「たかが風邪に何ゆえこのような仕打ちを…。」

思わず時代劇口調になってしまうのは許して欲しい。

な ぜ な ら !

「なんでベルトでベッドに固定するんじゃボケー!」

……身動きすらとれません……!!!
です…です…です…。



錬金術と手品3
あなたは謎の手品師です。




「これはアレか?一種の拷問なのか!?」

さんたら、すぐ逃げようとするんだもん。」

「しかも何回も脱走企てやがって、いい加減諦めろよ。」

「諦められるかー!!!!」


俺が軍部の医療施設に閉じ込められてから早1週間と1日。
最初はこんなベルトなんかなくて、鎧君が言うように
何回も脱走を企てた。

1回目は扉を出て外の空気を吸える所まで成功したが、
その後突然茂みから飛び出して来たエルリック兄に
錬金術でお縄になった。

2回目は扉付近まで逃げたは良いが、扉の前には
エルリック弟が立ちふさがっておりその場でお縄。

3回目以降は…なんかもう凄まじい事になっていた。

まず、俺が一歩でも病室から出れば 警 報 が 鳴 る。

俺は脱獄者かー!という叫びも空しく、音を聞き付けて
すっ飛んで来た俺の「主治医」とかいうのに問答無用で
何かの薬品を嗅がされて気付いたら病室に。

扉がダメなら窓だ!と、窓から脱出も試みたが、
窓の外に出て壁伝いにヨジヨジ動いていたら
病院の屋上から軍服を着た連中がなんかの映画の様に
ワイヤーを伝って降りて来てとっ捕まった。

その後窓には鉄格子がはめられ、ますます脱出困難に。

だがそんな事で諦める俺ではない!手先の器用さナメんなよ!
と、ドロボーさんも吃驚の技術でもって鉄格子を外し、
再び窓から、今度はシーツをやぶって地面まで届く梯子を作り、
ソーっと降りていった、ら、


「危ない真似はよしたまえ!」


と、思い出すのも寒々しい声が聞こえ、大佐に布梯子を燃やされた。


「危ないのはどっちだー!」


なんて叫びながらも、下からジワジワ迫ってくる火から逃げる為に
シャカシャカのぼり直して、病室へカム・バック。

窓は完全に見張られている上に、鉄格子を2重3重に仕掛けられ、
流石に窓はもうダメだと思ったので、警報がなろうがなんだろうが、
あの犯罪っぽい薬品を嗅がされる前に逃げちまえば良いと、


(1回目は警報にビビってる間に主治医が飛んで来た。)


扉を蹴破って猛ダッシュ。多分いつもの出口には鎧君がいるのだろうと
違う扉を見つけ、鍵がかかっていたがまたもドロボーさんも吃驚の
早さで錠破りをやってのけ、誰もいないのをササっと確認してから、
また猛ダッシュで5mほど離れた所に見える壁を目指した。

壁の高さはせいぜい2〜3m。

三段跳びの要領でやりゃ軽く超えられる、と、さらに加速して
壁に向かうが、ドン!と銃声が聞こえて俺の足下の地面がえぐれた。

… 狙 撃 手 D E A T H か … ?

これにはさすがの俺もマジでビビった。

だってふつう一般人に向かって実弾発砲する!?

腰を抜かして座り込んでいると、主治医、そしてエルリック兄弟が
すっ飛んで来て、やっぱり薬品を嗅がされて気がつけばベッドの中。
しかも、ベルトで全身固定の刑。


「入院して毎日欠かさず脱走するとはなー。」

「その根性とその他諸々は凄いと思うけど、諦めようよ…。」


諦められるか…!そもそも俺は金を稼ぐ為に上京して来たわけで、
こんな…こんな軍にとっつかまってしかもこんな仕打ちされて
誰が大人しく従うんだ?ああ!?


「…さん。怒ってる…?」

「怒ってないと思う?」

「……ううん。」


うん。鎧君はやっぱり素直だ。だが、俺の脱走は阻止してくる。


「まあどれだけ怒った所でこの状況は変わんねーけどな!」

「黙れエルリック兄!俺は絶対にこっから脱出するからな!」

「おお、やれるもんならやってみろやゴラ!!」


……くぅっ!人が縛られて動けないのを良い事に…
ベッドのパイプ思いっきり蹴っとばしやがった…。

エルリック兄が憎い…!チビって叫びたい!叫びたい…!!


