咎狗共の血 4
を手渡されたアキラは何事が起こったのか頭の整理がつかない。
あのグンジが狂気の欠片も見せずに大事そうに抱えていたもの。
それは少年と青年の合間にありそうな、一人の人間だった。
何よりも驚いたのが、その人物が無傷であること。
それから、すやすやとただひたすら安らかに眠っていること。
(な、何が起こったんだ…。)
だが、走り去っていくグンジが1回だけ振り返りいった言葉を思い出す。
『ネコー!チビいじめたらブッ殺すからなー!!』
「……預かってくれ…って…。」
この人物はなにかトシマで重要な人物なのだろうか。そうは見えない。
ただ、まじまじとみれば、薄いTシャツにジャージ、それに素足。
グンジの抱擁でいくらか暖められたとはいえ、体の芯まで冷え切っていた
体がものの数十分で回復するわけも無く、未だ少し冷たいのを確認して。
(しょうがない…ホテルに戻るか…。)
アキラは今しがた出てきたばかりのホテルに戻り、
「あれー早かったって…何それ!?」とリンに驚かれてしまった。
+
「ねーアキラー。このコ何なの?」
「知るか、グンジがいきなり渡してきたんだ。」
「は!?あの処刑人が!?こいつ何者!?」
「そんなの、俺が知りたい。」
とりあえず毛布に包んでソファーへと寝かせてあるを見下ろす二人。
このトシマでありえないほどの純粋な寝顔。安心しきった寝顔。
警戒心も露にしていたリンだったが、その寝顔が余りにも安らかで、
警戒するのも馬鹿馬鹿しくなったとやめ、アキラもそれにならった。
処刑人が連れてきたということで何らかの事情がるのかもしれないが、
それにしてはあのグンジの態度。そしてこの寝顔。雰囲気。
明らかに異質であり、明らかに異様である。
「ねー起こしちゃおっか?」
「…ああ。」
それでも自然に目が覚めるのを数十分まっていたのだが、身じろぎ一つ
しないで眠りこけるに、気が短い方のリンが痺れを切らした。
ツンツンと頬を指でつつき、覚醒を促す。
「ちょっと、ねえいい加減におきなよ!!」
「んー…も、ちょっと…」
「ちょっとじゃない!起きる!ほら!!」
「痛いっ!!」
ようやく声を出したかと思えばとことん拍子抜け。
リンが両頬をつねって、今度こそ目を開ける。
暫く焦点の合わない視線が彷徨い、アキラとリンを捉えると。
「あー…誰だっけ。」
「は?」
またもやド忘れして寝ぼけた頭で必死に名前を考える。
「ああ、あそっか、ってあれ俺まだ夢ん中?」
「はぁ!?寝ぼけてるよ!完璧に寝ぼけてるよこれ!」
「…みたいだな。」
目を覚ました張本人はアキラとリンの名前を思い出すと、真っ先に自分の
いる状況をもう一度確認した。…いや、誤認した。
「寝ぼけ…てるのかなあ。でも夢の中で寝ぼけるとかってありえるのかな。
とりあえずおはようございます。リンとアキラーで…えーあってるよねー?」
「!?」
「ちょっなんでアンタ俺たちの名前知ってるわけ!?」
「え?だってほら、登場人物だったし?」
「答えになってなーい!!!」
「いやでも事実だし。んー?さっきまでグンジとキリヲといなかったっけ?」
ちゃぶ台があれば盛大にひっくり返したであろうリンの突っ込みも、
国宝天然には叶わない。次いで、グンジとキリヲの名が出たところで
解けかけていた警戒心がよみがえる。
「…アンタさ、あの処刑人と知り合い?」
「知り合い?だっけ?え?だってほら、登場人物。」
「何コイツ会話かみ合わない!!!」
常識人のリンが少し可哀想になってきた。
だが、そんなことでひるむではない。
「ああ、さすが夢。場面は飛び飛びか。
えーと…俺、。一応はじめまして。」
ソファーの上に正座になり、深々と頭を下げる。
やはり何かが抜けている。というか思いっきり抜けている。
そんな態度に処刑人たち同様、毒気が抜かれてしまうリン。
「…なんかチョーシ狂うなー…なんかもーどーでもいいー。俺、リン!」
「俺は…アキラ。」
「うん知ってる。ところでここドコ?」
「中立地帯のホテル。、処刑人に担がれてここまで来たんだよ。」
