共の血 8



「もう一度言う。ソレを置いて行け」

「いーやーだーつってんじゃんよ。」

「このままでお願いつってんじゃん」


…この押し問答が1時間弱続いている。

いい加減飽きるか何かして欲しいものだが、
いかんせん天然に鬼畜にピヨ。
どうしようもない。

だが、長く雨に打たれている所為で、グンジやシキは
ともかくの体が本格的に冷え込んでくる。

たんこぶが冷えてありがたいと思うあたりがさすが
国宝天然だが、そうもいっていられない。風邪を引くのは
さすがに勘弁して欲しいところである。


「シキ、俺頭にでっかいたんこぶあるんだって、触ってみ?」

「…何?」


突然そんな事を言い出したに対し、訝しげな顔を
するのは当然といえば当然だが、抱きかかえているグンジは
もはやわかっている。寒さから、の体が以前のように
震えだしていることを。

シキも目ざとくそれに気付き、しょうがないといった風に
手を伸ばしての後頭部をそっとなぞってみた。

すると、やはり巨大なたんこぶが。


「…成る程。よく死なないものだな。」

「ラインやってるクソガキにやられたんだよ。」


ラインの言葉にシキが反応を示す。ラインに対しては良い印象を
もっていない彼がそれに反応するのはもはや必至。加えて、この
怯えもしないかといってたんこぶごときで立つことも出来ない弱い
に対し、シキまでもが興味をかきたてられた。


「軽く眩暈おこしてますー。ついでに寒い。」


「ついでに寒い。」の言葉に、シキがとんでもない提案をした。


「ならば、中立地帯のホテルへ行けばいい、あそこで毛布でも
 被って寝転がりながらで良い。ナノ、とやらの情報を貰おうか。」

「ああ、それならいいかも。氷嚢とかあるかなー…って
 …でも…それってあのホテル大混乱にならない?







…まったくもってその通りだ。








「ひぃー!!シキだぁー!!」

「処刑人だぁー!!!」

「殺さないでくれー!嫌だー!」

「ぎゃー!!!」


突然、ホテルの入り口に現れたグンジ、シキをみて、
の言ったとおりホテルは大混乱に陥った。

…当然といえば当然である。だが、本人達は気にした様子もなく、
グンジがジャラジャラと腰に巻きつけてあるタグを何枚か外し
カウンターへともって行く…が、恐縮したカウンターのおやじは


「処刑人様からタグを頂くなんてとんでもない!何でも
 さしあげますから命だけはお助け下さいー!!!!」


と、タダで毛布と氷嚢、そしてタオルまで受け取った。


「あのオッサンしんせつーぅ。」

「…単にビビってるだけだと思うんだけど…。」

「………。」


アキラたちはどこかへ出かけているのか、いつものソファーの
所にはいない。大方、目が覚めて突然いなくなっていた
を探しにトシマを駆け回っているのだろう。

座り心地は悪いが、を寝かせる為にと3人は
いつものソファーへと座り、寝かしつけられ氷嚢を敷く
、その隣にグンジ、向かいにシキ、という珍妙な
構図が出来上がった。


「それで、貴様はナノという男の何を知っている。」

「あー。全部かなぁ。」


うんその通り!


「では、聞かせてもらおうか。」

「長い話になるけどいいのか?」

「構わん。」

ー、シンドくなったら寝ちまえよ?」

「うん、ありがとグンジ。」


さりげにグンジが気遣うと、が手を伸ばしてやんわりと
微笑み、グンジに触れた。それだけでグンジの周りにはピンクの
フラワーがほわほわと漂いだす。


「んーどっから話したら良いんだろう。」


なにせナノの過去は長く暗い。
それをどうやって解りやすく、出来れば完結に


 アキラ達が戻ってきたときまでこの状態だと
 非常にやっかいだからである。



伝えられるのかを考えながら、は自分の
知っているナノの全てをシキに話して聞かせた。


人体実験

最強の人間兵器

故意に殺された感情

ニコル・プルミエ

絶望

悲観

孤独

それでも、 人 であること。


それら全てを聞き終えたシキは、珍しくため息をついた。


「…一概には信じられんな。」

「んだとシキティー!が嘘ついてるっつーのかよ!」

「黙っていろ駄犬。誰も嘘だとは言っていない。」

「だから、シキもナノおいかけるのやめてほしいんだ。
 一応、俺ナノの側にいるって約束して…チューも
 しちゃったからさ、その約束破るわけにも……。」


と、の発言を受けてグンジが
派手にソファーから転げ落ちた。


「いいいいい今なんつった!?ちゅーした!?

