ポム子な日々 2皆様、誰にでもどうしようもなく気まずいときというものがございますよね。例えるならばそうですね。 想いを寄せる方のことを思い浮かべて一人慰めているところを誰かに見られちゃったとしたら気まずいですよねえ。 しかもそれが当の想い人だったりしたら、もう大変ですよね。え?何を話しているのかですって? いや、まあ。現在のわたくしがまさにその状況なわけでして……… 「………………………」 沈黙が場を支配しておりました。わたくしはとりあえず乱れた着衣を正して。おじょうさまはこめかみに指を当てながら。 どう言葉を紡いだものか思いあぐねております。 「あの……おじょうさま……」 先に耐え切れなくなったのはわたくしです。おずおずと口を開き、おじょうさまに尋ねます。 「見ちゃいましたか……?」 「ええ、そりゃもう……ばっちりと……」 えぅぅぅぅぅぅ!やっぱり見られちゃったんですねえ。ひどいです。おじょうさま。ノックぐらいしてくださいまし。 「したけどあんたが気づかなかっただけじゃない!それで中に入ってみれば……あんな……こと……」 そう言うとおじょうさまは顔を赤く染めて俯いてしまいます。刺激がちょっと強すぎましたかねえ。 「うるうる。おじょうさまが最近わたくしに構ってくださらないものですから、わたくしときたらこんなはしたない真似を……」 「責任転嫁すんなっ!それにそういうことは人目につかないようにしろって言ったのあんたじゃん!」 ええ、そうでございましたね。確か以前そんなようなことをおじょうさまを諌めたときに申した覚えがございます。 あの時は確か、おじょうさまは夜な夜なライさんのことを想いながれご自分で…… 「蒸し返すなぁ!そんなこと今更!」 そうですね。今はもっと凄いことをなさっていますものね。おじょうさまときたら、ライさんと一緒になれる時間があればその度に…… 「わ~!わ~!わ~~~!!ばらすなあぁ!!ポムニットの馬鹿ぁぁああ!!」 クスクスクス。やっぱりこうしておじょうさまはからかっている時が一番楽しいですね。至福のひとときと申しますか。 「それでおじょうさま、こんなところに何の御用ですか?」 「切り替え早っ!」 気持ちの切り替えの早さはわたくしのとりえでございます。過酷な運命を背負ったこの人生、そうでなければやっていられません。 「まさか、わたくしの痴態をわざわざご覧になるために!おじょうさまにそのようなご趣味があろうとは」 「そんな人聞きの悪い趣味あるかぁぁ!あ~~、もう!あんたが馬鹿なことするから頭の中がこんがらがっちゃったじゃない!」 それはどうも申し訳ございませんでした。それでは落ち着いてもう一度どうぞお願いします。 「まったく……もう……」 おじょうさまはぷくっと頬を膨らませます。そしてすこし照れくさそうにしながらこうおっしゃいました。 「さっき……お風呂場で……カッとなって……言い過ぎた……その……ゴメン……」 ペタリ。わたくの手のひらがおじょうさまのおでこに触れます。ふむふむ。どうやら熱はないようですね。 「何よ……それ……」 ガラリ。カーテンを開けます。今日の天気は晴れですか。おかしいですねえ。 「だから、なんなのよ!その態度はぁぁ!!!」 いやあ、だっておかしいじゃないですか。おじょうさまが自分から素直に謝りにこられるなんて。これはもしや天変地異の前触れ? 「うっさい!うっさぁぁいっ!そんなに珍しいかぁ!あたしが自分から謝りに来るのが」 だってそうじゃないですか。おじょうさまと来たらいつもいつも。 「あたしだってそういう気分になるときぐらいあるの!ああ、もう!謝って損した。前言撤回!!」 ああ、怒らないでくださいまし。わたくしとしたことがつい意地が悪くなっておりました。 どうもすみませんでした。おじょうさま。ですからどうかご機嫌を直してくださいまし。 「まったく……」 おじょうさまは顔をしかめて呟かれます。 「けれど、今日のことはわたくしの方こそ悪ふざけがすぎたことですし、別におじょうさまがお気になさる必要は……」 「……気にするわよ……だって……」 すると、おじょうさまはお口をつぐんでうつむかれます。