ウィゼル×メイメイ・4夜が明ける。 全ての夜を醒ます金色の光が東の彼方から溢れ出し、冷たい夜気の上に降り注ぐ。 星と月を隠し、一夜の夢と幻も包み込んで。 かつて共に歩き、そして二つに別れ今また交わった二人の道は、刹那の邂逅を心に刻み付けまた遠ざかっていく。 「……達者でな」 「ええ、貴方も。星宿の導きが貴方にある事を祈っているわ」 別れの挨拶は簡潔。 語りたい事は幾らでもある。 しかし大きすぎる想いが胸に支え、幾らも形になってはくれない。 「ね~ぇウィゼル。貴方の頼みを聞いてあげたんだからぁ、ワタシも一つだけ、お願いしてもいいかしら?」 「何だ」 ――――貴方と一緒にいきたい そんな言葉が、思い浮かぶ。 咽喉まで出掛かったその言葉を目の前の男には知られないように、胸の前で合わせた掌に力を込めて内に送り返した。 「……すっごくワガママなお願いなんだけど、もし聞いてくれるなら……うん、ワタシお酒止めてもいいかな」 彼女を良く知る人が聞けば驚きに腰を抜かすのではという提案。 願いが何なのか理解してしまったウィゼルも、思いを殺し応えた。 「お前に断酒など出来る訳が無かろう。それを対価にしようと言うのだから、つまり俺への頼みというのも不可能なものだという事だな」 「にゃはははは。そうね、自分で言ってて無理だわ~と思っちゃった。冗談は置いといて、こっちが本当のお願いなんだけど……」 「こんにちはー。ご注文の品、お届けに上がりましたあ」 扉を開け、明るく弾む声が室内に響く。 「待ってたわよ~! あんまり遅いんでこれからそっちに直接取りに向かおうかと思ってたところだったんだから!」 「あはは、ごめんなさい。ちょっと他所のお得意様の所で捕まっちゃってて……」 ぺこりと頭を下げ、パッフェルは愛用のバスケットからどこにそれだけ入っていたのかという数の酒瓶を取り出し、次々とテーブルに並べ ていく。 下戸が見ればそれだけで酔いそうな光景に、メイメイは目を輝かせた。 「おおお~♪ どれどれ、早速一本開けようかしら。アナタもどう?」 「ワタシまだ一応バイト中ですよメイメイさん……これが終わったらいつものケーキ屋さんに行かないといけませんし」 「あらそう? ちょっとくらいなら大丈夫だと思うんだけど」 苦笑と共に申し出を断るパッフェルに、残念そうな表情。 「それじゃ、これで失礼しますね。毎度ありがとうございましたー」 くるりと背を向け帰ろうとしたパッフェルだが、ふと壁に掛けられた一振りのカタナに目を奪われた。 「あれ……メイメイさん、こんな所にカタナ飾ってましたっけ? ほらここの白蓮の紋とか凄く綺麗だし見たことあるような気がするんで すけど記憶が曖昧なんですよねえ」 「ほぇ……あっ!?」 するとメイメイは、悪戯がばれた子供の様にびくりと肩を竦ませ、慌ててカタナを壁から外し背後に隠した。 「あちゃあ……神隠しが切れてたの気付かなかったわぁ。迂闊だった……」 あからさまにまずい物を見られたという態度のメイメイ。 パッフェルの目に好奇心の光が灯る。 「んんん? な~んか怪しい……ひょっとしてイカガワシイ品だったりしません?」 「そ、そんなんじゃないわよぉ! ただ……」 「ただ?」 「う……な、何でもないから! あ、ほら、早く帰らないとバイトに遅れちゃ」 「今日は遅刻します。さあそのカタナは一体何なんですか? ほらほら素直に喋っちゃえば楽になりますよ~♪」 常ならぬおろおろとしたメイメイに、パッフェルは益々好奇心を募らせ、得体の知れない気迫を放ちながら壁際へと追いやっていく。 さながら捉えた獲物を追い詰めいたぶる事を楽しむ獣の様に。 「ちょっとパッフェル!? 人の話したくない過去をあれこれ詮索するのは良くないわよぉ!」 苦し紛れのメイメイの一言が、パッフェルの手をぴたりと止めた。 「……あ……ごめんなさい。ワタシってば、いつも本心を隠してるメイメイさんがこんなに慌ててるの見たの初めてだったから、面白くてつい……」 メイメイの言葉は己にも通じるものがあったのだろう。しょんぼりと肩を落として申し訳なさそうに謝るパッフェル。 「そ、そんなに落ち込まなくてもいいから。カタナを見つけられちゃったのはこっちの落ち度だったんだし。もう正直に話しちゃうけどこのカタナはあまり人には見せたくなくて、でも常に目の届く所において置きたかったのよ」 こうなっては仕方が無いと溜息を漏らし、今度は逆にパッフェルを慰めながらカタナを胸に抱く。 カタナを見るメイメイの瞳に、パッフェルが一つの推測を漏らした。 「そのカタナ……何かの思い出とか、ですか?」 「そうねぇ……思い出はもうあるから、これは思い出じゃなくてまた何時か逢えますようにっていう約束の証かな」 どこか懐かしむようなメイメイを、パッフェルは狐につままれたような顔で見ていた。 「驚きました……メイメイさんにもそんな人がいたんですねえ。相手は百年物の名酒だ~とかいうオチじゃありませんよね?」 「失礼しちゃうわぁ。こんな佳人が男性に恵まれずずっと独りだったとでも言いたいワケ?」 「あはははは。で、その男性ってどんな人なんですか?」 くい、と一口酒を含み、いつものにやけた顔でメイメイが答える。 「それはぁ…………乙女の秘密、ってコトで♪」 終り 前へ | 目次 |
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