誘惑なぜ、こんなことになったのだ。 桃色の霞がかかった頭の中に、その疑問ばかりが繰り返す。 こうならないよう、ずっと気をつけていたのに。 自らの心を、固く固く縛り上げてきたはずなのに。 だが現実としてセイロンの腕は彼女の細い体を掻き抱き、引き裂いてしまっている。 容赦なく突き上げられ、軋むような叫びをあげる彼女を見るたび、早くやめなければという焦りと、もう何もかもどうでも良いという諦めと、そしてとてつもない罪悪感が彼の内側を埋め尽くしていく。 幾度目かの絶頂を迎える時、思わずそむけた視界の端に、床に広がった呪わしい色が嗤うように滲んだ。 思えばその液体は、いかにも扇情的なマゼンタ色に輝いていた。 小さめでずんぐりとした造型の、どこにでもあるガラスのビンである。無造作に貼られたどうやら手書きらしいラベルを一目見て、セイロンはほう、と短い感想を漏らした。 「ね、なんて書いてあるの?」 彼の鼻先にビンを差し出している張本人であるところのフェアは、もったいぶった彼の反応に少々焦れているようだ。 さかのぼること数刻前。店じまいを終え、幼馴染の姉弟もとうに帰って、二人きりの慎ましい夕食をとった直後のことである。 「店主殿、それをどこで?」 「さっきお客さんが帰り際にくれたの。珍しいお酒だからおいしい料理のお礼にどうぞって」 「・・・・・・」 「幻獣界の文字だよね、これ。セイロンなら読めるかなと思って」 「・・・確かに、読めないことはないが」 扇子をパチリと鳴らし、ため息を漏らす。 「その客は今後、出入り禁止にしたが良いだろうな」 「え? 何それ、どういう・・・」 「良いか、店主殿」 栗鼠のようにきょとんとしたフェアの顔に扇子をぴしりと突きつけてから、その先端をゆっくりと件のラベルへと移す。 「"ドライアードの愛"。効能:服用者及び近隣の異性を対象とした魅了・催淫効果。効果範囲:小。効果持続時間:約半日。なお、対象の属性、体質等により効果には個体差が生じる可能性有り」 「・・・それって」 「早い話が媚薬だよ、媚薬」 びやく、と繰り返してから、フェアの顔が一気に赤く染まった。 「そんなものをよこすなど、趣味が悪いとしか言いようが無い。明日の朝我が始末をしておくから、そのままそこに置いておきなさい」 「・・・うん」 赤くなったまま、フェアは素直にうなずいてビンをテーブルに置いた。が、きらきらと揺れるマゼンタ色をなおもこわごわ覗き込むその瞳には、疑いようもなく好奇心が混じっていた。 「媚薬ってことはさ。ちょっとだけだったら、惚れ薬みたいにして使えないかな」 「これ」 びしっ。 「いたっ。もー、おでこ叩かないでよぉ」 「そなたがあまり軽率なことを言うからだ。媚薬にせよ惚れ薬にせよ、子供のそなたには無用の長物だよ」 額をおさえたフェアは不服そうに頬を膨らませたが、それ以上の反駁はないようだった。 「ほれ、さっさと次の仕込をしてしまえ。明日もまた早いのだろうに」 「わかってるわよ! もう、えらそうなんだから」 セイロンに向け顔をしかめてみせてから、フェアは食堂を走り出て行った。その小柄な背中を見送り、セイロンはもう一度深いため息をつく。 「全く・・・危なっかしいと言ったら無いな」 彼が居候を決め込んでいるこの宿屋の店主を知らぬ者は、おそらくこの町には一人としていない。 容姿は愛らしく、活発にして利発、しかも『ミュランスの星』にまで認められた稀代の料理上手。おまけに、子供時代を脱していよいよ女になりつつある初々しい魅力が、日を追うごとに開花し始めていると来ている。 こんな娘が男たちの注目を集めないはずもなく、事実料理よりも彼女本人を目当てとした常連客も今では少なくなかった。だから、こんな下卑た贈り物をする馬鹿者がいるのもうなずける話ではあったのだ。 ただ、セイロン自身はこのラベルに書かれた効能を鵜呑みにしたわけではない。おおかた、果実酒を古ビンに詰めただけの不細工な悪戯に過ぎぬだろう。 「・・・・・・」 が、もし本当にこんな力を持った酒が手に入ったとしたら。 大概のことには心を動かさぬだけの修養を積んできたと自負する彼であっても、抗うことは難しいかもしれない。