レシユエミニSSミニスが二人の異変に気づいたのは、そう…一週間前のことか。 はじめは何気ない二人の会話からだった。 場所はギブソンとミモザの邸宅。 「レシィーッ!」 玄関での声。 二階から降りてきていたミニスは、偶然ユエルが出かけようとしているレシィを呼び止めた所を見つけた。 レシィは走りこんできたユエルを抱きとめると、どうしたんですか?と聞く。そこで、ミニスは、はて?と違和感を感じてしまう。 ユエルがレシィを呼び止める事なんて… ああやって体当たりで来るなんてこの家ではさほど珍しくない光景だったが、どうも何というか…。 何となくコソコソと階段の手すりに隠れたミニスには気づかずに二人は会話を続ける。 「どこいくの?レシィ。」 いつもの質問。 「お買い物ですよ。」 いつもの受け答え。 「そっか、ユエル何か手伝える?」 ついと、抱きとめられていた体を離すと、自分より少しばかり身長が低い彼を覗き込むようにして、ユエルはたずねる。 「いいですよ、今日はありあわせの物を中心に作ろうと思ってますし、荷物も少ないですから。」 だから買い物袋も小さいんです、とレシィは手にした木の網袋を見せる。彼女はそれを見てから、また前へと向き直る。 「うん、分かった。じゃあユエル薪でも割ってようか?」 ユエルのその言葉にレシィは一寸考え込んでから 「―ああ、お願いします。 ちょっと少なくなってきましたし、ご主人様は寝てばっかりでやってくれませんしね。」 困ったような笑顔と共に言う。つられてユエルも笑う。 「あはは、マグナ、ねぼすけだもんねー、じゃ早く帰ってきてね、レシィ。」 「ユエルさんも調子に乗って薪割りすぎないでくださいね?」 「うん、それじゃ行ってらっしゃい。」 そう言って手を振るユエル。 「はい、行ってきます。」 レシィもまた、手を振って答えた。 バタン…。 邸宅の二人暮しにしてはやけに大きな玄関口が閉まる音。 閉まるのを確認してからユエルはすぐに庭に出れる台所へと行ってしまう。 足音が過ぎると、一階に自分以外の気配はなくなり、深としてしまう。 しばらく考え込んでしてから、ミニスは立ち上がった。 「おかしい。」 誰もいないリビングで、ミニスは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。 確かに珍しい光景じゃない、ではないのだが。どうにも拭い去れない違和感。 伊達に4年もレシィ、ユエルの二人と親友はやってない、少々の変化は見るだけで分かるつもりだった。 何となく二人の間の空気が柔らかい感じがする。 前みたいにアプローチがはっきりしてないというか…、お互いを分かってるというか…。 無理にお互いについていかないあたりはまるでこの邸宅にもう一組あるカップルの今様にそっくりで…。 まさか、と、ミニスは考え到ってしまう。 『あの二人…デキテル…?』 思えばこの野次馬根性が今回の出来事の発端だった。 ―夜になって、ミニスはランプの明かりがぽつぽつと点る廊下を歩いていた。 といってもまだそんなに夜は更けてなくて、階下からは明かりと、この家の大人勢のにぎやかな声が聞こえてくる。 そんな談笑に耳を傾けることも無く、ミニスはぶつぶつと一人考え事をしていた。 『―どうやるかなぁ…。』 頭の中を巡るのはいかにして二人をからかうかと言う事。 そのためには確たる証拠を掴みたいし、その証拠を突きつける瞬間もまた大事だ。 やっぱりからかうなら最大限の効果を発揮するところでやりたい。 悪戯好きの彼女としては、その計画を考えるだけでも口元が綻んでしまうのだった。 『やっぱり現場を掴んでからかうしかないわよね。』 いつもの結論に到着してミニスがむん、と拳を握った時。視界の隅で、誰かが動いた気配がした。 「え?」 思わずミニスは振り向いてしまう、視界にはもう誰もいないが、気配は何となくする。 それもそのはず、この時刻で起きていて、この廊下にいるのは彼女しかいないはずなのだ。 そのミニスだってトイレに行っていなかったため、こうやって廊下を歩いているのだ、彼女以外に誰もいるはずが無い。 そう― 寝ているはずの誰かが起きてる…というなら話は別なのだが。 『ひょっとして…』 知らない場所に足を踏み込むようなドキドキと共に、角に身を隠しながらミニスはこっそりと廊下の向こうを見やる。 予感的中。 そこにはやけにキョロキョロとしているユエルがいた。 いつもに比べて数段落ち着きがない気がする、どうしたのだろう? 『って、レシィの部屋に行くに決まってるじゃない!』 確証があるわけでもないが直感で彼女はそう思う、そしてやはりというか何というか、ユエルはレシィの部屋のドアの前に立つとひっそりと呼びかけたのであった。 「レシィ?」 そして何度かリズムをつけたノックの音が響く。 やがてドアはゆっくりと開き、レシィが顔を出す。 「ユエルさん、こんばんわ。」 にっこりと、いつもと変わらぬ笑顔で。 落ち着きが無かったユエルも、レシィの様子をみてほっとしたのか息を吐く。そして夜の挨拶。 「誰にも見つかりませんでした?」 「多分大丈夫だと思うよ?」 「そうですか…見つかるとちょっとヤバいですんもんね…。」 「うん、じゃあ入るね?」 「ええ、どうぞ。」 幾度か言葉を交わしてからレシィに招き入れられてユエルは部屋へと入っていく、が閉まる音がしてから、ミニスがこっそり角から顔を出す。 その顔はまさにスキャンダルを掴んだカメラマンの様、はたまた事件の糸口を掴んだ名探偵か。 「ふぅ~ん…。」 にやぁ、とあんまり品のよろしくない笑顔を作るミニス。 もちろんこんな特大級のネタが転がってるのに今どうやって二人をからかうか考えていた彼女に覗きに行かないことなどできようか。 こそこそと、忍び足を利かせてミニスは扉へと向かったのだった。 当然というか何というか、部屋には鍵がかかってしまっている。 もちろん聞き耳も立ててみるが当然意味なんて無い、これでも結構この家の防音処理はいい方なのだ。 …いつもの面子がうるさ過ぎるだけで、そこでどうするかといえば。 『鍵穴から覗けばいいのよ。』 丸穴鍵なので、一応部屋の中は見て取れる、視界は狭いがこの屋敷の部屋の間取りは殆ど同じで 何よりレシィの部屋は何度も来ているから地理も把握している、問題ない。 『さて…特ダネ確保と行くわよ。』 ちょっとばかり気合を入れてミニスはしゃがみこむ。 そして鍵穴を覗き込んで…。 そのまま、固まってしまう。 だって…、鍵穴から見える部屋には、一糸まとわぬ姿のユエルがベットの上にいたのだから。 「な…ッ?」 思わず声に出しそうになってあわてて口をふさぐ。部屋の中には灯りは無かった、ただ月明かりがあるだけで、青白いそれがユエルを照らしている。 別にユエルの裸は今見るのが初めてなわけじゃない。 一緒にお風呂にはいって、それこそ思い出せといわれたら逐一うるさいくらいに思い出せるくらい見慣れている。 だけど。 今この部屋で―レシィのいる部屋で―裸になってる彼女はミニスから見れば明らかに異常なわけで。 そして何よりミニスが息を呑んだのは。 何故なのだろう…今のユエルはなんとも言えないほどに、色香を発していた。 たとえば首から肩にかけたうなじのラインとか。 発展途上の胸―私よりちょっと大きいかもしれない…―とか。 全体的にすらっとした、大人のような豊満さもなく、子供のようなふくらみの少なさとも違うしなやかな肢体…とか。 いろいろ言ってしまえばキリがないのだろうが。 ともかく同性である自分が目を離せないものであるほどのことは確かだった。 と。 ユエルがミニスの見えない視界の外に顔を向ける。 口の動きと、僅かに空気を震わせてミニスの耳に届く言葉はこの部屋のもう一人の住人の名前を呼ぶ、視界に、その人が入ってくる。 彼もまた裸で、その背中を見て―ああ、やっぱり男なんだな―と何処か冷静に思ってしまう自分がいる。 細身の体つきと普段着ているだぼだぼの服からは分からないが 今見ると、意外に骨ばっていて何となく鍛えてるんじゃないかと思わせるフシもある。 いや、今思うべきことはそんな事ではなくて。 『なんで…二人ともこんな事してるのよ!?』 僅かばかりに戻った正気でミニスは頭の中で問うてみるが答える者がいないのならそれも自問に終わる。 そして、覗かれてるとも知らず甘い声がユエルの口から漏れる。 