カイル×アティ



「くぅ~っ!気ん持ち良いぜ!!」
空は快晴、波は穏やか。太陽の刺すような光が俺のテンションを上げてくれる。
メインマストに目一杯の風を受けて、俺達の船は今日も大海原を進んでいく。
今は南中時で、空を見上げれば日の光に目を窄めてしまう。
俺は目の上に手を翳し、見張り台から水平線を眺めていた。
「見事に何も見えないか…」
別に陸が有ることを期待してた訳ではない。
しがない海賊家業。特別理由が無い限り、陸の上に居つづけるのは酷ってものだ。
俺が陸やら何やらを探すのは……
「何か見えました?」
「こういう事だ」
こいつが…アティがしつこいんだよ。
暇さえあればここに来て、海の端っこを眺めている。
のん気な顔しながら…な。
「何か言いました?」
「何でもねぇよ」
「隠し事はいけないんですよ?」
吊り梯子にぶら下がりながらブー垂れてやがる。
「俺が何時隠し事した?」
「言っても良いの?」
不敵な笑みを浮かべ、俺を見てくる。
「……止めてくれ」
まぁいつもこんな調子なんだよ。
どうにもこいつの方が一枚上手らしい。
アティが俺達の船に便乗してくれた日から、毎日が今まで以上に疲れるし、楽しくなってきた。
とりあえず、俺は嫌がらせとして、アティの帽子を奪ってみた。
「あ~!返してください!!」
お気に入りの帽子は取られたアティは、自分の頭を
ペタペタと叩き、帽子を返せとアクションしてきた。
こう言う微妙な仕種がこいつらしいと言ったらこいつらしい。
小動物みたいと言えば聞こえが良いかも知れないが、要は日常がガキ過ぎるんだ。
戦いの時の心構えといい…体つきといい…そう言う所は充分に……
「大人なんだがなぁ…」
俺は一度溜息をつき、右手に持っていたアティの帽子を被ってみた。
ただの感想だが、なかなか被り心地は良かった。
「返してって言ってるのにぃ!!」
やっぱりお子様だった。ちょっとからかえば過剰に反応してくる。
今だって…ほら。少し頑張れば俺の頭まで手が届くって言うのに、無理矢理入ってきた。
「さっ…帽子」
アティが両手を差し出してきた。
俺は冗談半分で言った。
「断わる」
そして予想通りの反応が返ってくる。
「返してください!!」
体ごと、アティの右腕が俺の頭上の帽子へと伸びてきた。
期待通りに動いてくれたアティに半分呆れながら、俺は右手に掴みなおした帽子を、頭上高くまで掲げた。
白い帽子がさらに光って見える。
「あぁ~っ!!ひどいです!!」
目の前でアティが地団太を踏んでいる。眼には…
『うっ…こんな事で泣く奴居るか!?』
薄らと水分が溜まっていた。
結論、まだまだガキだ。
「わかったわかった…ほらよ」
持っていた帽子を、そのままアティの頭に被せてやった。
その途端に眼から涙が消え、代わりに、してやったりと言った表情が浮かんだ。
女の最大の武器は涙と言うが…勘弁して欲しいもんだ。
どうにも頭にしこりが残った。
とりあえず頭を掻き、左手でアティの額を軽く叩き、また海を眺めた。
アティはしばらく黙っていた。
が、不意に俺の視界に入り、また…
「何か見える?」
「海の冒険じゃあ、アクシデントには期待しないのが常だ」
帽子越しに、アティの頭を撫でた。
「ぅぅ…」
小さい呻き声が聞こえる。それと共に…
「ギュルルぐぎゅるるるぅぅ……」
正直、アティの腹の中から、でかい『それ』が聞こえて来た時は、どうしようかと思ったよ。
しばらく黙りあった後、腹の底から笑ってやった。
当事者は面目無さそうに俯いている。
「もう飯時だしな。昼食取るか」
「うん…」
「じゃ、さっさと降りようぜ」
レディーファーストと言う言葉も忘れて、俺が梯子に手を掛けたときだった。
「カイル…」
小さな声で呼ばれた。
どうした?と俺が振り向くと、すぐ目の前に目を瞑ったアティの顔があった。
俺は動く事が出来ず、そのまま時が過ぎるのを待っていた。
何と言うか…甘かった。
多分、何分か経った後に、アティの顔が離れていった。
「はは…」
照れくさそうに頭を掻いている。
正直、俺は何と言えば分からなかったから、軽く悪態をついてみた。
「なんでお前みたいな奴に惚れちまったかな?」
もう一度、頭をポンと叩き、そしてまた帽子を取り、被った。
「あっ!返して!!」
「飯にするぞぉ!!」
見張り台にアティ一人だけ残し、俺は足早に食堂まで逃げてった。
他人から見れば良い感じの俺達なのかも知れんが、互いの気持ちを確かめ合ってから
数週間、まだ一線は越えられない訳で。
まぁとりあえず、今のこの赤い顔だけは誰にも見られたく無かったって事だ。


おわり

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