アルバ×イオス(♀) 2その姿を見た瞬間、瞳に焼きついたのはやはり、幾度もの戦場を越えてなお雪のように白い肌だ。 こちらに背を向けているため、服を着ているときよりもさらに華奢に見える背筋のラインが眩しく映る。 全体的にほっそりとした体型だが、その中でも腰の細さは触れば崩れてしまうのではないかと思わせるほどだ。 お尻も引き締まってはいるものの、腰との対比で非常に肉感的に見え、情欲をそそらせるには十分であった。 相変わらずアルバの身体は固まったままだったが、その瞳だけは食い入るようにイオスの姿を捉えていた。 女性の裸を見たことなら幾度もあるが、それは性別の違いさえほとんど意識していない幼少の頃のこと。 リプレの裸を見たこともあるし、いまでも思い浮かべることは出来るが、それにより興奮することは無い。 対象が母親のようなリプレだからというのもあるが、その記憶自体が性欲とは無関係なものとして刻まれたのが大きな要因だ。 もっとも、アルバ自身がそのようなことを知るはずも無く、自分は他人よりも女性に興味を持たないのだと信じて生きてきた。 だが、その認識も大きく崩れつつあった。健全な肉体には健全な精神が宿るというが、性欲とは宿る以前にもともと人間に生まれ持って備わっているものだ。 さらに隠れて覗いているという行為が、ある種の緊張感をもたらし、興奮を倍増させていた。 だからだろう、アルバは気づくことが出来なかった。気配を殺すこと、それに一番大切な呼吸が、いつしか荒く乱れきっていることに。 「……っ!? 誰だ!」 誰何の声とともに、イオスがこちらへと振り返り、鋭い視線を投げかけてくる。 その動作を見るか見ないかという勢いで、アルバは即座にその場から逃げ出していた。 あれだけ固まっていたのが嘘のように身体が動き、大地を蹴って加速する。 一方、身体とは逆に思考の方は真っ白になって何も考えることが出来ず、 ただただ、その場から逃れようという意識だけが、狂ったように身体を動かしていた。 「……っ……はぁ……はぁ、はぁ……」 ペース配分を考えていない全力疾走がいつまでも続くはずも無く、よろけるように足が止まると、 口内に溜まった唾液が吐き出され、荒い息をとともに大きく肩が上下する。 軽い酸欠状態になったために、頭がガンガンと響くように酷く痛み、 夜の肌寒い空気は瞬間的に燃え上がった身体から容赦なく熱を奪い去っていき、 体感温度は氷の張った湖に浸かるほどの極寒。 ほんの数秒間ではあったが、それらはまさに地獄の苦しみだった。 手近な木に背をもたれかけることで、なんとか上体を保ちつつ、大きく深呼吸。 酸素が身体のすみずみに行き渡るにつれ、頭痛も和らぎ、思考もクリアになっていく。 現状を確認しようと、辺りを見回すと、野営の明かりが遠くに薄っすらと見えた。 走っている最中の記憶は飛んでいたが、どうやら結構な距離を走ったらしい。 それだけを確認すると、ズルズルと背中を滑らせて、ぺたんとその場に座り込む。 前途は多難だが、今のところアルバの思考の大半は別のことで占められていた。 ――お、大きかった……いや、そんなに大きくなかったけど、胸がっ、胸がっ!? 錯乱気味に思い出されるのは、イオスが振り向いたときに一瞬だけ目に焼きついた身体の前面部。 後姿だけで女だという確信はあったのだが、物的証拠を直に見たときの衝撃はそれを遙かに上回る。 自分の気の迷い、と誤魔化すことなどもはや出来ない。イオスは女である。それはアルバの中で覆しようの無い事実となった。 「副隊長が……女……」 呆けたように呟き、その事実を噛み締めていく。認識の変化により、イオスに関する記憶全てが塗り替えられていくのをアルバは自覚した。 たとえば、今日の実戦訓練。先ほどまでは自分の立ち回りや、イオスの槍捌きといった戦術的なことが印象に残っていたが、 今となってはそれらを満足に思い出すことはできず、その時のイオスの顔や体つきしか浮かんでこなくなっている。 もっとも、そのイオスの胸部には双球が浮かんでいたり、見えるはずも無いマントの下のお尻まで鮮明に 思い描くことができていたりと、かなりの記憶改ざんがなされていたりするのだが。 