が爆睡モードに入って、3日。





Phantom Crystal 3
あなたは悪魔の実の能力者です。






「目ェ覚まさねえぞ、本当に大丈夫なのか?」

「よっぽど寝て無かったんじゃないか?」


未だ目を覚ます気配も無い幼馴染み、
さすがのルフィ、チョッパーも心配になって来た。


「でもそろそろ起きないと栄養失調になっちゃうぞー…。」

「おーい、、起きろってば!!」


再度肩を掴んでガクガク揺すると、が小さく呻く。
それに気付くと、ルフィはさらに激しく揺さぶった。


、おおぉおぉきいいぃぃろおおぉー!」

「……うるさ……」

「おお!!やっと起きたな!」

「んー…。まだ眠い……。」

「それただの眠り過ぎだぞ。」


チョッパーの突っ込みにようやく目を開く。
視線がフワフワと天井当たりをただよい、
ややあってからルフィを見つめた。


「あ、ルフィ。」


頭はまだボケていそうだが、幼馴染みの名前だけは
しっかりと言い当てる。ルフィは嬉しそうに笑い、
改めてに抱き着いた。


「久しぶりだな!あんな所に倒れてるから吃驚したぞ!」

「…あんなところ…?」


少し考えて、ああ、と手を打つ。


「うん、色々あってあそこに隠れてた。」

「隠れてた?」

「そう、僕………」


と、言いかけて言葉をとめる。
の目線の先には、チョッパーがいた。


「え?俺?何??」


チョッパーの真ん丸な目をジッと見つめ、軽く微笑む。


「…君なら、いいか…。」

「な、なんだ?俺の顔何かついてるのか?」

「そうじゃない、ええと…僕は。君は?」

「俺は、チョッパーだぞー。」

「チョッパー、それにルフィだけ。僕の秘密聞いてくれる?」


不思議そうに顔を見合わせる2人を見て、今度は淋しそうに笑う。


「2人とも、知ってる…?……ファントム・クリスタル…。」


小さな声で紡がれた、誰もが狙うと言うその至高の存在。
だが、麦わらの”海賊団”の2人は揃って首をかしげた。

は意を決して、2人にだけ。
ファントム・クリスタルの価値、そして、その正体を、明かした。







「…………ん〜…聞き取れない。」


とルフィ達がいる扉に耳をくっつけて、中の様子を伺う人物。
森で、唯一”ファントム・クリスタル”の言葉を聞き取った、ナミだ。
そこへたまたまゾロが通りかかり、挙動不振な仲間に声をかけた。


「何してんだナミ。覗きか?」

「でっかい声で話し掛けないでよ!」

「…お前の声のがデカいし…。」


思わずいつもの調子で突っ込みをいれてしまい、慌てて口を塞ぐが
時すでに遅し。一応確認の為に再び耳を傾けてみるが、扉の向こうは
物音すらしないほど静まりかえっていた。


「ヤバっ!」


と、思ったのも、もはや遅かった。

突然バン!と大きく扉が開いたかと思うと、何かが飛び出して来て
ナミを床に押し倒し、喉元にひやりとしたものを突き付けた。

初め刃物かと思われたそれは、ただの掌だと一瞬遅れて認識する。

だが、その手はナミの気道を軽く押さえ付け、呼吸をしづらくさせた。


(な、何なのよ、それに…この手、人間なの…!?)


