「潔癖性」

妹の和世は潔癖な性格だ。きれい好きで、真面目な奴である。妹ながらなかなかしっかりした奴なのだが、変に厳しいところもあった。
また、幼い頃から他人が家に上がるのをやたら嫌がったりもした。
「他人の匂いが、なんか嫌」と言う和世に、ちゃんと友達がいるのだろうかと、学年が変わるたびに俺は心配したものだった。
俺が中一、和世が小六の時、学校で各班ごとにレポートを発表するという課題があって、家に男子二人と女子三人が来たことがあった。
課題は二時間ほどで終わり、やることも無くなったのだが、女子が二人残って話をしていた。結構盛りあがって、時計を見ると七時半を回っていた。
家は両親は共働きで、その頃から夕飯は和世が作るようになっていた。
和世はいつも六時半きっかりに夕食の準備を終えていたので、さすがにそろそろ帰ってもらわなきゃ和世に悪いなと思っていたら、部屋のドアが突然開き、和世が入ってきた。

「お兄ちゃんもお友達の方々も、お盛んなのは結構ですけど、いい加減時計を見てくださいね」
一言そう言って、出ていった。
和世は当時から黒い髪を長く伸ばし、結構整ったきれいな顔つきだったが、喋りが非常に淡白で、どこか怖い印象を持たせた。
そんな和世に言われたものだから、女子二人は慌てたように「も、もう帰ろっか」と帰っていった。
女子二人が帰った後、
「人が来て、掃除するのもお菓子を用意するのも冷めた夕食を温めなおすのも私なんだから、今日みたいなことはもうやめて。特にあの人たちは声が嫌」
と和世は不満たらたらだった。
「だいたい、女子とか家に連れ込むのは百年早いと思うけど」
学校の課題のためなんだが、という俺の主張はまったく聞き入れられなかった。
こんな感じで、和世は妹ながら変に厳しく、何かにつけて説教した。

俺が高一、和世が中三の十二月のことだった。俺も和世も冬休みに入っていたのだが、両親は相変わらず仕事に出ていて、俺たちは二人で家の中の大掃除をしていた。
もう毎年のことで、俺が一階、和世が二階を掃除するという分担だった。
昼から始めて日が西の空に沈むくらいになり、そろそろ終わるかなという頃に、和世が何冊かの本を抱えて二階から下りてきた。
なんだろうと見ていると、和世は小走りに庭へと出て、本の束を地面に投げ出し、火をつけて燃やし始めた。
「和世? 何してんの?」
「……」
「和世?」
近づいて見てみると、火がついて燃えているのは、何と、俺が高校の友人からもらって部屋に置いておいたエロ本だった。
「え? おい、これって……」
「燃やすからね」
「燃やすって……何勝手に……」
「最悪。こんな本読むなんて。何考えてるの?」

本気で怒りのこもった目で睨まれ、いつもより険悪な雰囲気で説教が始まった。
「気持ち悪すぎるんだけど。何でこんな本読むわけ? 勉強もしないで、猿並じゃない。これお小遣いで買ったの? お母さんたちが知ったらどんな顔すると思う?
同じ家の中でこんなの読んでいやらしいこと考えてる人がいるなんて、最悪……ホント、気持ち悪いよ。死んでいいよ」
「お前、ちょっと待てよ。なんでそこまで言われなきゃいけないんだよ」
「何で? お兄ちゃん、私が掃除して、選択して、ご飯つくってるのわかってるわよね? 私がお兄ちゃんの自由な時間を作ってあげてるのよ?
その時間の使い方についてなんだから、私にはいくらでも言う権利があるでしょ。これからこういう本は禁止します。ただでさえ足りない脳みそが、獣に なったら困るから。もっとちゃんとした生活をしてよ。ホント、変態だよ」
なんでたかがエロ本で、ここまで罵られなきゃならんのかと、さすがに腹が立ってきた。
「お前、言いすぎ。確かにお前には世話になってるかもしれないけど、頭の中身まで言われる筋合いは無いだろ。俺くらいの年になればエロ本持ってて普通なんだよ」
「何開き直ってるの? エッチな本持つことが普通? 本気で気持ち悪いよ」
しかめ面をして、おえっと嘔吐のジェスチャーをする和世に俺はますます腹が立ち、和世もぜんぜん引かなかったので、実に数年振りに大規模な口喧嘩をした。
あまりにくだらない理由での喧嘩だったが、二人とも決して折れず、本についた火が消えるまでさんざんに俺は罵られた。灰になったエロ本を見て、和世は満足そうに、
「せいせいした」
とつぶやいた。
「お前……謝る気はないんだな」
「何で? 私悪いことしたなんて思ってないよ」
「……お前さ、人のこと気持ち悪いだのなんだの言ってくれたけど、こっちだっていい加減お前には不快になるぜ」

