「あるばいとぉー?」

「そう、アルバイト。」

「なんでンなもん行くんだ?」


グンジの疑問は、正しかった。



共の血 〜番外編〜




アキラを始めとする咎狗の血の面々がの家に転がり
込んで早2週間。5日間行方不明だったこともあって警察や
なんやらへの事情聴取、バイト先の心遣いもあって2週間は
家ですごしていたのだが、流石にそろそろ行かないと
自身がバイトでの様々な作業を忘れてしまう。

…悲しいかな、忘れてしまう子であった。

だが、の家が貧しいかといえばそれも違う。
どちらかというと…まあ…ぶっちゃけ、金持ちである。


セレブである。


ブルジョアである。


決してうらやましくなどない。


咎狗メンバーが転がり込んでも部屋が余っていたために
彼らが一人一部屋ずつ使わせてもらえるようになるくらいだ。


…うらやましくなどない。


そんなわけで、冒頭のグンジの疑問へとなる。


「別に働かなくても金なんて余ってるんじゃないのか?」


グンジについで源泉も疑問を口にする。
うーん、そうなんだけどね。と苦笑する


「なんていうか…やっぱ一応長男だし、いざって時は
 大切な人のために働くことの大切さを知っておこう
 と思って。まあ今は、最低限自分の小遣いくらい。」

「ほー。そりゃ感心だ。」


それで源泉は納得したようだったが、グンジは頬を膨らませて
ご機嫌斜め。今がよければ全てよしな性格が前面に出ている。


「金があるのに金稼ぎにいくのかよ、それってなんか変だべ?」

「いや別に変じゃないけど…」

「変だ変だへんだー!!!」

「そう言われても…。」


子供のように地団太を踏んでむくれる。が困り果てて
いると、グンジの頭を突然衝撃が襲った。もちろん、グンジの
わがままに付き合いきれなくなったキリヲがミツコさんで殴った
のである。


「チビちゃんが行くつってんだから快く送り出してやろうや、あぁ?」

「っでぇー!うっせクソジジィ!俺はちゃんと遊びてーの!
 そりゃもうちゃんがあるばいとなんか忘れちまうくれー
 すんげー遊びをしたいんだよ!つーか犯りてーんだよボケ!」

「ボケはお前ぇだ!」


ゴツンッ!!!と、また凄い音がした。

今度こそ撃沈したグンジを鼻で笑って、キリヲがに近づき
頭を優しく叩く。優しくとはいえキリヲからなので多少は痛いが。


「アホのこたぁほっとけ。行ってこいや。」

「う…うん…。」


はフローリングに撃沈しているグンジを気にしつつも、
復帰直後に遅刻はさすがにまずいとカバンを引っつかみ
出て行った。





























が出て行ってから、咎狗メンバーは思い思いの場所で
時間を浪費していた。ナノはの母と気があったのか、
お茶をすすりつつ談話している。ナノが談笑。ありえない。

だが、

時折嬉しそうに目を細めての母の言葉を聞いている
所を見ると、談笑としか言いようがない。まあ大方その内容
についての事で、自分の知らないの一面を
教えてもらっているのが嬉しいのだろうが。

源泉は煙草を吸おうとして母にしかられ、現在は
大人しく換気扇の下で一人でプカプカやっている。

ケイスケ、アキラはただ世話になるのも気が引けると、台所で
洗い物のお手伝い。…何枚か皿かコップが割れた音もしたが、
真っ青になって謝るケイスケとアキラに母はにっこりと笑い
「怪我はなかった?」と2人の頭をなでた。

が底なしに優しい雰囲気を持っているのは、この母
にしてこそなのだなぁと、妙に感心したりして。

リンはその割れた食器の後片付けをしている。そんなこと
しないでくつろいでくれていていいのよ。と母は言うが、やはり
無償でお世話になっているのは…微妙に居心地が悪い。

の母としては、大切な息子を5日間も守って世話を
してくれたのだから、できる限りのもてなしで、いられるだけ
居てくれれば言いと思っているのだが、常識を持った面々には
心からくつろぐということは出来なかった。

