共の血 9



「アキラが初めてトシマへ来て足を踏み入れた場所。
が、ケイスケとの待ち合わせに指定した場所。

ホテルからはそう遠くなかったらしく、3人は
程なくしてあの喫茶店にたどり着いた。

一人で立てるようになったが先に入って、ケイスケを
探してくると言い出したときはアキラとリンが大いにあせったが、
「大丈夫だよ、ケイスケだもん。」とごく軽い口調で、止める
2人を無視して中へと入っていってしまった。




















「よぉ…おそかったじゃねえか…。」

「だってケイスケつくったたんこぶすんごい痛くて動けなかった。」

「…それはすまなかったな、で、アキラはぁ?」

「今外にいるよ、ケイスケいるか俺が先に確認に来たんだ。」

「ならもういいだろ、アキラ、呼んで来いよ?」

「うん、わかった。」


トテトテと、中から出てきたに2人が安堵の表情を浮かべる。
そしてアキラが「ケイスケは?」と聞くと、「いるよ。」と答えた。


「いいアキラ、あんまり多く飲ませたら多分だめなんだとおもう。」

「ああ、1〜2滴、だな。その後は…」

「俺とがサポートしてあげるよ!」


リンとがうんうんと頷いて、そのまま外で待っていてくれる事に
なった。「仲間がいて心強い」というのは、こういうときに使うものなの
だろうと、単独行動ばかり取っていたアキラは始めて実感する。


喫茶店の中に入ると、すでにカスタマイズナイフを
構えたケイスケがそこに立っていた。

すっかり変わり果てた姿。だが…諦めるのはまだ早い。


「ケイスケ…」

「アキラァ…会いたかったよ、あのチビ、約束守ったんだなぁ。」

か?ああ…。ケイスケも、
 殺さないでいてくれて…その…ありがとう…。」

「………。」


突然押し黙ったケイスケに、アキラは不思議そうに見やる。


「アキラがお礼とかいうの、初めて聞いたなぁ。」


そういわれて、アキラはそういえばそうだったと思い出した。

何をしてくれても、ケイスケが側にいることが当たり前だと、
何時の間にか考えていた。そのため、「ありがとう」の一言すら、
アキラの中では必要のないものだと勝手に思い込んでいた。

アキラと、変わってしまったケイスケを変えたのはだ。



…本人はただの超ド級の天然なだけなのだが。




「なぁアキラァ。あのチビ、名前なんつーんだよ?」

「…の事か…?」

ね。あいつさぁ、変な事言いやがったんだ。」

「変…なこと…?」


血のこびりついたカスタマイズナイフをちらちらと閃かせ、
それを眺めながらケイスケは雨の中で聞いた
言葉を思い出す。


(後悔だけはしないようにしろよ。)


「後悔、って、何だと思う…?俺はさぁ。アキラを犯して、殺して、
 俺だけのものにしちまえば満足なんだって思ってたんだ。なのに
 あのってやつは、そうじゃないっていいやがった。なあ。
 それってさぁ、どういう意味なんだと思う…?変、だよなぁ…?」


