咎狗共の血 3
未だ眠りこけるを動かすことも出来ず。
かといってにむらむらしてきちゃったグンジ。
「なージジ、チビ持って帰ってもいいかなー。」
「やぁめとけ、ビトロに取り上げられんぞ。」
「あー。マジかー。だよなー仮面好きそうだもんなー」
仮面、ビトロことアルビトロだが、その単語から容易に
連想されるとおりの変態仮面であり、美少年を改造
することが大好きなこのトシマのとりあえずは支配者。
がそのアルビトロの好みに該当するかはわからないが、
女顔=中性的な顔というのは十分に彼の意欲を掻きたてるだろう。
世間一般では女の子のような顔立ちの
少年のことを美少年と言うかもしれない。
グンジとキリヲはあまりそういうことに
詳しくないので、判断を付けられないだけである。
「けどよーほっとくわけにもいかねーべ?」
「ピヨ、ンんなにチビちゃん気に入ったのか?」
「ジジだってきょーみしんしんじゃねーか。けどこれ俺のだかんな!」
「おーおー。イッチョ前に独占欲なんざに目覚めやがったか。」
独占欲?そうなのだろうか。グンジは考えてみた。
だが、この不思議な少年…もしかしたら青年なのかもしれないが、
コレを取られたくないのも事実である。ということは、独占欲なのか。
「ジジ、俺こいつ喰っちゃっていいかな。」
「あぁー?ピヨがンな事いう何ざ珍しいじゃねえか、いつもなら
泣き喚こうが殺そうがヤりてえって思ったらヤッてた奴がよぉ。」
グンジの珍しい態度に、キリヲはニヤニヤと面白そうな視線を送る。
当人といえば、まだ若干冷たい体を摺り寄せてくる愛らしい生き物に
心臓が高鳴っているのを、初めて感じていた。
恐怖や悲鳴を感じて 興奮 することは過去何度もあった。
だが、この温かいまでの心臓の 高鳴り はいったいなんなのか。
もはや完全にピンク色の感情に目覚めてしまっているグンジには、
痛みに引きつらせて泣き叫ぶ姿よりも、がグンジの手によって
官能的に喘ぎ、身をよじる姿を見てみたい、なによりも、を
手に入れたいという強い願望が脳内を支配している。
…官能的に喘ぐ姿が見たいというのが、悲しいかな。いままでの
生活を物語ってしまうのだが。傷一つつけず、純粋に「抱きたい」
と思ったのは、くどいようだがこれが初めて。
「ジジー、この辺ってどっかベッドとかあったっけーえ?」
「そこでヤっちまえよ。」
「ふざけんな!こんなとこでヤったらチビが痛ぇだろ!」
「…テメェ、完全に脳みそお花畑状態だなぁ。」
おおよそグンジらしからぬ発言にさしものキリヲも呆れ顔だ。
「ベッドなんざしらねえなあ。ビトロに取られんの覚悟でもって帰るか
そこでヤるしかねえだろが阿呆ピヨ。俺も見ててやるからよ。なぁ?」
「だぁら嫌なんだっつーの!マジで殺っちゃうぞジジー!!」
「できるもんならやってみろ、あぁ?」
と、こんな騒音でも目覚めない天晴れな。
しかも自らの貞操の危機だというのに気付きもしない。いやさ。
気付いた方が今までの過程からして恐ろしいかもしれないが。
グンジとキリヲがにらみ合い、今にもバトルが繰り広げられようとした、
そのときだった。
こつこつと、硬質な足音が聞こえてくる。この自信に溢れた歩調に、
処刑人たちが聞き覚えがないわけがない。…このトシマで最強と、
自分たち同様、もしくはそれ以上に恐れられている…
「!!やべぇ!シキティーじゃん!」
「あーやべぇなぁ。」
何がヤバイのかはよくわからないが、彼らの本能がそう告げていた。
死体の山の側で、グンジが大事大事に抱きかかえている可愛い生き物。
普段はちっとも「遊んで」くれないシキだったが、”処刑人”が殺さなかった
人間に興味を持つかもしれない。そしてこの不思議な少年はまたも
警戒心無く彼に自分たちにやったようなことをするのかもしれない。
そうするとますますもって興味を持ったシキに攫われるかもしれない。
「っだー!ジジィ!シキティーひきつけてろ!俺チビつれて逃げるからよ!」
「あーそーしろ、誰か信用できそうな奴に持っててもらえや。」
もはや本人の知り及ばぬところでアイドル扱いされているは、
グンジに抱きかかえられて俊足でその場を後にしていた。
それから少し遅れて、シキがキリヲの前に姿を現す。
ものすごいスピードで走り去っていくグンジに一瞬視線を遣り。
「もう一匹の駄犬がなにか抱えていたな。あの変態の好みでも見つけたか?」
鋭い。だがそうでなければこのトシマで最強などとは謳われもしないだろう。
「あーそーだ。ビトロ様のお好みのガキがいたんで慌ててもって返ったんだよぉ。」
話をあわせるキリヲ。アルビトロの
名前を出したことで、シキが一気に興味を
なくしたのが解った。ふん、と鼻で笑うと
すぐさまキリヲの横を通り過ぎようとする。
路地裏なのでほぼ一本道。グンジが駆け出した方向と同じ。
このシキがグンジを追いかけるなど想像も
つかないが、キリヲ曰くグンジはピヨである。
(一応、足止めしとくかぁ?)
