おかげさまで。ありがとう」
「どういたしまして。これで、また少しご恩が返せました」

「それにしても・・・羨ましいですねぇ・・・」
「・・・俺が?」
「いいえ、由真さんと由良さんですよ・・・葉月さん、私にはチャンスはいただけないんですか?」
葉月が涙を拭いて笑いながら答える。
「あなた、アタシの妹じゃないじゃない」
「あら、お友達だと思ってましたのに。友人にもチャンスはいただきたいですわ」
「未練がましいわよ、幽霊のくせに」
「ご存じないんですか?未練があるから、幽霊なんですよ」
・・・いいコンビだ。
「ちょっと。何ニヤニヤしてるのよ?」
「いや別に」
「まったく・・・自分の立場、わかってる?」
わかってる。イヤってほどわかってる。
4人の女の子に同時に言い寄られて、しかも全員そのことは知ってる。
一歩間違えば泥沼だ。けど・・・
「わかってるさ。俺が幸福者だってことだろ?」

皆の顔に笑顔が戻ったのもつかの間
「あ・・・」「あれ・・・?」
由真と由良が見つめ合い・・・急にウンウンうなり始めた。
「何やってんだ」
「いや、それが・・・」「テレパシーが・・・なくなっちゃった・・・」
「ええ?・・・なんでまた?」
「たぶん、本当の双子とわかって・・・必要がなくなったからじゃないでしょうか」
澪が、それらしき事を言う。
「今までは、どこか遠慮があったでしょう?」
「それは・・・」「少しは・・・」
「血の繋がりが、それを補うためにテレパシーを働かせていたんですよ」
「・・・ずいぶん物知りなんだな」
「それはまあ・・・長生きしてますから」
いや、生きてないぞお前。
「要するに、もう双子ってわかったんだから、言いたいことは口に出しなさいってことね」
なるほど。ちょっともったいない気もするが・・・これでいいのかもな。

「さて・・・そろそろ帰るか」
もう下校時刻までそう時間もない。
またバタバタ慌てて帰るのはごめんだし。
「あ・・・その前に・・・言いたいことが・・・あるんだけど」
由真がもじもじしている。
「・・・トイレか?」
「違うよっ!・・・あの・・・キス、して・・・ほしいな」
「誰に」
「もう・・・お兄ちゃんにだよぅ」
・・・今か?ここでか?・・・葉月の前でか!?
「あ、私も・・・キス・・・してほしいな・・・」「私も・・・お願いしたいですね」
由良もか!?澪もか!?・・・お前ら、言いたいこと言い過ぎ。
葉月がポンと俺の肩を叩く。
「全員ね。順番は任せるけど・・・」
「・・・いいの?その・・・目の前で?」
「アタシが・・・覚悟を決める意味もあるし、ね」

まあ・・・お許しも出たわけだし。
「由真・・・おいで」
はにかみながら、由真はちょこちょこと近づいてくる。
その肩をそっと抱き寄せ、見つめる・・・
照れくせえったりゃありゃしねえ。
だけど。目をつぶって。背伸びをして。頬を染めて。少し震えながら。
待っている由真は、どうしようもなく・・・可愛かった。
ちゅ。
「ん・・・っ・・・」
俺も目を閉じて。そっと、触れるように。だけど、心は込めて。
唇を合わせる。
どれくらい、そうしていただろうか。
唇はやがてどちらからともなく離れ
目を開ければ、微笑みながら涙をこぼす由真がいた。
「やっぱり・・・嬉しい、よ・・・」
そのまま、考えることなくそっと由真を抱きしめた。

「あー・・・ウホン!」
葉月のわざとらしい咳払い。
「・・・なんだよ・・・妬いてるのか?」
「う・・・そんなわけ、ないでしょ!・・・ほら、順番つかえてるんだから!」
そして
由良とキスを交わし、澪と唇を重ね・・・
「あー・・・お待たせ」
少しすねかけている葉月に声をかける。
「・・・別に・・・待ってないもん」
「・・・あっそ。じゃあ、葉月はなし」
「え・・・あ、ちょ・・・もう!」
言うが早いか、葉月が飛び込んできて・・・
「ちゃんと・・・アタシの面倒も見てよね?」
「へいへい・・・」
吐息が。唇が。体が。重なり合い混じり合い解け合っていくように
俺たちはずっと・・・キスしていた。

いつまでもそうしていたかったがそうもいかない。
体を離し、べたべたになった口元を拭うと
「あ・・・あ〜〜〜っ!?」
気が付けば。口を拭おうとポケットから出したのは
昨日から制服のポケットに入れっぱなしだった・・・葉月の、パンツだった。
「・・・・・・それは何かな、達也クン?」
笑いながら葉月がにじりよる。
「うわ・・・」「お兄ちゃん・・・」「ヘンタイです・・・」
「待て。これはアレだ・・・あくまで記念品としてだな・・・?」
ボキボキ。葉月が拳を作り指を鳴らす。
「・・・何・の・記・念・よ・!」
「いや、だから、その・・・っ!」
・・・ダッシュで逃げるっ!
「あっ・・・逃がすかっ!みんな、女の敵を捕まえるのよ!」「了解!」
もう、逃げられない。きっと4人の誰かに捕まる。ひょっとしたら全員に。
・・・それはそれでいいのかもしれないと、逃げながら思う俺だった。

(End)

(Seena◆Rion/soCysさん 作)

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!