犯して、殺す。

その言葉に憤りを感じるが、それ以上にケイスケの瞳に宿る
どす黒い狂気が薄れているようにも見えた。

あのの存在が、このトシマ。いや、自分達にとって、
どれほど大きなものだったのかと、今更ながらに思い知る。


「ケイスケ、一つだけ、頼みがある。」

「あぁ…?アキラ様がお願いだなんて、珍しいなぁ…。」


揶揄した表情を浮かべて、ケイスケは唇を歪ませた。
だが、アキラの次の行動に目を見張る事となる。

アキラはおもむろにホルダーからナイフを取り出し、
自分の手を切りつけて、血を流した。


「な…に、してんだよ…」


流石のケイスケも突然の行動に驚いたのか、言葉に詰まる。

だが、の言葉を信じているアキラは、
その手をケイスケへとむけて、差し出した。


「俺の事を殺すのは俺の血を舐めてからに、してくれないか。」


…実におかしな言い分だが、アキラには
そういう言葉でしか思いつかなかった。

ケイスケが実に奇妙なものを見る目で暫く考えあぐねた後、


「ああ、味見、すんのも悪くねえよなぁ…。」


と、差し出された手をとり、赤い舌を出してちろりと
アキラの血を舐めとる。そのまま噛り付いて、肉ごと
引き裂いてやろうかとした、その瞬間だった。


「ぐっが…ああぁ…ああぁあぁああああああ!!!!!」

「ケイスケ!!」


ケイスケの体が大きく跳ね、全身を痙攣させてその場に倒れこむ。
その声を聞いて、リンとが喫茶店の中へと入ってきた。


「アキラ!」

「アキラ、上手く行ったんだ!?」

「…あ、ああ…」

「がぁあ…ぐああぁああ!!!!」


だが、本当に上手くいったのかは実の所よくわかっていなかった。
目の前でもがき苦しむケイスケを見ていればなおさらだ。

だが、血の量はさほど舐めとられてはいないはず。

が言うとおりならば、これから暫く激痛が続き…そして…。


「アキラ、ケイスケの足と手、縛って!!」

「ああ。」


から渡された、が初めてトシマに来たときに来ていた
シャツを引き裂き、手足を拘束する。体も死体のように冷たくなる
と聞いていたので、あらかじめ持ってきていた毛布をかけてやる。

その頃には、ケイスケは既に悲鳴を止めて、ぐったりと横たわっていた。


「ケイスケ、脈ある…?」


に言われて、恐々ながらも首にそっと手を伸ばすと、
弱弱しく、だが、命の流れを感じ取る事が出来た。


「大丈夫だ、生きてる。」

「そっか、じゃあやっぱり、ケイスケはもう大丈夫だ。」


が微笑み、つられてアキラの口元もほころぶ。
だが、アキラが本当に辛い思いをするのはこれからだ。


「…アキラ…俺も側にいようか…?」

がいるんなら俺もいちゃうよ!」

「………。」


アキラは考えた。ケイスケがこうなってしまったのは、自分だけのせい
ではないとは言ってくれたものの、責任がないわけではない。
一人で見守る事に意味があるのではないか。

だが…ケイスケが苦しむ様子も、から聞きかじっている。
はたしてそれに、自分が…一人だけで耐えられるのか。

暫くして、アキラは、そしてリンに、一緒にいてくれと言った。


「うん、わかった。じゃあ、アキラの手の手当てしないとな。」

「そうだよ、ちょっととはいえ、血がながれてるんだしさ、もし何かの
 拍子にこれ以上ケイスケの中に入り込んだら危ないかもだしねー」


リンの軽い口調にアキラがビクッと身をすくめる。

あらかじめもってきていた救急セットでアキラの傷口を処置していく。

ちなみに、今現在ある本来ならばタグで交換してくるべきそれらは、
グンジ、そしてシキとの関係を勿論のこと見守っていたカウンターの
おっさんが、無料でプレゼンツしたものだった。


