「手を繋いで」第6節

蛇口をひねる。
熱いシャワーが胸に浴びせられ
もうもうと湯煙と立ち上がる。
飛沫がはねかかるくすぐったいような感触に
かすかに体が疼く。
気の早い体だ。
一人で始めてしまおうかと思ったが、思い直した。
楽しみは、喜びは
もうじきやってくるのだから。
それに、こうして待つのもいいものだ。
待っている人が
我慢しきれなくなって
入って来るのはわかっているから。
そのままお湯に打たれながら
ぼうっとこれまでのことを思い返す。
そう・・・あれから、もう一ヶ月が過ぎようとしていた。

あのとき
私は今から思えば驚くほど冷静に行動していた。
まず兄さんの手袋をはぎ取ると自分の手にはめ
郷原の体を探った。
堂本さんは、たまたま道で話をしただけで
私は彼の携帯の番号を知っているが、彼に私のは教えていない。
かけることもなかったから、私と彼を繋ぐ線はない。
問題は郷原だった。
兄さんと郷原の関係がわかるようなものは
全て処分しなければならなかった。
携帯電話を見つけた。多分、兄さんと何度も話している。
処分しなければ。
他にもあるかもしれないが
今出来るのはここまで。後は祈るしかない。
他にも、身分証明のような物はないか探ったが
クレジットカードや銀行のカードすらなかった。

ナイフを手にしたとき、兄さんは手袋をはめていた。
だから、ナイフには郷原の指紋しかない。
このナイフが堂本さんのお兄さんを刺した物なら
傷口が一致する。
堂本さんのお兄さんを刺したのも、郷原の仕業に見せることが出来る。
犯人を捜し回っていた堂本さんと郷原が鉢合わせをして
争って相打ちになった。そういうことになる。
私たちは・・・たまたま通りがかって
止めようとした兄さんが殴られた。
筋書きとしては悪くない。
後は救急車を呼ぶだけ。
問題は・・・警察に調べられる前に
この筋書きを兄さんにも覚えてもらわなければならないことだったのだが
兄さんの意識は戻らない。
それでも、兄さんの命には代えられない。
私は、自分の携帯に手を伸ばした・・・

「絵美・・・?・・・入るぞ」
あの夜の出来事を思い返し、ぼぅっとしている私に
兄さんが浴室のドアの向こうから声をかける。
いちいち聞いたり声をかけたりしなくてもいいのに。
まだ遠慮してるのね。
拒むわけがないのに。
曇りガラス越しに、兄さんの裸の体が写り
私の胸はときめく。
ほら、やっぱり待ちきれない。
でも、それは私も同じ。
太股に滴っているのは、もうお湯だけじゃなくなっている。
まだ触れられてもいないのに。
兄さんが、ゆっくりとドアを開け
少し照れたように苦笑いを浮かべて入ってくる。
浴室の明かりに照らされた兄さんの体。
すでに私を欲して、そそり立っていた。

兄さんを病院にかつぎ込んで数日。
医師の診断では危険な状態は過ぎてはいたが、眠ったままだった。
警察の事情聴取は一通り終わった。
郷原のことは・・・名前すら警察では把握できていなかった。
もちろん、兄さんとの関係も。
ほぼ私の筋書き通りに捜査は進み、一件落着。
後は・・・私と兄さんが黙っていさえすればいい。
なのに、兄さんは目覚めない。
一般の病室に移された後
私が見守る前で兄さんは眠り続けた。
不安に苛まれながら数日をすごしたある日
病院の売店に要りような物を買いに行って
戻ってみると・・・兄さんが目を覚ましていた。
思わずベッドに駆け寄る私を
兄さんがきょとんとした顔で見つめながらこう言った。
「あの・・・どちらさま・・・ですか?」

兄さんは記憶を失っていた。
私のような、自己暗示ではない。
脳に打撃を受けた事による、本当の記憶喪失。
全てを忘れていた。
好都合でもあり、残念でもあった。
どんな経緯で兄さんが殺し屋などになってしまったのか知らないが
その記憶がないならそのほうがいい。
でも
初めて私が母さんに連れられて兄さんに会った日のことも
母さんが父さんと再婚して、兄妹として一緒に暮らすようになったことも
二人きりの家族になって、私が兄さんの部屋で暮らし始めた日のことも
・・・初めて女として愛してくれた夜のことも
全部忘れているのは悲しかった。
でも、もう仕方がない。
だから今、こうしてまた、体を重ねる。
また・・・積み重ねる。

「んっ・・・」
顔を寄せ、そっと軽く口づけてから
しばらく互いの体を見つめ合う。
やがてどちらともなく体を寄せあい、抱きしめあう。
兄さんの手が私の腰に回され
私の腕が兄さんの首に回されると
あとはもう、お互いを貪るだけ。
「ぅんっ・・ふっ・・・」
唇を吸い、舌を絡めあう。
唇を奪ったまま、兄さんが固くなったモノを私のお腹に押しつける。
ゆっくりと腰を動かし、擦り付ける。
片足を前に出し、私の足を軽く押し開く。
逞しい太股に、私の芽が圧迫され、すりつぶされる。
「んぅ・・・ぅっ・・・ん・・・ふっ・・・」
じゅるじゅると、音を立てて唾液を吸いあいながら
二人でゆっくりと上がっていった。