ナミに馬乗りになった少年は、氷のような目でナミを見下ろす。
あまりの素早さに、ゾロすらも対応できないでいたようだ。
扉の中をチラと覗き込めば、ルフィとチョッパーが固まっていた。


「……盗み聞き。シュミ、悪いね。」


が言葉を発するごとに、手の体温が下がっていく気がする。
それにもまして、の眼差しが、ナミの血液を凍らせるようだ。

誰も動けない時間が過ぎていく。

ただ解るのは、じわじわと、ナミの体温が奪われていく錯角。
…否。実際に、はナミの体温をジワジワと下げていた。

が、空気を切る音が聞こえて、
がナミの上から吹っ飛ばされる。


!」

「……ヒッ…!!ゲホ!ゲホゲホ…!!」


はそのまま船の甲板に叩き付けられるが、
何事もなかったように起き上がり、驚いて駆け付けた
ルフィを受け止めた。


「大丈夫か!?」

「うん、大丈夫、あたってない。」

「ふっ飛んどいて何が当たってないだクソ餓鬼。」

「サンジ!何しやがんだ!」

「それはこっちの台詞だ!俺のナミさんに…!」


そう、あの扉の音に気付いて厨房からでてきて見えたのが、
ナミの喉元を押さえ付け、馬乗りになっているだった。

考えるより早く、サンジは自慢の蹴りをくり出していた。


「レディを押し倒すなんざ100万年はええんだよ!」

「そのレディが盗み聞きだなんて、はしたない。」

「ンだと殺されてえのか!?」

「やめろよサンジ!」

「まあ落ち着けよ。盗み聞きしてたのは事実だしな。」


再び飛びかからんばかりのサンジを刀の鞘で抑え、
ゾロの言葉にようやくサンジの殺気もおさまっていく。


「…盗み聞きって…そうなんですか?ナミさん。」

「…それは…本当だけど…。」

「で、でも、何か理由がおありなんですよね?」

「理由が在ったとしても。」


ナミへの言葉を遮って、


「人には、知られたくない事がある。貴女はそれを
 暴こうとした。僕は、それを阻止した。それだけ。」


その冷たいものの言い方にサンジがまた怒りを露にするが、
ルフィ。そして、チョッパーがサンジとの間に
立ちはだかった。


「サンジ、こいつすごく嫌な思いしたんだ、沢山たくさん。」

「それが何かは言えないけどよ。」


2人の、未だかつて無い真剣な表情に飲まれそうになる。
が、その雰囲気を撃ち破ったのはだった。


「…もういいよ、ルフィ。チョッパー…」

!?」

「海賊、だもんな。お前たちも、海賊、なんだもんな…。」


の表情が、悲痛なものに変わっていく。


「ルフィと、チョッパーは好きだけど、やっぱり、海賊は嫌い。」


先ほど、全身を貫くような冷気を持った瞳とは違う視線。


「僕は、また隠れ家を探して、そこにいる。」


―― たった、独りで ――


「もう…疲れた。」


余りにもその言葉にこめられた感情に、ナミ、そしてサンジの
毒気が抜かれていく。チョッパーが言った言葉を思い出す。


『こいつすごく嫌な思いしたんだ、沢山たくさん。』


サンジにはがどんな目にあって来たかは想像もつかない。
けれど、それを知らずとも、あの、表情。

確実に”嫌な思い”をしてきたのだろう。

たくさん、たくさん。

…そして、ナミには思い当たる節が在った。


(ファントム・クリスタル…)


その存在を知らないものは居ない。
その存在を手にした者も、誰も居ない。

そして、目の前の少年。

は、それに辿り着く唯一の存在なのだとしたら。

誰かが嗅ぎ付けて、情報を売ったはずだ。

どれだけの海賊に襲われたのか。
自分達とそう年も変わらなそうな、あの少年が。

先ほどの動きから見ても、現在こうして無傷で立っている
現実があったとしても。どれほど、”人間の醜い部分”を
見せつけられて来たのか。

…3日も意識を失うほどに眠っていた。

…毎日、ひょっとすると、毎時間の単位で、
誰かに襲われたのかも知れない。

それは、想像もできないほどに辛い事だっただろう。

ナミは考えるのを、やめた。

見れば今にも船を降りようとする、そして、
それを必死に引き止めるルフィとチョッパーに、
姿勢をただして、勢い良く


「ゴメン!!!」


謝った。


「……え?」


驚いて振り返った3人。


「アタシ無神経だった。ただ…ホラ、アタシってさ、
 お宝が絡むと人が変わっちゃうって言うか、その…
 だから、盗み聞きなんてしてゴメン。」


突然の謝罪に、達どころかゾロやサンジまでもが固まった。


、だっけ。」

「う…うん…。」

「これはある事を仮定して言う事だけど…。アタシもね、
 海賊なんて大嫌いよ。人の弱味握って、利用して、
 目的の為なら、手段を選ばないの。…ダイッキライ!
 でも、アタシも今それになりかけてた。だから、ゴメン。」