…で。

そんなことはおかまいなしなのが、グンジ、キリヲ、シキ、ナノ。

ナノは日がな1日ぽーっとしているか、の側に張り付く
くらいなのでまだいい。問題なのは、処刑人、シキだった。

ちなみに、カウはのベッドが気に入ったのかまだ起きて
こない。さすがに夜、が休む時はベッドから追い出される。


さて、問題の処刑人だが、今日のところはまあまあ静かに
すごせそうだ。なにせ、グンジがノビている。キリヲも源泉が
換気扇からどいた頃をみて今度は自分がぷかぷかと紫煙を
吐き出した。

普段は、隙あらばにちょっかいをかけようとする
グンジをミツコさんでお仕置きする役目に収まっている。

シキはというと…に所有の証をいつどのように着けるか。
その日取りは。時間帯は。やはり夜中に部屋に忍びこんで
さるぐつわで口を塞ぎ手も縛って衣服を少しずつ剥ぎ取り
そしてヘソのすこし下あたりにこのピアスをフフフフフフフ…

とかいうのを和室の縁側に座り、
真顔で刀の手入れをしながら考えている。

はっきりいってものすごく怖い。

だがそんな妄想が声に出たり顔に出たりしないあたりが流石に
シキか。見た目はかっこいいを通り越して美麗なので、刀は
さておき、通りすがりのセレブリティ・マダムたちを魅惑している。


そんなこんなでやっぱり時間は浪費されていき、完全にノビて
いたグンジが覚醒したのは夜に入りかけの時間帯だった。


「んぁ。あー…あえ?」

「どぉしたよ」

「んー?は?」

「あら?そういえばまだ帰ってこないわね。」


夕飯の準備を始めていたの母がエプロンで手を拭き
ながら台所から顔を覗かせる。時間は6時半。決して遅い
わけでもないが、バイトは5時で終わっているはずだ。


「何してるのかしら?あの子ったら携帯もってないから…。」





この時代にそんなジーザス。




しかし母の言うとおり、は携帯を持っていなかった。

…いや、持ってはいる。が、


『使い方わかんない。』


といって、自室で延々と充電されたままなのである。


「あーっママ!俺迎えに行く!」

「あらそう?じゃあ、お願いしてもいいかしら。」


スルーっとスルーされたが、グンジはの母のことを
なれなれしくも「ママ」と呼んでいた。理由はこうだ。


と俺がケッコンすりゃのママは俺のママ!』


だ、そうな。ちなみに父のことも「パパ」と呼んでいる。
まあ、そんなこんなで、少し帰りが遅いと心配していた母の
願いもあり、グンジは意気揚々と家を出て行った。


「あいつ…のバイト先知ってんのか…?」


ぽかーんと口をあけて見守る源泉の横を何かがするりと
通り抜けた。あの目立ちすぎつ衣装は早々に捨てられ、
着心地の良いゆったりとしたいでたちになっているカウだった。

この2週間でなんとか2足歩行を習慣づけることはできたが、
隠しようのない眼や喉は包帯が巻かれている。
はじめは嫌がってすぐに取ろうとしたが、が一生懸命
巻いてくれているのだと理解するやいなや嫌がることを
速攻でやめた。

もちろん痛々しいのは変わりないが、黒レザーでいるよりは
断然いい。…と、思う。街を歩いていて「あれ何プレイ?」
などとささやかれない。包帯であればおおかた

『あらあらかわいそうに…』

で済まされてしまうこのご時世。ありがたくもあり、淋しくもある。

とまあ長々と続いたが、とにもかくにもグンジとカウは
迎えにバイト先へと走っていったのであった。





その頃。





は、一人ビル街の一角にたたずんでいた。


「………迷った………。」



そんなバカな!!