それから俺たちは口をきかなかった。というか、和世は部屋に閉じこもって出てこなくなってしまった。たまにトイレや食事で一瞬顔を見せたけど、その時の顔がまるで病人のように真っ青で、びっくりしてしまった。
俺は和世の潔癖さ、真面目さを思い返し、やっぱり自分の気遣いが足りなかったのかなと思うようになった。まあ、兄貴として折れてやるかという気になった。
「もうああいう本は読まないことにするよ」
「え?」
たまに食事をとりに台所に下りてくる和世をつかまえて、俺は謝った。

「この前は悪かった。お前はなんて言うか……繊細だしな。これから気をつけるから、許してくれ」
「え、ううん、私こそあんなこと言って……」
「これからはもうちょいまともな兄ちゃんになるから、許してくれるか?」
和世は少し戸惑っているようだが、微笑んでうなずいた。
「でもお兄ちゃん、大丈夫なの?」
「なにが?」
「保健の先生に聞いたの。やっぱりお兄ちゃんくらいの年頃にはああいうのが必要だって」
何てこと聞くんだよ。脱力感を感じながら、俺は笑った。
「うん、まあ何とか我慢するよ。気持ち悪いんだろ?」
「……気持ち悪いって言うか、なんか嫌だったの。ごめんね」
オナニーを覚えてからはじめての禁欲を妹のためにすることになった。ムラムラしたら運動とか勉強で発散すればいいと思っていた。

「お兄ちゃん、何か食べたいものある」
冬休みの終わり頃、ビデオ屋で借りてきた洋画を居間で見ていると、夕飯の支度をしていた和世が訊いてきた。
「んー、別に」
「それ結構困るんだけど」
「じゃあ魚」
「はいはい魚ね」
仲直り以来、和世はとても機嫌が良かった。それを反映して、作る夕飯も手のかかった美味しいものになっていたため、本当に仲直りして良かったと思っていた。
とはいえ、若い俺には禁欲というのは中々に難行で、一週間も過ぎるとちょっとした事で勃起することがあった。
この時もそうだった。
洋画というのは半分を過ぎるあたりでよくわからんラブシーンが入ったりするのだが、丁度和世と話している時にそのシーンに突入してしまったのだ。
俺も和世も無言のまま気まずい時間が過ぎ、和世はそのまま夕食作りに入り、俺は洋画を見終えると、「夕飯の準備が出来たら呼んでね」と言ってすぐに自分の部屋に戻った。

俺の股間はすごい勢いで勃起していた。ベッドに寝転がり、静まるようにと念じたが静まらず、一発抜きたいという衝動に駆られていた。
「でも、もうしないって和世と約束したしなあ」
三十分ほど耐えたがやっぱりおさまらず、この状態で夕食に臨むくらいならと、一発抜くことにした。エロ本は大掃除で全滅したので、漫画雑誌の巻頭の水着グラビアをネタにした。
久々だったため一分もせず終わったのだが、終わったとたん「お兄ちゃん、ご飯できたよー」という声が階段を上る音とともに聞こえてきた。
一瞬で興奮も冷め、漫画雑誌をあわてて蒲団の間に押し込み、ズボンのベルトを締めるのと、部屋のドアが開くのはほぼ同時だった。
「お兄ちゃん? ご飯できたよ?」
「ああ、今行くって」
出来るだけ自然に振舞ったが、和世は何か感じたようでわずかに眉をひそませていた。