そう思うと、それだけで胸が凍る。外道の悪戯如きでこんな気持ちになるのは実に不愉快だった。 ――やっとのことで保っているこの危うい平穏を、こんなことで崩されてたまるものか。 「ルシアン殿にも言って、客の検分をせねばなるまいな」 そうひとりごちて、セイロンもまた明日の準備を手伝うために席を立った。 不愉快な酒ビンを後に残したままで。 深夜。ガラスの砕け散る音に貫かれ、セイロンは跳ね起きた。 いやな予感につき動かされるようにして、夜着のまま駆けつけた食堂には、想像したとおりの光景があった。 「フェア・・・!」 倒れた椅子。散らばったグラスの破片。床に広がる液体の色。そのすぐ側では、肌着のみをまとった少女が、身を丸めて横たわっていた。 風呂上りに例の酒を口にしてしまったのだろうと察した瞬間、冷たい予感が胸を刺した。 ――よもや、あれは本物であったのか。 ガラスで身を切らぬよう急いで抱き起こして、セイロンは顔を歪めた。触れた部分がひどく熱い。顔も赤く、浅い呼吸を激しく繰り返している。 その様子の、なんと悩ましいことか。本当にこれが、あの幼かったフェアだというのか。 まるで、野の小菊だと思っていたものが、深紅の薔薇に変わったかのような。 眉間に軽く刻まれた皺も、震えるまつげも、わななく唇も。 ああ、どう見ても、誘っている――。 (これは・・・まずい) 「フェア! しっかりするのだ、フェア!」 焦燥に肌の裏側を焼かれながら、セイロンはフェアの頬を軽く叩き、名を呼んだ。 と、そのまつげが開き、青い瞳がセイロンを捉える。 「セ・・・イロ・・・」 「馬鹿者が・・・! あれほど我が忠告したというのに」 「だって・・・キレイだったし・・・子供・・・扱い、悔しかったから・・・」 「言い訳は後で聞く。とりあえずは部屋だ。ここでは処置も出来ん」 ぐったりと力のないフェアを抱き上げようとした時。 ふわりと甘い香りが鼻腔をついた。・・・まだ乾ききらない、温かな髪の香り。 柄にもなく心臓が跳ね上がり、その瞬間にセイロンの鉄の精神がほんの少し綻びた。 無意識に、見ないように視界から遠ざけていた部分に視線が落ちる。 滑らかな首筋、白い鎖骨、上気した胸元。 「・・・・・・あ・・・」 それら全てが、自分の腕の中にある。今なら、抵抗されることなく、彼女を、 愛しい人を、我が物に、 (・・・バカな!) 魔のごとく忍び込んできた恐ろしい考えを慌てて振り払う。 (我ともあろうものが何を考えた! こんなところで何もかもを水泡に帰すつもりか) それとも、これもあの液体の効力だというのか。 だとしたらなおのこと、ぐずぐずしてはいられない。一刻も早く彼女を部屋へ運び、水と解毒剤を用意して、 「セイロン・・・?」 名を呼ばれて我に返る。気づけば、思考ばかりが走って身体はまったく動いてはいなかったらしい。 泣きたいような気持ちで視線を動かすと、自分を見つめているフェアと目が合った。 「ごめんね・・・」 薔薇色の唇からささやきが、潤んだ瞳から涙が。同時に零れたその時に、とうとうセイロンの理性の糸は音を立てて切れた。 「・・・っあ、はあ、はあ、はあ・・・」 「は、フェア、フェア・・・」 「や・・・いやあ・・・ああ・・・」 淫酒のせいか。もしくは、長い間溜め込んだ想いが溢れ出したか。 劣情はいくら吐き出しても尽きることなく、少女を汚し、汚し、汚した。 柔らかい肉に熱い楔を打ち込むごとに、目もくらむような快感と悲しみがセイロンを襲う。 そうだ、自分は彼女を愛していた。世界で一番大切だった。 だからこそ、この気持ちを彼女にも、自分自身にも見えぬよう包み隠したままで姿を消すつもりだったのに。 そばにいてやれもしないのに、上辺だけの幸福を与えて去るのは残酷だと思ったから。 誰よりも孤独を恐れる彼女が、かつて味わったのと同じ絶大な孤独を、再び自分が与えてしまうことになるのが恐ろしかったから。 しかしそれももう終いだ。どんな理屈ももう意味を成さない。 「すまない・・・フェア・・・っ」 既に意識を手放したらしい彼女を抱きしめ、ひときわ強く突き上げながら、セイロンは涙を流した。 翌日。 