腹ぺこ羊は泣き虫狼と夢を見るか・第三話でもそんな至福の時も、あまり長くは続かなかった。 「……えっと、ユエルさん」 心地良いけだるさに身を任せ、ぼんやりと行為の余韻に浸っていたユエルの耳に、どこか遠くから聞こえてくるみたいにレシィの声が響く。 「……? ……なに?」 「ちょっと足出して…体、前に丸めてもらえますか…?」 空っぽになった頭に疑問を持つべくもなく、ユエルは半ば条件反射的に、言葉の通りに行動した。 「…こ…、こう……? ……っくうぅぅんっ!?」 …が、刹那腰を掴まれ、強めの力で貫かれた状態から一気に引き抜かれる。 最奥まで突き刺さった状態から、突然そんな事をされたので、上から下まで擦り上げられる感触に、ユエルは堪らず悲鳴を上げた。 ひとまず鎮まったはずのものが、またざわざわと鎌首をもたげ、栓の抜けた自分の股座からは、何かゼリー状のものが数塊、ぽとぽとと床に零れ落ち、熱の冷めて来た頭にそれは酷く恥ずかしい音に聞こえて、彼女の顔を紅くする。 …でも、何よりも、解放されてぺたりと床に手をついてしまった時に。 (……あ…………やだ……) 汗をかいた体に、室内でもひんやりと感じる初春の夜気を受けて、何か肌寒さを。 温もりから引き離され、ついでに股の間に挟まっていた確かな質量感を失った事に、妙な心細さを覚えて、心が何かを一生懸命に探す。 (……やだよぉ……) 暖かくて居心地の良い部屋の中から、いきなり外に放り出されたような錯覚を受け…… (……わぅ?) ……でもそのまま、まるでパンケーキでもひっくり返されるみたく、くるりと。 そのまま向かい合うようにして抱きかかえられると、存分にこなれたその部分の入り口に、再度、硬い物が当てがわれて。 何が起こっているのか、理解する暇もなく。 「ひゃあぁんッ」 今一度深々と貫かれて、ユエルは思わずレシィの背中に抱きついてしまった。 ヒクヒクと膣筋が痙攣し、上げてしまった声の中に、不覚にも歓喜の色が混じる。 …レシィがにやっと、笑うのが判った。 「…あはは、ユエルさん、入れられちゃってるのに感じちゃってますね♪」 「……う、あ、う…っ、うるさいっ! うるさいうるさい~っ!」 ただでさえの照れ隠しに、そんな露骨な言い方で図星を指されたのが重なって、当然というべきか烈火のごとく怒鳴り声をあげるユエル。 ……思いっきり抱きついて頬を擦り寄せ、尻尾をぱたぱたと左右に振りながらでは、迫力も何も無かったけれど。 「そ、そもそも、いきなりレシィ何するのさあっ! こんな事しなくても……」 「…でも、こうしないと顔合わせられないじゃないですか?」 悪びれた様子もない声で言い、ユエルの顎に手を当てて、くい、と上を向かせるレシィ。 いつもは彼女が怒るとすぐに、困って泣きそうになってしまうその顔は、どういうわけか不敵な笑顔を作っていた。 「…ね、良かったですか?」 ……いや、むしろその表情は、どこか晴れ晴れとしてさえ見える物で。 強いけれども優しく輝くその瞳には、目の前の彼女への愛おしさがある。 そんな目をしたレシィが、汗で濡らした髪を垂らしながらユエルを見つめる姿に、不思議に堂々とした仕草があって。 「………うん」 …気がついたら、ユエルは頷いてしまっていた。 実際とても良かったのは事実だったし、今こうして向かい合ってる最中も同様だ。 今のレシィを見ていると、胸がドキドキして、何だかとってもウットリして来る。 それ以上に荒い息を整えながら、半分一つになりつつ間近に顔を突きつけ合い、恥ずかしい気持ちを全部かなぐり捨てて彼とこうしているのは、本当に素敵だった。 ――素敵だったが……。 「…すごい…良かった…………けど……」 脱ぎ散らかされた二人の衣服。くしゃくしゃに捲り上げられ、皺の寄った彼女のシャツ。 同じくグズグスに濡れてしまった靴下。飛び散った飛沫のシミがついてるレシィの上着。 彼女と彼の体液が点々と零れる床に、何よりここが床の上、戸口の前だという事実。 「…でも……これ、なにさぁーっ!!?(怒)」 …冷静さを取り戻して来たユエルが怒るのも、まあ無理は無い状況である。 実際ウゥ~っと唸りながらレシィを睨みつける彼女は、もう頭からプンプンという音と煙が見えそうな位の、それはもう判りやすい怒りっぷりだ。 …こういう状況で、しかも半裸じゃなかったなら、それなりに怖い姿だったのだろうが… 「…ユエルさん、怒った顔も可愛い……♪」 …生憎とレシィは、完全に――それもとっくの昔に――目の前の少女に脳をヤラレ済み。 ふにゃっ、とだらしなく顔を緩ませて、両手一杯にぎゅっとユエルを抱きしめる。 「う、なっ?、あっ、……ばっ、バカあぁーーーーっ!!」 そんな、「かわいい~♪ かわいい~♪」と連呼して、尾っぽをふりふり抱きついてくる彼を、ユエルはなんとかグイグイ押しのけようとするのだけれど、どうも彼女が思っていた以上にレシィの力が強いのと、そうやって無理矢理押し遣ろうとする度に、自分の中に突き刺さった彼のモノが変な感じに動くのとで、思うようにレシィの腕の強さに抗う事ができない。 「…や、やめっ…ぁっ……ちょっと、だめぇっ…擦れてる…擦れてるってばぁ……ゃっ…」 …むしろ、感じてきてしまってさえいるし。 ぎゅぅっとレシィが抱きついてくる分、差し込まれた部分も強く奥に押し付けられるわけであって、それが彼女が彼を揺さぶる度に、ゆさゆさ上下左右に揺れるのである。 …ほどよく潤み、火照り、いい運動をこなし、でも疲れた身体に、再びじんわりと痺れが染み渡るような感じが走って、それが彼女を慌てさせた。 「だっ、大体レシィ、ユエルお風呂に入りたいって言ったじゃん! もういいでしょ、ユエルお風呂行くから一回離してよぉっ、離してってばぁ!」 故に、このまま完全にレシィのペースに飲まれてしまう事を恐れ、ユエルは戦略的撤退を試みる。 …本当を言えば、未入浴の身体を散々味わいつくされてしまった現在、彼女の中ではもうお風呂なんて行っても行かなくてもどっちでもいい事項なのだが、そこはまあ、単純な話見栄っ張り、半分意地になってのお風呂の主張だ。 …しかし、そんなユエルの必死の試みを知ってか知らずか。 「無理ですよユエルさん、お風呂なんて」 「な、なんでさぁっ」 平然として無理と言い放つレシィに、ユエルは思わず食って掛かるが。 「…だって股の間から僕の赤ちゃんの素ポタポタ垂らしちゃってるのに、お風呂になんて行けるわけないでしょう?」 「……っ!!!」 ……そうなのだ。 なにせ文化レベルが『名も無き世界』の中~近世ぐらいしか無いリィンバウム。 流石に個室ごとにの浴槽なんて、いくら豪華でも個人の邸宅であるこの屋敷には無く、お風呂に入りたいと思ったら一階にある大浴場(使用人用と主客用の二つがあり、どちらも下手な温泉宿の風呂並に広かったが)に行かなければならない。 …その上、それでなくても…どうやらその、レシィのは相当に……『濃い』方らしく。 そう言った事情と、その他様々な要素から推測し予想する限り、ユエルが今晩中にお風呂に行ける可能性は……限り無く低いと言うしかなかった。 …なんせ、ちょっとずつしか出てきてくれないのだから。 「…あ、それともユエルさん、皆に見られちゃってもいいんですか? あそこから白いベタベタ垂れ流しちゃってる自分の裸」 「…う……ウウウウウウウウゥゥ~~~ッ!!」 明らかに自分をからかうレシィに、ユエルは顔を紅くして瞳に涙を滲ませる。 …言うまでも無く、良い様にあしらわれている自分に対しての悔し涙だ。 「な、なんでそんなぁ…っ、で、『でりかしー』無い事、…言うのぉっ!?」 流石に夜景にワイン、などというロマンチックな舞台までは要求しなくても、それでも彼女にだって、彼女なりに『雰囲気』を期待するような側面はある。 部屋に入ったが即押し倒され、挙句最後まで行っちゃったら、泣きたくもなろう。 ……だが。 「いっ、いきなりこんなのっ…、その前にもっと、お話とか…キスとかしてか『ちゅ』 そう言い掛けた彼女の唇を。 実際に『ちゅ』、という音が立ったかどうかはともかくとして。 なにかぬめっとした、暖かいものが。 三秒間ほど、覆って塞いだ。 「……はい♪」 …そうやって唇を離すと、どうですか?とばかりに最高の笑顔で笑うレシィ。 「……れ、」 だけどそんな、ショタスキーであったなら一撃で魅了され薙ぎ払われる程の。 