「暫く昏睡状態が続くから、アキラ寝てても大丈夫だよ。」

「うんうん。俺もいるし、緊張したっしょ?アキラは休んでなよ。」


たしかに、アキラは極度の緊張をもってケイスケと対峙していた。

もし、素直に血を舐めてくれなかったら。無理矢理にでも…
それこそ、多少の戦いも覚悟してここまでやってきた。

その緊張が抜け、側にリン、そして、がいてくれていると
いうことを今更ながらに実感し、アキラは2人の言葉に甘えて、
少し横になる事にした。

















その頃、ナノは。


「いやな、雨だ。」


雨が降り続いていては、あのお気に入りの場所にもいけない。
あの場所を知らないのか、あれ以来にも会っていない。

ナノが人に純粋に惹かれるのは初めてのことで、
別れ際に交わされたキスの余韻が未だにナノの唇を
支配していた。だが、それは不快なものではなく、心の…

自らの手で凍らせた何かをゆっくりと暖めていくような感覚。


  会いたい、あの子に。

  だが、どうすれば会えるのだろうか。

  あの子には独特の気配があったが、

  それだけを頼りに探し出すにはトシマは広すぎる。


ナノは、いまさらながらに純粋すぎる


中学生レベルの「ステータス:初恋」に陥っていた。

そうして暫く何事かを考え、塒にしていた場所から移動を始める。

を、探す為に。


















そんなナノの淡い恋など露知らず、はリンと共に
アキラ、そしてケイスケの側でずっと見張りをこなしていた。

昏睡状態のケイスケ。疲れで休んでいるアキラ。

は少し動いたからかまた頭が痛み出し、現在は
リンの好意で膝枕をしてもらって、横になっている。

リンといえば、のサラサラした髪があたってここちよいと、
上機嫌でその髪を、たんこぶを触らないように撫で付けていた。


、キモチイイ?」

「うん、リンの手、優しくて気持ちい。」


さらさらと髪を梳く感触は、を眠りの世界へ誘おうとしていた。

だが、アキラに「ケイスケを見張っている」と約束した以上は、起きて
いなければならない。目をこすって眠気に耐えていると、リンが突然
思いつき、にっこりと笑ってを見下ろした。


、眠いの?」

「んー…ちょっとだけ、だってリンの手…気持ち、いいから…」

「じゃあ、眠り姫様の目を覚まさせてあげる…。」

「んー…?」


言うが早いか返事も待たず、リンは身を屈めての唇を
奪った。それに、半分寝ぼけた状態のは何が起こっているのか
解っていないようで間抜けな声を出す。

だが、流石に次の瞬間には、頭痛も忘れてリンにしがみついた。

あろうことかリンはこんな状況の中で、の唇を
舌でこじあけ、口内を深く貪りだしたのである。


「んっ…ん…んぅ…っ!!」


はトシマに来てからはじめてのディープキスに目を白黒させて
驚いた。触れるだけのキスならば、ナノとグンジで体験済みである。
だが、舌まで入ってきて、それが非常に官能的なものなのだとしたら、
本当の意味でのファーストキスは、リンが勝ち取った。

つ…と名残の銀糸を伝わせて離れる唇。
リンが悪戯っぽく笑い、「目が覚めた?」というと、
初めての感覚にトロンとした表情のを見てしまう。


(うわっなにこの表情…誘ってる!?)


そんなわけがない。


ただ単にはじめてのディープキスに呼吸が出来ず脳に
酸素がまわらない為に呆けた表情になっているだけである。


…」


再び唇が触れ合おうとした瞬間、我に返ったが慌てて
リンを押し返す。それと同時に、一時的に覚醒したケイスケが
苦しみの声を上げた。…まさに


ナイスタイミング!!!



「うぐぁ…ああぁ…あ、ぐ…っああ゙ぁ!!」

「ケイスケ!!」

「アキラ、ケイスケが!!」


2人はそれまでの怪しい雰囲気をすっとばして、はケイスケへ、
リンはアキラの下へと駆け寄った。2、3度体をゆすると、アキラが目を
覚まして、同様にすぐさまケイスケの元へと駆け寄る。


「ケイスケ…!」

「アキラ…アキラァァ!!くれよ、ラインくれよぉ!!」

「駄目だケイスケ、頼むから、堪えてくれ…!!!」

「ケイスケ、頑張れ!ケイスケの光はまだなくなってない!」

「アキ………?」


アキラの声以外に聞こえてきた言葉に、ケイスケは反応を示した。


『光は、まだなくなってない。』

『頑張れ!』


その言葉が脳に行き渡ると、ケイスケは再び意識を手放した。
苦悶の表情を浮かべていたものが、幾分か和らいで見える。

その後、何度か覚醒を繰り返してはのた打ち回ったケイスケだったが、
そのたびに聞こえてくるアキラ、そしての言葉に、何度も何度も、
本来のケイスケが意識を取り戻しかけていた。

その結果、


ゲームよりもかなり早い段階でケイスケは本来のケイスケに
戻る事となってしまったが、そんなことは今更突っ込んでも

激しく無意味だろう。







続。



+後記+

リンが勝ち取りました!勝訴!勝訴です!!!

+ブラウザバック推奨+

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル