ウィル×アティ



「今日は、召喚獣について勉強しましょう」
「え?それについては一通り習った筈じゃ?」
「うーん、実は召喚獣についてはまだまだ知られていないことや厄介なことがあるんですよ。例えば……」
 召喚獣が使う術の中には、その召喚獣が倒れる時のみ発動するものがあること。
 そしてそれはまだ未知の領域であることをアティは話しはじめた。
 いつもの個人授業のひととき。アティの話が一段落するのをウィルは待つ。
「先生」
「何ですか、ウィル君」
 柔らかな午後の陽射しを受けてアティがおっとりと返事をする。
 陽だまりの仔猫のように微笑む彼女が「元軍人」、「抜剣者」などといっても誰も信じないだろう。
 だが、愛らしい猫が鋭い爪を隠し持つように彼女もまた心に強いものを秘めている。
 だけど……心の中でウィルは呟く。
 信じられないほど脆い部分もこの女(ひと)は併せ持っているのだと。だから。
「先生、僕、強くなりたいんです。今すぐに、誰よりも……だから、僕にもっと強力な召喚術を教えてください!」
 唇をぎゅっと噛みしめ、意志の強い切れ長の目でまっすぐにアティを見据えるウィルの肩に手を置いてアティが穏やかに諭す。
「ウィル君、気持ちはわかります。でも、焦ってはだめですよ」
「子供扱いするな!」
 あやすような口調が悔しくて、ウィルはアティの手を激しく払いのけた。
「ウィル君……」
 悲しそうなアティを見て、ウィルは少し赤面する。
 そう、この女(ひと)はいつもこうなのだ。
 決して頭ごなしに叱りつけたり押し付けたりしない。常に人として対等に接してくる。
 何の気負いもなく、ごく自然に。「大人」だろうが「子供」だろうが、「善人」だろうが「悪人」だろうが。
 それは平和な世界なら美点であろう。が、この世界では命とりになりかねない危険をはらんでいる。
 現に今、アティは十以上年下のウィルを相手にどう接したものか考えあぐねている。
 ーーウィルの気持ちを尊重するがゆえに。
「ごめんなさい先生……でも、僕は強くなりたいんだ。敵が強さを増している今だからこそ、せん……」
 つい本心が出そうになってウィルは慌てて言葉を切る。
「じ、自分の身ぐらい自分で守れるようになりたいんだ!」
「ウィル君……」
 これまで世の中の全てを悟りきったかのように淡々としていたウィルが必死で言葉を紡いでいる。
 そんなひたむきな想いを無視することはアティには出来なかった。
「わかりました。では、行きましょう」

 アティに連れられてウィルがたどりついたのは鬱蒼とした森の中だった。
「ここに来るのは、初めてだ……」
「ここなら誰にも邪魔されませんから。私も時々剣の稽古に来るんですよ」
「へえ……うわああっ!」
 珍しそうにあたりを見回すウィルに向かって突然無数の黒いものが飛んできた。
 大部分はかわすことが出来たが、いくつかは頭や腹を直撃する。
「リグドの実……そんな、いきなり!」
「いきなり、何ですか?戦場では不意打ちが当たり前。これが弓矢だったらどうするんですか!」
「くっ!」
 さらに数も勢いも増した実がつぶてとなってウィルを襲う。
 小さな実といえ、まともに当たるとかなり痛い。
 その一つがウィルの頬をかすめた。生暖かい滴が頬を伝う。
(血だ……)
 だが、それを拭う暇すらアティは与えない。
「どうしました?私を敵だと思って倒しなさい。自分の身ぐらい守れるようになりたいんでしょう!?」
 守りたい……そうだ。でもそれは自分じゃない。ウィルはアティを守りたかった。
 例え訓練とはいえ、アティを傷つけるなんて出来ない。仕方ないとはいえ、嘘をついたことをウィルは後悔していた。
「!!」
 必死で実を避け続けるウィルの表情が急に真剣なものに変わった。そのまま召喚術の構えをとる。
 これまで感じたことのない力が体の奥から怒涛のようにわきあがってくる。
「やあっ!!」
 アティも身構える。が、ウィルの放った閃光はアティではなく、その後ろにいた召喚獣を貫いた。
「ウゴゲエエエエエェェ……」
 しゅうしゅうと音をたてながら召喚獣が消滅していく。
「先生、大丈夫!?怪我はない?」
 ウィルはアティのもとに走り寄った。自分の怪我のことはすっかり忘れている。
「ええ、あなたのおかげですよ。本当にありがとう、ウィル君」
「良かった……」
 守れたんだ……アティの笑顔を確かめるように見上げるとウィルはゆっくりと地面に倒れこんだ。
「ウィル君……」
 アティは気を失ったウィルの頬についた血を細く白い指で優しく拭い、その体を背負った。
「君は、私なんかよりもずっとずっと強くなりますよ……」

 どのくらい時間が経ったのだろう。体にひんやりと冷気を感じてウィルは薄闇の中で目を開けた。
 見覚えのある天井が視界に入り、徐々に記憶が蘇ってくる。
(明日、先生にお礼、いわなくちゃ……)
(寒いな……)
 時間の流れが緩やかで四季といえるほどの気候区分のないこの島にも、潮風のせいか肌寒い夜もある。
 ウィルはタオルケットを顎まで引き上げた。
(?……今度は、足が寒い)
 タオルケットの縦横を間違えたかと半分ぼやけた頭で向きを探ってみる。どうやら向きは正しいようだ。
(???)
 この時点ではウィルはまだ自分の身に起きたことを想像すらしていなかった。
(確か、衣類箱の中にブランケットがあった筈……)
 のそのそとベッドの中から手を伸ばす。さほどの労力もなく手が触れた。
 箱は確か、ベッドからギリギリ身を乗り出してようやく指が触れる位置にあったのではなかったか。
 何かが、おかしい。
 うまく説明できない違和感を本能的にウィルは感じた。だが、思考より先に行動がきた。
『いつも通りの力で』蓋を跳ねあげた筈が、軽くずれるだけの筈だった蓋が凄まじい音を立てて床へと滑り落ちていった。
「わ、わ、わ……ああああっ!!」
 最初の声は、他の住人を起こすことになるのではという気遣いの声。
 後の叫びは、鏡を見ての驚愕の叫びだった。
 鏡の中には、大人の姿をしたウィルが呆然と立ち尽くしていた。
 その時、ドアが開き全く躊躇のない勢いでアティが飛びこんできた。
「どうしたんですかっ!?ウィル君!」
「あ……」
 パニックに陥りかけていたウィルの顔が明るくなった。
 先生がいれば大丈夫だ。夜の海で灯台の灯を見つけた漂流者の心境でウィルはアティに近付いた。
「来ないで!」
 ぴしゃりと言うとアティは素早く室内に目を走らせた。
 くしゃくしゃのシーツ、倒れた衣類箱からは中身が散乱し、まるで格闘の後だ。
 極めつけにさっきの悲鳴。他の住人が目を覚まさなかったのが奇跡みたいなものだ。
(まずい)
 ウィルが口を開くより先にアティが詰問した。
「さてはあなた、帝国軍の兵士ですね!ウィル君はどこ?」
「あの、だから……」
「答えなさい!私の大切な生徒をどこへやったの!?」
 まったく恐れる様子もなくアティは、ただウィルの身を案じて『帝国兵』に全身の力で殴りかかってきた。
(先生……)
 ウィルはアティの細い手首を掴んだ。
 昼間はまるで敵わなかったアティの体がいまはたやすく引き寄せられる。
「離しなさいっ!」
 なだめるようにウィルは彼女の目を見つめながら一言一言ていねいに囁いた。
「先生、僕はここです。僕が、ウィルなんです」
「……あなた、何言ってるんですか?」
 アティの目が不審そうに細められる。が、何か感じるものがあったのだろう。
 まじまじとウィルの顔を見つめてくる。と、アティの指が伸びた。
「痛ッ」
 ウィルの頬に貼られていたガーゼが剥される。
「これは、確かに私がつけた……じゃ、本当に……ウィル君?」
 ウィルは小さく頷いた。

「波の音が、すごいですね」
「……そうだね」
 月明かりに照らされて、ウィルとアティは並んでベッドに腰かけていた。何となく明かりはつける気にならなかった。
「元に、戻れるのかな」
「ごめんなさい、それは……先生にもわかりません」
 ウィルは軽くため息をついた。でもそれは別にアティに失望したわけではない。
 むしろ、下手な慰めを口にしないアティが好きだとこんな時にもウィルは思う。
 おそらく、あの森の中で倒した召喚獣が最後に発動させた術の影響だろうとアティは語る。
「仕方ないよ。それに年をとったといってもよぼよぼのおじいさんになったわけじゃなし、人外の魔物になったわけでもないし。これはこれで、いいんじゃない?」
 最初は驚いたけど、対処法がわからない以上現実を受け入れるしかない。
 すねるでもなく、怒るでもなく、諦めることには慣れっこになっていた。
「ウィル君……」
 アティがウィルの手に自らの手を重ねる。かすかに声が震えている。
「あなたはいつもそう……いいんですよ、泣いても。……私を、恨んでも」
「あなたを恨むなんて!」
 月明かりの中、二人の瞳が交差する。
『泣いていい』そう言ったアティの瞳のほうがよっぽど潤んでいた。

 アティの瞳が自分を見上げている。
(見上げて……)
 その意味に気付いてしまったウィルの心臓がキクンと跳ねあがる。
 甘い理想を口にするアティに対して、『まったく貴女ってひとは……』と大人ぶった口をきいたことが何度もある。
 はたから見れば、生意気なガキだったに違いない。
 だが、ウィルにしてみれば少しでもアティに近付きたくて、年齢という距離を縮めたくて、そのためにはそうする以外の方法を知らなかったのだ。
 初めは、
どうせこいつも給金目当てで、おざなりに義務を果たした後はあっさりと辞めていくんだろう。
 今までの大人たちがそうだったように。そう思っていた。
 だけど違った。
 アティといると毎日が新鮮な驚きの連続で、自分がどれだけ世間知らずだったかをいやというほど思い知らされた。
 そして驚きが憧れに変わり、憧れが恋心へと育つのにそれほど長い時間はかからなかった……
 だが、子供の自分をアティが恋愛対象として見てくれる可能性はゼロに等しい。ウィルはそう思っていた。
 それなのに今、どうした運命のいたずらか自分の手の届くところにアティがいる。
 ほんの少し腕を伸ばせば、その体を抱きすくめることができる……ウィルはもう我慢できなかった。
「先生……!」
 アティを抱き締め、顔を仰向けさせるとウィルは覆いかぶさるように激しく口付けた。


「ん……く…っ」
 ウィルに口付けられながらアティは必死でもがいた。
 だが、もがけばもがくほど深く抱かれていき、夜着はほとんど前をはだけられ、白い胸元があらわにされていた。
「先生……僕のこと、嫌いですか?」
 真剣な口調にアティが目を開けると、そこには思い詰めた光をたたえた切れ長の瞳があった。
 嫌いかと問われれば嫌いな筈はなかった。それは断言できる。だが、好きかと問われれば……
「ウィル君は……生徒だから」
「生徒だから、何?」
「う……っ」
 くい、と乳首を摘まれてアティの体に疼くような快感が走る。それはアティにとって初めての経験だった。
「先生、ここ、固くなってるよ……」
「あ、ああ……っ、んんっ」
 敏感な先端を執拗に弄られ、アティは身をよじる。それはちょうど子供が頭を振るような仕草に見えた。
「先生が嫌だって言っても、僕、やめませんから……好きなんです。アティ」
 ……好きなんです。アティ。
 ウィルが自分のことを女性として見ていることは薄々アティも感づいていた。
 だがそれは少年期によくある年上の女性への憧憬に過ぎず、時が過ぎていけば忘れ去る一過性のものだとアティは思っていた。
 やがてはウィルは同世代の少女と本当の恋をするのだ。
 そう思うことでアティは、傷つきやすいがゆえに本当の心を隠して他人と距離を取り続ける、昔の自分にどこか似ている、黒髪の少年を愛しいと思わないように自分を戒めていたのだ。
 アティは今、それに気付いた。
「ウィル……」
 アティもウィルの名を呼び、その背中に手をまわす。

「アティ?」
 暗闇の中でウィルは愛する人の名前を呼んだ。アティは返事のかわりに背中にまわした手にそっと力をこめる。
 しばらく舌を絡めあうと、ウィルはアティの膝に手をかけ、開いた。秘所が露になる。
「やっ……見ない、で……」
 耳まで赤くして恥ずかしがるのを構わずにウィルは花弁に口付ける。敏感な部分を舌先でつつくと、限界は簡単に訪れた。
「あ、ああああっ……あ…う……」
「アティ……」
 ぐったりしているアティの足の間に体を置くとウィルは、自らの張り切ったモノをアティの入口へと押し付けた。
 そのまま体重をかけ、ゆっくりと挿入していく。
「あ、ん……っ、痛……っ」
「大丈夫?やっぱり……」
 涙を滲ませ、苦しそうに受け入れていくのでウィルは心配になる。
「だいじょ……ぶ。だ、から…このまま……ウィル……」
「アティ…」
 再び唇を重ねると、互いに行為に没頭していった……


 翌日。
 洗面所で顔を洗い終えたウィルは鏡をじっと見つめていた。
 そこに映るのは、切れ長の目に、小さな顎……子供のままの、自分の姿だった。
 海賊一家に合わせて備えつけられた鏡はやや背伸びしないとうまく顔を映すことも出来ない。
 あの後、ウィルが目を覚ますとアティの姿はなかった。部屋は整然と片付いていて、
「おはよう」
「あ……、せ、先生……き、昨日……」
「ん?」
 ドキドキしながらウィルはアティを見上げた。アティはいつも通り優しく微笑んでウィルを見つめている。
 その笑顔には何も変わったところはない。
(夢、だったのかな……あ~あ……)
「今日の朝食当番は私だったんですよ。さ、行きましょう……ウィル」
(え!?)
 驚いて顔をあげると、アティの笑顔。
「どうしたんですか?」
「あ……。ううん、何でもない。行こう、先生」
 二人は並んで、歩き出した。


おわり

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