思わずつっこんでしまったが、は道に迷っていた。

トシマは廃墟も同然だったが、同じような建物が建っていた。
それを無意識に透写してしまったのかもしれないが、ともかく
は自分の家への道のりを完璧に見失っていた。


「ここどこだっけ…ていうかどっちから来たっけ…」


オロオロと周りを見渡しても、さっきも見たような看板。
同じような建物。同じような景色。…代わり映えしない景色。

何の考えもなしに歩いていても何かしらの目的地に
たどり着いてしまうゲームの世界とは当然のことながら違う。

しばらく当てもなく右に左に曲がってみたが、どうも分からない。
そうして気がつけば、袋小路にぶちあたってしまった。


「わー…俺遭難?」


そうなんで
…ゴッファ!

実につまらないことを言ってしまいました。失礼しました。

それはさておき、袋小路では前には進めない。くるりと
体の向きを変えたときに、不穏な気配がを取り巻いた。


「お前さっきからおんなじとこぐるぐる回ってんな。」

「迷子になっちゃったのかなあー」

「え、あれ俺やっぱ同じとこ回ってたんだ」

「そこじゃねえだろ!!!」


…よかった、こちらの不良さんがたはまともなようです。

実に間抜けな返答に苛立ちを隠さずに突っ込み。

同じところをうろうろしていたに目をつけたのであろう
不良さん方が、じりじりと距離を縮めてくる。

いわゆる、カツアゲというやつである。


…今時お前ら…。


「うっせーな!」

「ぅおっ何だよビビんじゃねーか、何がうっせーんだよ!?」

「いやなんか…今馬鹿にされた気がして…。」

「ハァ?」


ちょっとしたイタコさんになっていたようですね。(0^▽^0)


さりとての見に迫る危険がなくなったわけもなく、
不良の手には、今はそう珍しくもなくなってしまったもの。
スタンガンが握られていた。ネットで買ったのか、どこで
購入したものなのかはこの際問題ではない。


(あれくらったら…痛いんだろうなぁ…。)


痛いどころじゃないよ!(0^▽^0)

しかし、背後は壁である。まさかスパイダーマンよろしく上って
逃げられるわけでもない。そもそもスパイダーマンなら糸で
不良を締め上げて勝利の雄たけびでも叫びながら走り去って
しまえばいいのだ。

…裏路地から雄たけびを上げながら走り出てくる少年を
この現代はどう見るのかは知りたくもないが。

さて、本格的にヤバい状況である。殺される掘られる等の
心配はないが、とにかく痛いことは大嫌いなである。
どうやってこの窮地を乗り越えるかと脳内にお住まいの
GOD
にすがろうとした所、不良達の背後に影が現れた。

―― 誰?

無論。


はーっけーん!!!」

「んだぁ!?」


不良たちがその声に一斉に振り返る。

ぱさぱさに痛んだ金髪。Tシャツで全体は見れないが、首に
みえるタトゥー。日本人にしては高い背丈。さすがに鍵爪は
母に没収されたが、全身凶器といっても良いような
存在、グンジ。…と、カウ。


「遅ぇから迎えにきたぜー」

「グンジ…カウも。あ、もしかして匂いで見つけてくれたとか?」


グンジたちとてこちらの世界、ましてや地理などさっぱりだろうに、
あっさりと現れたところを見るとまたカウが匂いをたどって
見つけてくれたのだろうと予測を立てる。まあ、正解だ。

カウもはじめは排気ガスやらの臭いでの匂いを
見つけるのに少し手間取った。しかしは不良いわく
同じところをうろうろしていたらしいので、匂いの跡を見つけて
からは、迷うことなくこの袋小路にやってきたのである。