「ん…んぅっ…。」 その様子にミニスは目を見開く、二人が交わしてるのは深い…深い口付け。 それこそ、そっと触れるような初恋のキスとか、ミニスが知識で知ってるようなロマンチックなキスなんかじゃなくて。 お互いの存在を確かめ合うような、貪る様な口付け。自分の心臓が早くなるのが分かった。 何に魅入られたように、必死に鍵穴を覗き込む。 やがて、二人がゆっくりと離れた、離れる間際、糸を引きながらどちらからとも無く口腔から抜き取られた舌の様に思わず喉が鳴ってしまう。 何をやってるんだ、とミニスの理性が告げるがあまりにもそのショッキングな様に動けないでいた。 行為は続く。 ユエルの体をまるでそれ自体が意思をもった生き物のようにゆっくりと這うレシィの舌や指。 その指や舌に促されるみたいに体をより一層動かすユエル。 心なしか大きく聞こえる蜜が立てるいやらしい音。レシィの荒い息遣い、そしてユエルの喘ぎ声。 狭い視界から入ってくる享楽的な世界がミニスの前に広がっていた。 「それじゃ…濡れてきたことですし…挿れて欲しいですか?」 いつもは絶対に聞く事ができない無邪気な少年が悪戯するときに似た響きを持ったレシィの囁き。 「…うん…お願い。」 いつもは絶対に聞く事ができない、しおらしく、弱ったユエルの囁き。 レシィが押し倒すような形で、挿入がされて二人が激しく交わりあうのにそう時間はかからなかった。 何もかもが、自分の知らないこと、自分が知らなかったこと…。 それが今、突然自分の目の前に突きつけられている。 まざまざと、グロテスクに。 ゼンブ…ジブンノシラナイコト。 下腹部に知らない火照りを感じるより前にミニスが感じたのは。 言いようの無い嘔吐感だった。 「う、うええええっ…っ…―。」 胸の疼きに我に返り、あわてて洗面所に駆け込むとミニスはそれこそ胃の中の物を全部ぶちまける勢いで吐いた。 尋常じゃない様子を心配に思ったアメルが何事かと尋ねてくるが心配ないと言い、半ば無理やりに追い返した。 後で謝っておこう…。 嘔吐感は一回きりで、ぶちまけてしまえば後は何ということも無かった。 途端、どっと襲ってきた疲労感に思わずその場でへたり込んでしまう。 しばらく呆けたように天井を見上げる、ランプの明滅がやけに目に痛かった。 「何なのよ、一体。」 好奇心は身を滅ぼすとは良く聞くけど、まさにそれだろう。ぼんやりとした頭で何となく考える。 そりゃ愛し合う男性と女性がああいう行為に及ぶのは自分だって何となく知っている。 …そういうことくらいは、いくらなんでも知ってる。だけど知識で知ってるのと、実際に見るのとは訳が違う。 実際その生々しさに耐え切れずにこうやって自分は吐いてしまっている。 自業自得、といってしまえばそれまでなんだろう…でも。 「知らなかったのよ、あの二人がそんな関係だったなんて…。」 ぽつり、と自己擁護の呟きがもれる。 お似合いだとは何となく思っていたけど、ちょっと前まで手をつなぐのも恥ずかしがっていた二人…。 その奥手さに、ミニスも何度も肩をすくめたことを覚えている、呆れて、それを可愛らしいと思っていたことも。 何時かは二人がそういう事になることは、何となく分かってた。 だってそれくらい二人は-態度こそ出さないものの-仲が良かったから。 だけどそれは、もっとずっと先のことだろうと思ってた。 自分の周りは大人ばかりで、一番年が近いカップルのマグナとアメルだってきっとまだそういう事はしてない。 だから、二人そうなるのは、もっとずっと先のことだと思ってた、なのに― こんなにも早く、まざまざと見せ付けられるなんて! からかって照れる二人が見たかったから、とちょっと悪戯心を起こしてしまって、それでこの様。 昨日までは夜の情事は二人だけの秘密だったはずなのにそれを覗き見てしまった後悔。 浅はか過ぎる自分に、情けないやら、悲しいやらで、思わず呻いてしまう。 できるだけ誰にも聞かれないように、静かに、ただ静かに、薄明かりの中、ミニスは泣いた。 目次 | 次へ |
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