… 焔の啼く声 4 ―




足元に転がる、アンプル。

  ライン。

ケイスケはソレを見つけて、全身が震えているのが解った。


  これを飲めば、強く、なれる…
  アキラも守れる…力…。


を探しているうちに、どうしても気になって入ってしまった、
あの喫茶店。中に誰もいない事を確認すると、すぐに立ち去る
予定だった。だが、日の光に反射して輝くものを見つけたとき、
足が止まってしまう。


駄目だ、こんなものを使って強くなっても、アキラは喜ばない。


そうとは解っていても、トシマへ来てからというもの、己の不甲斐なさに
絶望しかけていたケイスケには、それが天の恵みのように思えた。


アンプルの口を折り、ラインを口に含もうとした、瞬間。


「ケイスケ!!!」

「っ!!?」


突然名前を呼ばれて、驚いた拍子にアンプルが手から滑り落ち、
床に散らばる。だが、それを残念に思う事も、もう無い。


  今、俺は何をしようと…!?


とっさに名前を呼ばれた方を振り返ると、どうやってここに辿りついたのか、
入り口のところでが荒い息をしながら、倒れる寸前までずり落ちて
いる姿が目に入った。

もはやラインの事など頭からぬけて、すぐさまの元へと駆け寄る。


!」


崩れ落ちた細い体を支えると、信じられないほどに熱を帯びているのが解る。


「やばいよ、これ…熱すぎる…!」

「…ライン、のんで…ない…?」

「!」

ぐったりとしたから「ライン」の言葉をきいて、
ケイスケの体が大きく反応したが、今はそれどころではない。


「真っ青じゃないか、ていうか、何処にいたんだ、
 みんなで探してたんだぞ?こんな熱まで…!」

「ケイスケ、ライン、飲んでないよね…?」


しかしの口からは再度同じ事が呟かれる。


「ケイスケ、はそんなのなくっても強い…から、
 あんな悪魔の血、飲んじゃ…だ・め…だよ…」

「悪魔の血……?……っ!!」


はそれだけ言うと、意識を失う。


!た、大変だ、早く…アキラのところに戻らないと…!」


ケイスケはグッタリとして動かないを抱き上げ、
ラインには一瞥もくれずにそこを後にした。


(熱い、熱すぎる、この高熱、何なんだよ……!)


ケイスケはを抱えて、自分の出来る限りの速さでホテルへと戻った。





















  ム シ バ マ レ ル

  右 ノ 手  左 ノ 手 。

  コ コ ロ モ  カ ラ ダ モ 。


  総 て を 焼 き 尽 く す 

  浄 化 の 炎 … !



(ああ。またこの夢。)

(知ってる、全部、焼き払ってきた。)

(人も、殺してきた。)

(蝕まれる。心も、体も…)

(怖い…怖い、怖い怖い…!!!)


それは、が毎日見る悪夢だった。

不特定多数の声が聞こえてくる。

呪い子、忌み子… ヒ ト ゴ ロ シ 。


真っ暗な空間の中で一人ぼっち。

呪いの言葉を聞きながら、涙で濡れて目を覚ます。


だが、今日の夢は少し違っていた。

突然、真っ白の光がを包み込む。


そうして、優しい声が聞こえてきた…。


『怖くないわ。

『さあ、思い出して…』

『あなたのソレは、』


  光 よ 。





「………!!」


余りにも優しい声、どこかで聞いたことのある声…?
それに導かれるように、目を覚ます。

力を解放した後必ず見る夢。けれど、今まであんな優しい声は
夢でも聞いたことが無かった。…記憶の帯が、解けかけて来る。


  光、ひかり…浄化の炎…

  あの声、あの、優しい声…

  ライン…らいん…?


「!!…っケイスケ!!」


は飛び起きるが、足に力が入らずにへたりこむ。
だが、確認しないわけにはいかない。あの、悪魔の血を、
ケイスケが…あの優しいケイスケが、飲んでしまっていないか…!
















が目を覚ますより早くから、リンのケイスケ責めが始まっていた。


「もーっ!ラインに手を出そうとした!?バカ!ほんっとバカ!」

「ごめん…」

「ごめんで済んだら殺人事件なんか起こらないってーの!
 しっかもにあんな高熱出させちゃってさ、
 何かあったらケイスケの事、本気で殺しちゃうからね!?」

「ほ、ホント、ごめん…」


アキラはただ様子を見守っていた。ケイスケがラインを使おうとした事も
ショックだったが、ケイスケに抱えられて戻ってきたが、高熱を
出して意識不明だったというのが気になってしょうがなかった。


(あの力の所為なのか…。)


その答えは、誰にもわからない。…そこへ。


― ち り ん 。


と、澄んだ音色が響き渡る。リンの言葉責めが一瞬にして終わり、
ベッドへと続いていた階段のほうへと全員が顔を向けると、
まだふらふらと所在なさ気に立っているの姿があった。


!!目、覚めたんだ、よかった!!」


なんとか壁に手を付き、体を支えているような状態で。それでも、
の視線はケイスケに向けられている。不安げな瞳が。


「ケイ…ス…ケ?」

「あ…うん…?」


それにオロオロと返事を返すと、は安心したようにフワリと微笑んだ。


「よかった…僕の知ってる、ケイスケ、だ…」


それでようやく安心したのか、再び体の力が抜ける
それをリンがいち早く察知して支える。


「ちょっ無理すんなよ、まだこんなに熱あんじゃん!」

「ごめ…ん…でも、怖かった、から…」

「バカケイスケならあの通りだよ、ほらベッドに戻ろ?」


バカと言われてケイスケがますます落ち込むが、が笑ってくれた事が
せめてもの救いになったのか、どん底までは落ち込まずに済んだようだ。

アキラが立ち上がり、を支えるリンからその体を抱き上げると、
リンと共に寝室のあるところへと消えていく。少し振り返って、


「ケイスケ、馬鹿な真似は今後一切するなよ。」


と、アキラにまでそういわれ、今度こそケイスケは落ち込んだ。






続。



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