食事中和世は俺の目をのぞきこむようにじっと見てきた。見てくるだけで何も言わないので、俺の方が耐えられなくなってしまった。
「あの……何?」
「……お兄ちゃん、さっき何かしてた?」
「別に、何もしてないけど」
「本当に?」
「うん、寝てたよ」
「ふうん」
意外と追及が浅くて拍子抜けしたが、甘かった。
食事を終え部屋に戻ろうとした俺の後ろを、和世がついてきたのだ。
「和世?」
「お兄ちゃんの部屋には、私が先に入るから」
「え?」
和世は俺のわきをすり抜けて、俺の部屋に入ってしまった。

「おい、ちょっと待てよ!」
慌てて後を追った俺が見たのは、ベッドの辺りを探る和世だった。俺は和世の腕をつかんでやめさせようとした。
「おい! 何やってるんだよ?」
「家宅捜索」
「意味わからん。何でそんなことするんだよ!」
「さっき変な匂いがしたもの」
ぎくっとした。その瞬間和世は俺の腕を振り払い、蒲団の中から先ほどのグラビア写真がたれさがる雑誌をつかみ出していた。
「何これ?」
「……一応、漫画雑誌」
「ふうん」
とても冷たい返事だった。これは百パーセントばれてるなと思ったけど、さすがに認めるのも情けなかったので、あくまで存ぜぬを通そうとした。

「ほら、もういいだろ? 自分の部屋に戻れよ」
「これで何してたの?」
「何って、漫画読んでたんだよ」
「やらしい女の人がのってるけど」
「……お前、疑いすぎ」
「ふうん」
また冷たい返事をして、和世は雑誌をベッドに投げ捨てた。やっと出ていってくれるかと思ったら、今度は部屋の隅に直行して、置いてあったゴミ箱に手を入れた。
「お前、何やってんだ!?」
「……」
「おい、やめろ!」
今度はかなり強く腕をつかみ、やめさせた。何しろゴミ箱の中には、さっき捨てたばかりのアレのついたティッシュが入っているわけで。
「お前何考えてるんだよ!」
「何あせってるの? 何かまずいものでも捨ててるの?」
「……お前、ちょっとおかしいよ」

こいつ、なんでここまでやるんだよと、さすがに引いたと言うか、怖くなってしまった。
「何よ。嘘つこうとしたくせに。やっぱりさっき、あの写真見て変なことしてたんでしょ?」
「悪かったよ……」
何で俺はまた妹にこんなことで問い詰められてるんだろうと、情けなく思ったが、前みたいにこじれるよりかはいいだろうと思って、素直に謝ってしまった。しかし、返ってきた言葉は以前謝った時より格段に厳しいものだった。
「最低。下衆よ」
「げ、下衆って……」
「一度約束したのに。隠れてするなんて」
だって隠さないと怒るだろ、とは言えない。なんか和世の声が震えてきたように感じたので、慌ててフォローを始めた。
「いや、ごめん。もう、絶対二度としないから……」
「信じられるわけ無い。馬鹿。気持ち悪い……」
何と、馬鹿と口にした和世の目じりに涙まで見えて、俺はこれ以上無いほどあせってしまった。

「お、おい、泣くなよ。じゃあ、どうすれば許してくれる?」
「お兄ちゃんがもう二度と変な本読まなければ許してあげるわ」
「……でも、読まないって言っても信じられないんだろ」
うん、とうなずく和世。どうすればいいんだと途方にくれた。
俺がエロ本を――多分、和世にとっては水着写真ののっている本も全て範疇に入るだろう――を読まなければ許すが、しかし読まないと言ったところで信用できないと和世は言う。
「和世、それじゃどうにもならないんだけど……」
「お兄ちゃんが悪いんじゃない。無理なんだったら初めから約束なんてしなければ良かったのよ。一度した約束を破られる方がずっと辛いんだから」
だってあの時約束して仲直りしなかったら、お前ずっと部屋にこもっていただろ、ともさすがに言えなかった。
俺は押し黙ってしまった。あの喧嘩直後の、部屋にこもっていた時の和世の辛そうな顔が記憶に新しく、兄としてできれば和世の嫌がることはしたくなかった。

「あのさ、和世。エッチな本を見なければいいのか?」
「うん……」
「ええとさ、和世。兄ちゃんのやってたこと、その……」
「自慰? オナニー?」
「あ、ああ。知ってたのか……。そう、そのオ、オナニーなんだが、それ自体はかまわないのかな?」
「わからないわ」
「あのな、オナニーだけなら、別に本を見なくても出来るんだ。その、色々と頭に思い浮かべて……。これなら家の中に変な本を置くこともないし、和世も気持ち悪くならないんじゃないか?」

