… 焔の啼く声 6 ―




「いつになったら呼んで貰えんのかってドキドキしちったー」

よォ、もー心は決まったってか?」


トン、トン、と鉄パイプを肩で遊ばせながらキリヲが問う。
音もなく頷かれたのをみて、処刑人達がにやりと笑った。

その後に続いてアルビトロまで現れ、


「おっお前達何をしているのだね!勝手な行動は許さん!」


相変わらずのヒステリーを起こしているようだ。

アキラは思わず耳を塞ぎたくなった。

…この男、人を不快にさせる特殊能力
でも持っているとでも言うのか。

とにもかくにもやかましいアルビトロに向かい、グンジが
べーと舌を出してからかってみせる。


「超ウッセー、ビト子。」

「ビト…!?主人に向かってなんて口の聞き方を!」

「何言ってんだお前、俺らのご主人様は
 お前なんかじゃねーんだよ変態仮面。」

「キリヲ!?」


何かと手に負えない処刑人たちではあったが、それでもまだ
言うことはそこそこ聞くし、仕事もなんだかんだでやってのける。

アルビトロにとってはグンジ、キリヲの両名はたんなる自分の
手ごまに過ぎない。…そうなのだと、思い込んでいた。

しかし今現在においてそれらは本当に”思い込み”でしか
なかったのだと思わざるを得ない状況に陥っている。

を中心に、グンジとキリヲが側に立つ。

自分達の本当の 主人 は、このなのだと。


「ど、どういうことだ、説明しなさい!」

「せつめー?だって俺らはちゃんが初めて城に
 来た時から俺らのご主人様はちゃんなんだ
 ってビビビッときちゃったんだよな。なー、ジジ?」

「あー、そーゆーこった。アンタのとこで狂犬ごっこも
 楽しかったがな、の決心が付いたなら
 俺達はそれについていくって誓いをたててたって訳だ」

「何を訳の分からないことを…!」

「アルビトロ、うるさい。」


半パニックを起こしているアルビトロに向かって、
一括した。それによって、処刑人2人の目つきがかわる。


「うるさい、だってよ、殺るか。」

「賛〜成〜。」


手に手に己の獲物を構え、アルビトロに近づいていく2人。
それはアルビトロが今まで見たことも無いような表情をした
2匹の獣だった。

狂気、狂喜、狂悦。

アルビトロを守るために前に出てきた警備員をまるで
布切れのように引き裂き、ポップコーンのように弾き飛ばし
もともと血で染まっていたバーはさらに死の色を濃くした。

アルビトロは言葉も失いその場にへたり込んでしまう。


「ビト子ちゃんよ、俺らがなんでアンタじゃなく
 魅かれたか分かるかよ?…わかんねーだろーなぁ…」

「ひ、ひぃ…!」


キリヲが綺麗に整えられたアルビトロの髪をつかみ、
上を向かせる。その首筋に、血がこびりついて
紅く光る鉄パイプをちらつかせると、アルビトロはさらに
恐怖に戦いた。


「まずはぁ、強さだ。バケモノじみた強さ。」

「あとは見た目ー。ビト子よか断然カワイーしなー」


グンジはアルビトロの側近達を切り裂いた後、すぐさま
の側まで戻り、後ろから抱きかかえて
頭にあごを乗せてニヤニヤと笑っている。


「そっそんな理由で私を裏切るというのかね!?
 そんなに美少年がよければ特別に私のコレク…」

「気色わりぃ趣味でぶっ壊れた餓鬼なんかいるか」

「つ、強いのが良ければあとで調教すれば…」

「だぁら、それが気色わりぃってんだよ、阿呆が。」


コン、と鉄パイプをビトロの頭にぶつけると、さして痛くも
ないであろう衝撃だったはずなのに、アルビトロは恐怖
も相まってたまらず失禁してしまっていた。


「まぁ、お前にゃ飽きたし、が行くっつーんだから
 俺らもそれについていくってだけの話だ。簡単だろ?」


髪の毛をつかまれたまま至近距離から瞳を覗き込まれ
アルビトロは本気で失神してしまいそうになっていた。


助けを、誰か助けを。

誰でもいい、ここから、

こいつらから、自分を遠ざけてくれるもの。

もしくは、自分を安心させてくれるもの…


アルビトロの中に渦巻く狂気が頂点に達しようとしたその時、
あの自分によって作り上げた、最高傑作のことを思い出す。


「そっそうだ、カウ、カウはどうしたのだね、カウ、カウ!!」


がくがくと震える体を自らの手で押さえつけ、最愛の玩具の
名を叫び続ける。もはや威厳など微塵もない姿は、
哀れとしか言いようがない。


「カウ…カウー……」


蹲り、頭を抑え、震える声で何度もそれを呼び続ける。

と、バーの階段の上の方から、何かの物音がした。


「カウ!?」


アルビトロはばっと顔を上げその存在を確かめようとする。

しばらく話し声のようなものがくぐもって聞こえ、何事かと
事態の展開を待つ面々。その後声が途切れたかと思えば、
ドタドタガターン!となんとも派手な音がし、そしてそこに
現れたのは…