「えっそういう設定?へえー。」
もはや彼の天然を止めるものは誰一人としていなくなってしまった。
「設定とかわけわかんないけどさ、とりあえずここにいたら安心だから。」
「うん。」
「処刑人から逃げられる(?)なんて運が良いよね。」
「うん(?)」
「無傷なのもビックリだけど、そういえばイグラ参加者じゃないんだ?」
「ああ、うん俺人が殴られてるのとか見てて痛いじゃん。いくら夢でも。」
「あはは、やっぱり話かみ合わないー!けどなんかおもしろいー!」
すっかりリンに気に入られたのか、
リンは思いっきりに抱きついた。
アキラといえば、そんな2人の会話にどうやって入っていいのか
解らないようで心持ちそわそわと所在なさ気にしている。
「リンあったかいー。」
リンの体温に素直に笑顔をほころばせる。ホテルの中とはいえ、
空調が利いているわけでもないそこはにとっては寒いのは同じ事。
「あっそういえばってば裸足じゃん?ほんとにどうしたの?」
「んーそうだよなー靴くらい履いてたっていいのになー。」
「服もだよ、小奇麗だけどさ、それじゃ寒いでしょ?」
「うん、なんでかわかんないけど寒い。リアルな夢で困りもの。」
「よし!俺がおごってあげる!タグなんかもってないんでしょ?」
「ありがとリン、やっぱリンって良い奴だな!」
(なんだろうってなんかボケてて可愛い。)
…天然魔性の男、はリンまでもその魔力に貶めたようだ。
リンがタグ交換に行ってしまったのでソファーにはアキラとの2人きり。
アキラが会話に困って固まっていると、キョロキョロと周りを見渡した
がおもむろにアキラに声をかけた。
「そういえば、ケイスケいないけど喧嘩した後?」
「!!お前…ケイスケを知ってるのか!?」
「うんだって登場人…」
「それはもういい!ケイスケは…ケイスケはどこにいるか知らないか?」
「んー。やっぱ物語の中なのか。ドコまで話進んでんだろ?」
「答えてくれ…!頼む!」
「その前にストーリーはどこまで進んでんの?」
どこまでもマイペースなは、今後咎狗の血のストーリーを
めちゃくちゃにする発言をブチかますこととなる。
「ストーリー…?よくわからないが…ケイスケが、大量殺人を…」
「ああ、そこか。ケイスケ、ラインやっちゃったからね。」
「!!!」
自分の目で見て、殺すといわれてからも信じたくなかった事実を、ごく軽い
調子で言われてしまい、アキラは愕然となった。ケイスケが、やはりラインを…。
「…アキラ、落ち込んでる…?」
「…俺の…せいだ…。ケイスケが、あんなに…!」
「ああ、ケイスケとは1回対面済みか。」
と予想をつけて、は言葉を続けた。
「アキラの所為でもあるけど、ケイスケ自身の問題でもあるだろ?」
「な…に…?」
「だって自分でライン使ったんだし、理由はどうあれ。」
ケイスケがアキラをどう思っているかは自分で言わせたほうがいいのだろうと
黙ってはいたが、ラインを使った経緯、そのときに見たあの映像のこと。
は完璧にここを夢だと
思い込んでいるが故に、
全てをあっけなく明かした。
「…やっぱり、俺の所為なのか…?」
「だから、アキラだけの所為じゃないってば。
それにアキラはケイスケ元に戻せるんだし。」
「そ………!?」
「おっまたせー!」
肝心な部分を聞き出そうとしてリンが服一式を抱えて戻ってきて、
アキラは口をつぐんでしまう。その異様な雰囲気を察知したが、
リンはあえて無視をしてに話しかけた。
「サイズ、俺と同じくらいでよかったよね?
感謝してよ、タグすっごいボられたんだから!」
「ありがとうー!!リン優しいー!!」
リンに手渡された服に着替えて、
「おお!あったかい!」などと喜ぶ。
くるりと回って見せ、似合う?似合う?と嬉しそうに聞いてくる。
リンが「似合うー!写真撮ろうよ!」と
いうのを聞いて、仲良く写真に納まる2人。
キャッキャとはしゃぎあうそんな2人を見て、
アキラは大きなため息をついた。
アキラの頭に反芻する言葉は、の言葉のみ。
― アキラはケイスケ元に戻せるんだし。
(本当なら…どうやって…?)