「女の人の裸とかを想像するの?」
「ああ、まあ、そうかな」
「それも嫌よ。気持ち悪い」
オナニーをするのに、妹にあれこれ確認を取っている自分。
その妹である和世は、とうとう嗚咽を漏らし始めた。
「和世……」
「何なんだろう、これ……すごいやな気分……」
和世は長い髪をからませた肩を落としたまま、部屋を出ていった。
その夜は遅くまで、隣の部屋から和世のか細い泣き声が聞こえていた。
繊細、潔癖な和世。しかしどうにもその夜の和世は何か崩れているような気がして、俺はよくわからないまま眠りについた。

「学校行きたくない」
冬休みも残り二日となった朝、朝食の席で和世がポツリと漏らした。父さんと母さんは大いに驚き、質問攻めにした。普段家にいる時間が少なくて面倒見れないから、余計に心配したのだろう。いじめられていないか何度も聞いていた。
「別に、学校で何かあるわけじゃないの。気持ちが悪いのよ」
「具合が悪いの? 今日お母さんと病院行く?」
「違う。家に誰かが入っている気がして嫌なの」
父さんも母さんもぽかんとしていた。
「大丈夫。家の中で休んでいれば治ると思うわ」
やはり仕事を休んで病院に連れて行こうとする母さんだったが、和世が笑顔で言うので、とりあえず何かあったら連絡するように言って仕事に出ていった。

俺も昨日の様子から和世が心配だったので、和世に本当に大丈夫かと聞いてみた。
「何が?」
「お前、昨日からなんか変だし。家に何か入ってるってどういうことだよ?」
「お兄ちゃんが、まだやらしい女の人連れ込んでるんじゃないかってこと」
どうやらエロ本のことを言っているのだとわかって、絶句してしまった。
「だから、家の中を見張っていたいの」
「お前……」
「今日は、お兄ちゃんの部屋、きちんと掃除するからね」
俺の漫画雑誌類は午前中で家の中から全て姿を消した。
和世の奇行はそれだけで止まらなかった。

午後になると、俺の部屋に椅子を持ち込み、部屋の隅においてちょこんと座っていた。何をするでもなく座っていた。
「和世……何してるの?」
「監視してるの」
「監視って……」
「気にしないでいいよ。いつも通りにしてて」
こうなったらもうやりたいようにやらせるかと思って放っておいた。冬休みの宿題がまだ残っていたので、机について勉強することにしたが、その間和世は何も言わず、ただじっと俺を見ていた。
たまに顔を和世の方に向けると、赤いワンピース姿で小首をかしげるようにした和世と目があって、目が合っても和世は全然表情が動かなくて、ちょっと怖かった。
等身大人形とかを愛好する奴の気持ちはよくわからんと、このとき改めて思ったりした。
実に四時間ほど勉強したが、和世は一言も発せず、椅子から立つこともなかった。

飯と風呂が終わった後も、和世はやってきた。やはり椅子に座って、見つめてきた。
「ただ座ってないで、ちょっと遊ばないか?」
プレステ2をすすめてみたら、少し考えて首を横に振った。
結局俺がベッドに入るまで、和世は椅子に座ったまま部屋を出なかった。
次の日、冬休み最終日だったが、和世は朝から俺の部屋にいた。今度はさすがに本を持参していたが、俺がちょっと動きを見せると視線を向けているのがわかった。トイレから戻ってきた時、腕時計をじっと見て、
「ちょっと遅かったね」
「そうか?」
「今度からついていこうかな」
と微笑んでいわれたのには、またぞっとさせられた。昨日に増して、怖かった。

「あのさ、お前がこの部屋に居たいっていうのなら俺はかまわないけど、お前は勉強とかしなくていいのか? 受験生だろ?」
さすがに怖さと和世を心配する気持ちとが高まって、言ってみたりもした。
「私普段から勉強しているから、大丈夫」
「……明日からの学校、本当に行かないのか?」
「学校に行ってる間に、お兄ちゃんがまた女の人連れ込むかもしれないから……」
「俺も昼間は学校なんだが」
「こっそり早引けしてくるかもしれないでしょ」
言ってることは滅茶苦茶なんだけど、鬱っぽく髪を揺らす仕草が可愛く感じて、ますます心配になってしまった。
「そんなこと絶対無いから、学校には行けよ」
「……お兄ちゃん、私に学校に行って欲しいの?」
「ああ」
「じゃあ、約束してくれる?」