「…レシッ、ィっ…なん、か…っ」 戦略核兵器級笑顔を向けられた、当のユエル本人はというと。 「レシィなんかっ、…嫌いだあぁぁ……っ、……うっ、くっ…ぅぇえぇぇぇ…」 ……とうとう本格的に泣き出してしまった。 「えふっ、うぅ……うぁ…ぁああん…。ひっく、レッ、レシィッ、きらいだもぉ…ん……」 そうやってヒィヒィ泣きながら、嫌い嫌いと連呼する。 嗚咽に合わせて耳もひこひこ上下する。 結局、なんだかんだ言って。嬉しいけど……でもやっぱり悔しいのだった。 引っ込み思案で何事にも消極的なレシィを、前に追い立てるのがユエルの役目で。 いつだって彼の手を引っ張って前を歩いていたのは彼女であり、それが二人の関係に限定した、彼女のアイデンティティであったから。 悔しいというか、生意気というか、……認めたくないというか。 自分より弱い、自分がいないと何にも出来ないと思っていた相手が、実は自分より強くて、本当は自分なんかが居なくても大丈夫なんじゃないかと思った時に感じる、あの何ともいえない不安な感じ。 「泣いちゃだめですよユエルさん。ほら、泣かない泣かない♪」 「…ひっ、ひぅっ…、うっ…、うるさぁい! うるさいのおぉっ!」 何よりもユエルとしては、そうやって自分が泣いているのにヘーゼンとしているレシィが、微笑んで彼女の頭を撫で撫でしてくるのが一番悔しくて気に入らないのだが。 自分が『嫌い嫌い』と泣きじゃくりながらも、尻尾をブンブン振って、力一杯彼の肩を抱き締めてしまっている事には、やっぱり気がついてないらしい。 「…き…っ、きらっ、きらぁぃ……うふぇっ、えっ、きらいぃ……きらいいいぃ…」 ……いくらレシィでも、これでは笑うなという方に無理がある。 …ただ、それでなくとも、彼女が意外と負けん気が強くて、意地っ張りな性格である事を、レシィは知りすぎるくらい知り尽くしていた。 「僕はユエルさんの事大好きですから…」 そう言いながら、泣きじゃくるユエルの目尻にキスをするレシィ。 「…だからもう泣かないでくださいよ、…ね?」 柔らかい感触が左右の目尻に順番に触れ、次にすこしザラザラした舌が、頬に出来た水の跡をきれいに拭い取る。 (…嫌いだもん! こんな意地悪なレシィなんか……) ちょんちょんと啄ばむ様に顔中を舐めるその感触は、くすぐったかったけれど、だけどとても暖かくて、優しくて…………だからそのまま口元に触れて来た唇が、 少ししょっぱい味だったのも、気にはならなかった。 「ん……」 …最初はむにむにと触れるだけのキス。 でも何度かそれを繰り返した後、レシィの舌先が彼女の唇をくすぐり始め、ほんの少し開いた隙間から、やがてそれが入り込んでくる。 「んっ……ふ……」 嗚咽に任せて、ユエルは貪るように自分の舌をそれに絡めた。 (…嫌い…嫌い…キラい…キライ……) レシィの舌は時折脇に逸れて、ユエルの口腔内を遍く舐ろうとするのだが、彼女はわざとそれを邪魔するように舌を動かして、横に逃げようとする彼の舌を幾度と無く彼女のそれで阻んで押さえつけた。 舌の間で水が跳ねる、クチュクチュという音がずいぶん長い間響いた後、やがて呼吸の限界を迎えた二人が、第三者からすれば興醒めになる位の大きな息と共に唇を離す。 「っは、はぁ、はぁ……泣かないで…もっと、笑ってくださいよ、…ユエルさん……」 「はっ、はぁ…、はぅ…………ぅ、……ひゃぅ……っ」 答える前にキスの雨を降らされ、新たに滲んだ涙も舐め尽される。 「…そんな簡単に泣かないで、もっといつもみたいに、怒ってください……」 温かく濡れた感触が新たに湧き出した分のユエルの涙を拭って行き、同時に、もはや上端がぺったりと肌に張り付いてしまった彼女のロングソックスにレシィの手が伸びるが、…ユエルにはそれを止めることも出来ない。 出来る事と言えば―― 「うっ……うふっ……うぁああん……っ……」 まだ少し涙ぐみながら、乱暴にレシィのケープに手を掛ける。 (…キライ………キライだ……) 二人の体の位置が動く度に、依然として堅固に繋がったままの部分が擦れて、鈍く重い波紋が彼女の全身に走ったが、 気にせず手探りで乱暴に、留め紐の結び目に爪を潜り込ませた。 …レシィは気にした様子も無い。 「…なんでそんな…、…簡単に、可愛く、…泣いちゃうんですか…?」 もう片方の湿った靴下が剥がされる感触を太腿に受けてつつ、解けた紐の先でレシィのケープを肩から滑り落とす。 「…どうしてそんなに、弱くて、縮こまってて、震えちゃってるんですか?」 顔中に暖かくてザラザラしたものの感触を受けながら、ユエルは彼のシャツの襟紐に手を掛けた。 「…そんな風にされたら、僕…、おかしくなっちゃうじゃないですか…」 やがてレシィが体を離して、最後に申し訳程度に残ったユエルのシャツに手を掛ける。 (……キラ……イ……) 彼女はトロンとした目で万歳すると、脱がれるがままそれに従った。 間を置かず、ユエルの手で胸元がはだけられた自分のシャツに手をつけると、それを頭から脱ぎ捨てるレシィの姿が映る。 そんな何気ない仕草にすら、一々ドキドキしてしまう自分の心臓がおかしい。 「…おかしく……なっちゃうじゃ……」 遮る物が何一つ無くなった状態で、再びレシィが唇を重ねて来る。 さっきよりももっと深くて、激しく。 「んっ、んふっ、ふっ、んふぅっ」 強く抱き合ったせいで自分の乳首が彼の胸元に擦れ、それが酷く甘く切ない。 重なった唇からくぐもった声が洩れるが、でももっと欲しくて、体を強く擦りつけた。 …すごい事してるなぁという自覚はあったが、でもレシィだって散々彼女の身体をあちこち弄くり回してるのだし、自分もこれ位はしたってバチは当たらないだろう。 背中に回した手に触れる肌の、さらさらすべすべした、でも硬い感触に、胸が高鳴る。 ムキムキというわけではなかったが、でもガリガリでもなくて、何より、もっとひ弱だと思ってたけど、意外と逞しくて力も強い事に興奮してしまう。 胸板も厚くはないが密度があって、腹筋も見た目では判らないが触ると確かにあって。 彼女と同じ体術使いらしく、必要最低限の筋肉しかついてないが、でも余分な物も一切付いてないレシィの身体は、この年頃の少年相応の逞しさがあり、それがユエルの心を、身体を、狂わせていく。 彼の心を好きだったのに、身体まで好きになってしまう。 「…っは、ぅぁ、あ、…な、なんでぇっ? ……やだ、…こんなのやだぁっ!」 深い深いキスを終え、二人の間に銀色の架け橋が垂れるのにも関わらず、ユエルはレシィの胸に力一杯抱きついた。 「なんでレシィ、そんなカッコよくなっちゃうの!? なんで…っ」 そうやってグリグリと、一生懸命レシィの胸に自分の耳の付け根を擦り付ける。 苦しいくらいに強く抱きしめられたが、それぐらいの方がちょうど良かった。 …繋がったままの腰を、レシィが少しずつ動かし始めたが、それすらも気にならない。 「…き、キライに…なれないじゃぁ…ん…。そんな…優しいままだったらぁ…」 …どれだけ強くなったとしても、やっぱりレシィはレシィなのだ。 「…レシィの癖に、生意気なのに…。…キ、キライに…なれ、ないよぉ……っ」 彼女への想いにブレーキをかける事が無くなった分、ユエル可愛さにいじめてみたり、少しだけいたずらをするようにもなったが。 …だからと言って、根本的な彼の優しさが変わるわけでもない。 優しさをそのままに強くなってしまったのが、少しやりにくくて腹が立ったけど…………でも結局彼女は、生意気で、ちょっとくらいだったら自分の言う事を聞かないようなレシィの方が、好きみたいなのである。 「……ふぁ…ぁ…。…温かい、温かい…の……」 指を滑らせれば表面はひんやりとしているが、でもそこでぐっと力を込めると、内側から湧き出して来る温もりが有って、それが彼女を喜ばせる。 「これ、好きぃ……、…レシィの…温かいの、良すぎる…よぅ……」 少しでも相手の暖かさを感じれるように、強く強く身体を押し付ける。 繋がって、裸で抱き合ってるだけで、こんなにも満ち足りた気分なのが不思議だった。 「…僕も、大好きです。…ユエルさんの、温かいの…」 「ふぁっ?」 と、ふいにそんな言葉と共に、ちゅむ、と何か暖かくぬめった感触に乳首が包まれる。 …それがレシィに吸い付かれたせいだと気がつくのに、さほど時間はかからなかった。 