ナミの言う事は…の事情とは、
少し意味合いは違うかも知れない。
それでも、には十分通じた。


「僕も…酷い事して…ごめん…。」


今度は素直に謝ったに、ナミはニカっと笑ってみせた。


「気にしないでよ!たしかに死ぬかと思ったけど、
 アタシのやった事ってにとってはそれだけ
 嫌な事だったんでしょう?ホラ、サンジ君も謝って!」

「えっ俺もですか!?」


いきなり話をふられて驚くサンジ。だが、
仕切りモードに入ったナミさんに逆らえる者は誰も居ない。


「だって思いっきり蹴ったじゃない。」

「あ、あれはナミさんを護る為に!」

「…あ…あの、それ、本当に当たってないから…。」


だが、の言葉にやはり少しムカっとなる。


「だからふっ飛んどいて当たってねえはねえだろが!」

「いや…だから…その……。」


言い淀み、ルフィをみた。

ルフィはを見つめ、そして、やはりニシシ!と笑った。
まるで、「大丈夫だって!」とでも言うように。

………は、事の全てを改めて、
全員に説明しようと思った。










「…と、言うわけで、ファントム・クリスタルなんて、
 存在しない…。ただの…氷、なんだ…け……ど…。」


だがやはり、キラキラの実を食べて能力を持ち、初めて
使って以来、長年にわたってあらぬ噂になった挙げ句、
帯びれ背びれがくっつきまくた為に”海賊”に追い回された
過去はの口をもたつかせた。