「え?うん。だってそういう世界設定だから
 そうでもしないと信じてもらえないのかと
 思ってチューしてみたんだけど。」


何か問題あった?と、大問題な発言をブチかます。


「せかいせってーとかわけわかんねえ!チクショウまた先越された!
 しかもからチューしただと!?許せねえ!俺もチュー
 してほしいっつーの!!!いいだろ!2回も助けてやったし!」

「んー舌いれないならいいよ。」


君の価値観はどこまで天然なんだろう。

そんなナレーターの疑問も空しく、横たわるに覆いかぶさる
ようにして、グンジがまたがり、グンジにしては可愛らしい、ちゅ、と
いう音を立ててキスが終了する。


「あ、ヤベ、勃ちそー。」

「萎えてください。」


あまりにも感極まったのか、グンジはそれだけでもの凄い快感を
得てしまい、グンジの雄が欲望に実に忠実に反応を示す。

それにまさに天然な返事を返す。流石である。


「…駄犬。そこまでにしておけ。」

「あー。そういやシキティーいたっけぇ。」

「…貴様、本当に殺されたいのか。」


とキスをした瞬間…より、がナノとキスをした、
という事実を聞いた瞬間から、グンジはすっかりシキの存在を
忘れ去っていた。

ついでにいうと、3人ともここが中立地帯のホテルであり、
ギャラリーが大勢いる事も忘れ去っているようだ。

ちなみにギャラリーは興味津々で彼らの言動を見守っていた。


「そういうわけだから、シキが勝てないのはしょうがないんだ。
 勝ったとしても、シキは永遠にナノの幻影を追いかけるか
 人生の目標をなくして廃人になっちゃう、俺あのED、
 あんまり好きじゃないんだよね。アキラが切ないから。
 だからさ、シキはシキで生きてて欲しいんだ。だめかな?」

「アキラ…?」

「んーと、この世界の主人公。

「貴様の言う事はいちいち不可解だ。アキラなど聞いたこともない」


ごもっともなご意見で。


「だが…そうだな、たしかに、俺は奴を殺す事だけを考えて
 生きている、もしそいつを殺したとして俺に何が残るか等
 考えた事もなかったな…。貴様、名をなんと言う?」

ー。」

「貴様には聞いていない駄犬。だが…そうか、というのか。」


シキは暫く考えるそぶりを見せ、ニヤリと笑いながらを見た。


「ふん、人体実験で作り上げられた強さとやらになど興味はない。
 奴が自分の意思もなくただ最強であったのならば殺意も沸くが
 そうでもないのだとしたら、やはり興味はない。貴様の言うとおりに
 してやろう。だが、俺の言う”俺の目標”とやらを奪った罪は
 貴様の体で支払って貰おうか。」

「何いってんだシキティー!こいつは俺のだっつの!」

がそう認めたのか。そうではあるまい。駄犬のことだ。
 一方的にそう思っているだけだろう。貴様にしては珍しいがな。」

「ぐうっ!!」


またしても「うんその通り!」と言い当てられ、思わずグンジは黙った。
だが、も「シキに連れて行かれたら何をされるかわかっている」
ので、それに従う気は毛頭ないらしく。


「シキにはついていけない。俺ナノについてくって決めたもん。」

「ならば、やはりそのナノを消すとしよう。そうすれば貴様は
 俺のものとなる。ナノとは戦って欲しくないのだろう…?」

「うわー卑怯だシキー!!」


シキは形の良い唇を撓らせて、の言葉を待った。
なぜここまで人をひきつけるのか、天然とは本当に恐ろしい。


「んー…でもナノにも死んで欲しくないし、シキにも生きてて欲しいし、
 じゃあ、ナノ殺さないって約束してくれたら、1回だけ何でも言う事
 きくっていうのじゃ…だめかなぁ…。シキ、だめ?」


寝転んでいる為に自然に上目遣いになる。加えて、沢山話したのと
氷嚢でたんこぶがひやされて心地よくなってきたのか、眠くなり始めた
の言動はだんだんと幼さを増してきている。


「1回…か、まあ、それもいいだろう。」


シキは「1回」の条件を飲んだ。当然である。「1回」でも言う事を
聞かせて、所有の証を残しそのまま事に及んでしまえば、この少年は
いともたやすく自分の手に堕ちると確信しているからである。

は自ら掘った墓穴に気付きもしない。

当然といえば当然だが。



「長居をしすぎたな。ともかくそのナノとやらには手を出さないでいて
 やろう。一区切り付いたら、貴様を迎えに来る。覚悟しておけ。」

「何の覚悟かわかんないけどわかった。」

「あー。じゃあ俺も城に帰るかなー。あのガキ見失っちまったし、
 怒られんだろしーぃ…そろそろ帰らねーとパパうっせーしなー。」

「うんわかった。2人ともありがとう。」

「………。」

「………。」


「ありがとう」など、言われなれていない2人は一瞬固まる。
を見たまま止まっていると、やはり話しつかれ、かつ毛布に
暖められて再び眠気を催したのか、はすやすやと眠りについた。

それを見守って、グンジがそっとの頬をなで、また軽いキスを
おとし、「おやすみー。」と声をかけ、ブラブラとホテルから出て行った。

何を思ったのかシキまでもがへと近づき、唇ではなく、額に
口付けを落とす。そして、それまで遠巻きに見ていたギャラリーたちに
視線を向け。


「雑魚とて馬鹿ではあるまい。コイツは俺のものだ、もし手を出そう
 などと浅はかな考えでも起こしたら…わかっているな…?