「遅い! セイロン、寝坊だよ!」 竹を割ったような張りのある声。輝く笑顔。 フェアの様子は今までと何も変わらなかった。 あの後自室で朝まで寝ずに悩み抜き、どんな罰も甘んじて受ける覚悟を決めた上で厨房を訪れたセイロンは、拍子抜けしてその場に立ち尽くした。 そんな彼の胸をぽんと叩き、フェアはホウキとチリトリを押しつける。 「ほら、さっさと目覚まして店先の掃除! 寝坊した分きりきり働いてもらうわよ」 「う・・・うむ」 もしや、あれは全て夢だったのだろうか。 しかし、重い足を引きずって外に出てみれば、裏のゴミ箱には彼自身が片付けた忌々しい酒ビンとグラスの破片が依然として在った。やはり夢などではない。 昼時も、夜の部の喧騒の中でも、フェアの態度に変化は見られなかった。幼馴染たちも何も気づかず、ただセイロンだけがつまらないミスをいくつかやらかして集中力がないとどやされた。 (彼女にとっては、瑣末な出来事であった・・・ということなのだろうか) そう思うと少し気が楽にはなったが、同時にわずかな寂しさもにじみ、そんな自分自身にうんざりもした。 そしてまた、二人きりの夜がやって来る。 「お疲れ様」 いつもの数倍の疲れをしょい込み、椅子へと沈んでしまったセイロンに、フェアが温かい緑茶を手渡した。 「あ・・・ああ。すまぬ」 受け取りながら、さりげなく彼女の顔を盗み見る。彼に投げられた眼差しは、やはりいつもと変わらず優しかった。思わず目をそらし、茶を口に含んで誤魔化す。 (・・・味が、しない) 「今日は一段と忙しかったよね。あとで聞いたんだけど、帝都からうちの料理目当てにツアー組んでたお客さんがいたんだって。ほら、あの年配の人8名の団体さん」 「そうか」 「びっくりしちゃうよねえ。うちの店、いつのまにかそんなにまでなっちゃってたんだ」 「・・・・・・」 他愛ない世間話。それが、とてつもなく不自然に感じられる。 「・・・・・・」 二人の間に沈黙が降りても、それを自分から破る勇気が出ない。 「・・・・・・」 言うなら、今だ。謝罪を。そして、彼女の前から消えるという約束を。 「・・・・・・」 はやく言え。何をしている。 「・・・・・・」 それともまだ、覚悟が出来ぬか。彼女に取り返しのつかない傷をつけてしまってなお。 それでも、離れ難いというのか。 「セイロン」 「は」 気づくと、フェアが床にひざをつき、彼の顔を覗き込んでいた。 よく晴れた秋空の色の瞳はどこまでも静かで、動揺を隠せない己の間抜け面を映している。 「後悔してるの?」 「え?」 「昨夜のこと」 途端に心臓が早鐘のごとく鳴り出した。嵐のように乱れた頭で問われたことの意味を考え、正確な答えを模索しているうちに、彼女はさらに静かな言葉を紡ぐ。 「わたしは、後悔してない」 「・・・フェ、フェア」 「セイロンで良かったって、思ってるよ」 そう告げると、泣きそうな微笑を浮かべ、そっと手を伸ばした。冷たい指先が、呆けたセイロンの頬をなでる。 「ごめんね。今日一日、悩ませちゃったね」 「・・・そなたが謝ることはない」 やっと普段の自分が戻りつつあることを自覚しながら、セイロンは頬に触れた小さな手をとり、握り締めた。 「謝るべきは我だ。何もかも、我が迂闊だったために起きた。・・・すまない。そなたを傷つけたくは無かったのに」 「・・・セイロン」 急に声を落として、いたずらっぽく問う。 「わたしのこと、好き?」 「それは・・・」 「答えによっては、全部帳消しにしてあげる」 一瞬、言葉に詰まった。だが。 もはや枷などとっくにないことを思い出し、セイロンは痛みを呑んだように微笑む。そして低く、けれどはっきりと告げた。 「好きだよ、フェア。そなたが愛しい。底なしに。四界の全ての、何よりも」 聞いた少女は花の咲くように笑い、彼の首に抱きついた。その背を優しく抱き返しながら、セイロンは己がもう戻れぬ道へと足を踏み入れたことを思い知った。 窓から差し込む月明りの中、白いシーツの上に青く浮かび上がる少女の裸身は、クリアな意識の下で見てもやはり完全に女であり、掛け値なしに美しかった。 