「あは…、おいしいです、ユエルさんのおっぱい。…温かくて、柔らかくて……」 「…あ……だ、だめぇ、…だ、だめだよぉレシィぃ……」 ちゅうちゅうと、お乳が出るわけでもないのに吸い付いてくるレシィに、けれど押しのけようと伸ばした手が、気がついたら彼の頭を抱きかかえていた。 指に絡む彼の髪の手触りに、胸の内の昂ぶりが、ますます強まっていく。 荒い息を吐きながら、そうやって愛おしげに彼の、さらっとした碧の髪に指を走らせる。 赤ん坊みたいに胸に吸い付いてくるレシィが、なんだか可愛くて仕方なかった。 「…あは……レシィ、可愛い…♪ …赤ちゃん…みたい……」 ちゅぱちゅぱという音を胸元に感じながらも、柔らかな髪を何度も掬っては落とす。 独特の猫っ毛に、その間から覗く、折れた角の硬い感触。 なんだか夢を見てるみたいな心地で、でも確かに気持ちよくて。 「あ、なんか……なんか、ユエル、きっ……来ちゃいそう、かも……」 「……気持ちよくなっちゃいそうですか?」 「う、うん……気のせいかも、知んないけど……」 もたせかけた身に感じる彼の温もりや、背中を優しくさすってくれる腕、ゆらゆらと、小さく緩やかに動かされる腰から来る甘い痺れが、それを助長させた。 ゆっくりと、けれど確かに彼女の中で膨らんでくるもの。 「…ん…、…あ、……ど、どうしよ……」 左胸の突起を、ピチャピチャザラザラと舌で転がされた拍子に、それが気のせいではなくて、確実に来てしまっているものだという事に気がつく。 「…や、やっぱりなんか来ちゃってる…来ちゃってるよぅ……」 強い刺激の連続で、明確に押し寄せて来るのが判ってしまうのも怖かったが、でも改めて感じてみると、こういう風に緩やかにひたひたとやってくるのも、それはそれでまた別の怖さがあるような気がした。 …いや、じわじわと遅めにやってくる分だけ、こっちの方がタチが悪いだろうか? …だが、それでも彼女には、そんな怖さを和らげてくれる相手がいる。 「…大丈夫ですよユエルさん、落ち着いて? …怖くないですから…」 「…う、…うん…」 顔をあげたレシィが、ユエルを肩に抱いてぽんぽんと頭を撫でてくれる。 …むろん腰は緩やかに動かし続けたままなのだが、それでもだいぶ落ち着けた。 「…ほら、いっぱいしがみ付いて、好きなだけ叫んじゃってもいいですからね?」 穏やかな調子でそう言うと、再び彼女の乳房に口をつけるレシィ。 ――そういえば昔、似たような出来事があった。 『ユ、ユエルさん、…泣かないでくださいよ。…ね、泣かないで……』 いつもの三人で山遊びに出かけた際、はしゃいだユエルが珍しくドジして崖から足を滑らせ、支えようとしたレシィごと崖下に転げ落ちてしまって。 『ほら、大丈夫ですから。怖くないですから、…ね?』 足を怪我してしまい泣きそうになったユエルを、自分だって泣いてしまいそうだろうに、レシィが一生懸命に慰めてくれ、おぶって山の下まで歩いてくれたのだ。 結局、後で二人に追いついたミニスにからかわれてレシィは顔を真っ赤にしていたけど。 ……思えば気づいてなかっただけで、あの頃からこの想いの萌芽は……。 「ふ…ぁ……す、き……、ここ、好きいぃ……っ」 きつく彼の頭を抱きしめて、静かに押し寄せてくるものに震えながら耐えた。 「…ユエル…ここに、居たいの……ずっと、ここにっ、居たいぃっ!」 胸が張り裂けそうなほどの狂おしさに、叫び声を上げずには耐え切れそうにない。 …そして、そんな彼女の背を、安心させるみたいに包んで撫でてくれる、レシィの腕が。 「…居てもいいですよ、ずっと。…居てくださいよ」 「っ! ……うん、居る…。…ユエル…ずっと、ここに、ここにぃっ!!」 ふいに尻尾の付け根を指で摘まれ、軽く爪を立てられてクリクリさせられ。 「ひぁ…」と言う喘ぎ声を洩らして、ユエルの身体が軽く震える。 レシィの身体にきつくしがみ付いた後、耳の先端から足のつま先まで張り詰めさせて、でもすぐに、くたり、と弛緩させた。 …荒い息をつく彼女の秘裂の隙間から、新しい蜜がこぷっと溢れる。 先程みたいに大きくも激しくもなかったが、だけど隠しきれるようなものでもなくて。 「……うわぁ、ユエルさん、やっぱり今の、すごく可愛い…」 そんなレシィの感嘆の声に、自分が達してしまった瞬間がいつか、バレてしまっていたのだと気がついても、顔を赤らめる事ぐらいしか出来ない。 「…イっちゃった時のユエルさん、なんでそんなに可愛いんですか…?」 「…っ、……ゃぁ……」 いつの間にか胸から唇を離したレシィが、新たに滲んだ彼女の涙を再度舐め取って来るが、それでも辛うじて声をあげるのが関の山だった。 レシィの背に強く回された彼女の腕には、言葉に反して強く力が篭ったままで。 …ちっとも止む気配の無い腰からのくちゅくちゅという音に、抗う様子もない。 「目、きゅって瞑りながらプルプルしちゃって、一生懸命僕にしがみ付いて来てて。耳も尻尾もピクピクさせちゃって、ものすごく可愛い声でひぅひぅ鳴いちゃうし…」 「…ん…、あっ……ふっ、ふぅぅん……」 目の周囲を丁寧に動く柔らかな熱に、気がつけば甘えた声を上げていた。 ふんふん鼻を鳴らして、閉じた瞼の上をなぞる暖かさを、いつの間にかもっと求めている。 「あっ、……やぁぁん…っ」 そこに再度しっぽの付け根をくにくにと優しくだが揉まれ、更に強くしがみ付いてしまう。 すでに突き放す事など不可能で、もうそれしか選択肢は無かったのだが。 「…し…しっぽ……しっぽぉ……っんんっ!?」 だからそのせいで、あっさりと床に押し倒されてしまった。 重力と視界が傾いたような気がした時には、もう上からのしかかられていて。 背中にはさっき脱ぎ捨てた服の、腰にはひんやりとした床の感触がある。 「ん……」 覆い被さられて少し息苦しかったが、だけどその重みと温かさは嫌なものではなく、……ただ、改めてここが床の上なんだという事を思い知らされて。 「…レシィ、ここ……床の上ぇ……」 辛うじて抗議の声をあげるが、その声はあまりにも弱々しい。 「……いいじゃないですかそんなの、もうどうだって」 「よ、良くないよぉ……良くないぃぃ…」 あまりにもそっけない事を言うレシィに、ふるふると首を振るしか出来ないユエル。 しかし、耳をひこひこさせながら涙目でそんな事されたところで…… 「…そんな事言っても、今さら無理ですよ。僕もう、ユエルさんと離れるの嫌ですし…」 「ユ、ユエルだってそうだけど、でも……って、あ、また……ぁんっ」 余計に『いぢめてオーラ』が放出されてしまい、一層レシィを刺激してしまうだけなんだと気がついてない辺り、やっぱり脳みそ足りてないというか、おバカさんというか。 そんなんだから三たび胸にパクつかれ、乳首をちゅっ、と吸い上げられてしまうのだ。 そうやって胸を吸われながら、尻尾の付け根を毛並に沿って優しく撫でられ。 おまけに互いの腰と腰が密着してしまうくらい、深々と最奥まで差し込まれた状態で、比較的小さめにゆっくりと抽送を繰り返され続ける。 その度にきゅっと目を瞑って、「んっ」とか「んくっ」といったくぐもった声を洩らしながら汗ばんだ四肢をピクピクさせているから、感じてくれているのが判る。 …無論、もっと大きく激しく動かす事も出来たが、敢えてそれはしなかったのは、あくまで彼女が望んでいる物を与えてあげる事に、今のレシィが専念したから。 単純な、より強い『肉体的快楽のみ』を味わうのだけがこの行為の目的ではなく、そして実際ユエルがそれでなく、もっと違うものをこの行為に求めているのは、自分の身と照らし合わせて、レシィも嫌というほどによく判っていた。 「…ず…、…ずるいよぅ……レシィだけぇ……っ」 現に、彼女はすぐに参ってしまい、甘えるようにくんくん鼻を鳴らし出す。 あんなに意地っ張りで、負けず嫌いだったはずなのに、ぽろぽろ涙を零している。 「…ユエルも……ユエルもぉ……」 両手がレシィのお尻をまさぐり、やがて尾骨をたぐってその尻尾を掴んだが、レシィはピクリと、ほんの少し身を竦めこそすれ、喜んでそれを受け入れた。 彼女の流線型の尻尾とは違う、もっと太目の、むくむくでもこもこな尻尾。 オルフルのそれと比べると鈍重で野暮ったいが、だけどその分力強さがあって。 「…あは、すごい…。