今俺は必死になって逃げている。
誰からって?
このトシマ最強の
変 態 か ら で す よ !
破壊衝動
「どうした、何故逃げる。」
「何故もクソもあるか!おっかけてくんな!」
「俺には理由がある、お前を俺のもの…」
「黙れサディスト!変態!」
ある日の偶然。
その現場に居合わせたのが運の尽きだった。
シキだぁー!の言葉に、逃げ出さないものなどいない。
俺だって例外なくその場から立ち去るつもりだった。
だが、そんな逃げ惑う奴らを追いかけてきたシキに
あっけなく追いつかれ、日本刀を喉元に突きつけられた。
そこまではトシマではありきりな話だ。
俺は目を合わせるのも怖かったし、
何よりも死ぬのも怖かった。
だけどシキにあったらもれなく殺される。
短い人生だったなぁなんて遠い目をしていたら、
スッと日本刀が引いて、代わりに腕が伸びてきた。
そのまま何故か 抱 き し め ら れ
「今からお前は俺の所有物だ。」
と、突然濃厚なキスをかまされた。
意味が解らずそのまま固まっていると、口ん中に生ぬるい
感触がして、それが舌なんだと解ると思いっきりシキを
突き飛ばしてそのまま逃げたのである。
逃げられたのは幸いだったと思うが、その後が問題だった。
それまで、殆ど夜にしか姿を現さなかったシキだったのに、
何故か昼間まで出没するようになり、さらになぜか、俺を
目ざとく見つけては執拗に追い回してくるのである。
「なぜ俺の愛を受け入れない、容姿端麗、秀麗眉目。
さらには世界最強のこの俺の愛を受け取らないとは!」
「そんナルシスト全開な愛いりません!」
「ふっ。そう 照 れ る な 」
「照れてんじゃねえよ阿呆!!」
…そんなわけで、俺は毎日のようにブッ壊れシキ様に
追いかけられているのであった。
そもそも何故俺の居場所を目ざとく見つけてくるのか。
この広いトシマでシキに遭遇するのはレアモンスター並の
希少価値であるはずなのに。だが、そんな疑問もあっけなく
解消されることとなる。シキに殺されそうになる奴らが、
「の居場所を教えるから殺さないでくれー!」
と 命 乞 い を し て い る か ら 。
今、トシマの連中に見張られ、居場所はことごとく知られ、
生き延びた奴らも次の命乞いのために俺を見つけては
居場所をメモッちゃったりなんかしちゃったりしているのだ。
そんな奴らを自慢のトンファー捌きで伸す事数回。
だが、不特定多数の人間を一気に懲らしめる事など
出来るわけもなく、やはり俺はシキに見つけられ追いかけられる。
「っつーか、なんで俺なんだよ!」
「それは前世からの決まりだったのだろう」
「いやわけわかりません!会話してください!」
「愛の睦言ならいくらでも語ってやると言っている。」
「睦言なんざぜってぇごめんだ!俺は野郎と
モーニングコーヒー飲むような趣味はねえ!」
叫びながら逃げていると、突然腕を引かれる感覚。
しまった!捕まった!
と思うのももう遅い。シキが本気で俺を追いかけているなら、
もうとっくの昔に捕まっていたことだろう。ということは、俺との
追いかけっこを楽しんでいたとでも言うのか。
さながら、砂浜で「まてよ〜」「捕まえてごらんなさ〜い」の。
あんな感じで…?……うぎゃあ!鳥肌が!!!
とか考えてる間に、俺はシキによって壁に押さえつけられていた。
「男とモーニングコーヒーを飲む趣味はないといったな、
では女とモーニングコーヒーを飲んだ経験でもあるのか?」
「は?何いっちゃってんのこの人?」
よく見ると瞳に籠められた怒りが見える。
何、もしかして俺が女とモーニングコーヒーがどうとかとかいう
言葉に嫉妬して、追いかける速度をあげたってことですかい…?
「俺はノーマルなんだから女とセックス経験あったって良いだろうが!」
「許せんな。貴様は俺のものだ。女であろうが男であろうが、
の肌に触れても良いのは俺だけと決まっている。」
「だからそんな決まりいつから出来たんだっつーの!!」
「さっきも言ったが、前世からの…」
「この電波ボケ野郎ー!!!」
俺の渾身の突っ込みは、見事シキの眉間(人体の致命的急所に一つだ。)
にクリティカルヒットした。シキは多少恍惚の表情を浮かべながら、
その場に直立に昏倒した。
逃げるなら今がチャンス!
とばかりに俺はシキを、腹立ち紛れに
一発蹴りをいれてから速攻立ち去った。
それで殺意が芽生えるとか、眉間の一撃で理性を取り戻すとか
してくれたら、俺だってまだ救われたのかもしれないのだが…
「は強いな、この俺に一撃食らわすとは…ますます気に入ったぞ。」
と、ますます気に入られてしまったらしく。
やっぱり今日も今日とて、俺は必死になって逃げているのであった。
終
|