自らも生まれたままの姿となったセイロンは、緊張した面持ちで自分を待ち受けるフェアに覆いかぶさりながら、感嘆の声を漏らした。 「美しいな・・・」 「もう・・・やめてよ。ただでさえ恥ずかしいのに」 頬を染めて拗ねてみせる少女に笑いかけ、優しく抱きしめる。鋼のような身体の下で、小ぶりな乳房が柔らかく溶ける感触が心地よい。 「わ・・・あ、熱い」 「そう、男の身体は熱いのだ」 言葉とともに、燃えるような吐息を耳に吹きかけ、首筋を強く吸い上げる。それだけでびくりと身を震わせ、逃れようと身もだえするのが可愛らしかった。 首筋から耳へ、頬へ、まぶたへ、そして、唇へ。次々と口づけの雨を降らせつつ、片手で胸をまさぐった。 「ふ・・ああ、あっ・・・」 声に明らかな歓喜が含まれているのを感じ、まずは安心する。 優しく、あくまで優しく。それで昨夜の埋め合わせが出来るとは思わないけれど。少なくとも、二度とあんな思いだけはさせないように。 ところが。 「ねえ・・・セイロン」 「何かね?」 「なんか・・・遠慮してる?」 ズバリ指摘されて、一瞬固まった。 「別に・・・そんなことは」 「嘘。遠慮してるでしょ。昨夜と全然違うもの」 口を尖らせてそういいつのられると、返答に困る。 「しかしあれは、あの薬酒の魔力に惑わされてしたことだ」 「・・・」 「あんな暴虐的な振る舞いで、そなたを再び傷つけることだけはしたくないのだよ」 「それはわかるけど。でも・・・」 「心配することは無い。本当の愛の営みとは、二人で少しずつ探してゆくものだ。今は我を信じて、身を預けてはくれぬか」 「そうじゃなくてね・・・ああ~っ、もう」 怪訝な表情を浮かべたセイロンに対し、フェアはばつの悪そうな顔をして、ぽつりとこぼした。 「・・・嘘なの」 「は?」 「だからね、嘘。ニセモノなの、あの媚薬」 「・・・・・・え?」 言われたことが瞬時に理解できず、思考が停止する。そんな彼を今度はまっすぐ見つめて、フェアは言った。 「お客さんにもらったのも、ラベルの読み方を貴方に聞いたのも、中身がきつーいお酒で、飲んだとたん倒れちゃったのも本当だけどね。媚薬じゃないのはわかってた。だってあのお酒、ドライアードの魔力なんかちっとも感じられなかったじゃない」 そうだ。それはセイロン自身もわかっていたことだ。 では、なぜ。 「賭けに出たのよ。ああすれば、貴方の本心がわかるかもしれない。・・・抱いてくれるかも、しれないって」 「・・・な」 「結果的に、媚薬だって信じることが口実になったでしょう? まさか、本当に上手く行くとは思ってなかったけど。・・・それにやっぱりちょっと怖かったし、すごく痛かったけど」 でも、これってわたしの勝ちだよね。そう言って強く笑むのを見た時、ようやく止まっていた頭が動き出し、同時に怒りがこみ上げてきた。 「そなたは・・・我がいったいどんな思いでいたと・・・!!」 「わたしだって悩んでたよ!」 叫ぶ声の悲痛さに驚く。見れば、フェアの大きな瞳には、いつしか透明な涙が盛り上がっていた。 「貴方がいつか出て行っちゃうのも、きっともう二度と会えなくなっちゃうのもわかってたから! わたしとの間にわざと壁を作ってるのもわかってた!」 「フェア」 「ずるいよ・・・! そんな風にされたら、わたしからはなにも出来なくなっちゃうじゃない! どんなに行って欲しくないって思っても、好きだって思っても・・・勝手すぎるよ! ダメ親父とおんなじ!」 「しかし・・・それは」 「わかってる・・・わたしのためを思ってくれてたんだってことは」 両手でしきりに涙を拭いながら、フェアは必死に言葉を繋いでいた。セイロンはと言えば、自分が何もわかっていなかったという事実に愕然とするばかりで。 「でもね・・・もう遅いんだよ」 自分を抱くセイロンの腕に触れながら、フェアは言う。 「好きになっちゃったんだもん。どっちにしたって、辛いのはもう避けられないから」 ああ。 そうか。 なぜ、その可能性に気づかなかったのだろう。 「だからね、どうしたらいいかずっと考えてた。考えて考えて、結局、こんなやり方しか思いつかなくて」 ごめんね。新たな涙がすべらかな頬を伝う。 