列車の中で、ソレに出会った。
「だぁれぇがぁミジンコどチビかーっ!」
(ナニあのチビ、面白え!!)
錬金術と手品。
あなたは謎の手品師です。
トレイン・ジャック、なんて…ダッサイことする
連中が現れて、俺は読んでいた本を多少乱暴に閉じた。
(読書の邪魔、つーか邪魔。むしろ邪魔。)
…なもんで、いっちょ文句でもいってやろうかと思った矢先。
チビ、と言われて一人のガキが暴れだした。
文句を言う為に吸い込んでいた空気を吐き出して、
再び席に戻る。なんだ、読書よか面白そう!!
俺は、ワクワクしながらやつらの行動を見守る事にした。
テロ集団vsチビだなんて、どうあったって今後見れない
対戦カードにきまってる!!うわぁ、今日俺運勢サイコウ!
チビと鎧がどうやら2手にわかれて行動する、
という計画を話している時に、違う車両にいた
トレイン・ジャックの仲間が騒ぎに気付いて
俺達の車両にやってきた。
…運悪く、チビのほうがちょうど窓から身を乗り出して、
風圧と戦っている最中。鎧の方もチビを押さえてて
手が放せない。銃とかで撃っても…当たりそうにないけど、
こんなとこでコケてもらっちゃ俺が面白くないんでね。
「このチビと鎧野郎、何してやがんだ!」
「誰がチビでマメだてめえ殺すぞ!!」
「そこまで言われてないよ兄さん。」
「のんきにお話してんじゃねーよ!!」
まだあの2人とジャレてる男に、声をかけた。
「まあまあお兄さん、そうカッカすんなよ。」
「なんだテメエあいつらの仲間か?殺すぞ、座ってろ!」
興奮して、今度は俺に銃を突き付ける。が、それは好都合。
ポケットから商売用のデカいハンカチをとりだして、
銃にフワっとかぶせ。
予想外の行動に出た俺にあっけにとられて
銃を構えてるやつは身動きがとれないでいるのをしり目に一言。
「殺すって、あんた。コレで…?」
指をパチン!と鳴らしてから、ハンカチをとりはらうと、
男が持っていた銃は跡形もなく消え、代わりに手には
綺麗な花束が握られている。
よーしよし、今日も俺、絶好調じゃん!
「おっ俺の銃が!?」
そんで、もう一度指を鳴らすとあら不思議!
「あんたの探しもんは、コレかい?」
ハンカチがシュルっと消えて、俺の手には銃の重み。
見ろ。驚いたか俺の某プリンセスもビックリの手品!
しかも、俺これの使い方知ってるぞ。ウン、多分。
引き金引くだけで良いんだろ、ドレドレ。
ドン ドン ドン!
「ぎやあぁあぁぁぁあぁぁぁぁ!!!」
「ほー…引き金って案外軽いもんだな。」
見事に男の股ぐらにむけて発砲。いや、当ててないぞ。
だがヘタリ…と座り込んで、そいつは気を失った。
「…て…ワケなんで、いってらっしゃい〜。」
「……は……はあ…。」
「なんだアイツ…。」
鎧とチビまで呆然としていたが、俺がばいばいーと手を
ふってみせると自分達の目的を思い出して、動きだした。
さあ、俺を楽しませてくれよな!
+
さて、それからの俺なのだが、持っていた銃を適当に預けて、
鎧君のあとをついていく事にした。それがもう大正解。
面白いもんいっぱい見れて俺のテンションは最高にハイだ。
最後ちょっと逃げおくれて頭から水を激しくかぶったが、
そんなのも気にならんくらいユカイな気分。
目をキラキラさせてつったってたら、鎧君が気付いて
駆け寄ってきてくれた。
「わあ、お兄さんずぶぬれだね。ごめんなさい」
「おお、気にするなよ、鎧君!」
「よろ…あの、僕アルです、アルフォンス・エルリック。」
「えぇっエルリックって”あの”エルリック!?お前が!?」
「うーん…多分”その”、エルリックです。」
うひゃぁ!色々と有名なあのエルリック兄弟かよ。
どおりで面白いと思った!!