「でも、本当に大人しくしてないと、治るものも治らないよ?」

「…普通こんだけ動き回れる奴を入院させるか…?」

「それはお前が怒り狂ってるからであって、体は健康じゃないぞ。」

「は!?何言ってんだ、俺はこの通り元気そのものだろうが!」

「だーかーら!感情が先立ってるからであって、それを覗けば
 お前は本来なら立ってられねえくらいの重病人なんだよ!」

「俺の何処がどう病気なのか200文字以内で説明してみろや!!!」

「肺炎。」

「…………………………はい?」


200文字どころか2文字で片付けやがった…。
しかもなに。肺炎って。


、お前、自分の体温がいま何度か知ってるか?」

「知らねえよ。」

「40度近くあるんだよ。」

「ハイ!?」


え、何。俺ってそんなに高温動物だっけ…?


「こうおんはこうおんでも、さんは恒温動物だよ。」

「いや…心の中のボケにツッコまんでくれ…。」


鎧君の天然パワーに負けて、俺はベルトが軋むほどに
力んでいた体の力を抜いた。…とたん。


「…おおぉ…何これ…視界が歪むどころか回転してる…。」

「…………だから言ったろ……。」


病は気から…ってのは…良く言ったもんで。
病名、そして俺の体温を知らされてはじめて、
俺は自分が 正真正銘の病気 なのだと理解する。

て、言うか…


「ウェ…気持ち悪っ!!」

「そりゃ肺炎であんだけ走り回りゃなぁ…。」


生きてるのが不思議なくらいだぞ、と言われた。うん…
いや、まあ…それもあるんだろうけど…何せ俺、今はじめて
世界が回転してる事に気付いたっていうか…これは、ヤバい。


「は…………」

「は?」

「吐く!!!!」


俺の言葉を聞いたエルリック兄弟は絶叫した。


「わー!!さん!!大丈夫!?」

「せっ洗面器!ていうか医者!ナースコールー!!」


大慌てでベルトを外して、嘔吐物が咽に詰まらないようにだろう、
俺を横向けにして、背中をさすってくれる鎧君。

だ…だが…やめてくれ…!
さすられるとよけいに、吐く…!!


「ヴェ…!!!」

「うわー!!さんが死んじゃうー!」

「落ち着けアル!そんな事で死ぬタマか!」


エルリック兄になんだか随分な事を言われた気がして、
焦点の定まらない目でエルリック兄を睨み付けたが、
エルリック兄も相当混乱しているらしい。

ナースコールって叫んでさっきから一生懸命押しているそれは。


「兄さん!それはテレビのリモコンだよ!!」

「何ィっ!!」


俺がこんなにも苦しんでいると言うのに、エルリック兄は
一生懸命テレビのチャンネルを変えていた。


「……ェ゙…ッ…う…ヴゥっ…!!!」

さん、ガマンしないで、吐いて良いから!」


片手で俺の背中をさすりながら、もう片方の手をヌっと
俺の前に差し出す。つまり、ココに吐け、と?


(フザけんな!吐けるか!!!)


汚いとか生理的に嫌だとかじゃなく、こんな状況ですら、
俺は鎧君の手に。例え鎧の手だったとしても。


(汚したくない…!!)


だって鎧君は純粋に俺の事を心配してくれてた、と、思う。
他の2人は知らんが、鎧君の気持ちは一番素直で心地良い。
だからこそ、コイツの手を、汚したくないと、強く思った。

咽までせりあがってくる異物を必死に押しとどめて、
おかげで息まで出来なくなる。ぐるんぐるん回る視界が
霞み、真っ暗になりかけた時、医者が扉を開けて入ってくる
足が見えた。


(ああ…エルリック兄…ナースコール押せたのか…。)


と、どこかマヌケな事を思いながら、俺は意識を失った。























「まったく、いい加減にしたまえ!」

「えっ何で俺怒られンの!?」


あの後。

気絶した俺は集中治療室に連れていかれたらしく、
点滴だー咽に詰まってる異物の吸引だー何だと
大騒ぎだったようだ。

だが幸い大事には至らず、目がさめたら、


(点滴の数が増えているけれども)


元の病室にベルト無しで寝かされていた。

目を覚ました俺に向かっての一番最初の言葉が、
さっきのアレ。


「どれだけの医療スタッフに迷惑をかけたと思うんだね、
 第一に君は自分自身の体の異常にも気付いていないとは!」

「…医療スタッフ以外の人たちも居ませんでしたか…。」


屋上から降って来た人達とか…放火魔とか…狙撃手とか…。


「と・に・か・く!!!」

「ハイ…。」


怒り冷めやらぬ主治医にこんこんとお説教をされ、
最低でも4日、絶対安静!!と仰せつかり、
とうとう俺も…諦める事にしました…。

だが、1週間いて、1日も欠かさず脱走した俺はとことん
信用を失っているらしく、主治医さんはさらなる死刑宣告を
俺に言い放って、出ていった。


「24時間!こちらのお2人に君を見張ってもらう!!」

「病室に泊まり込みの許可が降りたんだよ〜。」

「つーワケで、観念しろ。」

「エルリック・ブラザ〜〜〜ズ!!!」


思わずビブラートを効かせて叫ぶと、
エルリック兄に激しく頭をドツかれた。


「馬鹿野郎!絶対安静だっつわれたろ!?」

「絶対安静の重病人を殴るのか、兄!」

「テメーが大人しくしてりゃ殴るか!!!」

「言葉で済ませろよ、エルリック兄!!」

「黙らねえと猿ぐつわの刑だ。」

「………………………………。」


……エルリック兄の目が、本気とかいてマジだったので、
俺は素直に黙りました。しかし、只でさえ頭が痛いのに
そこを殴るなんてあんまりだ、兄…!!

