少年少女 1「今日は申し訳ありません、スウォン。 ここの地理に詳しい人間というと、貴方しか思いつかなかったので」 「いえ、僕は構いません。イリアスさんやサイサリスさんの役に立てるのなら、それはそれで嬉しいですし」 鬱蒼と覆い茂った森の中を一組の少年少女が突き進んでいた。 少年の名はスウォン。十五歳にして、この森で狩猟を生計に立てて生活している立派な猟師であった。 少女の名はサイサリス。同じく十五歳にして騎士団長の副官を務める弓騎士である。 一見、あまり関わることがなさそうなふたりであるが、とある事件を境に知り合うようになった。 さて、そんなふたりがこの森を突き進んでいるのには理由があった。 最近、はぐれ召喚獣による行商人の襲撃という事件が多発しているらしい。 その噂を聞きつけた騎士団は早速調査に乗り出すことになった。 その結果、この森がはぐれ召喚獣の巣窟となっていることが明らかになったのだ。 しかし、騎士団は飽くまでサイジェントの街を守るものであり、街の外であるこの森の地理について深い見識を持ったものはいなかった。 そこで騎士団長であるイリアスは、サイサリスに命じて事件を通じて知り合ったスウォンの力を借りて、改めてこの森を調査させることにしたのだ。 サイサリスに調査の派遣をさせたのは、お互い面識があるということで調査も上手く行くだろうと見越してのことだった。 また、飽くまで今回の目的は調査。必ずしも巣窟が見つかるとは限らない。 逆に、見つかったとしても勘付かれて逃げられても、被害は留まらないだろうということで、今回はサイサリスの他に、もう二人騎士を付けるだけの少人数行動を求められた。 「そういえば、彼らはどうしたんですか?」 「彼らには別ルートからの調査を命じています。 もし、勘付かれて逃げられた場合に待ち伏せを頼んであります」 「そうですか」 淡々と言葉を返してくるサイサリスに、頷きを返してスウォンは藪を分け入って森の奥へと進んでいく。 「それにしても、こうして二人で話すのは初めてかもしれませんね」 「……作戦行動中です。騎士団員ではないとはいえ、無駄口は控えていただけますか、スウォン」 ぶっきら棒な返事を返してくる彼女にスウォンは苦笑するしかなかった。 「はは…手厳しいですね。でも相変わらずなようで安心しました」 「………どういう意味ですか」 「そのままの意味ですよ」 まさか、無愛想なところが、とは言えず、乾いた笑い声をたててスウォンは言葉を続ける。 「でも、サイサリスさんも大変なんじゃないですか? 今更ですけど…15歳の女の子が騎士団長の副官なんて」 スウォンにとっては、何気ない世間話のつもりだったのだろう。 だから、サイサリスはその調子に合わせてこう言った。 「ええ、色々と大変でした。でも、スウォン、貴方ほどではありません」 「……?」 スウォンは何かその言葉に違和感を感じ、首をかしげた。 振り返ってみると、サイサリスは相変わらず涼しい顔で、「どうしましたか?」と言葉を返すだけだった。 「さて…そちらの情報と照らし合わせると、もうそろそろこの辺りのはずなんですが…」 「その割には気配がありませんが。…道を間違えたのですか、スウォン」 「あ、疑ってますね? そんなはずはないと思います…けどっ!?」 「どうしました?」 「シッ! …静かに」 スウォンはサイサリスの手を取ると近くの木の陰に隠れた。 「あ、あの、スウォ…」 「静かに。奴らに悟られます」 何か言いたげなサイサリスを無視して、スウォンは顎で木の向こう側を指し示した。 「……!」 そこにはリザティオやパンプキーノ、ブルーゼリー、サハギンと多種のはぐれ召喚獣が徘徊していた。 通常、はぐれ召喚獣は他の種族と群れることはまずない。あるとすれば、同じ召喚師に召喚された場合だ。 しかし、この種類の多さにはスウォンもサイサリスも目を張った。 だが、そこで新たな疑問が生まれる。 果たして、この召喚獣たちは本当に『はぐれ召喚獣』なのだろうか。 決してふたりは召喚術について詳しいわけではないが、大まかな召喚術の仕組みについてはある召喚師から聞いている。 これほどまでに多種の召喚獣が共生することはまずない。少なくとも『はぐれ召喚獣』であるのなら。 「もしかして、行商人を襲わせていたのは……」 「……そうですね、外道召喚師でしょう。 金品目的に、自分は安全なところにいながら召喚獣に襲わせる…考えそうなことです」 サイサリスの言葉に、スウォンも頷き同意する。 外道召喚師。蒼の派閥や金の派閥から破門を言い渡され、追放された召喚師。 その破門の理由は様々であるが、殆どの場合は召喚獣を悪用した場合が多い。 生きる術を失った外道召喚師は、二人が推測するように行商人や旅人から金品を巻き上げたり、あるいは野盗と手を組んでやはり金品強奪という犯罪に走ることが多い。故に外道召喚師と呼ばれる。 「これで目的は達成しました。残りの二人に声をかけて、騎士団に戻ります。このことを、イリアス様に報告しなければ――――、スウォン?」 ずる、とサイサリスの背に重たいものが寄りかかるのを感じた。 振り向いてみるとそこには頭から血を流したスウォンの顔があった。顔には苦悶の表情を浮かんでいる。 「スウォン!?」 「いけないな、お嬢さんに坊や。人の住処を荒らしてもらっては困る」 「!」 その声に危機感を覚えたサイサリスは慌てて飛びのき、辺りを探る。 