そうやってイオスに初めて会った時のことまでが順に思い出されると、最後に思い浮かんだのは先ほどのイオスの裸体だった。 「…………っ」 先ほどから鳴り止むことなく早鐘を打っていた鼓動が一際大きく跳ね上がる。 五感の全てがイオスの身体を欲しており、悶々とした想いは股間の猛りとなってズボンを下から突き上げていた。 これほどの渇望を覚えたのは、アルバの今までの人生の中で初めてのことだった。 ゆえに、どう対処すれば良いのかわからず、焦燥感だけが狂おしいほどに積もっていった。 ――ぴたり 「……ぁ」 そんな、暴走しかねないほどに昂っていた身体の熱が急激に冷めていく。 首筋に当てられた、外気よりも冷たい金属の刃と、それよりもなお冷え冷えしい殺気によって。 目線だけを横に滑らせると、後ろから突き出される形で槍の先端部が見えた。 襲撃者が誰なのか、確認するまでも無いが、それでもアルバは振り返ってその顔を見たいという衝動に駆られる。 しかし、それは不可能なことだ。当てられた刃は肌越しに血管を圧迫するほどに押し付けられており、紙一枚分でも動いたらさっくりと切れることだろう。 普段なら優美さすら感じていたその刃は、いざ自分に向けられるとなると途端に禍々しいものに思えてくる。 こんな状態にもかかわらず、この人が味方でよかった、とアルバは今更ながらに心底思った。 「自分が何をしたのか、わかってるな?」 普段よりも輪をかけて感情を感じさせない声と共に、刃に力が込められるのを感じた。 はい、と答えたいのは山々なのだが、うかつに声を出そうと口を動かしたら、その微かな動きによって刃が肌を切り裂きかねない。 ――あるいは、それを狙っているのだろうか。 「この森に獰猛な獣がいることは確認済みだ。血の匂いがすれば、すぐに駆けつけてくるだろう」 言外に何を言おうとしているのかは明白だ。いや、ルヴァイドが留守にしている今なら、そのような小細工すら必要ないかもしれない。 今やアルバの生殺与奪の全ては、背後の襲撃者によって握られている。 ――殺される……ここで、死ぬ? それは随分と笑えない話だ。戦場で死ぬことにはある程度の覚悟をしてサイジェントを後にしたのに、まさか覗きの処罰で死ぬことになるなんて。 だが同時に、それでも仕方が無いか、とも思う。おそらく、自分はそれほどのことをしてしまったのだ。 ――興味本位で秘密を暴いて、さらにはそれに欲情してしまうなんて下衆以下も同然。 初めて性欲に駆られるという体験をした思春期の少年は、そんな自分自身に深い罪悪感を抱いていた。 「…………………」 「……………え?」 アルバの口から驚きの声が漏れる。それは、刃が首筋から離されたことを意味していた。 ――次の瞬間には、勢いをつけて振りかざされた刃によって首が跳ね飛ぶのではないか。 そんな恐ろしい光景を鮮明に脳裏に浮かべながら、恐る恐るアルバは後ろを振り返る。 果たして、そこには軍服を身にまとい、槍の柄の端を地面に突き立てて、こちらを見つめるイオスの姿があった。 月明かりに照らし出されたその姿は、闇夜に浮かんだ精霊のようで神秘的な美しさを称えている。 「何をそんな呆けた顔をしている。……殺されなかったのがそんなに不思議か?」 いえ、あなたの顔に見惚れていたんです――危うく喉まで出かかった台詞を何とか飲み込む。 「貴様の仕出かした事を許すつもりは毛頭無いが、それ以前に貴様はルヴァイド様の部下だ。 僕個人の私情で殺すことなど出来るはずも無かろう」 冷徹な声が淡々と告げてくるが、その言葉の意味がまるで頭に入ってこない。 ただ、鈴の音色のような透き通ったその声を、ずっと聞いていたいという欲求だけがアルバの中にあった。 おいら、おかしくなっちゃったな――と、どこか人事のように今の自分を自覚する。 「だが、このまま返すわけにはいかない……ついて来い」 それだけ告げると、くるりと反転して一人先に歩いていく。 しばらくの間、身動きせずにその後姿を眺めていたが、はっと我に返ると慌ててアルバはイオスの後を追った。 つづく 前へ | 目次 | 次へ |
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