グンジがいつものように処刑へと出向いた先に、
なんだか妙にちっちゃなモノがおっこちていた。
ヴィスキオ・パニック1
「パーパぁ〜」
「パパはやめ……。」
「ないか。」と続けたかった言葉は途中で音を失う。
つい先ほど城から出て行ったグンジが早々に帰って
きたと思いきや、その腕にはこのトシマでは絶対に
見ないであろうモノを見つけてしまった。
「ひろっちゃったんだけどよー、コレ飼ってもいい?」
その言い方はまるで犬猫でも拾ってきたような口ぶり
だが、実際にグンジが抱っこしているもの、それは幼く
とても愛らしい少年だった。
「一体何処で…いやそれよりそれは…本物…!?」
「おもちゃじゃねーよ、電池いれっとこねーもん。」
「そういう事ではない!」
そんなもの見れば分かるとキイキイ金切り声をあげて
大混乱するアルビトロを差し置いて、グンジと少年は
にらめっこで遊んでいる。キャッキャと楽しそうな声が
妙に静まり返ったアルビトロの部屋に響き、奥の部屋
にいたカウが何事かと主人の顔色を伺いに来た。
それを見た少年がきょとんとした顔でグンジに尋ねる。
「ぱぱ、あのおにいちゃんどうしてはだかなの?」
「パッ!?」
グンジはさして驚きもせず、「ありゃまだ裸じゃねーよ」
などと会話しているが、アルビトロには大きな衝撃が
走った。
「い…今君はグンジの事をなんと呼んだのかね…?」
多分聞き間違えだろう。いや聞き間違いだろう。
そうであってほしいんだが、どうだろうか。などと、
淡い期待を込めてもう一度聞くと、少年の愛らしい
唇から紡がれる言葉は何度聴いても同じこと。
「ぱぱってゆったよ。」
「!!!???」
今度こそ絶句状態に陥ったアルビトロは、軽く眩暈を
引き起こし半分立ち上がりかけていたソファーへと再び
深く沈みこんだ。カウといえば耳慣れない子供特有の
高く甘い声に耳を傾けつつも、主であるアルビトロの
側に座り込み、ひざに顔をこすり付けている。
そんなカウの頭を無意識になでつつ、アルビトロは
今目の前におかれている現実を必死に整理しようと
していた。
グンジに子供がいたなど聞いたことがない。まずその
ようなことがあればアルビトロに真っ先に知らせが来る
はずだ。しかしそもそも女の極端に少ないこのトシマで
どうやって女を探し出して子を孕ませたというのか。
と、ここまで考えてふと冒頭を思い出す。
「…グンジ…」
「あー?」
「その子供は”どうした”と言った?」
「”拾った”ぁつったべ?」
「拾った」。そうだ、たしかにそういったのだった。
危うく違う路線へと思考回路が飛びそうになったが、
アルビトロはぎりぎりで踏みとどまって現状を把握する。
しかし拾ったというのも不思議な話だ。
子供、しかもこんなに愛らしい少年が、だ。
このトシマにグンジに拾われるまでの間、なぜ
無事でいられたのか。本物の親はどうしたのか。
湧き出して止まらない疑問がアルビトロを苦しめる。
しかし、それよりももっと重要なことがあった。
なぜよりにもよってグンジが「ぱぱ」なのだろう。
「パパ」にもっともふさわしい人間がここにいるでは
ないかと、アルビトロの美少年愛好家という趣向が
ムクムクと湧き上がってくる。
「君、お名前は?」
「です!」
「…くん。」
グンジに抱っこされたままの少年はなんとも素直に
返事を返した。その仕草すら愛しさを感じさせる。
こうなったらもう何が何でも改造して、カウとつがいに…
「なーパパってばよぉー飼ってもいいの?コレ?」
「コレなどと失礼な呼び方はやめたまえ!少年には
君という立派な名前があるではないか!」
と、とりあえずグンジをしかって、ついですぐにと
名乗った少年へと近づき、視線の高さを合わせる。
「君。どうだろう、そんな血なまぐさい人間より
私という人物を…その、パパとするというのは…?」
アルビトロ”特有”の下心丸見え発言に意味が
分からないのか、助けを求めるようには
グンジの顔を覗き込んだ。
グンジもしばらく意味を理解できなかったのか呆けて
いたが、はっと我に返ってを抱え込みアルビトロ
から遠ざけるように背中を向けてしまう。
「コレ俺が拾ったんだかんな!パパにゃやんねーよ!」
「それは君が決めることではないのかね?」
「…?…ぼくのぱぱはぱぱだもん!」
意味はよく分かってはいないであろうが、どうやら
はアルビトロの背後に潜む煩悩を感じとった
のだろう。とたん不安げな表情になり、グンジの
パーカーをぎゅっとにぎりしめ、アルビトロの視線から
逃げようとする。その表情は今にも泣き出しそうだ。
― はアルビトロを怖がっている。
それは、流石のグンジにも分かったらしい。
「いくらアルビトロ様でもよぉ、やっていーことと
わりぃことのクベツぐらいつくよなぁ?あぁ!?」
「ひぃっ!?」
突然狂気に中てられ思わずひるんだアルビトロ。
失禁しなかったのがせめてもの救いだった。
「コレは、俺の!触ったらブッ殺す。い〜ぃ?」
「わ、わかった、好きにしなさい!」
凄むだけ凄んで、許可を得たグンジ。「わーい
やったー」などと高い高いしながら、アルビトロの
部屋を後にする。
当然、今後はグンジの部屋に住む事になるのだろう。
「…好きにしなさいとはいったが、干渉しない
とまでは言っていないからな…ふふ…ふふふ」
至急子供服を取り寄せて…そうだおやつなんかも
あるといいだろう。あんな逸材を見せられて干渉
するなというほうが無理なのだ。これは仕方のない
ことなんだ…。と、諦めの悪いアルビトロの独り言を
カウだけが静かに聞いていた。
続。
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