彼岸にて

 

 

鳥栖 千晶  17歳
修学旅行中 バスの中にいるはずが
なぜだか
今一番の仇敵と
彼岸にいる 

彼岸にて
決して忘れない君がくれた優しさ、そして勇気を

いつだって修学旅行に良い思い出なんて無い
小六の時は盲腸に襲われ
中学の時は食中毒でニュースに載った

「はてしねー 確かバスが正面衝突したのは覚えてる・・・」
卯月君は辺りを見回していた。
「てかみんなは?死人俺らだけ?・・・鳥栖?」
私は花を使って隠れていた。なのに卯月君が話しかけてきてビックリした。
何でよー
私はそう思っていた。だって・・・
「‘何でよりにもよってこんなヤツと’って今思ったでしょ?顔に書いてあるヨ・・・」
卯月君は私の思惑を察して問いかけながら近づいてきた。
「近よんないでよっ」
私は急いで立って卯月君の頭を蹴った。
「苺・・・」
卯月君が発した言葉・・・苺?何で?
私は少し考えるとなぜ苺と言ったのか分かってしまった。
今日は苺がらの下着・・・・。
覗かないでよっ
私は咄嗟にまた卯月君の頭を思いっきり蹴った。

卯月 稔

実は三日前私はこの男に告白し
「こういうの受け取らない」
と速攻でふられている。

そしてなおかつっ
「フー鳥栖は一体何怒ってるの?この前から」
分かってない!!!くそぅ鈍感も程々にしとけよ!
「もうっ卯月君のせいだからねっ」
私は卯月君の方に振り返った。
「何で・・・?」
「大体君がっ“バスの席は一番前が良い”とか我が儘言わなきゃこんな風に死ななくてすんだのよっ」
私達は元々くじ引きで隣同士になっていたから席決めは二人で相談して決めた。
とはいっても卯月君の一言で決まってしまった。だって気迫に押されて・・・
「成る程・・・まぁ大丈夫だよまだ完全に死んだ訳じゃないだろうしきっと帰る方法があるから」
そう言って卯月君は私の頭の上に手を乗せた。
私はその手を押しのけた。これでも一応照れ隠しの為。
「また・・・」
卯月君は少し呆れ顔だった・・。なんかズレてる・・・。

元々感じていたのは類友の共感で編入したての私は無愛想な性格も手伝ってクラスに馴染めずにいた。そんなとき目を引いたのが
学校も休みがちで同じようにいつも端っこにいる彼。
{どんな人だろう}
そういつも思っていた。
それから分かった事は部員三名の園芸部の部長って事と・・・(じゃんけんで負けたらしい)病弱という噂の割には力が強い事それと
結構人の思ってる事が分かる人だという事。それから追いかけるように園芸部に入って窓際同士何となくいつも一緒にいた。
まぁまさかこんな所まで一緒にいる事になるなんて思わなかったけど・・・

「こういう場合現世側から『死ぬな』とか呼ばれると帰れるらしい・・・・」
「が いっこうにその気配無いんですけど・・・ねぇ!!」
ショーもない・・・私ちょっとキレ気味・・・
何かこの話、私のモノローグとナレーションっぽいの分かんなくなってない?まぁそんな事は忘れよう・・・マインドコントロール・・・
「寂しい人生だねお互い フッおかしいな・・・あんなに学園に貢献していたというのに・・・園芸部部長として・・・」
「それがいけなかったんじゃない?卯月君学校の花垣尽く野菜園にしちゃったし私マリーゴールドの花垣がヘチマ畑になってた時は
どうしようかと思ったよ・・・用務員さん泣くし・・・」
本当にどうしようかと私はそのとき思っていた。
どう見ても園芸部と言うよりも家庭菜園部に見えるし・・・・
「ナヌッ鳥栖だって人の事言えないだろ俺は知っている鳥栖が間引いた芽をあらゆる所に植えていった事を!!そして野菜園は広がった」
うっ図星というよりも心当たりありすぎ・・・!
「わっ私は命に優しい女なのよっ悪い!?」
そう言って私は歩き始めた。
「どこ行くのおーい・・・悪くない・・・そうだよな鳥栖そう言うところ滅多に人に見せないから誤解されやすいけど俺はそういう不器用な
ところ好きだよ」
・・・キザなヤツ・・・うずき君の言った「好きだよ」のところで風が吹いた。
私はそれにつられて振り返った。卯月君は静かに微笑んでいた。
ちくしょう・・・
そう私は思うとまた振り返って歩き始めた。
「あれ?!なんで?!」
そんな事を卯月君は言っていた