「じゃあのチビがエドワード・エルリック?」
「あ…それは兄さんの前で言わない方が…。」
「ああ、そういやさっきもキレてたな、禁句か。」
いやあ、いよいよ良い日だ。
有名人にも出会えるなんて、
今日はラッキーデイだな、うん!
「あの…ところでお兄さんは…?」
「あ!こりゃ失敬、俺、。」
「さん…。あの…さんは錬金術師なの?」
「違う。」
「でもさっき銃が……」
さっきって…さっきのあれか、いやだな鎧君たら。
「あれは手品だよ。俺はタダの大道芸人。」
「ああ、そうなんだ、すごいね!」
「錬金術のが凄いじゃん、まったく鎧君は!」
「あの…僕アル……」
「はっはっは!鎧君はかわいいなぁ!!!」
バシバシ!と人間と同じノリで鎧君の背中を叩いたら、
俺の手が真っ赤になった。や…やっぱ堅いな、鎧君…。
「ところで君の兄さん…どこいった?」
「あ、兄さんならそろそろ戻って…。」
といったところで、ガララ!と扉が開いた。
「あれ?アル、何してんだ?」
「あ、兄さん、この人さん。」
「んー?……ああ、さっき銃を花に変えたやつか。」
「初めまして、チ……エドワード君。」
「………いま何か言いかけたか…?」
「「いいえめっそうもない。」」
あぶないあぶない、危うくさっきのトレイン・ジャックさんと
同じ運命を辿るところだった…。チビは禁句、肝に命じよう。
鎧君まで一緒になって首ふってるのがユカイだが、まあいいや。
「お前達凄いな、2人で鎮圧しちゃうなんて。」
「ああ、こんなん慣れっこなんでな。」
「さんも手伝ってくれたじゃない。」
「俺はただに手品を見せびらかしただけよ。」
「ハハ、あんたおもしろいな。」
「兄さん!失礼だよ、あんたなんて…。」
「いいって!俺今日機嫌いいんだ!!」
そうこうして話に華がさいてる内に、特急列車は駅についた。
+
「さて、あとはここの軍部の仕事だけど…。」
「僕達はセントラルに向かうんです。さんは?」
「俺?俺はしがない芸人だからその辺で宿と……ふぁ…ふぇっくしょい!」
おお、ゴタゴタしてて忘れてたけど、俺ってずぶぬれだったんじゃ?
「さんカゼ引いちゃうよ、何か着替えを…」
「あ〜…ダメダメ、俺仕事用の衣装しか持ってないもん。」
つまりは、まあ…どハデな衣装だよ。…着たくねえって…。
「なんなら俺の服を……」
「いや、着れないと思う。」
「………………………。」
エルリック(兄)の申し出をきっぱり断ると、何だか微妙な顔をした。
まあ…間接的に「お前チビだから」って言ったようなもんか…。
「あ…ごめんええと…そう言うつもりじゃ…」
「いいって、分かってる。」
(あれま、意外に冷静じゃんか?)
(兄さんは直接チビって言われなきゃ大人しいですよ。)
(えっそうなんだ!へえ〜!!)