目を凝らしてみると、木陰にボロボロのローブに身を纏った痩身の男の姿が確認できた。 フードで表情は見えないが、にやにやとした下卑た笑みを唇は形作っていた。 おそらく、あの召喚獣たちの召喚主、そして―――― 「貴方が、一連の行商人襲撃事件の犯人…ですね?」 「犯人だなんて、人聞きが悪いな。そうせざるを得ない状況……と言っても、いいところ育ちのお嬢様には分からないか」 くく、と不気味な笑みを浮かべる召喚師に漠然とサイサリスの心に不安がよぎった。 「そんな事情知ったことではありません。さあ、大人しく我々と来て頂きましょうか」 じり、と一歩足を踏み出す。 スウォンの容態が気になるが、今はあの召喚師を捕らえる方が先決だ。そう判断したサイサリスは鋭くフードの男を睨む。 だが、男は物怖じした様子もなく、からからと壊れた機械のようにけたたましい笑い声を挙げた。 「アハハハハハハハハハっ! 馬鹿か、ガキィッ! テメェみたいな乳臭ぇクソガキに掴まってたまるかよぉっ! それにテメェ状況が分かって言ってるんだよなぁ? えぇっ!?」 「……!?」 気がつけば、周囲を召喚獣たちに取り囲まれてしまっていた。ざっと数えて十匹ほどだろうか。 とてもではないが、一人で処理しきれる数ではない。 「お・ば・か・さ・ん、だねぇ!? 追い詰めたつもりが、追い詰められてやんの! ああっ、おかしい! おかしいぜぇぇぇえええっ!! くひゃひゃひゃっ! あー、愉快愉快、馬鹿ってのはこういうヤツを言うんだねぇぇい!?」 「はっ…!」 気づけば背後から近づいていたリザティオに両腕をとられ、背の高い鉄棒にぶら下がったような体勢になってしまう。 身動きもできず、じたばたと暴れるが屈強なリザティオの握力に為す術はなかった。 「くっくっくっ……へぇ? ガキかと思ったら、それなりには成長してるみてぇじゃねえかよ?」 「さ…、触るな!」 男は身動きを封じられたサイサリスへと近づき、その胸を触れられる。 衣服の上からとは言え、異性に、それも見知らぬいやらしい男に触れられることは、サイサリスにとって屈辱以外の何でもなかった。恥ずかしさで自然と顔は赤くなり、じわりと涙を滲ませる。 泣くな。 そう心の中で強く念じていても、自然と涙は零れ溢れそうになる。 それをあざ笑うかのように、無遠慮に男は彼女の胸に触れる。 「んん~…、成長中ってとこかねぃ? くはははっ、いやぁ、実に面白い、面白いなぁっ!? あのクソ真面目な騎士をこんな風に甚振る日が来るとは思っても見なかったぜぇぇっ!!」 「く……この…っ」 足をバタつかせて、抵抗を試みるがその足も他の召喚獣に捕らえられて四肢の動きを封じられてしまう。 見るだけでも嫌悪感を誰もが感じそうな卑しい笑みを浮かべながら、男はサイサリスの衣服をナイフで切り裂いてしまう。 胸元を真っ直ぐ切られ、そこを毟り取られると、乳房だけ露出させる卑猥な格好となる。 「くははははっ! こりゃあ、いいぜっ!! ほれほれ? 『私のおっぱい見てぇっ♥』てかぁっ? こりゃ、変態だな! 変態ぃぃぃっ! 痴女だよっ、痴女!!」 小ぶりながらも、しっかりと女性の象徴として成長しているその乳房は、子どものような健全さを兼ね備えながらも、どこか、淫靡な雰囲気をかもし出していた。 リザティオに身体を揺らされることで、ふっくらと膨らみ桜色の蕾が頂に付いているそれは、男の目の前で淫猥に踊る。 さらに男はその蕾を摘み、軽く抓ったり引っ張ったりして弄ぶ。 「おほっ? 一人前に、乳首、勃起させてやがる…くひゃひゃひゃひゃぁっ!! サイジェント騎士団の女がこんなに淫乱だったとはなぁっ!? へへっ、下はどうなってるんだろうなぁ?」 「いやっ、やめて…やめてぇっ!」 抗い続けるも、その抵抗も空しく男の手は下腹部へと伸びていく。じわじわと、獲物を追い詰める蛇のように。 サイサリスの言葉に男はにやりと口の端を歪ませる。 「いいのかよ? 俺様が召喚獣どもに命令したらあのガキの命はないんだぜぃ?」 「ぅ……っ!」 はっとなってスウォンのことを思う。 彼は何も悪くない。この森の道案内を頼んだだけなのだ。自分のせいで命を落とすなんてことはあってはならない。 「それがイヤならおねだりしてみな? 『どうか私のあそこをぐりぐり弄ってくださぁい♥』ってなぁっ!?」 あまりにも頭の悪い言葉に、サイサリスは泣きそうになった。 だが、それに従わなければスウォンの命はない。瞼を閉じ、睫毛を震わせながら震える唇で言葉を紡ごうとした。 「わ……わかり、ました……ど、うか…私の……」 「おうおう、それでいいんだぜぃ? ほれほれぇ…早く言わねえとあのガキの命はねえ………」 『サイサリスさんから、その汚い手を離せ』 男がサイサリスの身体を撫で回していた、その時、一本の矢がサイサリスの身体を捕らえていたリザティオの背中を突き刺した。 「グギャアアアアアアッッ!?」 「なっ……ど、どこにいやがる……! さっきのガキかっ!?」 リザティオは悶えて、地面に転げまわる。 男は慌てて辺りを見渡すが、その声の主を見つけることは出来ない。 『サイサリスさんから、その汚い手を離せと言ったんだ。―――ゲス野郎』 そして。 鋭い矢は放たれた。 つづく 目次 | |
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