…すごいね、レシィの尻尾♪」 まるで獲れたてのウナギみたいにびちびちと、両手で押さえてものたうって暴れるそれを、それでも懸命に両手で掴んで、レシィにしてもらってるみたく上下に擦りあげるユエル。 「…こんなエッチで、びちびちしてて…、…でも、とってももこもこで……」 被毛の奥の芯の部分を擦るたび、薄い皮膚の下で筋肉がビクンビクン痙攣するのが目に見えて判るそれを、それでも最初は一生懸命にさわさわしていたのだが。 「すごい元気で…可愛くて……」 いつの間にか手が止まってしまい、きゅうっとそれを握り締めるだけになる。 「…あった…かい……」 もしも間にレシィの裸体が無ければ、明らかにそれに頬擦りしていたであろう目。 母性本能をくすぐられたのと、あまりの猛々しさに当てられたのとで、どうやら相手を気持ちよくするつもりが、逆に飲まれてしまったようだった。 ……まあでもレシィの方も似たようなもん、実質おあいこで。 (…う、うわぁ、ユ、ユエルさんの手が僕の尻尾、に、握って、握って、握って握って……) 「…あ……」 ふいに胸から顔を上げたレシィに、頭をかき抱かれ、抱き寄せられる。 より深くのしかかられる形になったと思ったら、レシィが彼女の耳元で―― 「…えっと……そ、そろそろまた、出しちゃいそうなんですけど……」 ………… (…って、なに僕、ものすごい間抜けな事言ってるんでしょうか…) ――でも、言ってからちょっぴり後悔するレシィ。 大体なんだ、『えっと、出しちゃいそうなんですけど』って。 (ほ、本で読んだ限りじゃ、普通こういう時って、『イくぞ』とか『出すぞ』とか……。あ、で、でもそれ思いっきり僕のキャラじゃないですし、だけど『イきますよ』とか『出しますよ』ってのも、気が抜けるっていうか、かなりバカっぽい気がします…。…ど、どうしたらいいんでしょうか、ええっと、ええっと、ええっとええっとええっと…) …そういうので悩む事自体すごいバカらしい事なのだが、当人としてはいたって真剣。 わずか一秒か二秒ほどの間に、それこそ脳みそフル回転させてウンウン悩んでる。 ……レシィらしい、というか、こういうとこやっぱり彼もまだまだ十代半ばの少年。 ユエルに安心して頼ってもらえる為に、懸命に『そうあれるように』振舞っていても、それでもどこかで、実際これまでにも何度か、ピンチに陥った事はあったのだが。 「……うん、出して……」 もしも相手が彼女じゃなかったら、きっとここまでは頑張れなかった。 彼女だったからこそ―― 「…早く……ね? …ユエル、なんか、また来ちゃいそうだから……」 切なげに息をついて、彼のしっぽを握ったまま、彼の身体を両腕で挟むようにして身を寄せてくるユエルを見ていると。 背筋にゾクゾクと、凍傷でも起こしそうな位熱く冷たい物が走り、頭の中が白熱しそうな程高揚しているのに……酷く冷静な自分に気がつく。 「……はい。…じゃあ、出してあげますからね…?」 くちゅくちゅと、絶え間無く泡立つような音を立てていた腰の動きを止める。 しっぽが彼女の柔らかな手に包まれている今、もうあとほんのちょっとでも動かせば達してしまいそうなくらい危険な状態で、その代わり彼女の一番奥に、根元まで、差し込めるだけ差し込んで動きを止めた。 反面、尾の付け根をいじる手に一層力を入れて、彼女が追いつくのをじっと待つ。 ――そして思いの他、それはあっという間で。 「…い、一緒に……いっしょ、にぃっ!」 「…はい……っ」 彼女の尻尾、薄い被毛に覆われた指の下で、筋肉がひくひくと痙攣するのを感じて、どちらも潮時だと、レシィはパクリと彼女の三角の耳に吸い付いた。 「ふぁっ!」 軽く歯を立ててきつく吸い上げ、それに併せて尻尾の付け根を強く揉む。 「ぁっ! あっ! あっ! あはっ! …あああああぁんっ……」 五度それを繰り返した所で彼女が達し、それを示す強い締め付けにまかせて、彼も我慢に我慢を重ねた果ての、思いのたけをユエルの裡に解き放つ。 食んだ歯の裏で痙攣している耳の感触に至福を感じ、 出されながらぶるっぶるっと震えちゃってる、彼女の身体が堪らなかった。 「……はっ…、はう、はうぅぅっ…、はうぅぅぅぅ…ん…」 それはユエルだって同じ、一度目に出された時よりも波の高さは小さかったが、そのぶん彼の若い迸りを、余すところ無く全神経で味わうことが出来た。 ぐぅっとのしかかられ、ぴったりとくっついたお腹の温かさや、ぎゅっと握った手の中の、針金みたいに硬直した彼の尻尾の感触。 何よりも、ぴちぴちと数度、短く奥に何かがぶつかる感じと、それが止んだ後に、一瞬遅れて暖かなものがじんわりと広がっていく感覚が。 「あっ…あったかい……あったかいいぃ…♪」 二度目で、だけど出されているのが判ってしまうほど勢いがいいという事が、どれだけ凄い事か判るわけもなく、彼女はただひたすらそれに酔う。 唯一、レシィの内なる想いがどれだけ激しいのかが、判り易過ぎる程に良く判った。 注ぎ込めるだけ、あるいは絞りつくせるだけ、相手の身体の痙攣を満喫する。 やがてそれが終わった所で、二人ともほとんど同時に、身体の力を弛緩させた。 ……とにかく、恐ろしいほど幸せで。 「…ぁぅ…ぁ……ど、どうしよう……レシィぃ…」 身動き取れないよう覆い被さられながら、それでも彼女は幸せだった。 欠けた物が補われる様な、ひび割れた部分が満たされる様な、そんな心地良さに身を任せ、とろんとした目で横のレシィに話しかける。 「…これ…気持ち、良すぎる…よぉ…」 険を失って、だけどまだばたばた左右に振れようとする彼の尻尾を握っていると、そのむくむくと暖かな感触にますます幸せが込み上げてきて。 「ユエル…これ、やめられなくなっちゃう…」 「……いいじゃないですか、…やめられなくなっちゃえば」 病み付きになりそうだと思っていたら、ふいに横からレシィの声が掛かった。 彼の掠れた独特の低い声に、耳毛がピリピリして、ちょっとビクっと来てしまい。 「…で、でも、それだとユエル…きっとこれ…毎日、したくなっちゃ……」 「してあげますよ、毎日」 そう言って、優しいけど、でもどこかいたずらっ子めいた瞳で見つめられると。 …なんだか吸い込まれそうな変な気分で、心臓がドキドキしてくるのだ。 「けっ、けどっ! …こ、こんなっ、気持ちいい事…毎日、してたらっ、…ユエル、ぜ、絶対いっぱい…、…赤ちゃん…産んじゃう…よぉ…」 「……いや、一人ずつしか生まれませんってば……」 困ったような、悩むような顔をしてしまうユエルに、レシィの方もついつい苦笑を洩らし、そんな本物の狼じゃあるまいし、体格や骨格の関係上、一度に一人ずつしか生まれて来ようがないのに、とは思うのだが。 「まぁでも、僕はユエルさんが許してくれるんなら、産ませちゃう気ですけどね、いっぱい」 「…………」 「……と、ともかく! レシィ、お、重いから一旦どいてよっ!」 途端に顔を真っ赤にしてますます困ってしまう彼女を、クスクス笑って見つめるレシィ。 「どかしてくださいよ、ユエルさんが。…ユエルさんの意思で、そう望むなら」 そんな、なんか妙にニヤニヤしてるレシィにムッとして、 (…なんだいレシィなんか、これぐらいの重さ、ユエル簡単にどかせるもんね) ユエルは彼の両肩に手をかけると、引き剥がそうとし―― ――そのままの格好で、ゆっくりと動作を停止させた。 (………う…) このまま手に力を込めれば、動かせるはずなのは、判っているのに。 ……なのに手が、動かなかった。 「…どうしました? ユエルさん?」 レシィのあの、優しさといたずら心の混じった声が聞こえてきても、動かせない。 …いや、違う。『動かしたくない』のだ、…彼女自身が、自ら望んで。 確かに少し重くて、ちょっぴり息苦しくて、重みで胸もつぶされちゃってるが。 …でも温かく、心臓のトクトクする音もじかに伝わってきて、嫌じゃなかった。 汗の匂いに混じって、微かに故郷の――メイトルパの香りがあり、肩に伸ばした両手は、さっきのもこもこの感触を思い出して、なんとなしに疼く。 この手に力を込めれば、これらが全部なくなってしまうんだと思うと、すぐに手に力が入らなくなり、胸が切なくなって、急速に意思が萎んでいくのが判った。 ……温かくて、優しくて、とても居心地良くて、凄く素敵で。 ずっとこうして居たくて、どうしても離れたいと思えなく、……離れたくなく。 