キリヲは何も言わずに横薙ぎに鉄パイプを払った。
それを難なくかわし、道を歩くだけのことすら邪魔されたシキは不機嫌になる。
「貴様、そんなに死にたいのか?」
「遊んで欲しいだけじゃあねえか。いっつも言ってんだ…ろぉっ!!」
「…駄犬が!」
珍しく挑発に乗ってきたシキと、キリヲが派手な金属音を奏でながら
戦いを始めた。その音を、すでに俊足で遠くへ走っていたグンジに
聞こえるはずも無く。
「信用できそうな奴って誰だー…。トシマにンなやついんのかぁー?」
ピヨな頭で一生懸命該当しそうな人物を模索しているが、
所詮ピヨ。それに、思い出すのは自分が殺してきた不特定数の
死体の顔しか浮かんでこない。しかも血まみれで顔の判別もつかない。
「ああぁああ!生きてる奴!そんでチビいじめそうに無い奴ってドレだ!」
考えながら走っているために、
走っている経路まではわからなくなってしまっていた。
ただ、迷子にはなりはしない。
なんといっても処刑人、街の中は知り尽くしている。
その代わり、焦っているために周りの景色が見えていないだけ。
めちゃくちゃに走り回っていると、気付けば
イグラ参加者たちが「中立地帯」と呼ぶ
古びたホテルの側まで来てしまっていた。
「あ、そーだ。あの萎びたオッサンならどーだ?あーけどあのオッサンも仮面と
同じ匂いすっかんなぁ。どーすっかなー。なあチビ…お前どうしたいー?」
グンジの本能はまさに的を得ている。
決して今言葉にあがった「萎びたオッサン」とやらが変態なわけではないが、
どうもあの雰囲気は嫌いだ。なよなよしているだけに見せかけている気がする。
「信用」という意味では、かのおいちゃんはグンジの中では「信用不足」に確定した。
「つーかチビもそろそろ起きろよ、フツーこんだけ揺れてりゃ起きんべー?」
何せグンジの全力疾走だ。いくら大事に抱きかかえたとはいえ、
相当な振動があったはず。三半規管がやられてもおかしくはないだろう。
しかしグンジの期待も空しく、は未だすやすやと心地よさ気に眠っていた。
その様がもう…なんていうか…
「ちくしょう!カワイー!」
ピンキー・ピヨは完全にに胸キュンしていた。
あまりの可愛さに思わずじだんだを踏んでいると、そこへふっと人影が見える。
たまたまホテルから出てきたのか、その人物が誰か判別すると、
グンジは嬉しそうな声を上げた。「信用」できる人物…!
「あー!!!いたー!!!!!」
「っ!?」
その声に驚いてとっさに腰のホルダーからナイフを引き抜く。
当然だ、こんな特徴のある声を聞いて身構えるなという方が難しい。
だが、グンジは戦う気など一切無く、いそいそとその人影に近づく。
人影の方も、殺気も無くいっそ花でもポヨポヨと散しそうな勢いで
近づいてくる”普段らしからぬ処刑人”グンジに呆けた表情を見せた。
「ネコー!暫くチビ預かってくれ!」
「は?って…おい、待て…!!」
ぐい!と無理矢理手渡されたものを思わず受け取り、
そのままUターンして去っていくグンジを呼び止めようとして失敗する。
ネコと呼ばれた青年。
アキラは、グンジに手渡された少年を抱きかかえたまま暫く固まっていた。
続。
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