約束の内容は簡単なものだった。一つは、朝家を出る時は俺の方が先に家を出る。もう一つは、俺は鍵を持たずに学校に行く、というものだった。
要は、和世が窓とか戸締りを確認し鍵も握ることで、俺が和世の居ない時に家に入れないようにするための約束だった。
「本当に具合が悪くなったりして早退するときには、中学に電話してくれればいいから」
ともあれ、和世は新学期もきちんと学校へと通うことになった。
和世が俺の部屋に椅子を持ってくる生活は、それからも変わることなく続いた。一週間もすると、初めから二人部屋だったんだと思うことにして、精神の負担を和らげた。
もはや家の中で、自分が一人になるときといったら、風呂とトイレの時くらいだったが、長風呂をした翌日そのうちの一つが崩された。
「お兄ちゃん、入るね」

バスタオルで前を隠してはいたが、それでも数年振りに見る妹の裸は、強烈な威力を持っていた。俺はこの時湯船につかっていたおかげで体の変化を見られることは無かったが、本当にやばくて身動きが取れなくなっていた。
「良かった。お兄ちゃん、何もしてないみたいだね」
「良かったって、和世……」
「昨日お風呂から出るの遅かったから、ちょっと心配になったの。疑ってたんじゃないんだけど……」
さすがにちょっと恥ずかしいのか、顔を赤らめて風呂場に入ってきた。俺は風呂から出ようにも、元気になってしまって出られなかった。こうまであからさまに妹に欲情すると、情けないと言うか、罪悪感がかなりあった。
「お兄ちゃん、私も湯船に入りたいんだけど」
「あ、ああ」

肩を並べて湯船に入ったが、湯船が狭いので普通に肌が触れて、非常に困った。なんかあそこもどんどん硬度を増してるみたいで、タオルをもって入ってなかった俺は、三角座りみたいにして足にはさんで必死に隠していた。
和世はひょいっと顔を覗き込んできて、
「お兄ちゃん、おっきくなってる」
とずばり言ってきた。もう俺は顔から火が出るという感じで、言葉も出せなかった。
今度は何を言われるのかと覚悟したが、和世は少し頬を赤くしたまま微笑んで、何も言わずに湯舟から上がっていった。
その夜和世が来たのは、俺がベッドに入ってからだった。
「お兄ちゃん?」
「和世……」
「電気つけなくていいよ」

起き上がろうとした俺を和世は蒲団の上から和世の手が押さえた。
和世は俺のベッドの脇に、俺を見下ろすようにして立っていた。
「私の裸でも大きくなるの?」
声が出せなかった。
和世は照れた様子など一切無く訊いてきた。
「さっきの、そうなんでしょ」
「……違う」
「じゃあ、さっきなんで大きくなったの? 私に欲情したからでしょう?」
「……妹に、欲情なんてしない」
「本当に?」
和世は、蒲団の上から手をどけると、何と、来ていたパジャマのボタンを一つ一つ外しはじめた。
「和世!?」
豆電球のオレンジ色の光の中で、ブラジャーに包まれた和世の胸がはっきりと見て取れた。