そして次に口を開かれるとこうおっしゃいました。 「イヤだったから……またあたしの言ったことであんたが傷ついたりしたら……」 「おじょうさま……」 思い返されるのはあの日の出来事。わたくしがおじょうさまから一度は拒絶され、そして再び受け入れてもらえたあの日のこと。 「思ってないから!あんたのこと必要ないだなんて、あたしはこれっぽっちも思ってないから!」 ええ、わかっておりますとも。リシェルおじょうさま。貴女のお気持ちは十分に。その気持ちだけでわたくしは満足です。 わたくしはおじょうさまの頭をなでます。おじょうさまの目は少し涙ぐんでいました。そんなおじょうさまを見ていると思わず、抱きしめたくなっちゃいます。えい。ふふふ。 「うわっ!ちょっ……ポムニットぉ!!」 急に抱きしめられておじょうさまはあわてふためきます。ああ、可愛い。このままお持ち帰りしちゃいたいです。 おじょうさまの温もり。それを確かに感じます。こんな時間がいつまでも続けばいいのに。 「ご安心ください。わたくしはずっとおじょうさまのお側でお仕えさせていただきますから。どこにもいったりはしません」 それがわたくしの望みですから。ずっと大好きな貴女のお側にいられることが。 「……馬鹿…………」 わたくしの腕の中に抱かれながらおじょうさまはそうポツリと呟かれました。 らんららんららん♪気分は軽やかにステップを踏んでおります。ここはお風呂場。おじょうさまと二人で入りなおすことになりました。 「また、変なことしたら許さないんだからね」 分かっておりますとも。さっきは悪ふざけしすぎただけです。ああ、でもおじょうさまと一緒にお風呂。(*´Д`)ハァハァ あら、いけません。よくないですよね。同じ失敗を繰り返しては。でも、やはりたまりません。おじょうさま(*´Д`)ハァハァ とりあえず、おじょうさまのお背中を流すことにします。ゴシゴシゴシ。石鹸の泡でおじょうさまのお肌がつつまれていきます。 よいしょ。よいしょ。ゴシゴシゴシ。 「……ねえポムニット……」 すると、おじょうさまが何かを言いかけます。わたくしは一旦、手を止めて待ちます。 「あたしってさ……まだ子どもだよね……」 少し肩を落としながらおじょうさまはそう呟かれます。 「自分でも分かってる……ほら、あたしってずっとあんたに迷惑かけっぱなしだったじゃない」 そうですねえ。どれだけおじょうさまの悪戯の謝罪行脚をさせられたか数え切れませんねえ。カットされたお給料も。しくしくしく。 「ずっと…そういうの当たり前に思ってた。あんたはウチの使用人だからどう扱おうがあたしの勝手みたいな感じでさ」 本当にしんどかったですよ。身体がいくつあってもたりませんでしたねえ。 「けど、あんたがいなくなっちゃいそうになったとき。そのときに気づいた。あたしがどれだけあんたに甘えて生きてきたのか……」 おじょうさまの身体が少し強張ります。かすかな震えを感じます。 「あたし……多分あんたがいなくなったら何もできなくなる。だから必死だった。あのとき……」 なにがあってもわたくしを手放したくない。あのときのおじょうさまの必死の想いが記憶に蘇ってまいります。 「勝手だよね。普段はぞんざいに扱って……あんたにあんな酷いことも言って……それでいざ愛想をつかされそうになると泣きついちゃってさ……」 おじょうさま。これ以上、御自分を責めになるのはお止めくださいまし。そんなことを言われるとこっちまで悲しくなっちゃいますよ。 確かにあの日、おじょうさまに『バケモノ』と言われたときは哀しかったです。胸が張り裂けてしまいそうになるほどに。 ですが、あの日の出来事があったからこそ今のわたくしがあるんです。本当の自分と向かい合うことのできた今のわたくしが。 ですからおじょうさまもあのときのことをいつまでもお気になさらないでください。これはわたくしからのお願いです。 「ありがとう……ポムニット……」 瞳に涙を滲ませておじょうさまは言います。 