「ほんと・・・いやな子だ、わたし」 「フェア」 「でも、もしまだちょっとだけでもわたしのこと好きな気持ちが残ってたら、お願い」 触れた手に力がこもった。小さな指が、爪が、セイロンの肌に食い込むほどに。 「一緒にいられる今のうちに、わたしに傷をつけて。貴方がここにいた証拠を、残して」 「・・・ああ」 最後のくびきが解かれた。 愚かだった。本当に愚かだった。 セイロンは、今度こそ万感の思いをこめて、フェアの身体を抱きしめた。 彼女の不安や孤独や恐怖、それら全て皆、消え去ってしまえ。そのためなら我が身の運命など、どうなろうとかまわない。 「愛している。そなたを離したくない」 「セイロン」 「どこへも行きたくなどない。永遠にそなたのそばで、そなたを愛していたい」 「・・・ありがとう」 深紅の瞳と蒼の瞳が交わり、吐息と吐息が溶け合って、ふたりはやっと心の底から求め合う口付けを交わした。 角度を変え、幾度も離れてはまた繋がり。その間にもセイロンの長い指はフェアの全てを確かめるようにその肢体をなぞり、足の付け根へたどり着く。 「あ」 怯えて身を引こうとしても、もう許しはしない。 淡い茂みの奥に躊躇なく這入り込んで、小さな肉芽を探り出す。中指で軽く押せば、細い悲鳴を上げて背中をのけぞらせた。 「せ、セイロン」 「大丈夫だ」 彼の愛撫にはもう容赦は欠片もなかった。フェアは昨夜は味わうことのなかった強い刺激に翻弄され、必死に彼の身体にしがみつく。 「ふああ、ああっ、だ、だめえっ」 叫んだのは、割れ目に指がつぷりと沈められたから。指は巧みな動きで膣の上辺りをぬるぬると擦り、同時に親指で肉芽を刺激し続けた。あふれ出す愛液が、ぴちゃぴちゃと淫らな音を立てる。 「はああ、ああ、あっ、ああ・・・!!」 「フェア。辛くはないか」 声はなく、ただ頭を左右に振って答えた。 「良かった。ならば、行くぞ」 「セイ、ロン」 「そなたを、我のものとする」 直後、セイロンは有無を言わさず、愛しい女の中心に己自身を突き入れた。 「ああううっ・・・」 フェアの表情に苦痛が混じる。無理もない。初めてではないといってもまだ二度目、しかも初回はあれほどの無理をさせてしまったのだから。 慎重に腰を進めれば、ずにゅ、という絶妙な感触とともに押し返そうとする。あまりの狭さと締めつけに気が遠くなるが、耐えてゆっくりと先へ進んだ。 完全にひとつになると、上半身を前へ倒し、なすがまま身を投げ出しているフェアを優しく抱いた。熱く火照る耳に囁く。 「フェア。わかるか。我らは今、ひとつだ」 「う・・・」 「我を感じよ。我は今、そなたの中にいるのだぞ」 「・・・うん・・・」 しかめた眉を緩め、涙に濡れたまつげを上げて、フェアは微笑んだ。 「セイロン、すごく熱い・・・わたしの中で、燃えてるみたい」 「ああ・・・」 「どうしよう・・・すごく、幸せだ・・・」 「我もだ」 フェアの首に顔を埋めながら、繋がったまま、恥骨を使って肉芽を潰す。少女の甘い嬌声が耳元で響いた。 「我は今、世界で一番幸せだ」 はじめは浅く、ゆっくりと。次第に深く、激しく。フェアの肉がセイロンの肉に絡みつき、擦りあげ、互いの快楽が頂点へと上りつめていく。 「あああっ、はあぁっ、セイロン、セイロンッ」 「う、ああ、フェア・・・!!」 やがてふたりともに天の高みへと駆け上がった時、世界は白熱し、溶けて広がって、ヴェールのようにふわりと舞い落ちてきた。 快い余韻に包まれ、彼女の上にがくりと頭を落としながら、セイロンはもうひとつ新たに悟っていた。 媚薬は在った。彼女自身が、そのものであったと。 数ヶ月の後、シャオメイよりの連絡を受けて、セイロンは彼の使命を果たすため宿屋を立ち去った。 幼馴染の姉弟は、フェアがさぞかし嘆き悲しむだろうと心配をしたが、それに反して彼女は涙一つ見せず、無理をしている素振りすら見せなかった。 首をひねる彼らに彼女は何も言わず、ただ、驚くほど嫣然とした微笑を浮かべるばかりであった。 幼馴染の疑問に答えが示されるのは、もう少し先のこと。 おわり 目次 |
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