「和世、やめろ」
ようやく起きあがった俺だったが、和世に両肩をつかまれて動けなかった。すぐ目の前に、和世のはだけた胸があった。
「ほら、お兄ちゃん」
「……」
「触ってみて」
「馬鹿言うな……!」
和世の手をつかんで引き離そうとしたが、その手を逆につかまれ、和世の胸に押しつけられてしまった。ブラジャー越しとはいえ柔らかい感触。和世の鼓動と、肌にじんわりと浮かんだ汗が感じられた。
十六年間生きてきた中で、初めて触った異性の胸が妹の胸だった。そのあまりの生々しさに動転しているうちに、和世は俺にしなだれかかるようにして倒れ込んできた。
俺はベッドに押し倒されてしまい、異常なほど近くに和世の顔があった。和世はいつもの淡白な顔だったが、その息は荒くなっているのがわかった。
相変わらず俺の手は和世の胸に触れたまま。しかも、上から和世が覆い被さっているせいでさらにその柔らかい感触を確認することになった。
「和世……お前……ホント何考えてるんだよ……」
「お兄ちゃん、大きくなってるよ」
和世の左手が、蒲団を払い、俺の股間に触れていた。
自分でも、もう否定のしようがないほど勃起しているのがわかった。
「和世、どうして……」
「良かった……。私の場所があったのね」
和世は満面の笑みを浮かべていた。
俺はもうわけがわからず、妹にここまでされている自分が情けなくてしょうがなかった。
「ねえ、オナニーってこれでいいの? こするんだよね?」
「や、やめろ」
パジャマの上から俺のモノをこすり始める和世。ずっと和世がそばにいたせいで抜いていなかった俺にとって、あまりにも強い刺激だった。
「すごいわ。まだ硬くなるみたい」
「やめてくれ」
「お兄ちゃん、ちょっとこすりにくいから、ズボン脱いでね」
ようやく和世が俺の上からどいた。俺はすぐに蒲団で半分脱がされた下半身を隠した。
「和世、出ていってくれ……」
「早くズボン脱いで、ベッドに座って」
「和世、頼む」
「お兄ちゃん、私の胸でおちんちん大きくしたんだよ? 今更何言ってるの?」
和世の手が、俺のズボンとトランクスを脱がせていった。俺は抵抗らしい抵抗も出来なかった。
ズボンとトランクスを足首まで下げられた状態で、俺はベッドに腰掛けていた。両脚をわずかに広げられ、両脚の間、いきり立ったモノの前には、しゃがんだ和世の顔があった。
「本当にすごいね」
「和世、お前どうしちゃったんだよ。なんでこんな……お前、こんなの気持ち悪いって……」
和世はくすりと微笑んだ。

「私ね、心が狭いの」
「え?」
「お兄ちゃんの心に他の知らない女が入ってきてると思うと、気持ち悪かったの」
和世の手が俺のイチモツに触れられた。そのままゆっくりと手を上下し、こすりあげた。
気持ち良かった。今までにない気持ち良さだった。
ぎこちなかった手の動きは少しずつ速まり、ますます快感は高まっていった。
「お兄ちゃん、何か、すごく熱いよ」
「和世……」
先走りの汁が和世の手と俺のモノに絡みつき、部屋の中にちゅっちゅっと小さく粘着質な音が響いた。
和世が片方の手で俺の手をつかみ、再び胸に触れさせた。
「おっぱい触ってもいいから……私で気持ち良くなってよ」
和世の熱い吐息が俺のモノに吹きかかった。

「和世、駄目だ……離れて……」
「え?」
もう限界だった。目をつぶって歯を食いしばる。俺は和世の胸をぐっとつかみ、次の瞬間思いきり射精していた。
「きゃっ!」
小さな悲鳴。俺はぼんやりとした頭のまま目を開き、声の主を見た。
そこには、髪や鼻の頭、唇の端から俺の精液を垂らす、和世の姿があった。
「少し、口に入っちゃった」
「和世、ごめん……」
「何で謝るの?」
「こんなことさせて……」
和世は袖で口の精液をぬぐって、気にしないで、と笑った。

「私が必要だからやったことだもの。好きでやったことなのよ」
「お前、俺のこと好きなのか……?」
和世はちょっと当惑したようだった。
「……わからないわ」
長い髪がさらりと揺れた。
「私、心が狭いの。自分の居場所に、他の人が入ってくるのが大嫌いなの」
「よくわからないよ……」
「この家は私の居場所なのよ。私の部屋も。それにお兄ちゃんの心の中も。昔からそうなの。たとえ写真の女であろうと、混じってくるのが許せなくて気もち悪かったんだわ」
和世の声は、何かを確認するかのように重く、静かだった。
「やっぱり私、よほどの潔癖症みたいね。でも良かった。お兄ちゃんの中に、やっぱり私の居場所はあったんだもの」
その晩俺の蒲団で寝た和世の顔は本当に綺麗で、幸せそうな笑みを浮かべていた。

(◆dX1q2Eafrkさん 作)

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