君は知らない その笑顔と言葉がどれほど私の救いになったか・・・
“分かってもらえなくて良い”
これは強がり
上手く思いを形に出来ない自分が大嫌いだ
私は 馬鹿にした事なんて無い
卯月君は何も聴かないし言わなかった
だけど
痛いくらいそれがかなりの慰めだと分かった
“この人が好き”
初めて自覚した
私は卯月君の所に戻った。
「何してた?コラ 人が見回り行ってるときに」
卯月君の後ろには明らかに寝ていたと思われる人型があった。
「ミッミステリーサークル作り・・・かなっ」
おいおい・・・
「だってあまりに暇で・・・」
私は卯月君の隣に座った。
「誰も呼ばないしねまぁ私嫌われてたしなぁ無理かも・・・卯月君がいればそれで良かったし・・・」
私は最後の部分をボソッと言った。でも卯月君は気づいてしまったみたい・・・
立って喋り始める。
「案外鳥栖の思いこみかもよ委員長なんて結構気にしてたみたいだし思ってる事つたなくても言葉にして友達つくろ?」
変わり者だけど人は言い卯月君があえて人と距離をとってるのは何でだろう?
友達つくろ?どうやって?こうなった今作る事なんて・・・なにさっ・・・
私はそんな事を考えながら笑っている卯月君をジッと見た。
「にしてもこんなに早くここに来る事になるなんて思わなかったなぁ」
「? それは私だって・・・おわっ」
また強い風が吹いた。
「待って今ので髪に花弁が付いてる」
そう言って私の髪に付いた花弁を優しく取ってくれた。

卯月君の優しさは
私の特権
好きになったのは
噂とは違う
生身の君
自惚れが 
私の中の花という花を咲かせてもう止まらなくなってしまった
“きっと大丈夫”
怖くて震えても
言い聞かせるように
そう思った
思っていたのに・・・

私は卯月君を押しのけた。
「とり・・・・」
「優しくしないでよ」
私の爆発に合わせるかのように風が吹き荒れる。
「うっ卯月君ヒドイよっ‘つたなくても伝えろ?’それを拒絶したのは卯月君じゃんっ・・・それなのにあたしの事好きでもないくせにっ断った
くせに優しくしないで・・・っ」
私は途中から泣きながら言った。
私の心の嘆きをすべて卯月君にぶちまけた。
「好きだよっ」
風がさらに強くなる。
すごく切なそうな顔をした卯月君が目の前にいる。
ひどく辛い・・・卯月君もきっと辛い・・・
「好きだよ けどもう俺には時間がない」
何・・・?
風の音が・・・風の音が五月蝿くて良く聞こえない・・・
卯月君どうしてそんな悲しい顔してるの?
『幹が腐ってる この木もうダメだって 命は切ない物だね』
そんな諦めたような悲しいような顔しないで あの時みたいな


「とりすっ 鳥栖 起きてっ」
「あっここ何処?真っ暗・・・」
気が付くと周りは真っ暗で転々と小さな光が見えて小さく揺れているところにいた。
「いやそれが事態が急変したらしくて・・・見て“三途の川”たぶんこれがそう呼ばれている物みたいだ」
私達は船の上にいた。
これが川?こんなに広いのに?
外にも気で出来た船に乗った人達が沢山いた。
船が川いっぱいになって流れていた。
「いよいよ危ないって事?何で・・・急にすごい風が吹いて・・・真っ暗になって・・・」
「落ち着いて 鳥栖は大丈夫聞こえない?私は・・・ってさっきから微かに呼んでる声がしてる 一か八かだけど鳥栖は船から下りれば
助かるかも」
気のせいだろうか?彼が光って見えるなんて・・・
「卯月・・・君は?一緒に帰れるんだよね?」
「最後に鳥栖に会えて良かったよ 俺は残念ながら向こう岸からお呼びがかかってるみたいだ」
「何ソレ」
卯月君は穏やかに笑っていた。
「ポンコツな体だけど最後に鳥栖の為に役に立って良かった」
「は?イヤだよっ何言ってるの!?」
「帰れるんだよ?大丈夫鳥栖ホラ早く降りて 向こう付いちゃうよ?」
取り乱す私を押さえるかのように卯月君は優しく言った。
悲しい・・・・
「行かないっここにいるっ離れるなんて絶対イヤっ一緒に帰れないなら私も卯月君と一緒に逝く」
悪い予感を振り払うようにわめく事しかできない。
一緒に・・・・
「一緒にいたいっ」
泣く私にそう言って卯月君が私を抱きしめた。
「残された時間全部鳥栖の側にいたいよ 別れが辛いから人と距離をとったのに 鳥栖と離れる事は今もこんなに出来ないっソレなのに受け
入れる事も拒絶しきる事もできなくて・・・ごめん」
何?
なんて馬鹿な男