「…あぅ……」 ちょっとだけ、もうちょっとだけという誘惑の声に負けて、手が動く。 見かけに依らず、意外と軟弱じゃない背中に腕を回して、今度は強く力を込める。 何か勝手に体が動いて、胸元に頬擦りしてしまって、止められなくて、止められ―― ――じゅぷ、と、腰の奥に突き刺さったままだったモノが、動く音がした。 「……あっ!?」 ビクッとして身を竦めたが、腰の水音は止まなくて、緩やかにちゅぷちゅぷと、でも確実に奥のところで律動され始める。 それで気がついたが、それは全然硬いままで、相変わらず熱く熱を持っていて…。 「…あ…え…嘘、なんで、これ、柔らかくなんな――ひぁ…っ!?」 昨日の記憶を手繰る限り、『確かこれって1-2回使ったら硬くなくなっちゃうはずじゃ』、と思い至ったところで、だけど「はむ」と、再度耳を口に含まれていた。 そのまま内側の先っぽ、産毛が生えた所を、ちゅうちゅうされて、れろれろされて…。 「あ…だめ…みっ、みみ……耳だめぇっ、耳…みみぃっ――」 「――じゃあ、やめましょうか?」 口にそれを含んだまま、くぐもった音程で言われた言葉に、体が止まる。 『うん、やめて』というそのたった一言が、喉の奥に引っかかってどうしても出ない。 静かに動く下半身の結合部の隙間から、彼女のソコがひくついてしまう度に、こぽりとこぽりと、二種類の液体の混合物が溢れるのが判って。 濃度の薄い方は床に零れ、濃い方は二人の恥毛に絡んでそこをぺったりと白く汚し。 それでも動くのを止めてもらえず、指がまた彼女の尻尾の付け根に伸びて、耳はねぶられて、すすられて、激しくも辛くもない代わり、とにかく甘くて、甘くて。 甘いけど熱くて、優しいけど熱くて。じんじんという甘い痺れが、体が、熱く、息が…… 「…あ……っ…、…ああ……ああああ…あ……」 ようやく耳から口を離してもらった頃には、……もう完全に、蕩かされていた。 「…あはは、ユエルさん、やっぱり才能ありますよね」 ほんのりと唾液に濡れた耳元で囁かれただけで、ぶるっ身体が震えてしまい、だけど彼の身体にぎゅっと抱きつくの以外に、それに耐える術を思いつけない。 「…でも、だからユエルさんが悪いんですからね?」 「……ふ?」 …と、レシィが身を起こして、ごく自然にひょいっと彼女の両足を彼の両肩に乗せた。 そのまま身を乗り出すから、必然的に彼女の腰は浮き上がり、なんていうのか、まるで後ろでんぐり返しの途中みたいな体勢に……って。 「…ちょっ、ちょっとレシィっ! このかっこ何…っあぁん!」 ぐちゅん、と音が立つくらいに深く突かれた。 「わあ、ユエルさん、今の可愛い…♪」 そのまま何度か、先程までとうって変わって激しい抽送を繰り返される。 「あっ、ふぁっ! んっ、くっ…! …ひぅっ!」 すっかり温められ、彼の精液と彼女の愛液で馴染んでしまったそこは、そんな強くて激しいのも易々と受け入れてしまい、角度を変えて突き込む度に、ぎゅっと両手を握った彼女の口から音程の違った様々な嬌声が洩れ出でた。 「…ぁっ…ふっ、深い、……やだっ、これっ、ふかっ、深いぃぃっ!」 叫んでしまった所で、ようやく一旦腰を止めてもらえる。 「…っ、…ぁ、な、なんで……なんでぇ……」 ヒクつく秘裂から掻き出された濃淡二種類の白濁で、恥毛とお腹を汚しながら、たったこれだけで既に涙をポロポロ零してふるふる震えるユエル。 …本当に、気持ちいいのが駄目らしい。…あんなに悪意や痛苦には強いのにだ。 「いや、さっきまでがまったりエッチでしたから、今度はまた激しくがいいかなぁって…」 そんな彼女を愛おしげに見やり、レシィは彼女の両腿を脇の下で挟むと、そのまま腕を伸ばし、小さくても張りの良い胸をふにゅふにゅと揉む。 「それに、流石に48は知らないですけど、体位も知ってる限り試してみたいですし…」 しれっとした表情で、だけど心底嬉しそうにそう言った彼の顔には、この年頃の若い男の子特有の、未知に対する純粋な好奇心と探究心が宿っていた。 …ようするに、『色々試して』みたくて、冒険心にドキドキでワクワクなのである。 そういうレシィの目の中の輝きにも微妙に怖かったりするのであるが、 「…そ、そうじゃ…なくってぇ……」 でもユエルが本当に怖いのは、自分が既にこんなに消耗してるのに、ちっとも疲れた様子が無く、明らかに昨日よりも元気ピンピンな彼と彼の分身。 「…だからユエルさんが悪いんですってば」 ぎゅうっと一際強く彼女の胸を絞り上げると、彼女が押し殺した嬌声を上げる。 「…僕、ユエルさんのせいで、おかしくなっちゃったんですからね…?」 両足の先端が床につく位に身体を折り曲げて、顔を近づけるとその瞳を覗き込む。 戦いでは役に立つしなやかで柔軟な身体も、ここでは逆に災いだった。 「…昨日、ユエルさんが僕との子供産んでもいいって言ってくれた時、すごい嬉しかった。ユエルさんのお陰で、僕、…自分が男だったんだって事、思い出せたんですよ」 現に、今日の朝起きた時、とても清々しい気分だった。 隣でまだ寝ているユエルを見て、最初は寝起きの記憶の混乱で少し狼狽したが、でもすぐに、どこか誇らしくも自信に満ちた気持ちが沸いて来た。 彼女を幸せにしてあげる為何をしたらいいのか、驚くほど迅速に考えて、行動できて。 ユエルを幸せにする権利を自分が得る事が出来たのが、それだけで嬉しく、その為に身を粉にして働き、全力を尽くす覚悟は辞さないつもりだった。 「……でも、思い出さない方が、良かったのかもしれません…」 だけど、自分の『ユエルさんを僕にください』騒ぎの中、彼女が起きて来て。 詰問の嵐の中顔を真っ赤にして、それでも照れくさそうに笑っているのを見た時。 「…僕、考えたんですよ。…どうして昨日、あんな風に我を忘れちゃったのかって。考えて考えて……、そしたら、判っちゃったっていうか、…気がついちゃったんです」 彼の中に沸き起こってきた感情は。 「……僕、男だったんですよね。……普通の、どこにでもいる、皆と同じ、『狼』の」 ――よくたわんだ枝、あるいは伸びきったゴムから、手を離すとどうなるか。 「…それに気がついちゃったら、…なんかもう、抑えられなくなっちゃったんです」 正しい方向に向かおうとする力を、別な圧力をかけて抑えれば、どこかで歪みが。 そしてその圧力が取り除かれれば、淀んで歪み、溜まった力はどうなるか。 「…本当は、もう日が暮れる前から、ユエルさんとしたくてしたくて……」 「……え…」 本来は男なのに、幼少の頃から長年半人前扱いされ、女の子の服を着せられ、それでなくとも自分の女みたいな容姿に、強いコンプレックスを抱いていた彼である。 …彼自身も気づいていない無意識の底で、悟りようも無い程にごく僅かにだが、しかし確かに、屈折して、歪んで、たわんでしまっていたものがあっても、無理は無く。 「…今日の夜はどういう風にやろうかって、昼の間、そればっかり考えてました…。どうやっていじめてあげようかとか、どの体位でしようかとか、…そんなのばっかり…」 「…え、う、…えええ?」 いっそ手折れて男色の道に転ぶか、あるいは一生曲がったままだったならまだ平和だったのかもしれないが、あいにくと彼を抑圧していた力は、つい昨日取り除かれて。 「嘘みたい…っていうか、バカみたいですよね? ……すごい節操無しで。…でも、本当なんです。…嘘つきたくないから、ちゃんと全部言いますね?」 さながら禁煙や減量に失敗した後のリバウンドのように、猛烈に跳ね返って来る物を。 無意識下に、懸命に抑圧されて来た物の反動を。 「だから昼間、ユエルさんが抱きついて来た時に逃げちゃったのも、本当はあのままだと押し倒しちゃいそうで、怖かったからなんです。この部屋に来るまでも、早足にならないように抑えるの、必死で…」 ……受け止める先にいるのは、当然のごとく、その重石を取り除いた当の本人。 「あっ…」 またぐいっと引き抜かれて、彼女の四肢が震える。 「…ですから、ね…? 判ったでしょう? …僕、ものすごいサイテーなんですよ…」 「あっ、あはっ! …ぁ、やっ…」 そのまま何度も、強く激しく内壁を擦り上げられた。 「こんなに、ユエルさんの事、…犯して、いじめて、食い荒らしちゃってるのに…」 「はっ、んっ、んぅっ! んぁっ、ぁっ! ああっ! …ああぁあっ!」 