「あー?何こいつら、のオトモダチ?」

「え、違う。えーと多分…怪我したくなかったら金よこせ的な
 何かだと思われる…んだけど、………あってますか?」

「おっ?お…おう…」


怖がる様子もなくが話しかけてきたので、不良は大いに
混乱した。…どうやら、咎狗の血の世界でやってきたこと全てが
にとっては日常茶飯事だったらしい。

感情が欠落しているのかといえばそうでもない。だが、

肝がものすごい胡坐を掻いて据わっているのだろう。

…そうでなければこんな状況にはならない。

しかし、穏やかになったのは一瞬のことだった。


「怪我したくなかったらぁ…金よこせぇ…?」


グンジの声に、殺気が篭る。

当然だ、自分の大事な大事な、大好きなが、
こんな貧相な、徒党を組んで道具に頼らないと何も
できないような餓鬼どもに取り囲まれている。

袋小路に迷い込んだのはの失態だが、それを
嬉しそうに取り巻いて、あの、手に持つもの。スタンガンで、
痛めつけるというのか。

グンジの怒りは一気に沸点を通り過ぎた。


「二度とンな気が起きねぇよーに、手足、イっとくか、あぁ?」


バキバキと拳を鳴らし、ガタイのいい怖い人が近づいてくる。
何気にその後ろに居る包帯だらけの人も殺気を放っている。
今にも飛びついてきて、噛まれそうだ。

不良たちは震え上がった。

こんな、本物の殺気など、味わったことがない。

自分達の体の奥底から湧き上がってくる本能的な恐怖に
手に持っていたスタンガンを放り投げ、逃げ出そうとした。


「逃がすかよゴルァ!!」

「グンジ!」


グンジの長い腕が不良の一人を捕まえそうになったとき、
がそれを咎める様に声をあげた。グンジの中に
一瞬の迷いが生まれ、のばした手は虚しく空をかいた。


「なんで止めンだよ!」

「だって何もされてないし、折るのって痛いじゃんよ!」

「またそれかよ!お前今殺されかけたんだろうか!?」

「えっ殺されたりはしませんが…」

「えっそうなんですか?」


トシマで生きてきた者ならではの言葉に、とたんぽかんと
間抜けな顔をしてが言い返す。その言い方に
つられて、グンジまでもがデスマス調になった。


「んー…こっちの世界では、人殺すとかは…まあ…
 あるっていえばあるけど、そんな頻繁にはないなぁ…。」

「どっちなんだよ!」

「いやでも今ので殺人はないです。」

「うー…うー…うぁー!!なんかもーわかんねー!」


グンジがまた地団太をふんでいると、それを横目にカウが
近づいてきた。両手を突き出しての居場所を
探ろうとしている。その手をとって、自分の頬へとあてた。

の温もりを感じて、カウが少し笑う。


 無事なんだ よかった
 危ない臭いがしてた
 
 無事で よかった。


頬に当たる手を滑らせて、カウがにゆるりと抱きつく。
からも抱き返し、背中をあやすようにぽんぽんと
たたくと、肩口に額を摺り寄せてきた。

カウの甘えてくる仕草はかわいい。そうと限られた中で、
精一杯自分の気持ちを伝えようとしてくれている。

瞳と声が無い分どう接していいか分からないということもない。
それらがなくとも、カウは全身でその気持ちを表現してくれる。


「遅くなっちゃったな、帰ろっか。」


カウの手を引いて路地の出口へ。すかさずグンジもあいている
手を握ってきて、なんというか…その…微妙なおてて繋いでが
繰り広げられてしまった。

帰り道。今度はカウが匂いをたどって道案内してくれたので、
迷うことなく家にたどり着いた。玄関の扉をあければドヤドヤと
出迎えの面々に遭遇する。

こんな状態になってからまだ日も浅いが、
これはこれで良いような気もする。

そんなことを思いながら、みんなでご飯を食べる。

余談ではあるが、その日から、がバイトへ行くと、
カウともう一人が迎えに来るようになってしまった。

そのもう一人の権利をどうやってもぎとるかというと、UNOである。

まあ…平和でいいんじゃないですかね…。



殺気は篭ってますが。






終。



+後記+

色々突っ込みたい所満載ですが、

妹どこいったよ。

いかなる不都合もうやむやにしてくれるお金持ち設定に甘えました。
それにしても妹どこいったよ

+ブラウザバック推奨+


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