“俺ニハモウ時間ガナイ”
たとえ真実でも
そんな言葉もう
辛いだけだよ
聴きたくないよ
聴きたくないけど
それでも
聴けて良かったと
思ってる私の方が
愚かなのかな

「鳥栖?」
「そう言う事は 早く・・・言いなよ・・・」
私は涙が止まらなくなっていた。
卯月君も泣いていた。
「なぁ 鳥栖 今馬鹿な男って思ったろ アタリ?」
ドプン
私は卯月君に押されて川へと鈍い音を立てて堕ちた。

いつだって修学旅行に良い思い出なんて無い
小六の時は盲腸に襲われ
中三の時は食中毒でニュースに載った
高二の時は死出の船上で
愛しい人とはぐれました


そして三日後
私は無事に生還する
頭を強く打ってはいたが
私はほとんど無傷だった
その代わり 卯月君は
私を庇うかのようにして
亡くなっていたそうだ
即死だった
しかしそれ以前に
彼の余命も
もう数ヶ月だったという

「鳥栖さんっ」
「あ・・・委員長さん」
どうしよう・・・
退院してから初めての学校への通学途中門前で三人の人に合った。
どうしたらいいのか分からない・・・
「退院おめでとーっ もう良いの?」
「うん・・・」
「本当 平気?実はさ今度みんなで遊びに行くんだっ行こうよっ決定!つぶれた修旅のかわりに・・・」
「は!?えっあっうっ」
「理可っ嫌がってる人間無理に誘うな」
「はー何ソレムカーっ」
あ・・・っ
“鳥栖 思いを形に・・・”
「・・・あのね私言葉にするの苦手で・・・でもおたかくとまってないしっそのっイヤじゃないしっあーっあのっとにかく誘ってくれて本当
 嬉しかったです・・・・」
つたなくて本当に大丈夫?
伝わるの?卯月君
私は必死になって言っていた。みんなきょとんとしている。
「お礼なら委員長に言って 集中治療室であんたの事ずっと呼んでたのよ」
そう言うと三人のうちの一人が去っていった。
「あのねっのぞみあんなだけど最初にアナタ誘いたいって言い出したのあの子なの 君達類友ねぇ」

私を救ってる
もう何処にもない
君の存在が 言葉が
こんなにもまだ
私を支配している・・・

「くやしいなぁ」
「は?もしもし」
私もその場を去り園芸部部室へと急いだ。

「・・・やっぱ一言言ってやらなきゃ気が済まないや 馬鹿じゃないの!? かっこつけちゃってさっ本当早く言いなさいよねっ 私怒ってて
馬鹿みたいじゃないっ 悔しいから草むしりに来ちゃったわよっ 安静の身なのよっ」
もはや一言じゃなくなってしまった。
私の気持ち・・・
「馬鹿な男って・・・・思ったよ 思ったし今も思ってるよ 私は君と最後の時間ちゃんと向き合っていたかったしその想い出つぶれたり
しないよ?だからお願い何か言ってよ」

分かってるこれは
届かない
一人言
無駄だと
分かっていても
君の声が聴きたい
花が・・・

「聞こえたよ・・・」

忘れない
遠くても
痛くても
君の声
あの岸で見た
花のような
この恋を

「今有難うって言ったのよね?」



どれだけ離れていても声は届く
ソレが
あの世と
この世
でも・・・

 

***************************************

山秋紅葉サマより頂きました。
二人の切ない思いと彼岸と現実世界を行き来する不思議な感覚を
味わえたかと思います。
彼岸での彼の優しさに感動ですね。
素敵な小説をありがとうございました★

 

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