じゅぷじゅぷとそれを何度も繰り返し、彼女の抑え切れぬ喘ぎを聞くと、自分の中の昏い望みが満たされていくのが判ってしまい、レシィは泣き笑いの表情を作る。 「なのに全然…、全然、お腹いっぱいに、なれないんです!」 …そう、でも誰よりも一番困惑しているのは、何を隠そうレシィ本人で。 彼自身、どうしてこんなに自分が性欲強くて、衝動を抑え切れずもて余し、彼女を支配する事に快感を感じてしまってるのか、『気がつけて』いなかった。 ……まぁ、判らないからこその、無意識下のトラウマなのであるが。 「こんなに気持ちいいのにっ、終わるとすぐにまたしたくなっちゃって! したくて堪んなくなっちゃって、動かしたくなっちゃってっ!」 「…っ、いっ、いあぁっ! こっ、これ…っ、だかっ、…深っ、ふかぁっ、ふかあぁっ!」 だけど、一度粉々に壊れてしまった抑制機構は、もう元には戻らなくて。 男を忘れる事で眠らせていたのに、最早完全に目を覚ましてしまった彼の獣性は。 史上二人目に『審眼』の使ってのけたほどの彼の膨大な魔力の源泉は、…女を。 「欲しいんです、ユエルさんの全部が! 欲しくて、食べたくて、僕の物にしたくて! もっと泣かして、喘がせて、よがらせて! 聞きたいんです、ユエルさんの声っ!」 「…うぁっ、あっ、わっ、ふわぅっ、んぅっ! あうぅうっ、あううぅうぅんっ!」 愛しい女の身体を、誰よりも愛しい女の肉体を。 組み敷いて、犯して、種を植え付け、孕まし、子を宿させ、我が物にせんと渇望し。 ユエルはそんな彼の首に腕と足を絡ませて、ただただ耐える事しか出来ず。 「わうぅっ、わっ、ぁっ、あっ、あっ、はっ、ああっ……んいぃぃっ!」 やがてそれからあまり経たない内に、彼女の身体が切なげにビクンと震えた。 きつく閉じた四つの眼と、力の篭る二対の四肢、引き攣って跳ねる二人の尻尾。 そして痙攣するレシィの腰に合わせ、少し弱めにヒクヒク震える彼女の腰が、二人が達してしまっている事を、傍目にも判るほどに指し示している。 「…あっ……あっ……あ……あっ……ぁ……」 上からトクトクと注ぎ込まれて、なのにその感触に切なげに鼻を鳴らすユエル。 この瞬間、彼女は一番いい顔を作るのだ。…最高に悦んでいる顔を。 「…どうしたら、…いいんでしょうか…。…好きなんですよ、ユエルさん」 そんな顔を見ていると、自分なんかに汚されて悦んでいる彼女を見ると、ますます。 「壊したいくらい…好きになっちゃってるんですよ…」 ずるりと肩から彼女の脚が落ち、…その拍子に角度が変わって圧迫されたのだろう。 自分と彼女の間から、容量オーバー分の欲望の証がぴゅっと噴き出したのにすら、背筋にゾクゾクするものと、得体の知れない興奮を覚えてしまう自分に。 ……本当にどうしたらいいんだろうと、レシィは真剣に暗澹とした。 でも、ユエルにとってそれは、ちっともサイテーな事なんかではなくて。 「…だめ…だよぉ……レシィ……」 「……え?」 震えながらするりと巻きついて、身を寄せてきた彼女に、レシィの方が少し戸惑う。 「そんな眼で…そんな、ユエル…嬉しくなっちゃうような事……言っちゃ…駄目ぇ……」 「…あ……」 彼の魂の底にあり、自分を強く求めてくる、炎のように猛々しい激情。 それを必死に抑え、彼女を傷つけまいと頑張っている、蛍火のような優しい想い。 …それら二種類の温もりの綯い交ぜになった、苦しげな瞳に見られると、胸がきゅうっと締め付けられるみたいになり、彼女だって背筋がゾクゾクしてしまって。 「…これ以上、レシィの『好き』…な気持ち…ぶつけられたら……」 『食べたい』と言われた時、それだけで彼女の身体の中を快感が駆け巡った。 彼の不器用で、でも彼女の事を好きで好きで、おかしくなっちゃいそうなくらい好きで堪らないんだという圧倒的な量の『好き』な気持ちが、怒涛のように次から次へとバシバシ直球ストレートでぶつけられてくるのに、耐え切れそうになく。 …『食べられてもいいかな』とか、『食べられてあげたい』とか、思ってしまう。 ……実際、確かに肉体的な行為にも快楽を感じているのかもしれないが。 …でもそれ以上に彼女は、彼の『一生懸命さ』に、『精一杯さ』に、感じてしまうのだった。 彼女を愛してあげようとするレシィの『一生懸命さ』が、ビンビン伝わってきて、もうその時点で既におかしくなっちゃいそうなくらい、体中に熱く冷たく電撃が走る。 …レシィのその猛々しき一生懸命さが、彼女はどうしようもなく大好きで。 「ユエル…ますます…気持ち良くなっちゃ…う……」 …そしてそれに晒される程、より一層イケナイ事を考えてしまう自分が、彼女は怖かった。 もっとその彼の熱情に触れてみたいと、激しく愛されてみたいと。 ちょっと乱暴なくらい力強く、意地悪されて、もてあそばれて、…陵辱されたいと。 尻尾つねられて、耳啜られて、乳首くいくいされて、体中という体中を獰猛に貪られて、悪い子だと、エッチな女の子だと、蔑むように見られながら、でも頭撫でてもらいたい。 …もっともっと、踏みにじられて、蹂躙されて、だけど優しく力強く包んでもらえて……。 「ますます……離れ…られなくぅ……っひゃぅ」 ぐいっと持ち上げられて、ころんと横に転がり、さっきとは逆の――仰向けになったレシィの上にうつ伏せでユエルが乗る――体勢になる。 「あ…っ!」 そのままぎゅうっと強く背中を抱きしめられて、くちっ、と腰の奥を突き上げられた。 「…あ…、だ…だめ…だめぇっ、あっ、あ!」 更にくちっ、くちっ、と優しく小突かれ、より強く抱きしめられて、彼女の心が震える。 「…だめぇ…、…ユエルまた…気持ちよくなっちゃ…」 「…いいじゃないですか、なっちゃえば。…なっちゃいましょうよ」 笑って、抱きしめられて、キスされて。 「…激しく、優しく、激しくって来たから、次は優しく、…ね?」 そう言って背中を撫でられたら、彼女にはもう抗う事なんて出来ようもない。 「んっ…、んふっ…、んふぅ……」 必死に彼の胸板に顔を擦りつけ、しっぽをふわふわ横に振り、耳をふるふる震えさせている姿が、ユエルの本当の望みを示していて。 ――…とまあ、そこで終われば綺麗に終わったのだが。 「…あぅ…ぅ……ぁ、は……」 手が震える。足が震える。 薄皮一枚隔て、身体の表面で何かが泡立っているような、そんな錯覚すら受ける。 ――結局あの後、もう三回、中に彼自身を注ぎ込まれ。 流石にそこに至ってはレシィの楔も強張りを失い、二人の下半身を堅固に繋ぎ止めていた物を失った今、ユエルは痙攣しながら床の上にへたばっている。 四肢がカクカクと小刻みに震え、びっしょりと汗をかいた体には力が入らない。 …自分が最初から数えて合計何度達してしまったのか、もう彼女には判らなかった。 お腹から太腿にかけては、彼と彼女の体液でべたべたで、特に尻尾と恥毛にかけてが酷く、秘裂に収まりきらなかったレシィのドロドロが、彼女の青色に白のグラデーションを掛けている。…閉じた割れ目が痙攣する度、中に一杯に挟まった物がぐぷぐぷと小さな音を立て、時折の一際強い痙攣と共に、透明になって少しずつ流れてくる物に混じり白濁した液塊が押し出された。 「…ユエルさんは、僕の物なんですからね…?」 「……っ」 耳元で、半ば夢見心地にそう囁かれても、もう言い返す事も出来やしない。 近くの床を這い回った指が、だけど何も掴む物が無くてうろうろし、やがて赤ん坊みたいに指を咥えてちゅうちゅうしだすユエル。 …胸がきゅんきゅんして、だけどしがみ付くものが無い時の、彼女の癖だ。 そんな彼女の首や太腿に、いつか読んだ恋愛小説を真似て噛み付いては啜り、紅い斑点――いわゆるキスマークという代物をつけていくレシィ。 彼女がいつも首に巻いてるマフラーや、あるいはお気に入りの半ズボンと靴下の間、ギリギリ肌が隠れるか隠れないかの所を選んで集中的につけまくってる辺り、…性格悪いというか、微妙に『さでぃすてぃっく』というか。 「…明日、ご主人様やミニスさん達に見つかったら、どうしましょうねぇ…?」 しかもそう言えばユエルが一際強く身を竦めるのを見て愉しみながら、既に明日、彼女が顔を紅くして居心地悪そうにマフラーや半ズボンの位置を何度も直しながら椅子に座ってる姿を想像し、興奮してるんだからタチが悪い。 …まぁもっとも、彼の首から胸にかけても、同じようでよりきつい紅斑が残っているのを見たのなら、余人は何も言う事が出来なかったであろう。 