「お前ら聞こえてるッっての………」
しかし今度こそ暴れだしたエルリック(兄)は
弟の鎧君に羽交い締めにされ、
俺は何とかボコされるのを免れた。
遊んでいる内に、事後処理のための軍の方々が現れだし、
内の一人が、エルリック(兄)に親し気に話し掛けた。
「や、鋼の。」
「あれ 大佐こんにちは」
そんで、エルリック(兄)はものすげー嫌そうな顔をしている。
…わはは。なんかこれもまた面白い事になりそうだなぁ…。
「くぁー!大佐の管轄なら放っときゃよかった!」
「相変わらずつれないね……と。」
ここで、大佐って呼ばれてたっけな、大佐、が、
俺に向き直った。
「こちらは?」
「あ、この人はさんです、列車の中で手伝ってくれました。」
「ほう…?見たところ一般人のようだが…。」
「そのとおり、しがない一般人ですよ。」
「なにか武術でもたしなんでいたのかね?」
「いや。かわりに手品を少々、な、鎧君!!」
「ええ、おじさんの持っていた銃を花にかえちゃいました。」
「花に?」
じっと俺を見て、品定めしてるみたいな目だ。
や、お偉いさんなんだろうけど、どうやったかは企業秘密だな。
「手品のネタは明かしませんよ、俺これで喰ってるんだから。」
「ふむ…手品一つでテトリストに立ち向かうか、面白いじゃないか。」
「あ、だろ!珍しく大佐と意見があったな。」
「ほう。鋼のもこちらに興味があるとみたが。」
「オオアリだ!なあ、お前も一緒にセントラル来ないか?」
「ハァ!?」
…いやぁ……突飛な事いうなあ、こいつ……とか思ってたら。
「ああ、ぜひ来たまえ。列車内の事も事情聴取したいしな。」
「ついでに何か着替えとかもらえるかも知れませんよ、さん!」
ああぁ…なんか…俺そっちのけで話すすんでないか……?
「て、わけなんで、アル!」
「うん、兄さん!」
「えぇっええぇぇぇっ!?」
エルリック(兄)の合図で俺は鎧君に羽交い締めにされた。
あ…暴れようにも足が地面に届かん!!
「軍は恐いところではないよ君、さあ行こうか!」
「いやー!!ひとさらいー!!!!!!」
なんて俺が本気でヤバイ!と思いかけたところで。
(なんせ軍ってさ…なんか恐いジャンか…)
「うわぁ!」
「貴様…ぐわぁ!!!」
眼帯をしたオッサンがハッスルしまくってまた暴れ出したらしい。
左手のオートメイルからは、仕込みナイフが光っている。
「うわ…」
するとなんだか綺麗なお姉さんが現れて銃を構えた。
「大佐、お下がりくだ……」
というお姉さんを手で牽制し、大佐さんはこれでいい、と、
手袋をかざした。雄叫びをあげながら迫ってくる男に、
さっき俺がやったように、指をパキン!とならした。
すると、そこから炎が生み出され、男を包み込んだ。
男は吹っ飛んで取り押さえられる。
ふええ…これが錬金術ってやつなのか…でもなんか…
真似できそうな感じだなあ…アレと…アレつかって…うん。できるわ。
火力はあれには届かないだろうけど、よし、新しいネタできた。
この騒動で鎧君が俺から手を話したので、
俺はネタ帳に新たな手品をメモしておいた。そんで。
(今が逃げるチャンス!!)
遠くで大佐さんが「焔の錬金術師だ!」なんて言ってるのを見て、
俺は手荷物を抱えて走り出した。
「ああっ!さん!!」
「逃げやがった、アル捕まえろ!」
「はーい。」
うおぉ…デカい鎧に追いかけられるのってコエェ〜!
やっぱここは、一つイリュージョンで消えますか!!
「さて、おたちあい!!」
突然俺が立ち止まって声を張り上げた者だから、
そこにいた全員が俺を凝視する形になった。
やりにくいが…しょうがない。
トランクからまた大きな布を取り出すと、
前と後ろを見せながら、これはただの布でございます。
「エドワードに鎧君、なかなか面白かった、ありがとな!」
と言葉を残して、頭からすっぽりと布をかぶり…
「!!?」
ふわん…と布が落ち切るのと同時に、俺も姿を消した。
…簡単な脱出イリュージョンだが、あいつらの目を
欺くにはこんくらいでいいっしょ。
あいつらが驚いて布を取り上げてるころには、
俺は駅の改札を抜けて街へ飛び出していた。
いやあ、今日はほんとに面白い事があった。
さて、今日からこの街でお仕事だ、頑張れ、俺−!
終
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