其れはダイヤよりも堅く、光り輝き、
そして、誰の手にも掴めない もの。
Phantom Crystal
あなたは悪魔の実の能力者です。
そこは、森の中にぽっかりとあいた草原。
四方を森に囲まれている以外は、何も無い。
そこに、一人の少年が寝転がっていた。
何をするわけでも無い。
ただ、目を閉じて、転がっていた。
そこへ、不穏な足音が響く。
「…アレか、幻の鉱石の守人ってのは。」
「なんでぇ、ガキじゃねえか?」
「それにここにゃあなんもねえ。」
「だから、あいつが”在り処”を知ってるんだろう?」
手に手に物騒な武器を構え、様子を伺うように遠巻きに見守っている輩。
風体からすれば海賊かと伺える。それはさして珍しい事では無い。
今は大航海時代。世間には彼等と同じ人種が溢れかえっている。
「…またか…。」
寝転んだまま薄く目を開けた少年が、心底ウンザリとした
声を出して、だが、動く事も無くただ寝転んでいた。
彼等....海賊どもが狙っているのは、”幻の鉱石”と呼ばれる至宝。
それはダイヤよりも堅く、光り輝き、そして、未だかつて
誰も手に入れた事のない、ファントム・クリスタルと称される。
(せっかくいい隠れ場所を見つけたと思ってたのに。)
無遠慮に草を踏み荒らし、近付いてくる足音。
彼の聖域を、不愉快な空気が侵していく。
ある程度近付いて来て、そのグループのリーダーかと思われる、
得に凶悪な面の海賊が少年に声をかけた。
「よう、テメェがってぇガキか?」
、と呼ばれた少年はようやく体を起こし、
感情のない瞳で彼等を見据え、答えた。
「御覧の通り、ここには何にも無いよ。海賊さん。」
それは事実。だが、彼等はそんな言葉に耳も貸さなかった。
「んなことぐれぇ解ってんだよ。だから、教えろや。」
「ファントム・クリスタルなんて存在し無い。」
「おやぁ?俺等ファントム・クリスタルなんて一言でも言ったかぁ?」
「言ってもねえのに答えるってこたぁ、在り処をしってるな?」
「こいつバカじゃねえの!!」
少年の言葉の揚げ足をとっただけで、下品にゲラゲラと笑いあう。
それをため息一つで躱すと、は右手を持ち上げて、見つめる。
「ファントム・クリスタルが何故未だに誰の目にも触れず、
そして誰の手にも渡った事が無いか。…考えた事は…ない?」
「そりゃあ他の奴等がマヌケだっただけだろうが!」
「俺達はそれはそれは悪名高い海賊様だぜ。大人しく教えな。」
「そうすれば痛ぁいことはなんにもしないよーボウヤー。」
どこの誰様かは知らないが、”悪名高い海賊様”とやらは
諦めて帰るつもり等無いようだ。もちろん、過去に彼の所へ
訪れた”残虐非道な海賊様”も、”かの有名な海賊様”も同じだった。
「…どこの海賊も、阿呆だらけなんだ。」
呟くほどの声量の言葉だったのだが、海賊の耳にはしっかり届いたようだ。
それまで余裕で笑っていた彼等の顔が、引きつり残虐さを露にした。
「お子さまだからって容赦しねえぞコラ。」
「情報吐きゃ殺さないでいてやろうってんだコラ。」
「じゃねえとここで拷問しちゃうぞコラ。」
だがはそれも鼻で笑い、改めて右手を彼等に向かってかざす。
「そんなに欲しいなら、くれてやるよ。」
の周りの空気が日の光を浴びて輝き出す。
足下から沸き起こる不思議な風が、右手に集まってゆく。
海賊どもは、気付いてさえ居無い。
「最初っからそうやっていい子にしてりゃいいんだよ!」
「もったいぶってねえでとっとと案内しろやコラ!」
「案内、そんなもの必要無い。ファントム・クリスタルは此所に在る。」
「ざけんなよガキが!こんなとこのどこにあるってんだ!!」
「ぶっ殺されたく無きゃとっとと…!」
「だから、此処に在るって、云ってるだろ?」
そこで初めてが表情をみせた。
氷のような、冷たい笑みを。
「 氷柱 <こおりばしら>。 」
その言葉をまっていたかの様に、空気が動いた。
次の瞬間には、3つの、光り輝く大きな結晶が在った。
「…何がファントム・クリスタルだ。」
其れは、ダイヤよりも堅く、光り輝く…
「ただの、氷だよ。」
そして、の意志によって、容易く溶けて無くなるもの。
その内に取り込んだモノ共々、水となり、大地に消える。
「だから云ったろ?”どうして未だに誰の目にも触れず、
誰の手にも渡った事が無いのか。考えた事、ある?”って。」
―― ああ、もう聞こえないか。 ――
また呟いて、また、寝転んだ。
終
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