もずき。「は…はつじょうき…ですか…?」 一瞬何を言われたのか理解できず目を丸くするアティに、ちっと舌打ちして「だから言いたくなかったんだよ」だのとぶつぶつ言いながらヤッファが溜息を吐き説明する。 「…メイトルパの生き物の中でも『獣』の血が濃い種族には発情期があるんだよ。幸い俺はさほどそういう衝動が強い方じゃねぇから誰彼構わず襲ったりはしねぇが、それでもあれだけ近くに寄られりゃ流石にマズイ」 「…はぁ、なるほど…」 説明を聞きながらようやく事態を理解したアティの顔がかぁっと耳まで赤くなった。 ようやく合点がいった。ヤッファが妙に熱っぽく見えるのも、いつもより気だるそうなのも、アティとの接触を拒んだのも全ては発情期のせいだったのだ。 …そして…そして今まさに目の前で起こっている「事象」も、恐らくは――― 「あの…ヤッファさん」 「…なんだ」 困ったように俯いていたアティがちらりと上目遣いにヤッファを窺うと、これ以上ないほど不機嫌そうな声が返ってくる。 指摘すべきかどうか僅かに躊躇いながらも、圧し掛かる沈黙の重さに耐え切れずアティは顔を真っ赤にしながら視線をヤッファの一部へと降ろした。 「…『それ』、そのままだと辛くないですか…?」 …ヤッファは悪くない。何も悪くないのだ。 ただ何も知らない自分が不用意に接近しすぎたのが悪いのだ。 そう。間近に感じた雌の匂いに今やヤッファのそれが服の上からでもわかるほど主張していたとしても、彼は何一つ悪くない。 「―――しょうがねぇだろ反射的に反応しちまうんだからよ!悪いか!?」 「わ、悪いなんて言ってないじゃないですか!ただその、辛いんじゃないかなーって…思っただけで…」 気恥ずかしさのあまり怒鳴り散らすヤッファと、タコのように真っ赤になって瞳を潤ませか細い声で反論するアティ。 その紅く染まった目元や今にも消え入りそうな声がヤッファをより辛い状況に追い込んでいることに、アティ本人はまったく気が付いていない。 「…とにかく、もう帰れ。このままここに居ても仕方ねぇだろ」 むらむらじりじりと胸の内を焦がす欲情を深く息を吐くことで振り払い、ヤッファがひらりと手を振る。 だがその声からは明らかに彼が無理をしていることが感じ取れ、アティの胸がきゅうっと痛んだ。 …確かに彼の言う通り、このままここにいてもヤッファに苦境を強いることにしかならないだろう。 けれど。けれど、このままはいわかりました、と帰ることなどアティには出来ない。 ―――ならば。 「…ヤッファさん」 こくりと喉を鳴らし、その蒼い瞳に決意と緊張の色を浮かべアティが顔を上げる。 今度は問い返されもせず、ただ視線だけが向けられる。 その目を真っ直ぐに見つめ、アティは至極真剣な口調で強烈な爆弾を投下した。 「私に、相手させてくださいっ!こんな辛そうなヤッファさんを置いて帰れません!」 その言葉に、石化効果のある召喚術をかけられたかのようにぴしりとヤッファの体が凍りついた。 今、この娘はなんと言ったのだろう。相手?誰の。いやむしろ何の? 「そ、そりゃ私なんてそんなに経験豊富なわけでもないですし大したことも出来ませんけど…ていうか全然何も出来ないですけど、それでも精一杯頑張りますから!」 ぐるぐると混乱する思考を持て余し押し黙るヤッファの反応をどう取ったのか、アティが必死に言葉を重ねる。 その表情も声も真剣そのもので、本当に彼を心配していることがひしひしと伝わってくる。 その言葉や表情がじわりとヤッファの内側に染み込み、理性と欲求の天秤を激しく揺り動かした。 「だからですね、その…んっ」 さらに何か言い募ろうとするアティの細い腕を掴んで引き寄せ、掠めるように唇を奪うと腕の中の体がびくっと硬直する。 …この初々しい反応で、誰が何の相手をすると大口を叩くのだろうか。 「あのな…言っとくが、途中で『やっぱり嫌だ』とか言っても無理矢理犯しかねないぞ。それでもいいのか?」 「…ちょっと泣いちゃうかもしれませんけど、平気です」 唇を離し苦く警告するヤッファを見上げ、アティが困ったように小さく笑う。 「それで少しでも楽になるんだったら、好きにしちゃってください」 「…後悔しても苦情は受け付けねぇからな」 もう一度、今度は深く唇を重ねながら。 柔らかな草で編まれた部屋敷きの上へと二人の体が沈んだ。 さらにもずく(´・ω・`) 前へ | 目次 | |
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