我を忘れたユエルが散々甘噛みしてしまったのが、元はと言えば先なのだし。 …何よりユエル自身、『レシィに良い様にマーキングされちゃってる自分』に、結構感じてしまっているようで、鈍い快感とも鈍痛ともつかない感覚が太腿に走る度に、ビクビクと身体を仰け反られていたんだから、…どっちもどっち。 やがて後ろ側にも印を付けようと、彼女の身体をひっくり返した所で…………そこでレシィの思考が、だけど唐突にピタリと止まった。 ひっくり返されたユエルが、「あうんっ」という声を上げるのも耳に入ってない。 所々に擦り傷や切り傷の跡がある以外は、染み一つない淡いミルク色をした背。 怖いくらいにほっそりとくびれた腰と、でもそこからきゅっと豊かに広がる柔らかなお尻。 脊椎の延長上を中心に広がる青色の草原と、そこから生えた尻尾の付け根。 ……こうやって正面から面と向かって眺めたのは、そう言えば初めてだろうか。 ――『女の子』の可愛らしさではなく、『女』の美しさ、艶かしさを、そこに感じた。 『腰から尻にかけてのラインに何ともソソラレル』という年上の同性達の言葉を、昔の彼はどうにも理解できなかったけれど、でも今なら……多分、すんなりと。 少しボリュームには欠けるけれど、でも骨格や形は実に綺麗で整ってるから、後は肉付きさえ良くなれば、文句無しの安産型になるであろう、良質のお尻。 …それに『細い腰』『ミルク色の肌』というオプションがついて、自然鼻息も荒く、頭と股間にも血が集まり、胸の中がグツグツと熱く煮えたぎり。 そこに、脊椎の終点を中心として、上側に多少偏った青色のひし形が形作られていた。 …『人間の女の子』には、やはりここの毛は生えてないそうだが、でもだからといって、レシィはそれを毛深いとか、獣臭いとかは感じない。 ……むしろ素敵だと、誰よりもその類稀れな美しさを理解できるのは、彼だって『人間の男の子』ではない、彼女と同じ亜人族だからだ。 外周部分から細かな青の産毛が、けれど中心に行くにしたがって濃く深く。 やがてその中心からすらりと伸びた細い尻尾が、先に進むに従って太くふんわりと。 きめ細かく美しい青が、肌の白さと映えて、ある種気高さに似た美しさがあった。 …それがどれだけ素晴らしい事か、メイトルパ生まれのメイトルパ育ちな彼には判る。 ……間違いなく、最高の尻尾である。…実に官能的で、蠱惑な、最高の。 「ひゃぁんっ!?」 呆けていた時間がどれくらいだったのかは判らないが、我に返るなり、レシィは夢中で目の前のユエルの腰にむしゃぶりついた。 ユエルが叫ぶがお構い無しに、ただひたすら無言でその産毛の部分を舐める。 「ふっ、ふぁっ、あっ? ふぁあっ、…やっ、やだ! そこ、や…っ」 逃げようとする彼女の下半身を、覆いかぶさるように固定して押さえつける。 押さえつけてひし形の外周部分から丁寧に、たっぷり唾液を含ませて舐めつける。 「ん…っ、んぁっ。 …だめぇ…ぁっ、はっ、くぅ…ぅ…」 バタバタと暴れる尻尾を付け根の上の部分で強く握って押さえつけ、ザラザラと、自分の舌のヤスリの様になった部分を強く毛穴の部分に擦りつけてやると、たちまち彼女の声が甘えるような響きに変わり始めた。 上半身と両腕を必死に前にパタパタさせて逃げようとしているのが何とも可愛い。 「く…っ、ぅっ、あっ…、……くぅん、くぅぅんっ!」 背丈の低い外周部から円を描くように、中心部の背の高い茂みへと舌を這わせる。 やがて柔らかな皮膚と体毛に包まれた尾骨部分に到達したので、そこを毛並に逆らうような形で強く上から舐め降ろすと、 途端に嬌声が一際甲高い、鼻にかかったようなものに変わった。 最初の頃に比べるとずっと弱々しく、息も絶え絶えと言った感じの喘ぎ声だったが、そんな弱ってしまった彼女のかすれ声が、またレシィの獣欲を刺激するのである。 …やっぱり彼女は、内側以外ではここが一番弱いらしい。 尻尾の毛先がぱふぱふと彼の顔をはたいたが、むしろ心地良いマッサージだ。 十分に濡れて、寝かしつけられ、あるいは濡れそぼって、ささくれ立ったのを確認すると、笑って一際顔を近づけ、前歯の部分で、ごく軽く、甘噛み。 「ひいぃんっ!」 それも二度、三度、四度、五度、…何度も何度も、はむはむかみかみ。 「ひぃっ、ひゃっ、ひゃあぁぁっ! あっ、あうっ、あウゥうっ、わウウゥぅっ!」 トドメに軽く咥えて、毛並みに逆らい奥から手前へと前歯でズスーっと擦り立て。 「わうウウゥゥゥぅぅんっ!!」 細くて甲高い声を上げながら、目を白黒させて彼女が吼える。 前後不覚に陥ると、尻尾踏んづけられた犬みたいになってしまうのが彼女の特徴だ。 上半身を背筋運動でもしてるみたいに弓なりに逸らせ、軽く歯で押さえつけた尻尾の付け根の部分でさえ、盛んにビクビクと反り返る。 …このままいじめ続けても、勿論いいのだが。 でもただでさえ疲労が見え始めた今の彼女に、こんな強烈過ぎる刺激を連続して与え続ければ、やがて強過ぎる快感に意識が焼き切れ…………つまり、遠からず失神、気絶してしまう事だろう、…『昨日みたいに』。 さすがにそれはちょっとなので―― 「…う…、うぁ……ふ、…ぁ……はぅ、は……」 ――自分の尻尾からレシィの口が離れるのを感じて、ユエルの心は、「助かった」という想いと、「どうしてやめるの?」という想い、矛盾した二種類の想いでいっぱいになった。 また発汗があり、全身は気だるく、秘所からは新しく愛蜜が沸き零れる。 …本当に、全身の水分は垂れ流しで、喉は気がつけば痛いほどにカラカラ、このままじゃ本当に自分は干乾びてミイラになっちゃうんじゃないかと、床ににへたばったままのユエルが真剣に心配をし始めた時。 (…あ……) ふいに彼女の尻尾を、レシィがぎゅっと強く握り。 「あっ?」 弛んだ紐をピンと張らすみたく、くんっ、と短く強く引っ張り。 「あっ、あっ、はっ! あっ!」 それを何度か繰り返した。 ……その度に、何か切ないものが尻尾の付け根に走る。 ぐっと中程を握られて、強くゆっくりと、少しずつ後ろの方に引っ張られる。 「…ぁ……ぁあ……っ……ん……」 この感触には覚えがあった。一番最初、下着を脱がされた時に味わったのと同じ感覚。 グイッと乱暴に引っ張られるんじゃなく、グゥ…ッと重く少しずつ引っ張られるせいで、身体全体がそっちに持って行かれるような、なんとも言えない感覚が走るのだ。 「…は……ぁ……嫌……いやぁ…!」 腰を押さえつけられてるから尻尾だけ伸びて、付け根の部分が、胸が、何か切ない。 痛みと快感の間にある重い何かが、そこを中心に、身体の中を暴れる。 「…や…ぁぁぁ……っ」 やがて限界まで尻尾が伸びきり、『これ以上は痛い』の領域に差し掛かる。 お尻の筋肉がヒクヒクし始め、彼女の耳がぷるぷるし始めたのを見て取って、……レシィはパッと、手を離した。 「あぅっ!」 後ろに引き攣っていた身体が反動で前に倒れ込み、解放された尻尾がビクビクうねる。 ……でも、すぐにそれを再度掴まれ、間髪入れず、同じ事を繰り返された。 押さえつけられ、引っ張られる切ない感触。 痛みに変わる寸前までそれを引き伸ばされ、もうこれ以上はという所で解放される。 それを何度も。何度も何度も何度も何度も…… 「…いっ、いやあああぁっ! やあああぁぁぁぁっ!」 自分が何をされそうになってるか判って、悲鳴を上げる。 そうしている間にも、尻尾を引っ張られる。尻尾を。尻尾を―― 「…駄目ぇっ、レシィッ! それ駄目、それダメええぇぇっ!」 「何がダメなんです? …ダメじゃないでしょう?」 後ろからレシィの楽しそうな声が聞こえる。 今の彼が一体どんな目をしてるのか、振り向かなくてもユエルにはすぐに判った。 「ダメぇ、それ切ないっ、切ないのっ、セツナイのぉ…っ、あっ、あっ、あ!」 胸がキリキリ締め付けられるみたいにむず痒く、尻尾の疼きがどんどん強まる。 『切ない』としか言い様のないその感触に耐えかねて、ユエルは床を掻き毟った。 …だが無情にも、ひっかけられるような部分はなくて、ただただ床をカリカリと。 …が、叫んだ所でまた二、三度クンッと、尻尾を強く短く引かれて。 その度にもう、堪える事も出来ない喘ぎ声を口から洩らしてしまう。 ――キモチイイ。 「でもユエルさん、尻尾引っ張られるの気持ちいいみたいですけど?」 