… 焔の啼く声 3 ―
と少し距離を置いて、アキラが立つ。
その距離はが指定したものであり、それ以上は
絶対に近づかないで。と強く念を押された。
「…いくよ…。」
そういうと、が右手に巻かれた黒い包帯に手をかける。
しゅるり、と解けるではなく、の手がそれに触れた瞬間、
バチン!と音を立てて一気に剥がれ落ちる。
露になったの右手の甲から肘にかけて、
真っ赤な、まるで薔薇の茨のような刺青が見えた。
と、同時に、そこから真紅の炎が舞い上がる。
「な…!?」
「…っ…!!!」
アキラは驚いて固まっている。はその炎が
怖いのか、涙を浮かべて目を閉じていた。
「これね、触れたものを全部、焼き尽くしちゃうんだ。」
「焼き尽くす…?」
「この力の所為で…僕は、初代の王だった…。」
「!!!」
の口から、の過去が明かされる。
刺青の放つ真紅の炎。その力は絶対で、王への挑戦者を
ことごとく焼き払った。…だが、そんな力を恐れていたは
ある日、ストレスから、王戦が終わったと同時に倒れてしまう。
1週間。
昏睡状態が続き、目が覚めてからも、アルビトロはその力、
そして容姿から、を手放す気などなく、『城』に
引きとめ続けた。
そんなを『城』から秘密裏に出してくれた人物がいた。
それが、グンジとキリヲだった。
グンジとキリヲは精神的に衰弱しきったを、自分達が
よくサボりに使う廃墟の一部へと寝かしつけると、こういったそうだ。
「ビトロにゃもったいねーっての。」
…と。
初代に王がいた事など初めて聞いた。今の王は連勝無敗のまさに王だと
聞いていたからだ。だが、がグンジ達の手によって『城』から
連れ出され、そのまま行方をくらましていたのであれば、アルビトロが
次期の王を見つけ出したか、あるいは名乗り出たのか…。
が嘘を言っているようには見えない。目の前で燃え盛る炎も
幻覚ではない。だとすれば、の話は真実。そして、その力に
怯えているというのも…また、真実。
「アキラも…僕のこと、バケモノだって思う…?」
が改めてアキラに向き合った。
「王戦に挑んできた人たちは、コレを見て僕のことをバケモノだといってた。
アキラも、僕のことをバケモノって思う?…それとも、、まだ…トモダチで
いて、くれる…?」
は怯えた表情を見せていた。
ここで拒絶して、この子はまたこの力の重みに耐え切れるのか。
そもそも、は自分はもう耐えられないといっていた。
この力に。
…孤独に…。
ならば、アキラはから離れる事もあるまいと決心する。
「…とりあえず、それをしまってくれ。」
「え…?」
「近づこうにも、近づけない。」
そういわれて、慌てて黒い包帯を拾い巻きつけると、炎は嘘のように
収まった。あの黒い包帯は、一種の制御装置なのだろう。
アキラは一歩ずつ近づく。が怯えないように、ゆっくりと。
そして、ぎゅう…と、力強く抱きしめた。
「これからも。トモダチでいてやる。だから、泣くな。」
「…っ!!」
溢れる涙を唇で拭う。右目、左目…。
「あ、アキラ…!!」
驚いて、されるがままになっている。だが、そんな接触になれていない
は、顔を真っ赤にしてアキラを押し返した。そして、自分の手で
もう一度涙を拭うと、真っ直ぐにアキラを見つめなおす。
「が望んだわけじゃ、無いんだろう?」
「え…?」
「その、炎も、力も。」
「…うん…。」
そうだ、望んだわけではない、これは埋め込まれたもの。
ある、一人の科学者が、たった一つの願いを込めて。
「はだ。今は、それ以外の何者でもない。違うか?」
「アキラ…」
「俺は…それで良いと思う。」
アキラの言葉にの目に再び涙が溢れ出す。
ぼろぼろと零れるそれに、アキラは驚いてしまう。
「な、なんで泣くんだ!」
だが、その涙は悲しみによるものではなかった。
「だって…そんな事言ってくれたの、アキラが初めてなんだもん…」
はじめてなんだもんー!!と、また泣き出したに、
アキラは複雑な思いを抱いた。こんなにも純粋な存在に、
なぜ、このような巨大すぎる力が与えられているのか…。
「とにかく、戻ろう…。」
「…うん…。」
アキラはそっとの手を握る。それにビクンと反応をしたものの、
振り切ったりはしない。キュ、と弱めに握り返され、改めてその手の
小ささに、アキラはますます複雑な思いに駆られた。
+
「あっ!アキラ!!」
ホテルに帰ると、リンがソファーのところで蹲っていた。汗を流している
ところをみると、本当に必死になってを探していたのだと解る。
「良かったもー!すっごい心配したんだからね!!」
「ご、ごめんなさい…。」
リンに怒鳴られ、それでも以前のようにアキラの後ろに隠れる事は無い。
心配してもらえたのが純粋に嬉しいのか、謝りつつもその表情は明るい。
そこでふとアキラが周りを見渡して。
「…リン、ケイスケは?」
「まだみたいだよ、俺も今ココについたばっかだし。」
「ケイスケ…」
がケイスケの名を口にした途端、の右手が強く脈打った。
― ド ク ン … !
の体が大きく跳ねる。頭に、ある男の”声”が響く。
悪 魔 ノ 血 ガ 、 生 マ レ ル …
その”声”を聞くやいなや、はホテルから飛び出していった。
既に遠くから、リンやアキラが名を呼ぶが、にはもはや
聞こえていない。右手の導くままに、トシマの街を駆け抜けた。
続。
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