日本刀をちらつかせると、ギャラリーからは悲鳴が上がり、ヤーさんの
お見送りの儀式さながらに全員が深く頭を下げ、


「かしこまりましたぁー!」


とシキの退場を見守った。そして再び、光の速さで噂が駆け巡る。


イグラ参加者ではないチビに手を出したら、
処刑人と、シキにまでも殺されてしまう


という噂が。



















シキとグンジがホテルから姿を消して数十分経った頃。
アキラとリンが、ナイスなタイミングでホテルへと戻ってきた。
の身を案じトシマ中を駆け巡り、戻ってきてみれば
毛布に包まり幸せそうに眠るの姿がある。

安堵と共に、怒りがこみ上げてくる。


起きろよ!!」


リンが眠るの肩を掴み揺さぶると、がたんこぶの
痛みからかすかにうめいて、目を覚ました。深く寄った眉間の皺に、
リンはとっさに体を揺さぶるのをやめる。


「ど…どしたの?毛布とかも…頭に氷嚢までしちゃってさ…?」

「んーケイスケにたんこぶつくられて、グンジがここまで運んでくれた。」

「ケイスケ!?」


それまで呼吸を整えるべく荒い息を繰り返していたアキラが反応を
示した。痛みも大分治まってきたのかはゆっくりと体を起こし、
グンジとシキが使わなかったタオルをリンとアキラに差し出す。


「アキラ、大事な話があるから、落ち着いて聞いてくれ。
 リンの助けも必要だから、2人とも聞いてくれる?」


そう促され、タオルで体を拭きながら、リンは当然のように
の隣に座り、アキラはしょうがなく向かいに腰掛けた。


「とりあえずね、まずはケイスケ、元に戻す方法から教えるから。」


収まったとはいえ、まだ痛むたんこぶのせいでフラフラと頼り無げな
をリンが引っ張り、もたれてていいよと親切をやいてくれる。

…実は、体を密着させたいだけだという欲望は隠したままで。


「ありがと。そんで、ケイスケの事なんだけど…。」


リンの肩にもたれたまま、は先ほどシキに話したように、
ナノのこと、そして、アキラの過去を全て明かし、アキラの血には、
ラインの中和作用があること、ここまでの選択肢がどうなっているか
は不明だが、多分高い確率でケイスケを元に戻せる事。そして、
そのためにはケイスケを押さえつけて、ラインが完璧に抜けるまで
見守らなければならない事を、アキラに伝えた。

アキラははじめ信じられないといった表情で聞いていた。

自分がかつて人体実験の対象であったなどと。
しかも、ラインの中和作用の血が自分の中に流れている事も。

だが、が嘘をつくわけがない。

それを信じ、アキラは立ち上がってケイスケを探しにいこうとした。


「まって、アキラ、ケイスケとは待ち合わせしてるんだ。」

「!?」

「だから俺が動けるようになるまで、もうちょっと待ってくれる?」


その言葉を聴いて、アキラは再びソファーへと腰を落とす。
そして、先ほどから胸に引っかかっていた疑問をに聞くことにした。


「ケイスケに会ったって…よく…その…」

「殺されなかったって?うん。だってケイスケいい奴じゃんか。
 本当は殺す事とかなんて望んでないんだよ。だから、
 ケイスケはまだ助かるんだ。アキラだけが、それができるんだ。」


の言葉に、アキラは思わず頬が緩む感覚を覚えた。


  ケイスケを元に戻せる。

  ケイスケは、殺人を本心から望んでしているわけではない。

  この。限りなく優しい存在のを殺す事もしなかった。
  …よかった、ケイスケが無事で、が、無事で…。


「ねえ?」


それまで一連のやり取りをただ聞いていたリンが、に話しかける。


「アキラとケイスケのことにもビックリだけどさ、俺の手伝いが必要
 っていうのはどういう意味なわけ?俺にもなんか特殊な力あんの?」

「ううん。リンはね、俺の側にいてほしいだけー。」


えへへーと笑うに、リンは「ズキュゥゥゥン!」
胸を打たれる感覚を覚えた。事実に言うならばもしケイスケが
元に戻った場合、あのイベントが繰り広げられる事になるのだろう。

そうなったら、その場から立ち去らなければならないし、必要ならば
毛布や水も調達してこなければならない。一人でホテルに戻る自信も
なければ、それらを調達するタグを一切持ち合わせていないために
「側にいて欲しい」と言ったのが真実である。…が。

天然かつ天然
そこまで説明できるわけがない。

リンは期待満々で、たんこぶを刺激しない
ように強くの体を抱きしめた。


「うんもう俺、の側から離れないよー!」

「へへ、ありがと!!」


そういっては自分の頭をそっと撫でてみる。
たんこぶは引いていないものの、痛みはもうないに等しい。

リンに支えられ立ち上がり、アキラに声をかけた。


「じゃあ、アキラ、行こっか。」

「…ああ。」


アキラの瞳には、強い意志が宿っていた。







続。



+後記+

たんこぶって不思議。その言葉が出るたびに、
どんなにシリアスっぽい展開になっててもギャグに見えてくる。

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