「カッ…カウ!!!」


…と、もう一人。


「あ…れ?ええと…皆さんおそろいで…?」

「ケイスケ!?」


アキラが驚いて声をあげると、その声に驚いたケイスケが
また派手に転んだ。…転んだ拍子に床についた手が、
何かぬるりとしたものを触る。

それが血液であると分かった瞬間に立ち上がり両手を
ふるって必死に血を払い落とす。それを最後まで見届けて、
カウがへたっているアルビトロの元へと向かう。


「ああ愛しいカウ、お前だけは私を裏切って…。」


くれるなよ、といいたかったが、残念ながらそうは行かなかった。

カウは確かにアルビトロの方向へと向かった。

だが、目標はもう少し手前にあった。



の側まで来て匂いを確かめるように何度も
鼻を鳴らし、そして口角をゆるりとつりあげ、心なしか
優しげな笑顔をうかべた。


「カウ!?」


狂犬2匹に裏切られた直後に、カウにまで裏切られる。

ぽかーんと口をあけたままのアルビトロを見て、キリヲが
カウの行動に付け足すように説明する。


「ビトロは知らなかったんだろぉけどな、タマは
 惚れてんだよ。毎日新しいお花くわえて持ってきてたぜ」

「なっなんだと!?」


そう、アルビトロはまったくもって知らなかったのだが、カウは
城に飾られている、とても良い匂いのする”花”、一番甘い
香りのするものを選りすぐってはそっと花瓶から盗み取り、
イル・レ戦が終わって帰ってくるに渡していた。

顔など見えるわけでもないのだが、カウがおこすそんな行動
は少なからず癒されていた。…ストレスで倒れた
あの日には、カウがの側を離れたがらずに処刑人
達は随分と苦労させられたことを思い出す。


「カウ、ケイスケ連れてきてくれたんだね、ありがとう。」


甘えるように抱きついてくるカウの頭をそっとなでて、
もう一度、アキラを見据えた。


「アキラ、もう行って。僕にはまだ、仕事が残ってる。」

「仕事って…」


アキラが思わず手を伸ばしかけたが、それはキリヲの鉄パイプ
によってさえぎられた。無言で、「行け。」、そういっている。

きっと、アキラたちがこれ以上ここにいても何にもならない
のだろう…アキラはリンを抱きかかえ、ケイスケには猛を
任せ、眼で合図を送った。


「…カウ、いいね。あそこに皆を案内して。いい子だね。」


名残惜しそうにから離れるカウ。

そして、階段に向かうと、アキラたちの方を向いて立ち止まる。

”ついておいで。”

そういわれた気がして、アキラとケイスケはカウの後を追った。



















アキラたちが中立地帯だったバーから出て行って、もはや
何もいえない放心状態になってしまったアルビトロを見て。


「なーコイツもーいらねーべ?」

「あぁ、用済みって奴だな。」

「殺さねーぇの?」

に聞きな。」

ちゃんどーすんのこれー」


グンジにそう聞かれ、アルビトロの様子を見て暫く考えた後、


「…2人の好きにしていいよ。僕は外で待ってる。」

「…だぁってよ。ばいばーい、ビト子ちゃん。」

「顔は最後まで残しとけよ、おもしれーから。」

「ひゃはは!ジジ悪趣味ぃ〜!」


(2人とも趣味が悪い。)


そう考えつつも、あれを生かしておいても何にもならない
のだろう。どうせもうじき軍隊がやってくるのだ、ならば
結果は同じこと。

それでも、数十分。

やっと階段を上ってきたグンジたちに一瞥をくれると、
は特に何も言わずに走り出した。

もはや隠すものなど何もない、右手と左手の刺青。
…刺青という名の、プログラム。

自分の意思で封印してきた。だが今は、自分の意思で
開放している。一人の人間には過ぎた能力。抑えて
おけばある一定のところで紋様は動きを止める。だが、
今は開放しっぱなしである。

…刺青が本来の姿に戻りつつあった。


それは薔薇の茨のような紋様。

茨がの体内を蝕み、急速に成長する。

手の甲から、肩口まで。肩口から…右頬へ。

薔薇が、燃え盛る炎のような紋を象った。






続。



+後記+

私の中のビトロ様は失禁キャラ。(すんません。)

+ブラウザバック推奨+

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