夢物語 前編恋などという他愛のないモノの存在を知ったのは、書庫の片隅で見つけた幾つかの本からだった。 一日の中の限られた自由時間で、ふいに思い立って訪れたあの場所。 自分にとって居心地のよい空間だと知ったもの、それらの本を見つけてからだった。 無機質な組織の建物とは違い、書物の独特の匂いはなぜか心を落ち着かせてくれる。 『恋』という言葉を夢心地で口にする物語の主人公を、自分と重ねて毎日少しずつ読み進めていくのが小さな楽しみだった。 たとえ、それが自分には永遠に叶えられる事のない幻想だったとしても。 「あら、ヘイゼルじゃない。珍しいわねえ、こんな所で会うなんて」 数少ない安らぎの時間は、緊張感のない明るい声に無遠慮に壊されてしまった。 わずかに眉を寄せ、視線だけを横に向けると、そこには予想した人物が笑顔で突っ立っていた。 「……毒蛇」 「アナタもお勉強しに来たの?偉いわね」 そういう毒蛇の腕には、何冊もの分厚い本がずっしりと抱えられていた。 背表紙の文字を断片的に読み取ると、毒、薬物などの言葉がどれにも含まれている。 「暇さえあれば人殺しの研究なの?ご苦労ね」 「ヒトゴトみたいな言い方はよして頂戴な。アナタも大きくなって、実戦がくればこうなるわ」 吐き捨てるようなヘイゼルの言い草に、肩をすくめて毒蛇が返す。 彼女の年齢は、まだ十代の半ばにも満たない。 物心ついた時から『紅き手袋』にいたヘイゼルは、日頃の過酷な訓練で他人以上の実績を積み重ねてはいるものの、その幼さの為一度も実戦に出向いた事はなかった。 「実際におシゴトをすれば分かるわよ。獲物を狙う時の、あの気持ち!もう何が何でも確実に始末しなきゃ!ってなっちゃうのよ」 でなきゃ後が怖いからね、と笑う彼の表情には、言葉ほどの恐怖心はまるで見受けられない。 むしろ平然としているように見えるのは気のせいだろうか。 無言のまま、ヘイゼルがそんな彼の前から立ち去ろうとした時。 「それ、小説?」 ヘイゼルが手に持った本に、毒蛇の視線が向く。 ――どくん、と心臓が跳ねた。 「……なっ」 ヘイゼルは慌てて本を背後に隠し、毒蛇を見上げる。 無意識に頬が熱くなっている事に気づいたが、さすがに顔の紅潮は止められるはずもない。 ――こんな、この世界とはほど遠いような夢物語に没頭している事が彼に知られたら。 叶えられるはずもない甘い作り話を読みふける少女の姿は、他人から見ればさぞかし滑稽に違いない。 毒蛇が苦笑し、哀れみのような表情を向ける姿が脳裏に浮かぶ。 知られたくない。 飽きるほど見た彼の笑顔がもしその時に崩れれば、自分が本当にみじめな存在だと思い知らされるような気がした。 「見せてちょうだい?」 興味深そうに歩み寄ってくる毒蛇。 「ちょっ……!」 同時にヘイゼルの足が後ずさる。 恥ずかしさと焦燥感で頭さえもが熱を帯び始めていた。 「……ヘイゼル?」 いつもとは様子の違う彼女に、毒蛇は首を傾げる。 「な……何だっていいでしょ。アンタには関係ない」 ようやく振り絞った力のない声に、毒蛇は少し訝しげに口をつぐむ。 この少女が毒蛇同様に、周囲と比べて変り種の人間だという事は知っていた。 だが、今の様子にはさすがに不信感を拭えない。 しかし諦めたように小さく息を吐くと、毒蛇はヘイゼルへ背を向けて歩き始めた。 「まあいいわ。聞いてどうなるわけでもないし。――あと、念の為に言っとくけど」 「なに」 尋ねるヘイゼルに、毒蛇は振り返らずに手だけを振る。 「あと十五分だから。遅刻しちゃダメよ」 いくつか読んだ恋愛小説の中では、主人公が愛する人と肌を重ねる場面があるものも少なくはなかった。 それでも彼らはなぜか、いつも夜にならなければそれを行おうとはしないのだ。 薄明かりに肌が晒され、恥ずかしいと頬を染める女を、男が綺麗だと褒める。 ……いつもそのパターンばかりが繰り返されると、自分が普通ではない性経験ばかりをしているのではと思わずにはいられなかった。 (……私がおかしいんでしょうけど、実際) 「ヘイゼル。手が止まってるわよ」 毒蛇の声でヘイゼルは意識を取り戻す。 鉄格子の窓から、まだ赤らみもしない日差しが漏れていた。 その明かりに照らされるのは、眉を寄せる毒蛇の顔。 一糸まとわぬ姿となったヘイゼルの手には、ズボンのファスナーから無造作に取り出した彼の男性器が握りこまれていた。 「アタシのコレ、時間内に勃たせてくれなきゃ点数はあげられないわよ」 こんな時間帯からでも、この組織では性行為を実地の訓練として平然と行うのだ。 ヘイゼルの髪を撫でる手と彼の声は優しいものの、その言葉には彼女への気遣いは存在しない。 「ほら……口を開けて」 後頭部を押し、まだ萎えている性器を少女の口元へとあてがう。 「んっ……」 唇を撫でる、生温かい肉の感触。 鼻孔を抜ける独特の匂いにも、気がつけば慣れていた。 こうして男を喜ばせる技術を身につけ、男を殺す事だけを目的として育てられてきたのだから。 そう割り切って考えなければ、この世界では生き延びていく事などできはしない。 「そっちこそ、私を犯すより先に口の中で出して終わらないでよね」 「まあ、犯すだなんて人聞きの悪い事を言うわね」 苦い笑みを浮かべて、毒蛇が返す。 そもそも初体験の時、ヘイゼルは彼に随分乱暴に扱われたのだが。 犯すというのも生易しい、引き裂くような暴行で処女を奪われたのちに彼の口からでた言葉は、『これからアナタが経験するセックスは、初体験の時よりずっとマシよ』というものだった。 かえって怒りさえ忘れるほどにふざけた台詞を、能天気な笑顔で言われた事はいまだに覚えている。 「そんな口の利き方を知らないような子は、あとでたっぷり可愛がってあげちゃおうかしら。コレで」 ヘイゼルの口内に沈んだ男性器を指差し、毒蛇は薄く微笑む。 「…………」 とっさに出た軽口を内心後悔しながらも、ヘイゼルはあくまで平静を装った。 口に男性器を含みながら片方の手で巧みに刺激を与え、もう片方の手は自身の恥部へと進んでいく。 「んふっ……む……」 まだ成熟していない陰唇を広げ、すぼんだ膣口へ細い指をくぐらせる。 奉仕による感覚だけでなく、視覚でも男を楽しませる事が重要だと毒蛇に教えられたのだ。 同時に指の腹で陰核を撫でながら、ゆっくりと感度を高めていく。 毒蛇の愛撫を思い出し、自身の手に彼の影を重ね、包皮をめくり肉芽に刺激を与える。 「ぁっ……」 背筋がざわつくような、不快とも快感ともいいがたい感覚がヘイゼルの体を強張らせた。 「ヘイゼル、女の子の敏感な場所はデリケートなのよ?もっと優しく扱ってあげなきゃ」 「い、言われなくても分かってるわよ」 一言言い返し、再び彼の性器を含んだ。 ――ヘイゼルの髪を指先で弄びながら、毒蛇はうつぶせた彼女の裸体を見据えた。 少女の小さな口が、男の性器を頬張る光景。 桃色の愛らしい唇と、そこに咥え込まれる赤黒い肉塊はあまりにも不釣合いな組み合わせといえた。 ほっそりとした指が恥部へと伸び、薄い茂みの奥で淫らにうごめき、時折その刺激にくぐもった嬌声が漏れる。 羞恥と快楽の入り混じった高揚感に染まる頬は、ヘイゼルの少女としての初々しい魅力を一層艶かしく引き立たせていた。 「上手になったわね……アナタ」 ヘイゼルの舌が、毒蛇の男性器の裏筋をねっとりと舐め上げていく。 唇をすぼめ、唾液を含ませた口内へそれを導いていく。 頬の柔肉が口内で竿を擦るたびに、くちゅくちゅと立つ粘着質な水音が心地よい。 ヘイゼルの若干未発達な狭い膣内も決して具合は悪くないが、彼女の上達した技巧は、並みの女暗殺者のそれを既に凌いでいるといっても過言ではなかった。 「ちょっと前まで処女だったなんて……思えないくらい、ねっ……」 毒蛇は思わず声を上げそうになり、とっさに抑える。 少女の奉仕にいつしか自身の体が上気している事に気づき、内心苦笑した。 ――当初は時間内に性器を勃たせる事が目的だったはずが、気がつけば時計の針はその時刻をとうに過ぎている。 その性器もすでに硬く張り詰め、限界が近づいている状況だった。 毒蛇は頬を紅潮させたまま、ゆっくりと呼吸を整え、息を吐く。 「んっ……もう、充分よ。ヘイゼル。合格、上出来だわ」 「もういいの?もう少し咥えていて欲しいなら、素直にそう言えばいいわよ」 ヘイゼルの言葉に図星を突かれたのか、毒蛇にしては珍しく口元が引きつる。 「ホントに……口の減らない子ねえ。将来が楽しみったらありゃしないわ」 「ふふっ……」 初めて毒蛇を負かす事ができた。 別に勝負をしていたわけではないが、彼の少し悔しそうな表情はヘイゼルにとってあまりにも新鮮だ。 知らなかった彼の一面を垣間見れた気がし、ヘイゼルの口元がわずかにほころんだ。 「じゃあこれ、今日のご褒美ね」 そう言って毒蛇が差し出したのは、三つのキャンディだった。 手のひらのそれを見て、ヘイゼルは首を傾げる。 ……こんな物は、もっと幼い子供にしか与えられないはずなのだが。 ヘイゼルが尋ねるより先に、彼は満面の笑顔で口を開いた。 「今日はいつも以上に、舌使いも唇の動かし方もアタシとしては気持ち良かったのよねえ。だからヘイゼルの大好きだったキャンディを――」 「わ、私の事を子供扱いしてっ」 ヘイゼルの頬が赤く染まる。 こんな事を真昼間からさせておいて、まだこの男は相手を『キャンディで喜ぶ子供』だと思っているのか。 「あら、そんなに怒らないでよ」 彼女が突然怒り出した真意が掴めず、毒蛇は困ったように笑った。 その怒りを静めるように、マニキュアに彩られた指で頭を優しく撫でる。 しかし、彼のあやすような仕草は、更に彼女を子供扱いしているようにしか見えなかった。 「……やめてっ」 思わず彼の手を払いのける。 ――『ご褒美』がこんなちっぽけなものだなんて、馬鹿にしているとしか思えない。 子供だから、とでもいうのだろうか。 いつもは『女』として、男の性器を咥えさせ、抱いては体内に欲望を吐き出しているくせに。 「ヘイゼル?」 「私は……子供じゃないわよ。アンタの汚いものを何度も咥えて、中に出されてるでしょ。そんな奴、子供なんていう綺麗な存在じゃない」 「……あぁ」 ようやく理解したのか、毒蛇はその言葉に軽く頷いた。 ――しばらくの間、沈黙が部屋を包み込む。 「毒蛇?」 その無言が意外だった。 彼ならきっと、冗談交じりに「ちゃんと綺麗にしてるわよ」とでも言い返すだろうと思っていたのだが。 組織のやり方を考えれば、まだ幼さの残る少女相手でも性技術の指導を繰り返すのは普通の事だ。 毒蛇もそれに関しては既に割り切っておこなっているものだと思っていた。 「そうね……もう子供じゃないわよね」 つぶやくと、毒蛇は手のひらのキャンディを握り締める。 「失礼な事言ったわね、アタシ。アナタの事を『女』として教育するつもりが、子供扱いしちゃうなんて」 バカだわ、と苦笑すると、彼は握り締めたそれをポケットへと押し込む。 女として体を扱う以上、ヘイゼルに子供のように接する事は彼女への冒涜にしかならないのだ。 これから自身の肉体を武器として使う事を強要される少女にそんな事をすれば、彼女が自分の若さを自覚し、この境遇に傷つくだけだ。 再び黙り込む毒蛇に、ヘイゼルは伏し目がちに口を開く。 「別に謝らなくてもいいわよ。……そのかわり」 「なに?」 「どうせそれ、私に入れるんでしょう」 ヘイゼルが指差した先には、毒蛇の男性器があった。 彼女の唾液で濡れ光ったそれは、女を待ちわびるように硬く張り詰め、いまだ頭を持ち上げている。 「どうせ抱くなら、今日は私の言う通りに抱いて欲しいの。……それがご褒美でいい」 つづく 目次 | 次へ |
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