「……ちっ、違う…っ、違うぅ……」 慌ててぶんぶん首を振る。尻尾引っ張られて、半分痛いの気持ちいいだなんて、そんな、自分はそんなヘンタイなんかじゃないと、信じたいのだが。 「嘘ついても駄目ですよ、違わないでしょう? …感じちゃってるくせに。…ユエルさん、僕に尻尾引っ張られちゃうの、気持ちいいんですよね? 僕に、自分の尻尾好き勝手に遊ばれちゃうの、好きなんですよね!?」 「…う、うぁっ、うあああぁっ!」 興奮した声色のレシィに、背後から『一層彼女がゾクゾクしてしまうような視線』をぶつけられ、新たに持ち直された尻尾を、また強くゆっくりと引っ張られ始めると、そんなささやかな『信じたい』という気持ちも、見事に打ち砕かれた。 「やあぁ…、やあああぁぁぁっ! 尻尾やぁっ、尻尾やあああぁぁぁっ!!」 尻尾の付け根に何かが集まって膨れ上がっていく。 まだ残っていたのかと自分でも驚いたが、目尻に涙が浮かんで視界が滲み、全身から汗が噴き、股の間から白っぽく濁った蜜が、お腹の方へと垂れ零れ始めた。 腰や、お尻や、秘所の筋肉が、ぴくぴくと痙攣し始め、足が震える。 「…あれ? もしかしてユエルさん、尻尾引っ張られてイっちゃいそうですか?」 …でも、唐突に聞こえたレシィの言葉に、ユエルはビクッと身を震わせた。 「…ち、ちが…「「あははっ♪ ユエルさん、尻尾引っ張られてイっちゃうんだ。そんなにユエルさん、尻尾グイグイギュウギュウされるの好きなんだ!」」 その言葉に、ひ、と喉から声が洩れ、ますます水滴で滲む目の前の視界。 レシィに突きつけられて、なんだかそれが酷く絶望的で破滅的な事に思われた。 なのにもう逃げる体力どころか、耐える体力すら残っていない。 尻尾を引っ張られる。…引っ張って、離される。 「…だ、めぇ…」 強く引っ張って、離されて。背筋が引き攣るくらい引っ張って、離されて。 「…だめぇ、だめええぇぇっ!」 痛いくらい引っ張って、離され、引っ張って、離され、何度も、何度も、何度も、何度も。 「だめぇ、だめえぇっ! だめえええぇぇっ、だめえええええええええぇぇぇぇっっ!!」 もう自分がどんな格好をしているのかも、ユエルには判らなかった。 腕がへたって、胸がつぶれてベットに押し付けられ、でも腰は引っ張られて持ち上げられ。 腰を、お尻を、高々と掲げ。もの凄い格好をしてしまっている事に、ちっとも気がつけない。 「やあぁっ、やあああぁぁぁっ! やああああああぁぁぁっ!!」 もう弾ける限界ま引っ張られ、でもあわやの所で解放され、少し楽になったところを、また掴まれて引っ張られ始めた。…もう爆発寸前なのに。本当に駄目なのに。 「…あ…、ああ…っ」 ピィンと耳が張って、先端の産毛が細かに震える。足がガクガクする。 「ああっ、あっ…、あっ、あ…っ!」 涙がボロボロ零れ、股の間はぷるぷるして絶え間なくトロトロを滴らせている。 「あっ…、ああ…っ、ああああっ! あああああああああっ!!」 刹那、痛いほどに。今までで一際強く、尻尾をぐぅっと引き伸ばされ。 「――――――っっぁ!!!!」 刹那、膨らみに膨らんだ何かがバチンと弾け、あの『真っ白な世界』がやって来た。 レシィの手から離れた尻尾が、ビクビクと、音を立んばかりに跳ね踊る。 真正面からそれを直視していた彼には、それがよく見えた。 「あっ、はっ、あはっ、はっ、はぁっ……」 ……腰を高々と持ち上げて、お尻を、尻尾を、ビクンビクンと痙攣させる。 その度に腰が跳ねて、ますますお尻を突き出す格好になっていった。 秘裂からは数度に分けて細く霧のような飛沫を飛ばし、それに混じって彼の白濁の塊が押し出され、恥毛に絡む。 喉を震わせて息を洩らしながら、涙目に喘ぎ、別の生き物みたいに尻尾がうねうね動く。 そんな自分ももう判らなくて、ただただ真っ白で、真っ白で、真っ白で…… ……それが10秒程だったのか、1分程だったのか。 どれくらいそうしていたのかも、判らないままに。 未だに彼女の意思に反して痙攣する尻尾と、それにつられて痙攣してしまうお尻を持て余しながら、彼女は荒い呼吸を吐き、そのままの格好でぐったりしていた。 連続して達せられた為による、極度の虚脱感と倦怠感。 彼女としては、もうあと一戦だって交える気力など無いように思われるのだが。 ふいに後ろから圧し掛かられて、抱きかかえられる。 それが何を意味するか、判りはするのだけれど、もう僅かな抵抗をするだけの気力も彼女の中には残ってはいない。 「…いやぁ……」 ぬめる秘裂に、いつのまにか硬度を取り戻した硬い物が押し当てられて、ユエルは最後に残ったプライドを振り絞り、弱々しく悲鳴を上げる。 本当にもうイヤで、無理で、もうやめて欲しくて―― 「…ふぁ……ぁぅぅぅぅぅ…」 ――でもゆっくりと押し広げながら入ってきたそれに、洩れたのは拒絶の言葉でなく、悦びを表す溜め息だった。 「…ほら、やっぱりユエルさん、尻尾引っ張られるの大好きなんでしょう…?」 のしかかり、同時に彼女を支えながら、けれどレシィが笑う。 「今のユエルさん、もう叫びながらビクビクって、すっごくやらしかったですもん」 「…っ!」 ビクリと身を竦めてしまうユエルの身体を、そう言ってすっぽり抱きしめた。 そうやって、彼だけが知っているふにふにとした柔らかい抱き心地を、怖いくらい細くて華奢な腰と、ちっちゃな胸の感触を確かめる。 「あはははっ、本当に、…ユエルさんはエッチなわんこ、悪いわんこですね♪」 後ろから圧し掛かって、押さえつけて、喜色満面尾っぽふりふり、…てめぇの方がよっぽど羊ってよりも狼じゃねぇかという、外野の野次は置いといて。 「…あぅ…、……ゆ、ユエル……わんこじゃないもっ…「「…わんこでしょう?」」 オルフルだい、と言おうとした所で、低くよく響く声で囁かれた。 「…僕だけの、とっても可愛い、大事なわんこ」 酷く熱っぽく、嬉しさを抑え切れない、夢見るような……妙に色っぽい声。 「…すごい甘えん坊で、柔らかくて、寂しがりやで、泣き虫だから。…大事に大事に、大切にしてあげないと駄目な、僕の宝物のわんこ」 独特のあの低い声で、そんな事を囁かれると、耳がピリピリして、頭がぼうっとして来る。 彼女であっても、愛を囁かれるとはこういう状況を言うんだと、理解出来た。 「…ね? おいしいご飯、毎日作ってあげますから。…お洗濯も掃除も、大変な仕事はみんな僕がやってあげますから」 『羊』も『狼』も、どちらもボスを抱いて群れを作り、生活を営む動物である。 群れの中で一番強い固体がボスになり、いわばリーダーの役目を果たす。 「…ご主人様にも面倒掛からないよう、増えた家族の分だけしっかり働きますから。お金が必要ならパッフェルさんとこでアルバイトするし、何にも心配ないですから」 とりわけ狼は、孤高かつプライドが高い動物と揶揄される反面、群れの中には厳格な階級社会を持つ動物だ。 「…なんでもお願い、聞いてあげますから。…絶対不幸せに、しませんから。立派なお父さんに、みんなを守れるくらいに強くなれるよう頑張りますから…」 …では、ここで『家族』も、言わば一つの群れ社会として捉えてみると。 「…だから、なってくださいよ? …僕だけのわんこに」 こう言われて『なります!』と叫ぶ奴が、十人中何人居るのか不明だが、…でもどうやらユエルには、この殺し文句は結構効果があったらしい。 「……わんこ……ユエル……レシィだけの……」 焦点の合ってないとろんとした目で、囁かれた言葉を反芻する。 そうして切なげに身を震わせ、吐息を洩らすと。 「…うん……ユエル、悪いわんこでいいから。…レシィだけの、わんこだから……」 次第に喜悦の混じり始めた眼で、中空を見つめ。 「…だから、…もっと……イジメテ……」 酷く淫靡に、惚けたような笑いを浮かべて、クゥンと甘くユエルは鳴いた。 ――『純愛』と書けば聞こえはいいが、けれど『純過ぎる愛』と書けば、途端に危険で。 もしかしなくても二人とも、結構ヤバい方向に進みつつあるのに。 双方とも無自覚天然で、ちっとも気がついていないというのが、またタチが悪く。 ……いずれにせよ、若い獣二匹の夜は、どうやらまだまだ長いらしい。 【 まだ続く 】 前へ | 目次 |
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