本当なら今すぐにでも聞き出したいが、
リンがいることでなんとなく聞けずにいる。
「そういえば、今このお話は何EDに向かってるんだろ?」
君が不用意な発言をしたお陰で
とんでもないEDにいきそうなのは間違いない。
「何?EDって。」
「んーだってほら、今まだ初期段階だし、これからの選択肢でEDが…」
「初期段階?ちょっと、日本語で話してよ!」
「えー?俺日本語喋ってない?おかしいなあ。」
けらけらと笑うリン、そして。
そんな2人を見ていると、アキラまで毒気が抜かれていく。
アキラはと2人きりになったら、絶対に方法を聞きだして、
ケイスケを元に戻さなければ、という決心とともに、全てを
知っているらしいに強く引かれかけていた。
いやさ、実際に全てを知っているのだが。
+
その頃、処刑人たちは。
「ジジー、ネコちゃんとチビに飯とかやってくれてっかなー」
「嬢ちゃんならやってんだろうよ。迎えに行くのかぁ?」
「いってどーすんだよ、今から夜だぜー?寝るトコねーじゃん。」
「じゃあ明日にでも嬢ちゃん見つけて受け取りにいくんだなぁ。」
「んーそーするべー。」
あれからすぐさま折り返したグンジはすでにシキと遊んでいたキリヲに合流して、
2人してたっぷりと遊んだ後、グンジはすぐさまを思い出し感慨にふける。
本当ならすぐにでも取りに行きたいところだが、これからは夜。
寝るところといえば、あの中立地帯が一番安全だろう。
何せ、城には変態仮面が待ち構えている。
心なしか足取り重く城へと帰る2人、帰ったとたんに、
アルビトロの最高傑作、狗(カウ)が偶然玄関に居合わせた。
「あー?タマー、寝る前のお散歩かぁ?」
キリヲの声に反応してカウがこちらを向いた。
途端、鼻を引くつかせてグンジに近づいてくる。
「あ?ンだぁ?」
「チビちゃんの匂いでもすんじゃねーか?」
「あー。ポチぃマジで鼻いいなぁ。」
の匂いが自分に染み付いている、というのが妙に嬉しかったらしい
グンジは、カウの頭をわしわしと撫でた。それに気を良くしたのか、カウは
さらに鼻をすりつけてのにおいを嗅いで来る。
「ひゃは!くすぐってぇ!」
「おーおー。チビちゃんが気に入ったのかね?」
…その通り、カウはかつて嗅いだことの無い不思議な匂いに
完璧に興味を引かれていた。血のにおいを微塵も感じさせない。
この世界に少しも染まっていない匂い。その香りは、カウにとって
新鮮で、魅力的なものだった。
においをたどっていけば、この香りの主にも会えるのだろうか?
今すぐにでも会いたい、あってみたい。
自我を殆ど失っているはずなのに、カウは霞がかる頭の隅で考える。
だが、こんな時間から外出してもアルビトロに怒られはしないだろうか?
アルビトロを怒らせるのはカウの本意ではない。
でも、それでもいいから、会ってみたい。
カウの中に久しく芽生えた好奇心は、我慢できずにそのまま城から
飛び出すという行動で表されてしまう。その後姿を見守って。
「…ありゃあ、チビちゃんに会いに行ったな。」
「げっ!どーすんだよジジ、俺らパパに怒られねえ?」
「俺ら、じゃねえ、 お 前 だ 。」
「ンで俺だけなんだよジジィ!」
「てめえがチビちゃん一人占めしていつまでもダッコしてっからだろぉが。」
「うっせぇ!ジジイにダッコさせたらチビが腐るだろうが!」
「言うじゃねえかピヨ、死ねや!!」
「てめえが死ね!」
…帰ってくるなり、バトルをはじめる処刑人。
だがキリヲが大きく鉄パイプを振るった拍子にアルビトロの大事な
少年の彫刻に当たってしまい、結局は2人ともがアルビトロに、
グンジはカウのことで。キリヲは少年像のことで、こっぴどく叱られた。
続。
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