ルフィと、ルフィの仲間を信用していないわけではない。
でも、それ以上に、辛い事が多すぎた。

が。


「ふぅん…残念だけど、それが事実なのね。」

「俺はファントム・クリスタルって只の伝説だと思ってた。」

「つーかファントム・クリスタルって何だ?」


ナミ、サンジ、ゾロの言葉は、
未だかつて聞いた事のない言葉だった。


「他の人たちは…いくら言っても、
 聞く耳ももってくれなかったのに…。」

「だって…嘘つくように見えないし…。」

「俺は伝説だって思ってたからハナから半信半疑だったし。」

「そもそも俺はなんとかなんとかっての知らねェし。」

『お前はちょっとくらい世界情勢を知っとけ。』


ナミとサンジの息のあったツッコミに、小さく笑う。


「ねえねえ、それよりさ!」

「?」

「真実が分った事だし、そんなもの売れないしさ。」

「え、ああ、ファントム・クリスタル…?」

「そう。それ、見せてくれない?」

「………え。」


それまで和やかだった空気が一瞬にして氷ついた。


「……………………………ナミ…。」

「やっぱりお前ってやつは………」

「ナミさん…それでも俺はついていきますよ…!」

「アンタらなんかムカツクわね!!!」


容赦なくサンジにまで棍を叩き付ける。
鈍い音が部屋に響き渡った。


「な…なんで俺も…!」

「純粋に見てみたいだけじゃないの、何よ人を
 金の亡者みたいな目で見て!失礼だわ!!!」

「実際に亡者…」

「だまらっしゃい!」

ゾロにたんこぶがもう一つ追加された。


「あ、あの…見せるから落ち着いて…。」


恐る恐るかけられた声に、バラが咲き誇ったような
笑顔をみせて振り返るナミ。サンジは目をハートにして
飛びつきかけたが、あっけなく棍で叩きのめされた。


「…痛そう…」

「気にしないでいいの!それより見せて!」

「う…うん…」


本能的に「この人には逆らわない方がよさそうだ」と
感じたは、全員が見守る中、掌に冷気を集めた。

パキパキッ…と音をさせて、何もない所に、
それはそれは透き通った、氷の固まりがあらわれる。


「…綺麗…。たしかにこれじゃあ、お宝だって言われるわね。」


ナミの素直な一言に苦笑しただが、
掌に出現した氷に、また少し力を加える。

それは、またパキパキと音をさせて変化して行き、
透明な輝きに満ちた、大輪の薔薇の形をとった。


「………すっっっっげー!!!!!」

「形も自由自在ってやつか。」

「うん。温度も調節できるから、僕が望まない限りこれは、
 永遠にこの形を取り続ける。…最初、それを知らなくって、
 面白がって花を凍らせてて…それを、海賊に見られて…」

「で、ファントム・クリスタルっていう幻の宝の噂が生まれたってか。」

「…そう。あれから何かを凍らせてもすぐに溶かすようにはしてるけど」


その言葉と同時に、一点の曇りもない氷の薔薇は、露と消えた。


「…ちょっとまって、さっきのの手が凄く冷たかったのはそれ?」

「あ…そう…。ごめん、体温も…徐々に下げてた…。」

「………ちょっとまってよ…本当に殺す気だったの…?」

「…ごめん…自分の命に関わる秘密…だったから…。」

「その割にはルフィとチョッパーには話したんだろうが?」

「2人ともファントム・クリスタルの事知らなかったし…。」

『お前等も世界情勢知っとこうよ!!!』

「だって俺興味ないし。」

「俺も宝石とかあんまり興味ないぞー。」


もはや突っ込み疲れたナミとサンジはガックリと肩を落とした。


「………………………………………あの…!」


突然、が大きな声を出す。


「あの…それで、僕、どう…しよう…?」

「どうしようとは?」


率直な疑問に、言い淀む。
なぜなら。


「僕の事は、色んな海賊が知ってる。きっと今頃、誰かが
 もう情報を流してる。ファントム・クリスタルの守人が、
 隠れ場所を変えたって。その場所は…ここだっ…て…。」


ここ、とは、ゴーイングメリー号。
すなわち、”麦わらの海賊団”に。


「きっと今まで以上に血眼になって探すよ。
 皆も、危ない目にあう…し、ルフィ…。」


きょとん、と、名前を呼ばれたルフィは首をかしげた。


「へ?だってもう仲間だろ?」

「………………ん?」


意味が読み取れなくて、まで首をかしげた。


「あー。諦めろ。こいつ1回決めたら動かねえから。」

「それにもう知られてるなら、同じ事よ。かえって一緒に
 居た方が安全だと思わない?ひとりで戦うのは限界よ。」

「ま、俺の蹴り食らってる様じゃ危なっかしいよな。」


…言われた意味は良く解る。つまりは、一緒に居てもいいのだと。
だが、一つだけどうしても訂正しておかなければいけない事があった。


「サンジ…の、蹴り、本当に当たってないから…。」

「まだ言うか!?お前吹っ飛んだ…」

「うん。でも、蹴りが届く前に、氷で弾いたから。」


思った以上に威力があったから衝撃で吹っ飛びはしたが、
実際に蹴りはかすりもしていない、と。

あんぐり口をあけたまま固まるサンジ。


って案外プライド高い方…?」


ナミの言葉に、サンジはとどめを刺された。


「ま、何はともあれ、麦わら海賊団にようこそ!」


と、ルフィが珍しく丸くまとめた、その時だった。


「なんだなんだー!夜中だってのに騒がしいな!
 まさか侵入者か!?それともこの俺様をのけものにして
 皆で宴会でもやってんのか!?何でもいいからまぜろコラー!」


と、寝巻き姿のウソップが扉を蹴やぶって登場した。


『遅ッ!!!!!!』


……その場に居た全員が、同じ言葉を発したのは、
言う間でもなかろう……。












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