退院した兄さんは、はじめは普通に兄妹として振る舞った。
血が繋がってはいないこと、すでに関係を持っていたことを説明しても
なかなか納得はしてくれなかった。
私を・・・女として、愛そうとはしてくれなかった。
でも、私は気づいていた。
それは、上辺だけ。
見知らぬ女性を、自分でもわからないまま愛してしまっていることへの、戸惑い。
まして、それが血は繋がらないと言われても妹なら、戸惑いもなおさらだろう。
私にはわかる。
記憶のない時の私もそうだったから。
兄さんも・・・記憶を失っても、私を愛している。
それは確信に近かった。
だから、少しずつ、私は距離を詰めていけばいい。
焦ることはなかった。
そして、兄さんと私が想いを遂げるのに
そう時間はかからなかった。

兄さんの前にしゃがむ。
腰をせり出した兄さんのそれが、私の前に突き出される。
くわえる。口いっぱいに。飲み込む。
口の中で舌先で転がし
ゆっくりと頭を動かしてすぼめた唇で幹をなぞっていく。
「う・・・」
呻く兄さんを上目遣いに見上げると
泣きそうなような顔になっていた。
「絵美・・・もう・・・」
口の中でどんどん張りつめていく兄さんを
名残惜しいけれど解放する。
私も、もう疼きを抑えられなかった。
立ち上がった私の太股を兄さんが抱え、いったん腰を落とす。
先端が・・・触れている。
もうずっと前から濡れていたから
手を添えるまでもなかった。

一瞬、見つめ合ったあと
兄さんが伸び上がる。
「う・・は、あっ!・・・ん・・・はぁ・・・っ・・・!」
ああ
押し分けてくる。入ってくる。満たされる。埋め尽くされる。
奥まで・・・
兄さんで・・・
いっぱい・・・
「絵美・・・」
兄さんが呼んでいる。
私を求めて、呼んでいる。
答える。
「あっ、あ・・・に、いぁぅっ!さ、は、あ、んあぁっ!・・・んぅっ!」
言葉にならない。
ただしがみつき、見つめ、唇を重ね、悶えた。
それが答えだった。

兄さんが私を半ば抱えたまま体を揺すり始める。
「ふ、あっ・・・あ、あ、ああっ!・・・んっ、は・・・あ・・・くぅっ!」
しがみつく私の体もガクガクと揺れる。
シャワーのお湯に濡れネズミになりながら
ばしゃばしゃと音を立てて揺れ動く二人。
兄さんがもう一方の足も抱え込む。
首にしがみつき、両足を兄さんの胴に絡ませた。
繋がったまま、抱っこされたかたち。
「う、ぐ、っ!・・・んんんっ!」
深い・・・私の体の奥まで、兄さんが犯してる・・・
お尻を鷲掴みにされ、持ち上げられ・・・
ズン、と落とされる。
「うはぁっ!あ、うあ、あっ!それ・・・あっ!や、深、いっ!のっ!」
また持ち上げられ、落とされる。
「んぅっ!く、ふぅっ!・・・も、うっ!それ・・・もっとっ!」
二人の動きはどんどん激しさを増していった。

再び二人が結ばれた夜
兄さんは私に言った。
「後悔しない?」
初めての夜と同じ問いかけに
なぜか私は嬉しくなって、笑った。
兄さんは、やっぱり兄さんだ。
記憶がなくてもいい。
愛してくれる。愛していける。
誰にも邪魔させない。誰にも渡さない。
私のものだ。私だけのものだ。
離さない。何があっても離さない。
繋いだこの手は
何者も分かつことは出来ない。
たとえ・・・兄さんが離そうとしても
私がずっと握りしめている。
いつまでも、どこまでも。

兄さんが動きをいったん止め、抱えた私の足をそっと離す。
繋がったまま、ゆっくりと、腰を下ろしていく。
抱きついている私も、腰を下ろす。
横たわる兄さんにまたがるようにして、もう一度・・・奥まで導く。
「あ・・・はぁっ・・・」
「う・・・」
呻きながら、悶えながら
二人で、一度降りかけた坂道をまた駆け上がっていく。
差し出された兄さんの手を取る。
大きくて、力強くて、暖かなその手を握り
私は腰を上下させる。
「はっ・・・はぁっ!・・・・にいさ、んっ・・・!気持ち・・・いい?ね、きも、ち・・・いいっ?」
答えるように、私の動きにあわせ兄さんが突き上げてきた。
「ふあぁっ!?ひ、あっ、あ、あ、んっ!あ、あ、ああ、あああ、あっ!!」
世界が、白く弾けていく中で
握りしめた手だけ、感覚が残っていた。

何度果てただろうか。
浴室で、リビングで、ベッドで。
そこら中に体液をまき散らし
何度も気が遠くなるほど放り上げられ
今はくたくたになって
兄さんのベッドで折り重なる。
幸せだ。
ひょっとすると、兄さんが記憶を失う前よりも
今の方が満たされているかもしれない。
それは、兄さんに私が妹だという遠慮がなくなっているからかもしれない。
愛されている。女として。
それが嬉しかった。幸せだった。
兄さんは・・・もう眠ってしまったようだ。
すーすーと寝息が聞こえる。
手を繋いで、私もまた眠りについた。
おやすみなさい・・・私の・・・兄さん。

夢の中

まだ少年の面影の兄さんが
幼い私に手を差し出す
私はおずおずとその手を握り
導かれて歩いていく
それは遠いあの日の記憶
それは私の原風景

歩いていくうちに何故か
二人は成長していって
大人の姿になっていく
だけど
繋いだ手は離れることなく

いつまでも、手を繋いだままで・・・

(完)

(Seena◆Rion/soCysさん 作)

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