すると、ひんやりと心地よい冷気が頭にあたる。
見れば、エルリック弟が氷のうを乗っけてくれていた。


「ごめんねさん、乱暴だけど、兄さんも凄く
 心配してるだけなんだよ。だってさんが気絶
 した時に、兄さんたら泣きそうになってたんだから。」

「アル!余計な事言うな!」

「ご、ごめん!?」


………え?この凶暴かつ残虐非道な子ザルが、
俺の事心配して泣きそうになったって…?



……な……ん……。





………なんだよ…ソレ……。






俺、鎧君はさておき、エルリック兄は、ただ単に
俺の事面白がってるだけで、心配なんか…してないって…。


(でも、そういえば俺が吐きそうになった時、取り乱してた…)

「……………。」

「…ンだよ…人を珍獣見るような目で見やがって…。」


ベッドに寝そべる俺を見下ろして、パっと見は、
ただ怒ってるようにしか見えない。でも、
なんだろ…どこかで…安心してる?…そんな風に、感じる。


(俺が、大人しくしてるから?)


…そう思えば、エルリック兄の気持ちもなんとなく伝わって来た。


(ああ…こいつも、俺の事、ただ心配してくれてるだけなんだ…。)


言動が、乱暴なだけで。


「………スマン。」

『…え!?』

「俺ちゃんと大人しくしてるよ。その…心配、かけて、
 ……ゴメン…エルリック兄と…エルリック弟……。」


と、人が素直に謝ったってえのに。


「どどどうしたのさん!?熱があがったの!?」

「素直に謝るなんて考えられねえ!お前絶対ヤバいぞ!?」

「………お前等ほんっとにムカつくなー。」


なんて言い返したものの、じつはそんなにムカついてない。
その証拠に、俺…笑っちゃってるし。


「もう脱走もしねえよ。エルリック・ブラザーズに
 おっかけられんのって結構恐かったしなー…。」


点滴のおかげか、吐いてスッキリしたのか、
俺自身にも余裕が出来たみたいだ。

冗談めかしてそういうと、しかし、
エルリック・ブラザーズは黙りこくった。

不思議に思って声をかけてみる。


「?……エルリック兄…?」

「………エドワード!!」

「は?」


帰って来た言葉、それは…兄、お前の名前だったっけ…。


「俺はエドワード・エルリックだ、いつまでも
 エルリック兄とかって呼んでんじゃねーよ。」


でもエドワードって長ったらしいからな。
エドでいい、と付け加えて、そっぽを向いてしまった。

まるで、スネた子供みたいに。


「僕も、鎧君とか、エルリック弟じゃなくって、
 アルフォンス。アルって呼んでよ、さん!」


ああ…また鎧君の背後にポヨポヨのお花が見える…。
で、兄は…あれ…ひょっとして…。


「……照れてんのか?エド?」

「誰が照れて……!!!!って……お前、今…!?」


からかえば、真っ赤になって振り返る。
さらに、俺が名前を呼んだ事に対して驚いた様だ。


「なんだ…実は結構素直な性格してんじゃんか、エド。」

「”実は”は余計だ!テメエ今すぐ猿ぐつわの刑にしてやる!」

「ぎゃー!!助けてアルー!!!!」

「わーい!!さんがようやく名前呼んでくれたー!」


今だポヨポヨのお花をさかせつつも、暴れ出したエルリック兄…
じゃ、なくって。

エド、を、後ろから羽交い締めにすると、
アルはそのままズルズル引きずって
病室の外まで追い出してしまった。

扉の向こうでは、エドが喚き散らしている。


!元気になったら覚えてろよ!!」

「君!ここは病院だよ、静かにしたまえ!」

「ギャアッ!ス…スイマセン……」


が、シッカリ怒られてやんの。


「キシシ…!やっぱ、面白れェ!!」


誰もいなくなった病室で、ケタケタ笑う。

……そして。


「エドに、アル…ね。」


…うん。

どうよ、俺。
何か色々あったけどさ。









――― 面白く、なってきたじゃんか…? ―――












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