トウヤ×クラレット夕食を済ませた後、リビングで思い思いにすごした皆が寝静まる頃。 僕は自分の部屋でそのときが来るのを待つ。 コンコンッ ―――来た。 僕は横になっていたベットから身を起こし、ドアへと移動する。 「トウヤ。起きてますか?」 向こうから、いつもどおり遠慮がちに問いかけるクラレットの声がした。 僕はそんな彼女の声の様子に、毎晩のように来てるのになぁ。と、苦笑いを浮かべる。 そこがクラレットの可愛らしいところでもあるんだけどね。 そして、自分のはやる気持ちを抑えるために、小さく深呼吸。 それからドアを開けて彼女に微笑んだ。 「起きてるよ。どうぞ入って」 彼女が部屋に入った後、静かにドアを閉める。 そのついでに、万一とき覗かれないため……というより、その万一に期待をこめて鍵もかけておく。 そういう行動をとってしまう自分に呆れて、思わず小さなため息をついた後、振り返ると彼女はいつもどおり、僕のベットに腰掛け、こちらを伺っていた。 僕もいつもどおり彼女の横に座る。 「今日はどんな悪い夢を見てしまったのかな?」 「トウヤ。それじゃ私が毎日悪夢を見てるみたいじゃないですか」 「あはは。ごめん」 そういって僕は、ちょっとすねたようにこっちを見据えた彼女の頭を撫でる。 すると彼女は撫でられた手に誘われたかのように、そのまま僕の方へと寄りかかって来た。 僕はそれを優しく抱き寄せる。頭を撫でる手はそのまま。 彼女は僕に抱きつき、しばらく無言の時間が流れた。 やがて、彼女がため息のように漏らす。 「私は悪夢ばっかり見てるわけじゃないんですよ……と言いたいんですが、今日もそうなんです」 「……どんな夢だった? やっぱりいつもみたいに」 「はい。トウヤが居なくなってしまう夢……」 そしてぽつり、ぽつりと彼女が話し出したのは、もう4ヶ月ほども前の、あの魔王との戦いの夢だった。 戦いの後に、僕が名も無き世界に還ってしまう夢らしい。 「そっか……」 「トウヤはここにいますよね……?」 「うん。君と一緒にいるよ」 彼女は確認するように、僕をより一層強く抱きしめる。 ここのところ、彼女はこんな感じで毎晩のように僕の部屋に来るのだった。 僕の存在確認がその理由。 昼間、ラミやフィズの相手をする事が多くなった彼女は、そのまま子どもたちと昼寝をすることもあり、ときにこうした嫌な夢を見るらしい。 夢の中身は様々だけど、共通するのは僕がいなくなってしまうこと。 夢だとは思いつつも、怖くなった彼女が夜中にこっそりと僕の寝顔を覗きに来たときに、僕が目を覚ましてしまったのがはじまり。 それ以降夜に訪れる彼女を慰めるのは日課のようなものになりつつある。 実のところ、自分がいなくなるのが怖くて、こうやって確認する彼女をみるのは、……本人に言ったら怒るかも知れないけど、僕には嬉しいことだったりする。 出会った頃の腹を探りあうような関係が、こうも自分に寄りかかってくれるまでになっている事が、本当に嬉しいのだ。 ―――そして、愛おしい。 その思いを伝えるように、クラレットに軽くキスをする。 クラレットは一瞬驚いた後、ふわりと微笑み、キスを返してきた。 そのまま、何度か。 そして段々と深い口づけになってゆく。 唇を重ねるごとに、確実に奪われてゆく理性を感じながら、僕はゆっくりとクラレットを押し倒した。 そして、とろんとした……でも不安げな眼差しに微笑んだ後、首筋に口付けようとして…… 「……ダメッ」 ……いつもどおり彼女に拒否をされる。 僕はしばらく、自分の理性を呼び起こすために静止、脳内で688人目のオルドレイク・セルボルトを殺害することにした。 ……充分落ち着いた、と確認して、身を起こす。 眼下には不安そう……そして申し訳なさそうなクラレットがいた。 「……やっぱり、怖い?」 「……ごめんなさい」 このやり取りもいつもどおり。 「……ううん。僕だって君に嫌な思いはさせたくないんだ」 言ってくれて助かるよ。 と微笑んで続けながら、脳内で689人目のオルドレイク・セルボルトを殺害する。 毎夜のようにやってくる彼女に迫って、毎夜のように断られる。 これも彼女が夜に訪れるようになってしばらく経ってからの日課のようなものだ。 こうやって彼女に拒まれ続けてるのにはわけがある。 もともとクラレットは、召喚術に対する膨大な知識とは裏腹に、こう言う・・・性的な知識は全くといって良いほどなかった。 彼女の夜の訪問が十数回に及んだ頃、思わず「抱いていいかな?」と聞いたところ、「今抱きしめているじゃないですか」と、とても爽やかに微笑まれたほどだ。 最初は僕を傷付けないように彼女が取り計らった断りの返事だ、と思っていたのだが、じっくりと時間をかけて聞いてみたところ、本当にその知識が無かったことを知る事となった。 そしてそのせいで逆に知識欲旺盛な彼女に迫られ、恥ずかしい思いをしつつ丁寧に説明することとなったのだが……その結果、彼女は性行為に拒否反応を示した。 あの死んでもなお……むしろ死んでからのほうが恨めしいオルドレイク・セルボルトは、魔王の器として必要な知識しか与えなかった癖して、「魔王の器製造シーン」とやらを包み隠すことは無かったらしい。 幼かりしころのクラレットは目撃してしまった。 懇願し、悲鳴をあげ、慟哭しながら父に抱かれる名も知らぬ女の姿を。 その経験が、性行為をおぞましい物だと、彼女に植え付けてしまっているのだ。 性行為が何かを理解したときの、彼女の青ざめた顔。 無理やり抱くことなんて出来やしない。 なのに…… 「トウヤ?」 「ん?」 座りなおしたベットの上。 クラレットを見ると、緊張した面持ちでこっちを見ている。 「あの……」 「なんだい?」 「やっぱり……一緒に寝たらダメ……なんでしょう…か?」 もちろん台詞は上目遣い。ちょっと涙目かもしれない。 こんな感じでクラレットは問答無用、自覚無しに誘ってくる。 そんなことしてると本当に襲うよ?僕は。 泣いちゃっても止めないからね? 思わず笑顔でそう言いそうになって我に返り、代わりに脳内で立て続けに10人ほどオルドレイク・セルボルトを殺害する。 それもならべく酷い殺し方でだ。一人殺害ごときじゃ耐えられそうにもない。 これで699人。今夜で700行きそうだね。 「……トウヤ?」 「え?」 「何かとても思いつめた顔を……」 「あ……うん」 しまったな。思考の回路にはまっていたのかも知れない。 改めて、クラレットを見る。 「ごめんね……僕はクラレットのことを大事にしたいんだよ」 これは本心からの言葉。 「正直に言うけど、クラレットが横にいたら手を出さない自信が無いんだ……」 「はい」 僕の言葉に少し怯えるようにして、彼女が返事をした。 「ごめんなさい……」 当初の頃ほど、性行為に対する恐れは消えつつあってもこれだ。 「魔王の器製造シーン」とやらはどれほどすごかったんだろう……? 本当に、オルドレイク・セルボルトが恨めしい。 腹が立ったので脳内で700人目のオルドレイク・セルボルトを殺害した。 ……クラレットを抱くために何人のオルドレイク・セルボルトを殺害しないといけないんだろう。 思わず出そうになったため息を殺す。 代わりに彼女を安心させるために微笑む。 「いいや。それだけクラレットが、魅力的ってことだよ」 そう言いつつ軽く頬にキスをすると、 「トウヤったら……」 と言って彼女はクスクス、と笑った。 うん。やっぱりクラレットは笑顔が一番可愛い。 僕はクラレットに笑顔が戻ったのを確認して、ベットから立ち上がる。 「そろそろ部屋に戻ったほうがいいよ」 「……はい……分かりました」 僕がドアを開ける。彼女は部屋から出て、名残惜しそうに僕の顔を見る。 僕は襲い掛からないようにあえて目をそらす。 しばらく、気まずい沈黙があって。 「トウヤ」 「うん」 「私、頑張りますね」 「え?何を?」 「トウヤと一緒に寝れるように」 「……それって…」 あっけにとられて思わずクラレットの顔を見ると、にっこりと笑っていた。 いたずらを思いついたような笑みだ。 いつもと違う感じの笑みに思わず見とれる。 「もしかしたら寝れないかもしれませんけど」 クラレットは顔を赤くして小声で付け加えると、あっけにとれらたままの僕をおいて、小走りで去っていった。 僕はあっけにとられたままベットに戻り、横になって。 しばらく……さっきの言葉を反すうして、その後おもむろにサモナイト石を取り出した。 色は鮮やかなグリーン。 「ピポス」 ぼわんっと音を立ててピンクのかばのような生物が出てくる。 「きっついの頼む。今のは夢だと思いたい」 僕は強制的に眠りについた。 おわり 目次 |
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