「あれからあたしも色々と考えたんだ。このままずっとあんたに迷惑かけっぱなしじゃいけないって」 確かに以前のような悪さはめっきり減りましたね。よそ様に頭を下げに行くのは随分ご無沙汰ですし。 「けど、それでもやっぱあんたに迷惑かけてる。店の方とかほとんどあんたにまかせっきりだし……アイツとのことだって……」 迷惑だなんて思っていませんよ。どれもわたくしが好きでやってることですから。 「だけど…あたし…あんたにされるばっかで……自分のことばっかで……あんたにはちっともなにもしてあげてない!」 だからカチンときちゃったんですね。そのわたくしに子ども扱いされて。 「うん……ごめん……」 そのままおじょうさまはしゃくりあげてしまいました。やれやれ。いくつになっても泣き虫なんですから。リシェルおじょうさまは。 ほんとうにしょうがないおじょうさま。だから大好きなんですけどね。 「なにもしてあげてないだなんて……そんなことはありませんよ」 ひくひくすすり泣くリシェルおじょうさまの背中をさすりながらわたくしは言います 「おじょうさまがそこにいるだけでわたくしの心はいつも満たされているのですから」 偽りのない自分の気持ち。リシェルおじょうさま。貴女がわたくしにくださったんです。ヒトとしてのわたくしの生きがいを。 「それに御自分ではお気づきになれないかもしれませんがおじょうさまはご立派に成長なさっておいでです」 以前のおじょうさまを知るものの目からすれば一目瞭然ですよ。そりゃまだ手放しで褒められた素行ではありませんが。 けれど着実におじょうさまは大人へと近づいておいでです。わたくしにとって嬉しいことでもあり、寂しいことでもあるのですが。 「ですけどそんなに早く大人になろうとしないでくださいよ。わたくしのお仕事がなくなっちゃいます」 できればずっと貴女のお世話をしてあげていたいから。大好きな貴女のお世話を。 「おじょうさまはおじょうさまのペースで少しずつ大人になればいいんです。コーラルちゃんみたいな至竜さんじゃないんですから」 わたくしがそう言うとおじょうさまは 『そうだね』 とポツリと呟いてすすり泣くのをお止めになりました。けれども顔色はまだ晴れませんねえ。やれやれ。またお節介が必要なようですね。 「おじょうさま。こちらを向いてくださいまし」 「何よ。いったい……むっ!」 『隙あり』です。うふふ。はぁぁ。柔らかい唇。おじょうさまのとわたくしのが触れ合って。 「むぐぐぐ……んぐっ……んぐぅぅ!!」 舌と舌とがそれはもうねっとりと絡みあっております。ああ、駄目です。わたくしこのままいってしまいそう。 「んっ……んっ…ぅ………ぷはっ……ハァハァ……」 濃厚な口付けを交わしてから、わたくしとおじょうさまの唇は離されます。あは。なんか涎が糸みたいです。 「なにすんのよ!変なことはすんなってあれほど言ったじゃない!」 いきなり唇を奪われておじょうさまはオカンムリのご様子です。わたくしは悪戯っぽく微笑みながらいいます。 「いえ、おじょうさまがわたくしに何もしてあげてないとおっしゃられるものですから……つい」 「ついで済むかぁぁ!!……ってちょっと待ちなさいよ!ヤダぁ……やめてぇぇ!!」 「うふふ。リシェルおじょうさま」 妖しく微笑みながらわたくしはおじょうさまをタイルの上に組み敷きます。う~ん我ながら完全に悪役ですねえ。 「何もしてあげてないとおっしゃられるのなら今ここでしてくださればいいのですよ。おじょうさま。貴女のその御身体を使って」 「い…い…ぃ…い……嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!」 哀れ、子羊なおじょうさまはこうしていけないメイドのわたくしの毒牙にまんまとひっかかるのでした。 まだまだ続きますよ♪ by ポムニット 前へ | 目次 | 次へ |
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